きゃりーが老若男女を楽しませ、サンボマスターが今年のヘスに伝説を残した『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2019』DAY2【薩摩ステージ】レポート

2019.10.11
レポート
音楽

SiM

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THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2019
2019年10月6日(日)鹿児島市・桜島多目的広場&溶岩グラウンド【薩摩ステージ】

■SIX LOUNGE

SIX LOUNGE

今日は火山灰がめちゃくちゃ降っている。これが鹿児島に住む人の日常なんだなと思う。日本中、同じ野外フェスはないのだ。

そんなことを思いながら、薩摩ステージにも容赦なく火山灰は降っているはずだが「めちゃくちゃ気持ちい!」と、SIX LOUNGEのヤマグチユウモリ(Gt,Vo)は叫ぶ。この2020年を目前にした今の時代に最強にロマンティックなロックンロールを鳴らす3ピース、SIX LOUNGEの登場は、逆に自分の普遍的に好きなものを思い出させてくれる。

レスポールJr.と革ジャンの似合うフロントマン、ヤマグチはのっけから、青春と孤独と苦味と駆け出す心を全て曲と演奏に投げ込んだような「僕を撃て」をまっすぐに歌う。このまっすぐさが今らしさの証左かもしれない。わかりやすい日本語だが、詩情に溢れ、午前中のフィールドには過剰なセンチメンタルが行き渡る。“日本語ロックンロールバンド”を自負していることにも納得だ。

ライブを見るのは初めてなので、ファンの人は何をか言わんやかもしれないが、2曲目に披露した「LULU」なんて、JET(あの「Are You Gonna Be My Girl」でお馴染みのJET、です)のナンバーより切れ味鋭いんじゃないか?というリフ、フレージングの無駄の無さと豊かさに完全にやられる。愚かしいぐらい、心を焦がす早い8ビート。

最高にロマンチックで、どこかボーカルのメロディにはボブ・ディランの「風に吹かれて」に似た普遍性のある「星とメロディ」もしみる。この曲で終わる予定だったはずが持ち時間があったせいか、あまりにもここでのライブが気持ちよかったせいか、もう1曲、旅する気持ちに追い風を吹かせてくれる「幻影列車」でフィニッシュ。彼らが若手バンドとしては珍しく、井上陽水のトリビュート作品に参加している理由が何となくわかった。ロック詩人として優れたヤマグチと、3ピースの拮抗するバランスを構成するナガマツシンタロウ(Dr)、イワオリク(Ba)。今更ながら、いいバンドとの出会いをくれた“ヘス”に感謝を。

取材・文=石角友香

SIX LOUNGE


■GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

重心の低いロックンロール。うねるような黒いグルーヴで薩摩ステージの空気をガラリと変えた初出場のGLIM SPANKYは、「愚か者たち」で口火を切った。まるでロックを歌うために生まれてきたのではないかと思わせる松尾レミ(Vo,Gt)のハスキーな歌声。その右側に立つ、亀本寛貴(Gt)は70年代ハードロック直系のフレーズを狂おしく弾き倒す。歪んだ音像をバックに<イカサマを嗅ぎ分けていけ>とアジテートする「TV Show」、沸々と湧き上がる衝動を“怒り”と名付けて、試練を越えようぜと高らかに歌い上げる「怒りをくれよ」へ。敬愛するロックとブルースを抱きしめながら、何者にも媚びず、自分たちだけのロックを貫き続けるGLIM SPANKYの佇まいは眩しいほどかっこいい。

「素敵なフェスに出られて、みんなと仲間になれて、うれしいです。こんなに灰が降るなかで歌うのも楽しいものです(笑)」と言う松尾の言葉を、亀本が「ハイになって楽しんでください!」と引き継いだMCのあと、ぐっとテンポを落した「ハートが冷める前に」では、野性味を帯びた“ウォーウォー”というコーラスが楽曲に込めた熱を激しく燃え上がらせる。

終盤、素晴らしかったのは、とりわけ感情を込めて届けたロックバラード「大人になったら」だった。美しいものを美しいと、好きなものを好きと。そんなふうに歌い続けたいと心に誓った松尾レミの原点にあるナンバーは、あまりにも無垢で美しかった。

取材・文=秦 理絵

GLIM SPANKY


■きゃりーぱみゅぱみゅ

きゃりーぱみゅぱみゅ

FLOWER FLOWERが大隅でライブを終えた直後から、薩摩のステージ前ではファンが「きゃりー」コールを繰り返す。それはライブが始まるまで止むことはなかった。そんな熱心なファンに出迎えられたきゃりーぱみゅぱみゅのライブは「原宿いやほい -Extended Intro Ver-」で幕を開けた。4名のダンサーに続いて現れたきゃりーは、さっそく「Clap your hands!」と手拍子を求める。中毒性の高いこのEDMチューンに引き込まれるようにフィールドは人で埋め尽くされ、最後方の観客もぴょんぴょん飛び跳ねている。自分が観ている限り、昨日最も人を集めていたのはMONGOL800だったのだけど、これはそれ以上。きゃりー、強え! ビート感マシマシの「CANDY CANDY -Remix-」も強烈。こんなパンパンのなか、きゃりーは皆を右へ左へと跳ねさせるんだから容赦ない。

これ以上盛り上げたらさすがにヤバいんじゃないか、と思うような状況でぶち込まれたのは「ファションモンスター」。もはや、鬼である。国民的ヒット曲のパワーと影響力のデカさを痛感させる光景が目の前に広がっている。老若男女が音楽を楽しんでいる画はかくも美しい。さっきからやたらと暑くなっているのは、おそらく気温の上昇ではなく、ここに集まった人々の熱気のせいだ。

「とどけぱんち」でいったんクールダウンしたあとは、「にんじゃりばんばん」で再びサツマニアン民を総パリピ化状態に陥れるきゃりー。目の前の光景がどれだけ混沌としていようが、きゃりーのパフォーマンスは決してブレない。しかし、曲の終わりでは皆の熱気に当てられたのか、さすがのきゃりーも給水休憩。そこで明かされたのは、きゃりーのお婆ちゃんが薩摩川内市在住ということ。桜島に来るのもなんと5回目だという。そんな小ネタを挟み、最後に披露したのは「キズナミ」。心地よいビートときゃりーに身を委ね、幸せなダンスタイムでみんなひとつになるのだった。

取材・文=阿刀 “DA” 大志

きゃりーぱみゅぱみゅ


■THE ORAL CIGARETTES

THE ORAL CIGARETTES

「桜島、はじめまして。我々がオーラルです!」という山中拓也(Vo,Gt)のあいさつから幕を開けた初出場のTHE ORAL CIGARETTESは、『サツマニアンヘス』に“ぜひ出てほしい”というお客さんからのリクエストで出演が叶ったという。

1曲目は、キラーチューン「狂乱 Hey Kids!!」。あきらかにあきら(Ba)が足を蹴り上げながらアグレッシヴにベースを弾き、高い位置にシンバルを構えた中西雅哉(Dr)がパワフルにリズムを刻むと、鈴木重伸(Gt)は華やかなギタープレイで集まったお客さんを魅了する。「もっとかかってこいよ!」と熱くフィールドを焚きつける山中の存在感も圧巻だ。

ゴスペルっぽいコーラスが心地好いグルーヴを生む「What you want」や、ポップなアレンジに合わせて左右に大きく腕を振る「ワガママで誤魔化さないで」へ。次々にバンドの現在地を更新し続けるオーラルは、決して変化を恐れることなく自分自身のパブリックイメージを塗り替えてゆく。

MCでは、「THE ORAL CIGARETTESは“悲しいことを忘れて楽しんでください”とは言いません」と山中。「嫌なことを忘れたら成長しない。だって、彼女にフラれたことを忘れたら、ええ男になれへん(笑)」と笑顔で言葉を重ねると、負の感情を一回り大きな自分に生まれ変わるための糧にして音楽を鳴らす、というバンドのスタンスが強く感じられる「5150」や「BLACK MEMORY」を届けた。

ラストは山中が「隣にいる人を大切に」と優しく語りかけて、「LOVE」。悲しみや孤独があるからこそ、誰かと一緒に笑える喜びもある。そんなメッセージが込められたステージは、“フェスの30分”に妥協しない、バンドの真摯な姿勢も滲み出ていた。

取材・文=秦 理絵

THE ORAL CIGARETTES


■SiM

SiM

今年もサツマニアンに4人の来襲を告げるサイレンが鳴った。開口一番「行けんのかー!」とMAH(Vo)。そして、さっそく「A」のフリーキーなイントロを薩摩に叩き込む。続く「2曲目」も含めて、体の中心からジワジワと侵食するようなオープニング。MAHは積極的にシンガロングを求め、フィールドの一体感を高めようとしている。

MCでは「疲れてる? (ライブを)止めますか?」とひと煽りし、「SiMを知らないという人も、この曲は知らないと音楽好きとしてどうかと思いますよ?」とここで「KiLLING ME」を投入。間奏では全員を座らせ、MAHの合図で一斉に飛び上がらせる。これで火が点いたキッズのノリが激しくなり、薩摩は混沌の色を深めていく。しかし、MAHはそれじゃ満足しない。次の曲の演奏前にどでかいサークルを作るようキッズに指示し、「4曲目」のイントロが始まると同時に高速のサークルピットができあがった。「GUNSHOTS」ではSINが奏でる、うねるようなベースラインが揺らす地面の上で、観客が一斉にモンキーダンス。

SiM

最後は、12月にあるCAPARVO HALL公演での再会を約束し、「KiLLING ME」に続き、もうひとつ「これぐらいは知っておきなさいよ!」という一撃必殺のレゲエパンクチューン「Blah Blah Blah」を叩き込み、強烈な印象をサツマニアンの脳裏に刻んだ。

取材・文=阿刀 “DA” 大志

SiM


■ハナレグミ

ハナレグミ

メンバー、サウンドチェックからステージに残ったまま、本番スタート。ピンクのシャツが目にも鮮やかな永積タカシが登場してすぐに、タブゾンビからの出演に対するお礼の手紙を読み上げるという、彼らしい感謝の表し方から、「調べたら今日、仏滅だったんだけど、いいよね」と「大安」を歌い始める。ゆるっとしたスタートだが、ツアーを重ねてきたバンドメンバー、石井マサユキ(Gt)、伊賀航(Ba)、菅沼雄太(Dr)、YOSSY(Key)のアンサンブルは骨太だ。風通しのいいアンサンブルが夕方に向かう時間帯にもしっくりきて、ハナレグミ流のレア・グルーヴ「Primal Dancer」ではハンドマイクでダンスしながら多彩なスキャットを聴かせてくれたりも。

永積が歌い出せば、それがスタート。カントリー風の「明日天気になれ」はパッと聴き呑気な曲だが、ここでじっとしてても何も変わらないぜという、一歩踏み出そうとする人の背中を押すというよりは、心の底の思いにそっと火をつける曲だと、改めて感じる。

ハナレグミ

自分の曲には景色を描いたものが多いから、今日は今日の景色の中で、飲んだり踊ったり、座ってもいいし自由に楽しんで欲しいと彼は言う。さしずめ海辺に似合いそうな「レター」を桜島の麓で聴くのも大変オツだ。石井のクリーントーンや、少々ジャズ的なアレンジを聴いていると、どこか海外のジャズフェスにでもいる気分(あくまで気分)。

「気持ちいい~! 俺、この会場でここが一番気持ちいい。風が抜ける~」と美味しいものでも食べたような表情を見せる。ステージが一番気持ちいなんて、さすがである。風はただ吹いてるんじゃなく、彼が集めているのだと思う。空気が循環する。ネタじゃなく、深呼吸したい空気なんだから、彼が「深呼吸」を選曲したのも偶然じゃない。それにしてもこの素晴らしい空気ともうちょっとでお別れかと思うと寂しくなってきた。

取材・文=石角友香

ハナレグミ


■マキシマム ザ ホルモン

マキシマム ザ ホルモン

陽も落ちて暴れるには最適な気温になった薩摩ステージには、後方まで老若男女が詰めかけている。

ナヲ(ドラムと女声と姉)が先頭を切って登場、お立ち台から笑顔を振りまき、スターターは今夏の夏フェス仕様になった「恋のメガラバ」。「きたぜサツマニアーン! ちょっと去年、この人(ダイスケはん(キャーキャーうるさい方))が新宿二丁目の営業が入っちゃって」とナヲ。「今日すごくないですか? 楽屋で猿みたいなやつだらけで、YUIちゃんがおののいてて。ご飯食べてても“ヘス”がふりかけみたいにかかってる」とも。そこからの「三度の飯より」「飯が好き!」コール&レスポンスからの「maximum the hormone Ⅱ」。

間髪入れずにデジタルハードコアな打ち込みとバンドサウンドがただただカオスを作り上げる「アバラ・ボブ」へと、まーったく休ませない。「What’s up, people?!」のイントロではン万人のヘドバンに負けじと、ステージ上も4人がバウンドしているかのようなヘドバンを見せる。真っ赤なライトに照らされたクラウドはずっとヘドバンを続けており、その上を転がっていくクラウドサーファーという、なんだかSF映画かゲームの二次元映像を見ているような状況が出来上がっている。

「錦江湾渡るのに1年かかったわ」と、ようやく去年出演できなかった理由をMCするダイスケはん(首のヘルニアで要治療~活動休止)。今夏最後の夏フェスということで、この光景を写真に収めると、ソデに下がったダイスケはん。代わりに“きもとさん”と呼ばれる人物が現れ、ガラケーに広大なフィールドの情景を納めるのだった……。

ライブも20分以上過ぎると最後方の妙齢のご婦人までヘドバンする始末(失礼)。巨大なサークル、ウォールオブデスが「シミ」のサビごとに起こる。ラストはおきまりの“恋のまじない”をあえて説明せずに一発本番で一緒にやれ、とナヲ。しかも、警備スタッフも椎名林檎のステージを準備する白衣のスタッフも絶対参加というゴリ押しで、ここにいる全員が体を反らせる、反らせる。頑張ってきた学生バイトの皆さん、参加できてよかった! いや、ほんとに。ハッピーな混沌で踊り狂う「恋のスペルマ」で大団円。ちなみに野外なのにホルモン後、移動するお客さんで周辺の気温が上がりました。ほんとです。

取材・文=石角友香

 

■サンボマスター

サンボマスター

今年で2度目の開催となった『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2019』もあっという間にエンディングへ。クロージングアクトを除くと、残るは大トリのサンボマスターのみ。

観客の声援を確認するように耳を傾ける山口隆(Vo,Gt)をはじめとしたサンボマスターのメンバーは、定位置につくなり「青春狂騒曲」をプレイ。そして、山口は叫んだ、「終わりよければ全てよし!」それは、自分たちのパフォーマンスに対する自信の表れのようにも感じた。山口、近藤洋一(Ba)、木内泰史(Dr)の3人が奏でるサウンドは、耳を鋭く刺すようなものではなく、聴き手のそばにやさしく寄り添うように鳴っている。

山口は、フィールドを埋め尽くした観客に歌の合間合間で呼びかける。「大丈夫か?」「女の子を守れよ!」「笑ってっか?」そして、曲の間奏がくるたびに、「ええ~? ウソ……? 大トリですよねぇ? 去年はこんなもんじゃなかったですよ?」と皆を煽る。まあ、ステージ上の3人を超えるほど盛り上がるというのはなかなか難しい。彼らはものすごい感情の情報量で迫ってくるのだから。

「お前と、もうひとりのために」と言って山口が「ラブソング」のイントロを奏でると、やさしい拍手がステージに贈られた。最後のサビに入るまえに、大切な誰かを思い浮かべるための、永遠のように長い間が空き、ここしかないというタイミングで再び山口が歌いはじめる。その間、声を上げる者は誰ひとりとしていなかった。誰もがその時間を噛み締めていた。何も鳴っていない時を3人と共有したんだ。

今年のヘスでは実に多くのサークルピットが生まれたが、最も巨大なサークルは「できっこないを やらなくちゃ」と「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」で起きたものだった。もちろん、むやみやたらな体のぶつけ合いではない。山口の合図で円の中心に駆けていく観客の姿は、自らの思いを遠くの誰かに伝えに行くかのようで、なんだか美しかった。

そして、「輝きだして走ってく」を演奏するまえ、山口はぶちまけた。「おめえが生まれたときから今まで、糞だったことなんて一回もねえんだってことを忘れんなよ! 今日、俺たちはそれを証明しにここまで来たんだよ。おめえが(これまで自分のことを)糞だって思ってきた呪いを解きにきたんだよ!」。多くの観客が涙を流す姿が次々とスクリーンに映し出されていた。「泣いてんじゃねえぞ!」と叫ぶ山口。いや、そりゃ無理だわ。サンボマスターは間違いなく、今年のヘスに伝説を残したのだった。最後に山口はダメ押しで叫んだ、「俺たちからの宿題は、勝手に死んでんじゃねえぞ!」と。

取材・文=阿刀 “DA” 大志

サンボマスター

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