舞台裏写真も! 立川志の輔一門の弟子七名の落語会『弟子ダケ寄席in深川』第4回公演をレポート
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左から、志の太郎、志のぽん、志の八、晴の輔、志の春、志の彦、志の麿。
2019年11月13日(水)、立川志の輔一門『弟子ダケ寄席in深川 #4』が、深川江戸資料館・小劇場で開催された。
本公演は、落語家・立川志の輔の弟子8名のうち、真打2人と二つ目5人が開催する落語会だ。2017年に始まり、4回目。イベント名に掲げる通り、弟子ダケが出演する落語会だ。
出演は、真打の立川晴の輔、志の八、二つ目の志の春、志のぽん、志の彦、志の太郎、志の麿。立川志の輔といえば、独演会で全国のホールや劇場を巡り人気を博す、唯一無二の存在感を放つ落語家だ。その弟子も、ふだんは独演会など個人活動が中心。寄席には上がらないメンバーだからこそ、寄席という団体芸を目指した時に、どんなカラーが出てくるのか。当日の模様を、開演前のオフショットとあわせてレポートする。
志の輔師匠の弟子がずらり
緞帳が開き、黒紋付き羽織袴で7名が登場。
ワッと大きな拍手がわいた。まずは撮影タイムがあり、7名は客席から向けられるカメラに笑顔で答える。撮影後は、そのままスマホの電源をおとすように誘導。その効果もあってか、上演中にスマホの着信やアラーム音がなる事はなかった。
開口一番は、五番弟子の志の彦。増税の話題から「時そば」へ。最初に登場する男のそばを食べっぷりから、はやくも笑いをとっていた。可愛げがありつつも、一文くすねる手管は鮮やかで嫌味がないところが小気味いい。これを真似て失敗する男のターンでは、擬音も力技もフル活用。前半と後半に異なる種類の笑いがあり、観客の心をぐっと引き込んだ。
撮影タイム中の志の彦、志の麿。
この勢いを受けて高座に上がったのは、六番弟子の志の太郎。演目は「湯屋番」。色男風の声色、“ネエさん”の艶っぽさ、時には座布団も使い、若旦那の妄想を、変態っぽいと言って差し支えないレベルまで加速させる。自由奔放に演じているようで古典に忠実。志の太郎は、途切れることのない笑いで二番手をつとめあげた。
撮影タイム中の、志の太郎、志のぽん。
続く七番弟子の志の麿は、「初天神」を披露。一席前の爆笑で、会場はオーバーヒート気味。その熱を落すことなく、ほっこりした笑いで空気を整える。金坊と父親の素朴なキャラクターには、リアリティがある。演じすぎないからこそ、たわいない掛け合いの可笑しみが際立ち、縁日の情緒も感じられた。
撮影タイムの志の八、晴の輔、志の春。
前半のラストは、二番弟子で真打の志の八「三方一両損」。渋さと軽妙さをあわせもつ地語りと大岡越前が脇をかため、THE江戸っ子の左官職人と大工が、ノンストップで意地の張り合い。面白可笑しくも、粋で格好良い。惚れ惚れするような啖呵あり、絶妙なバランス感覚のラフプレーありと、聞きどころたっぷり。緩急のある一席だった。
あっという間にここで仲入り(休憩)。落語会は、後半へ続く。
立川志の輔一門の舞台作り
公演に先立ち行われた志の八、志の春、志の太郎のインタビューによれば、志の輔一門は皆、志の輔師匠がそうであるように、「徹底したお客さんファースト」で舞台を作る。「お客さんが落語に没頭でき、楽しみやすい環境になるよう、微妙な照明やスピーカーの音質にまで」こだわるのだそう。
今回の『弟子ダケin深川』当日も、開場前の劇場を訪れると、出演者7名が真打・二つ目関係なく設営に参加していた。
マイクチェックもぬかりなく。客席側に全員集合。
まずは照明。オープニングと落語をやる時で、どの程度明暗の差をつけるかを検討する。
「80から30と、80から40。比べてみてどう?」
「30は、客席にいると暗く感じる」
「集中はしやすいかも」
舞台から客席、客席から舞台へと各々移動し、お客さんが落語に集中しやすいか。どの席からでも見やすいか。各々に確認をする。
微妙な違いなのに、三人から同時に「OK」が出た!
晴の輔は、リーダーシップをとりつつも「どう思う? どれが正解とかじゃないよ?」と、弟弟子たちに意見を求め、中央の席、前方の席と移動しながら確認を続ける。それが終わるとマイクチェック。高座を自分たちで用意する時は、その高さにもこだわるのだとか。
会場により環境は変わる。会場ごとのベストを探るべく、毎回この作業を繰り返す。
落語は「座布団一つあればできる芸能」と言われることもあるが、この一門は皆、舞台を作るすべての要素にこだわりを持ち、師匠のもとで修行し培った落語を、お客さんに大切に届けようとしているのだ。その姿を間近に見て、こみ上げてくるものがあったけれども、つかの間のこと。落語がはじまれば、ただただ楽しく、笑わされるばかりだった。
後半は、志の春、志のぽん、そしてトリの晴の輔と続く。
開場前の風景。香盤と関係なく、粛々と会場づくり。
開場後もぎりぎりまで打ち合わせ。
短命、ミシン、そして茶の湯。自由すぎる後半3席
三番弟子の志の春は、マクラで、時事ネタと下ネタをぎゅう詰めにした小噺を披露。休憩後のざわつく客席を一気に盛り上げ、空気感を落語会の流れに引き戻した。“こんな”ネタをしているから真打になれない、と自虐で笑いをとりつつ「短命」へ。ご隠居さん渾身の「短命だろう?」の言い回しとその瞬間の獣のような眼光が、何度だって会場を笑わせる。八五郎の勘の悪さが程よく、お茶を頼まれたおばあさんの伏線回収を忘れない緻密さもあり、一秒も飽きさせない楽しい一席だった。
開演前の風景。
開演前の風景。
6番手で登場したのが、四番弟子志のぽん。色物さんとして「ミシン漫談」を披露する。お客さんのオーダーに応え、即興で小物を作る予定が、開始早々にマシントラブル発生。志のぽんは、懐から完成しているお手製グッズを取り出し、大盤振る舞いをした。頭上をカラフルな小物が飛び交う光景は、豆まきや撒き手ぬぐいのよう。想定外におめでたい気分を味わえた。
開場10分前の風景。オープニングのリハーサル。
トリは、総領弟子で真打の晴の輔。「(志の)ぽんの衝撃が……」とネタにしつつ、弟弟子をフォローして笑いにおさめると、道楽の話題から「茶の湯」へ。
開場前の風景。オープニングのリハーサル中。
ご隠居さんは、知ったかぶりこそするけれど、嫌味がなく品が良い。定吉は、純粋無垢でたまらなく愛らしい。ふたりの魅力は、晴の輔の人となりあってこそ生まれるものだろう。二人のキャラクターのおかげで、お茶(のようなもの)が泡立ちすぎるシーンはファンシーに色づき、訳あって無重力体験をするシーンでは、可笑しさが倍増していた。
想定外はありつつも、晴の輔の晴れ晴れとした芸が兄弟会を明るく締めくくり、お開き。終演後の場内では「さすが志の輔一門」との声が聞かれた。一人の師匠から、これほど個性の異なる噺家が?! と驚かされる兄弟会「弟子ダケ寄席」。第5回の開催も、楽しみに待ちたい。
開場10分前。何かのリハーサル。
公演情報
■会場:深川江戸資料館・小劇場
■出演者:立川晴の輔、立川志の八、立川志の春、立川志のぽん、立川志の彦、立川志の太郎、立川志の麿