熊川哲也芸術監督「成功を確信している」 Kバレエ新制作『マダム・バタフライ』記者会見レポート

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2019.8.2

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Kバレエカンパニー20周年記念公演として新制作される『マダム・バタフライ』の制作発表記者会見がこのほど東京都内のホテルで行われた。
当日は熊川哲也芸術監督をはじめ、マダム・バタフライ役を踊る矢内千夏と成田紗弥、マダム・バタフライと花魁の二役を踊る中村祥子、ピンカートン役と、さらに今回振付助手として制作に参加している宮尾俊太郎が登壇。プッチーニの有名なオペラ『蝶々夫人』を題材に、Kバレエカンパニーの20年の歴史において初めて日本を舞台とするバレエを制作するにあたり、熊川監督は「成功を確信している」と力強く語った。(文章中敬称略)

■日本人ならではのスピリットを

登壇した熊川芸術監督はまず『マダム・バタフライ』の進捗状況について「ようやく全貌が見えてきた。あと1シーンを残すのみ」と報告しながらも、「非常に大きな挑戦だった」と振り返る。
とくに苦心したのはバレエという西洋芸術と和の文化の融合。「バレエという外向きの芸術に対し、日本は陰の、内側に入る芸術。能の動きなども見よう見まねで取り入れているが、(我々が表現する)日本文化の要素は、スピリットの部分で表現していこうと思った」と語る。

熊川哲也芸術監督

熊川哲也芸術監督

またこの新作の制作にあたり、熊川芸術監督は舞台となった長崎を訪れ、オペラの原作となったジョン・ルーサー・ロングの小説にも向き合いながら、作品の構想を深めたという。とくに長崎の訪問は「非常に勉強になったし、このルーサー・ロングの小説は、おそらく開国当時にたくさんいた『マダム・バタフライ』のような女性たちのノンフィクションなのだろうと感じた。そしてこのテーマは現代にも通じるものなのでは」とも。そう聞くと、この新作バレエ『マダム・バタフライ』の「最後の武家の娘」キャッチコピーは実に絶妙で、この一言に主人公たる女性の生き様すべてが凝縮されているようにも思えてくる。

■三者三様のそれぞれの「バタフライ」

(左から)矢内千夏、中村祥子、成田紗弥

(左から)矢内千夏、中村祥子、成田紗弥

物語の主人公である「最後の武家の娘」、マダム・バタフライのファーストキャストに抜擢されたのは矢内千夏だ。熊川版『ロミオとジュリエット』のジュリエット、『ドン・キホーテ』のキトリ、『白鳥の湖』のオデット/オディール、『ラ・バヤデール』のニキヤ、『くるみ割り人形』のマリー姫、『海賊』のメド―ラ、『シンデレラ』のタイトルロールなど主だった役どころを踊り、2018年にプリンシパルに昇格。「天才的なセンスがあり、すっとバレエの世界に入れる力がある」と熊川芸術監督は評する。矢内は「熊川芸術監督の振り付けは難しいが、常に音楽とともにあり、自分の感情を引き出しながら踊れる。日本人ならではの心情など繊細な表現を心掛けていきたい」と抱負を語った。

矢内千夏

矢内千夏

中村は主演のほか花魁を踊るが「どちらかというと花魁の方が自分に合っている。マダム・バタフライは自分と一致する点がなかなか見つからず悩むところもある。日本人だから『和』がすんなりと表現できるとは限らないのかもしれない」とベテランらしい率直な感想を述べ、熊川芸術監督も「美しさの象徴である花魁は美の裏に苦労を重ねてきた憧れの存在で、これは(中村に)非常に合っている。彼女のマダム・バタフライは3人の中で一番独特なものになるのでは」とコメントした。

中村祥子

中村祥子

3人目のマダム・バタフライは2018年に入団し、2019年5月の『シンデレラ』で初主演をしたばかりの成田だ。「妖精のよう」としばしば称される魅力があり、ピンカートン役の宮尾も「非常に透明感がある」と話す。成田は「入団間もない自分がこうした役を踊らせてもらえてうれしい。国籍や身分を超えた愛をどう表現するかが難しい」と語った。

成田紗弥

成田紗弥

■宮尾は振付助手も。バレエ団の歴史を刻む新作に注目

ピンカートン役として今回登壇した宮尾はダンサーとしてのほか、今作品には振付助手としても参加しており「毎日が奇跡の連続のよう」と語る。本作はオペラにはない、アメリカ時代のピンカートンを描くというKバレエならではの創作部分もあることから、この役もどのように掘り下げられるのかが注目される。ピンカートン役については「ブーイングをもらえるような役にできるように頑張りたい」と語り、会場の笑いを誘った。

宮尾俊太郎

宮尾俊太郎

なおこの場で熊川芸術監督から、2020年の新制作作品は宮尾が振付をするという発表も。こちらも続報が待たれるところだ。

Kバレエカンパニーが日本を舞台とした『マダム・バタフライ』は、間違いなくバレエ団の歴史に新たな歴史を刻む作品となるだろう。ぜひ注目していただきたい。

公演情報

Kバレエ カンパニー20周年記念公演
『マダム・バタフライ』
【日時・会場】
2019年9月27日(金)~9月29日(日) Bunkamuraオーチャードホール
2019年10月10日(木)~10月14日(月・祝) 東京文化会館 大ホール
 
【演出・振付・台本】熊川哲也
【原作】ジョン・ルーサー・ロング
【音楽】ジャコモ・プッチーニ(オペラ『蝶々夫人』)ほか
【舞台美術デザイン】ダニエル・オストリング
【衣裳デザイン】前田文子
【照明デザイン】足立 恒
【指揮】井田勝大
【管弦楽】シアター オーケストラ トーキョー
 
【キャスト】
■Bunkamuraオーチャードホール
9月27日(金)18:30~ マダム・バタフライ:矢内千夏、ピンカートン:堀内將平
9月28日(土)12:30~ マダム・バタフライ:成田紗弥、ピンカートン:山本雅也
9月28日(土)16:30~ マダム・バタフライ:中村祥子、ピンカートン:宮尾俊太郎
9月29日(日)13:00~ マダム・バタフライ:矢内千夏、ピンカートン:堀内將平
 
■東京文化会館 大ホール
10月10日(木)14:00~ マダム・バタフライ:矢内千夏、ピンカートン:堀内將平
10月11日(金)14:00~ マダム・バタフライ:中村祥子、ピンカートン:宮尾俊太郎
10月12日(土)12:30~ マダム・バタフライ:成田紗弥、ピンカートン:山本雅也
10月12日(土)16:30~ マダム・バタフライ:中村祥子、ピンカートン:宮尾俊太郎
10月13日(日)12:30~ マダム・バタフライ:矢内千夏、ピンカートン:堀内將平
10月13日(日)16:30~ マダム・バタフライ:成田紗弥、ピンカートン:山本雅也
10月14日(月・祝)13:00~ マダム・バタフライ:矢内千夏、ピンカートン:堀内將平
 
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