脚本、美術、出演を一人で手掛ける人形劇界のスーパースター、〈Stuffed Puppet Theatre〉がオランダから来名

インタビュー
舞台
2019.8.12
 〈Stuffed Puppet Theatre〉を主宰するネヴィル・トランター。『バビロン』上演風景より

〈Stuffed Puppet Theatre〉を主宰するネヴィル・トランター。『バビロン』上演風景より

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毎年この時期に、海外の人形劇カンパニーの作品を上演している名古屋の「損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール」。これは、東京の「プーク人形劇場」と全国各地の人形劇団や劇場との連携による海外招聘企画のひとつで、今年はオランダを拠点に活動する〈Stuffed Puppet Theatre(スタッフド・パペット・シアター)〉が来日。7月末から、札幌、新宿、飯田、東かがわ、三次と全国5都市を巡ってきた『アフガニスタンのパンチとジュディ』『バビロン』の2作を、8月14日(水)と15日(木)にそれぞれ名古屋で上演する。

Stuffed Puppet Theatre『アフガニスタンのパンチとジュディ/バビロン』チラシ表

Stuffed Puppet Theatre『アフガニスタンのパンチとジュディ/バビロン』チラシ表

〈Stuffed Puppet Theatre〉は、オーストラリア出身のネヴィル・トランターが1976年に設立した人形劇団で、’78年にアムステルダムで行われた演劇祭へ参加したことを機にオランダへ移住。旗揚げ以来、一貫して現代の社会問題、人間模様を独自の視点で描き、作・演出・出演を全て一人で行う作品を次々と発表し続けている。今回上演する2作も、『アフガニスタンのパンチとジュディ』は、アメリカのアフガニスタン侵攻がテーマの作品、そして『バビロン』は移民問題を扱った最新作だという。

2017年に続き、「ひまわりホール」での上演は2度目となる〈Stuffed Puppet Theatre〉及びネヴィル・トランターの魅力について、同劇場を運営する愛知人形劇センター・プロデューサーの中康彦氏に話を聞いた。

── 前回の反響なども含め、〈Stuffed Puppet Theatre〉の特色について教えてください。

一昨年は、『マチルダ』という老人病棟の話を扱ったブラックコメディみたいな作品だったんですよ。英語での上演だったので一応字幕は付けましたけど、中学校レベルくらいの簡単な英語でそんなに難しい単語が飛び出てくるわけではないので、誰でも楽しめる、平易な言葉を使ったわかりやすい上演でした。ブラックユーモアなので後からオーッと効いてくる作品ですけど、とても好評で大人の観客が多かったですね。

── どちらかというと大人向けの作風なんでしょうか。

ネヴィル・トランターは社会風刺の作品を得意としているので、完全に大人向けですね。今回上演する『パンチとジュディ』はイギリス発祥の伝統の人形劇で、元々は子どもが大笑いするようなお芝居ですけど、アフガニスタンの話を引っ張ってくるので、ネヴィル・トランター流にアレンジした『パンチとジュディ』になると思います。彼はいま、人形を遣わせたらヨーロッパで一番上手いんじゃないか、と言われるぐらいの方なんですね。

── 人形劇をよくご覧になる方には、おなじみのアーティストなんですね。

世界の人形劇界では、この人の名前を知らない人はいないかもしれない。特に人形遣いの中ではかなり有名な方です。今回は残念ながらスケジュールの都合で実施できませんが、前回来られた時は1日8時間ぐらいの長時間のワークショップをやってもらいました。参加者は、彼の要望で「プロフェッショナルの操演をやっている人に限る」と。要するに、初歩のいろはのことをやっても仕方がないので、「どうしてこの人形がこんな風に見えるのか」とか、「お客さん目線から見た時に、これがどんな風に見えているか」というトレーニングをやってもらいました。これも基礎的なことなんですけど、彼がやるのと他の人がやるのでは全く違って見えるんです。

── プロの遣い手の方でも驚かれる感じですか?

驚きですよね。目からウロコみたいな。そこまでやります? という、すごく緻密な世界なんです。

── 美術も担当されているということは、人形制作もご自身で?

人形デザインや設計は、自分で考える人が多いと聞いています。製作は、自分の工房を持っていたり専門の工房があるのでそこへ発注したりします。一番正確に遣えるものを自分自身で作るということですね。ヨーロッパの場合は人形劇学校であったり、大学の芸術学部の演劇科、人形劇専攻みたいなのものが必ずあって、基本的に人形劇の教育を受けているので日本とは環境が全く違う。メソッドというより教育として、演出も美術も、当然演技についても学んでいるんです。

── 人形劇のこと全般について習う下地があるので、全部一人で出来るんですね。

基本的にやろうと思ったら出来ます。その上で自分は何を目指すのか、という選択肢なんですよね。それとヨーロッパの場合は演劇が身近ですよね。例えば、チェコなんかだと地下鉄の駅ごとに小さな劇場があって、その劇場も公立の劇場で、そこに役者や演出家、芸術監督がいて、という形なので劇団名がないんですよね。そうやって歩いていける距離のところに劇場があって、子どもたちも100円玉を握りしめて気軽に人形劇を観に行く、というような環境だから、本当にハードルが低い。料金が安い割にすごいことを見せているし、子どもとか大人とか分け隔てなく、毎日公演をやっていて作品もさまざまな選択肢があるわけです。日本だとどうしても人形劇=子どものもの、と錯覚している方がおられますけど、今回の作品はぜひ大人の方に観てほしいですね。絶対に楽しめると思いますよ。


世界中で活躍を続け、人形劇フェスティバルでは、ネヴィルの新作=行列が定説となっているほど圧倒的な演技力で観客を魅了している〈Stuffed Puppet Theatre〉。“欧州人形劇界の最高峰”とも称される操演を、間近で見られるこの機会をぜひお見逃しなく!


【『アフガニスタンのパンチとジュディ』あらすじ】
ろくでもない人生を過ごしてきた若者・エミール。そんな彼に与えられた「セカンド・チャンス」とは、人形遣い・ナイジェルの助手としてアフガニスタンの軍隊慰問へ同行することだった。ところが、乗ったラクダが暴走し行方不明となるエミール。その行方を追ったナイジェルは、たどり着いた先で恐ろしい人物に遭遇する…。
あふれるユーモアと風刺。欧州各国で話題を呼んだ、ネヴィルの舞台。(上演時間 55分)
『アフガニスタンのパンチとジュディ』上演風景

『アフガニスタンのパンチとジュディ』上演風景


【『バビロン』あらすじ】
とある海岸で密航ボートが待っている。約束の地「バビロン」への最終便だ。最後の乗客を待つ船長の怒号が響く。
「金はあるのか!? 動物はダメだ。ノアの箱舟じゃないんだぞ!」
乗り込む者、取り残される者…それぞれの思惑が交錯する船着場に、神の子が現れる。悪魔の誘惑。父なる神の嘆き。人々の運命を握るのは…?
欧州が直面する移民問題に真正面から取り組み、世界各地で絶賛されたヨーロッパ人形界の最高峰ネヴィル・トランターの最新作。(上演時間 65分)
『バビロン』上演風景

『バビロン』上演風景

取材・文=望月勝美

公演情報

愛知人形劇センター・ひまわりホール30周年記念事業
あいちトリエンナーレ2019連携企画事業「思いと人形の間」

Stuffed Puppet Theatre『アフガニスタンのパンチとジュディ/バビロン』

■作・演出・美術・出演:ネヴィル・トランター

■日時:2019年8月14日(水)19:00『アフガニスタンのパンチとジュディ』 
                          15日(木)19:00『バビロン』
■会場:損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール(名古屋市中区丸の内3-22-21 損保ジャパン日本興亜名古屋ビル19F)
■料金:1演目券/一般前売3,200円 会員前売2,800円 当日3,500円 2演目券(前売のみ)/一般前売6,000円 会員前売5,500円 ※「あいちトリエンナーレ2019」国際現代美術展1DAYパス及びフリーパス提示の方は、会員前売価格にて入場可能
■アクセス:名古屋駅から地下鉄桜通線で「丸の内」駅下車、4番出口から東へ徒歩4分または「久屋大通」駅下車、1番出口から徒歩2分
■問い合わせ:愛知人形劇センター 052-212-7229(平日10:00〜18:00) mail@aichi-puppet.net
■公式サイト:http://aichi-puppet.net/
 
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