SANABAGUN.初のマンスリー企画『2013-2018』大阪編 レア曲披露連発の「Danger Blue」の夜に見えた、バンドの現在形
SANABAGUN. 撮影=河上良
SANABAGUN.マンスリー企画『2013-2018』大阪公演「Danger Blue」2019.8.4(SUN)BananaHall
日中の最高気温が37度を超えた大阪は夕方も暑さを保ったまま、夏真っ盛りの空気で満ちていた8月4日。週末を楽しむ人で溢れる阪急東通商店街のはずれでは、夏の夜を満喫するべくたくさんの人でごった返していた。SANABAGUN.――「レペゼンゆとり教育、平成生まれのHIP-HOPチーム」が6月末にスタートさせた全4公演のマンスリー企画『2013-2018』で、BananaHallに降り立つ日だった。2013年に始動し、メジャーデビューやメンバーの入れ替わりを経験しながら進んできた彼らが、路上や会場での限定発売盤を含むこれまで発表してきたアルバムを2枚ずつ、4公演それぞれで表現するという今回の企画(それぞれセットリストが異なるとあって、さぞリハーサルは大変だったことだろう)。配信でも楽しむことが可能だった『FUJI ROCK FESTIVAL’19』でのパフォーマンス直後だったこともあり、開場直後はWHITE STAGEでのライブの感想を語り合う観客の姿も見られた。
SANABAGUN.
マンスリー企画『2013-2018』の全4公演中、唯一東京以外での開催となったこの夜のライブに付けられたタイトルは「Danger Blue」。2016年にリリースされたセカンドアルバム『Danger』と、会場限定で2,000枚のみ販売された通称『青盤』からセットリストが構成された。
BGMのボリュームがしぼられて、会場の電気がオフされるとともにフェードインしてきたのは、セミとヒグラシが鳴く声。涼しいライブハウスの中にいながら、暑い夏の夕暮れを思わせる演出だ。するとステージ袖から響いたのは、オフマイクでの「SANABAGUN.だ味わえ!」の叫び。いよいよライブが始まる高揚感で、盛大な歓声と拍手が飛んだ。
隅垣元佐(Gt)、澤村一平(Dr)、谷本大河(Sax)、髙橋紘一(Tp)、大樋祐大(Key)、大林亮三(Ba)、そして岩間俊樹(MC)、高岩遼(Vo)が登場すると、「Walking Dead」でこの日の舞台が幕をあけた。おどろおどろしいと言う言葉が合うメロディに、残虐な情景が眼に浮かぶようなリリック。セミの合唱からのこの曲の流れは、夕方から友達と集まってこっそりやった怖い話の雰囲気に似ている。間髪入れずに「ア・フォギー・デイ」へと続いていく。ユルく、アンニュイで深夜の空気感がぴったりとも言える曲に合わせてフロアもユラユラと揺れ始めた。そんなムーディーな雰囲気を切り裂くように「俺らがレペゼンゆとり教育。平成生まれのHIP-HOPチーム」というフレーズが放たれる。「これが…SANABAGUN.だ味わえ!!」という言葉を、そこにいる全員が一緒になって叫んでいた。サナバのライブがここからまた始まる。そんなゾクゾク感を味わったのは、私だけではなかったはずだ。
岩間俊樹(MC)
さっきまでのメロウなメロディーとは対照的な挑戦的なギターと派手なホーンの音で始まったのは「板ガムーブメント」だ。曲の始まり早々にMC岩間とVo高岩がステージから板ガムを投げまくる。ステージからあめちゃんが飛んでくる吉本新喜劇がDNAにすりこまれている大阪では、懐かしいような見慣れた光景だ。〈かっけぇんだよな板ガム Hey!〉に合わせて、観客の右手が挙がる。もはやステージの彼らが覆い尽くされるほどのハンズアップで一気に盛り上がっていく。そこから軽快なファンクのリズムが気持ちいい「トラベルハスラー」へ。その気持ち良いグルーヴを作り出しているのは、バンドメンバーひとりひとりの演奏能力の高さだとヒシヒシ感じさせてくれる。
高岩遼(Vo)
「「Danger Blue」、集まってくれてありがとう!」とVo高岩が切り出す。「早速なんですけど、愛の曲をやりたいと思います」という一言で、フロアはもう曲に気づいている。小粋なリーゼントと腕に描かれたバチバチのタトゥ、そして圧倒的な歌唱力を持つ高岩が、母への深い愛をセクシーに歌い上げる「Mammy Mammy」だ。アルバム『デンジャー』を代表する名曲ながらライブではあまり出会えなかったこともあって、会場内に待ちわびていたとでも言うようなため息が漏れる。
SANABAGUN.
「ということで、普段あまりやらない曲をやっております」とMC岩間が話し始める。2枚ずつセットリストを組んでいくのは自分たちにとって苦行だったエピソード、今日は初めて演奏する曲も多数あることが告げられる。「『Mammy Mammy』も久々だよね。……ところでおふくろの味とかある? 俺はカレーかな」という岩間の一言から、高岩が「今カレーにハマってる俊樹が、自作のカレーをリハスタに持ってきて。食べさせられたんだけど……めっちゃマズイの!!」と告発。「こんな大勢の人の前で人のカレーのことマズイとか言うなよ!!」と小競り合いが始まった。どうにも揉め続ける中、「俺らミュージシャンだから音楽で勝負しようぜ」と高岩が一言。ちょうど4対4だし、やってやるよ!と高岩を含む4人がまずは舞台袖へ。ステージに残ったのはMC岩間、Dr澤村、Sax谷本、Tp髙橋で「衣替え」を演奏。MC岩間はそのままに、Dr澤村がベース、Sax谷本がキーボード、Tp髙橋がドラムと楽器をシャッフルするサプライズも。間奏では岩間もトランペットも披露し、拍手を浴びた。そして「はいどいて!」と、そのメンバーと入れ替わりでステージに戻ってきたのはVo高岩、Gt隅垣、Key大樋、Ba大林の4人。こちらはGt隅垣、Ba大林はそのままに、Vo高岩がキーボード、Key大樋がドラムを担当しゆったりしたレゲエのリズムで「バンビエン」を始めると、会場は夏のビーチリゾートに早変わり。そして最後には8人がステージに再度集合し、高岩の「俺ら、やっぱり8人でひとつじゃん?仲直りしよう」の一言で大団円を演じてみせた。バンドをふたつに分け、メンバーシャッフルでのライブが見られるのは、ワンマンを心から遊ぼうとするSANABAGUN.の心意気そのものだ。
高岩遼(Vo)
本来の担当楽器に戻り、バンドメンバーのみで演奏された「P.O.P.E」でさっきまでのワイワイした雰囲気から、フロアもガッチリ聞く空気に変わったのがわかった。そして怪しいブルーのライトが照らすステージに高岩の伸びやかな歌声が響く「BED」へと続く。高岩のマイクスタンドも使ったダンスパフォーマンスはまるでショーだ。高岩のパフォーマンスの動きに合わせるようにフロアのボルテージも上がっていく。そして始まったイントロでそこにいる誰しもが喜びを拍手で表した「メジャーは危ない」を披露。この曲はメジャーデビュー後にバンドに起こったさまざまな出来事をふまえ、その頃の不安定な自分たちの状況を赤裸々に綴られたものだ。間奏を使って岩間が話した「もうこの曲やんないと思ってたけど……リョウゾウ(Ba.大林)、ユウダイ(Key. 大樋)が入ってきてくれて、ようやく笑って歌えるようになったから。ふたりともありがとう!」の一言に、フロアからも温かく長い拍手が起こる。この一言が全てなのでは、と感じる一言。メンバーチェンジを経た新生・SANABAGUN.として、今がいい状態であることを、言葉で、音楽で見せてくれた一幕だった。そして最後の曲だという「シャタファカみなさん」へ。メンバーがそれぞれの楽器を置き、ステージギリギリまで出てきてのパフォーマンス。8人全員がマイクを取り順番にラップで声を吐き出していく。どこからどう切り取っても男臭さ200%の8人の姿に、これがSANABAGUN.なんだと圧倒されるしかない本編の締めくくりだった。
SANABAGUN.
アンコールに合わせて再びステージへと8人が舞い戻ってきてくれた。MC岩間の「次のアルバムに入る曲やってもいいですかー?」の声に、フロアは歓声で答える。10月発売のニューアルバム『BALLADS』から新曲を2曲披露した。そして「今日は日曜日だし、休みを満喫して帰ってくれよ。休みは!働く!ためのものじゃない!」と岩間が叫んでライブ定番曲の「人間」へ。この曲を待っていた、とばかりに悲鳴にも似た歓声が上がり、サビの大合唱が続いていく。この曲を一緒に歌いにきたという思いがビリビリと伝わってくるほどのフロアの熱もそのままに、ラストソング「FLASH」へ。何度となくライブで披露されてきたこの曲。この夜のラストソングでSANABAGUN.のメンバーも、そして見ているこちら側も、完全にボルテージは頂点に達した。その高まり具合が目視できるような、今のSANABAGUN.の勢いそのままのライブは、熱を持ったまま幕を下ろした。
SANABAGUN.
SANABAGUN.としてこれからも突き進む8人が、これまでリリースしてきた作品を総ざらいするライブを開催したのは、自分たちが真剣に作ってきた音楽を「今の8人で演奏したらどうなるのか」、その最新形をファンに見せたかったのではないか、そんなふうに思わせてくれる濃密な一夜だった。10月のニューアルバムの発売と11月から始まるツアー『TOUR BALLADS』で、またどんなSANABAGUN.を見せてくれるのか、期待しかない。
取材・文=桃井麻依子 写真=河上良
リリース情報
2019年10月23日(水)発売
【SANABAGUN.楽曲配信情報】
SANABAGUN.の作品はストリーミングサービスおよびiTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサービスにて配信中!
※音楽ストリーミングサービス:Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music Unlimited、AWA、KKBOX、Rakuten Music、RecMusic、Spotify、YouTube Music
※ミュージックビデオはApple Music、YouTube Music、RecMusic、dTVでご覧いただけます