音楽劇『レミング~世界の涯まで連れてって~』で大女優役、霧矢大夢インタビュー
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霧矢大夢 (撮影:横山将勝)
「自分の芝居の概念みたいなものが、全部取っ払われてしまう感じです」
様々な壁がなくなり、虚構と事実が渾然となった街を舞台にした、寺山修司の最晩年の作品『レミング』。その“虚構”のシンボル的な存在として君臨する映画女優・影山影子を、今回の再演では元宝塚歌劇団月組トップの霧矢大夢が演じる。宝塚時代も含めて数多くの舞台に出演し、百戦錬磨の舞台女優と言える彼女ですら「体験したことのない世界」だという、今回の作品について語っていただいた。
──最初に『レミング』をご覧になられた感想は。
資料映像で観させていただいたんですけど、本当に不思議な世界だなあという印象でした。でもこの、画面だけで観た印象で考えてはいけないという思いもあるんですね。だから今回、影山影子をさせていただくに辺り、何かもっと劇場の中でのこの作品の印象みたいなものを、出演者として再認識したいという思いもあります。
──この作品以前に、寺山修司の作品に触れる機会はあったんですか?
本当にご縁がなかったですね、今まで。ただ(演出の)松本(雄吉)さんと麿(赤兒)さんにお話させていただいた時に、私が所属していた宝塚は雲の上のような夢の世界で(笑)、僕たちアングラは地の底をはいずり回る感じだと。でもどちらも、ある意味のリアルじゃない世界を表現しているんだ、とおっしゃってたんです。だから、この世のモノではないものを表現しようとしているということでは、宝塚もアングラも変わりはないと。実際影山影子は、大浦みずきさんという(宝塚の)大先輩の方も演じていらっしゃるんですよ。影子は映画スターという役ですし、いわゆるエンターテインメント業界の人の雰囲気みたいなものは出しやすいのかなあと。
霧矢大夢 (撮影:横山将勝)
──稽古はかなり進んでいるようですが、現在課題になっていることはありますか?
「女優じゃない時の影山影子」をどう演じればいいのかが、今はまだクエスチョンマークです。彼女が女優なのか、それとも精神病院の患者の一人なのかが曖昧になる所があるんですけど、その切り替えがまだ難しくて。ただなかなか、影子自身には共感しづらいんですよ。普通1人の人物を演じることになった時って、その人がどんな人間なのか、台本に書かれてない部分も想像して作っていくんですけど、そういう部分がイメージできない人なんです。すごく女優という仕事と、華やかな映画の世界に執着している人という風にやればいいの…かな? という感覚で、稽古をしている所です。
──松本さんと、あと霧矢さんの場面は共同脚本の天野天街さんも演出に参加していますが、お2人の演出はいかがでしょうか。
松本さんはすごく絵画的と言いますか。人の動かし方も独特ですし、まずは空間の使い方とか、大枠を決めていかれるという感じです。松本さんが額縁と、そこに入れる絵の配置をまず付けていって、天野さんが細かい微調整をしていくという。天野さんの演出は、非常に細かいですね。天野さんの(脚本)部分は、前の台詞とその後の台詞がすごくつながってるんですけど、それを(役者が同時に)重ねて言うことに、異常にこだわりを持ってらっしゃいます。「何でそこ、そんなに重ねなきゃいけないんだろう?」と思ってしまうんですけども(笑)。
──それは恐ろしく細かいですね。
だから今までの自分のお芝居の概念みたいなものが、全部取っ払われてしまう感じなんですよ。歌にしても台詞にしても、感情に乗せてとか、相手と対話してっていうよりは、反射神経とかリズム感で演じるというような。だから役者としての反射神経やリズム感がすごく要求されるという、そんな芝居ですね。人物の感情がどうだとか、影子が自分に乗り移ってみたいな、そういう演じ方ではないんです。
──確かに初演でも、影子の場面は特に矢継ぎ早にシーンが変わっていってたので、反射神経とリズム感で演じなければならないというのは納得できます。
映画って今ではデジタル化されてますけど、昔はフィルムをいろいろ切り合わせて編集して作ってたじゃないですか? そのブツ切れの世界の人間みたいなものを表現しているので、もう場面が本当にコロッコロコロッコロ変わるんですよ。これを演じるには、普通の人間としての喜怒哀楽みたいなものとかは捨てないといけない、とまで思います。ブツ切れのフィルムがつなぎ合わされて、いろいろバラバラに上映されている世界の中に、2人のコック(溝端淳平・柄本時生)が迷い込んで、混乱する…ということですね。
霧矢大夢 (撮影:横山将勝)
──おそらく霧矢さんのファンも接したことがない舞台になると思いますので、彼らと一緒に混乱することになりそうですね。
それは明言できますね。多分第一印象は「?」が飛び交ってしまうと思うんですけど、何か引き込まれる世界ではあって。私もそんなには突き詰められていないですけど、本当に寺山修司さんの訴えるメッセージみたいなものは、すごくシンプルだというのは理解できるんです。この作品は「壁」というのが一つのテーマとしてあって、それぞれ自分の壁というか、枠を決めて生きている。それを打ち破るのか、その中で生き続けるか? みたいなことを問いかけていると、私は解釈してるんです。一見わかりづらい世界かもしれないんですけど、それでもどこかで何かがお客様の中に残ってくれたらいいですね。私自身は、ちょっとタンゴを踊るシーンもあるので、そういう所は単純に楽しんでいただけるんじゃないかなあと思います…でも本当に、難しいですよ(笑)。
霧矢大夢 (撮影:横山将勝)
<東京公演>
■期間:2015/12/6(日)~2015/12/20(日)
■会場:東京芸術劇場 プレイハウス
<名古屋公演>
■期間:2016/1/8(金)
■会場:愛知県芸術劇場大ホール
<大阪公演>
■期間:2016/1/16(土)~2016/1/17(日)
■会場:森ノ宮ピロティホール
■作:寺山修司
■演出:松本雄吉(維新派)
■上演台本:松本雄吉/天野天街(少年王者舘)
■音楽:内橋和久
■出演:
溝端淳平 柄本時生 霧矢大夢 麿赤兒
花井貴佑介/廻飛呂男/浅野彰一/柳内佑介/金子仁司/ごまのはえ/奈良坂潤紀/岩永徹也/奈良京蔵/占部房子/青葉市子/金子紗里/高安智実/笹野鈴々音/山口惠子/浅場万矢/秋月三佳
■特設サイト:http://www.parco-play.com/web/play/lemming2015/