須賀貴匡、宮崎秋人、壮一帆、池田努が『冬の時代』出演に向けて意気込みを語る
(左から)池田努 壮一帆 須賀貴匡 宮崎秋人 (撮影:福岡諒祠)
unrato(アン・ラト)#6『冬の時代』が、2020年3月20日(金)から同月29日(日)まで東京芸術劇場 シアターウエストにて上演される。木下順二によって書かれた戯曲を大河内直子が演出する。
本作では、まさに社会主義運動の“冬の時代”と呼ばれた時期が描かれる。物語は1910年に起きた大逆事件の後。主人公・渋六の設立した代筆や文章代行を行う“売文社”のもとには、さまざまな背景を持つ社員が集まってくるが……。
今回は出演者の4名である、堺利彦がモデルの渋六役・須賀貴匡、大杉栄がモデルの飄風役・宮崎秋人、渋六の奥方・壮一帆、高畠素之がモデルのノギ役・池田努に出演の意気込みを聞いた。
◼この作品は「青春群像劇」
──最初に脚本を手にした感想はいかがでしたか?
須賀:聞き慣れない言葉も多いし、時代背景もわからないので、辞書を引きながらじっくり読みました。これは俳優達がしっかり咀嚼しないとお客さんに届かないかもしれないな、という不安もありましたね。現代では使わない言葉遣いや言い回しが多いので、大変な戯曲だな、と。
須賀貴匡
宮崎:僕も初めて読んだ時に、心がポッキリ折れたんです。みんなこれをスラスラ読んでるのかと思うと、どんどん自信を無くしていっちゃって。
池田:みんなそうだよ(笑)。
宮崎:安心しました。「せ~の」で始められるなって(笑)。
壮:私もです。調べながら丁寧に読むしかないなって。でも、読むのはまだすごく難しいけれど、やるのと観るのとではまたきっと違うんでしょうね。
池田:たしかに難しい言葉が多いし「この現代にこれをやるんですか?」という思いはありましたね。今ってわかりやすいものが好まれるし、創り手もなかなか理解し難いものをやらない。テレビもどんどん難しいものが減っているなか、あえてそこにこの戯曲をぶち込むunratoの心意気に震えましたよ。すごく大変な作品だけど、こういう作品は好きなので、時代と逆行する思いでやる気がみなぎっています。「芝居してるな」という感じがする。こういう作品がやりたかった。
──それぞれの役どころについてお伺いしたいです。1910年に代筆を承る団体<売文社(ばいぶんしゃ)>を作った人達の物語で、堺利彦をモデルにした<売文社>のリーダー的な人物・渋六(しぶろく)を須賀さんが演じますね。
須賀:まだ勉強中なんですが・・・この物語に出てくる彼らは、大逆事件(1910年)という明治天皇の暗殺を企てた人達が処刑された後、“冬の時代”と言われている時代に、今で言う出版社を作って世の中と闘った人達です。しかも実在した人物をモデルにしていますから、俳優としては責任重大。それぞれの主張や思想も全然違いますから、丁寧に丁寧に掘り下げていきたいですね。
宮崎:出てくるみんな、口が達者だし、頭も良くて、主義をしっかり持ってぶつけ合わせている。僕が演じる飄風(ひょうふう)は大杉栄さんがモデルになっている役なんですが、読んでいて「それは勢いでどうにかごまかそうとしてない?」とツッコみたくなるところもあるほど感情的な人だという印象です。
池田:ちょっと自分勝手なところがあるよね。
宮崎:人に話を押し付けたかと思えば、口を挟みたくなったら挟むし・・・自由に振る舞う奔放さがあるから「飄風」というあだ名なのかな。自分にはまったくない部分がいっぱいあって憧れますね。
宮崎秋人
池田:みんなスケールが大きいですよね。とくに実在の人物として名が残っている人って、なにかを成し遂げたり、挑戦したり、敗北したり、勝利したり・・・それぞれの体験があまりにも大きい。自分の経験や考えだけでは演じられないです。僕が演じるノギのモデルは高畠素之さんなんですけど、彼の主義や理想を学び、映画や文献なども手がかりにして、その大きなスケールに自分を持っていかないといけないと、彼らの言葉に説得力を持たせられない。その途方のなさをちゃんと感じてからがスタートですね。なめちゃいかん。
──その中で壮さんが演じる渋六の「奥方」は、またすこし違ったポジションから売文社のみんなと関わりますね。
壮:みなさんが話している傍にいる立場なので、奥方自身はそこまで難しい激論を交わしているわけではないです。けれどもこの時代や彼らのことをちゃんと理解しなければいけないなと、脚本に臨んでいます。私自身は宝塚という究極のエンターテイメントの世界出身のせいか、こういう重厚なお芝居の知識が乏しいんですけれど、日本人として、自分の国の過去にこういう考え方をもって生きている人々がいた、ということを深く知るのはすごく良いですね。しっかり調べて、読み込んで、違和感のない存在感を出していきたいです。
──この物語についてはどんな印象ですか?
須賀:現代にフィットするんじゃないかなとは、すごく思いましたね。最近、表現の自由や言論の自由が脅かされている気もしています。『冬の時代』はまさにその真っ只中。自分の意見を言うことが困難な時代に、彼らは主義主張を貫くために<売文社>を立ち上げている。もしかしたら現代だって『冬の時代』なのかもしれない。その今、こういう舞台を世に出す意義はあるなと思います。
宮崎:今の時代って、闘おうとしている人を関係ない人が止めているようにも感じるんです。でも、この登場人物たちは、負けても負けても、勝てるわけないのに、どこかで勝てるって本気で立ち向かい続けてる。負けてもいいから闘ってる方がかっこいいですよ。そんな人達の存在を知らなかった人に知ってほしいですね。きっと今でもそうやって闘っている人がいるはずで・・・闘う相手が国だったり、闘う方法が言葉だったりと、闘い方は違ってもいろんなことに置き換えて考えられる話です。登場人物もそれぞれ違った考えで闘っているから、誰かしらは憧れの対象になるんじゃないかな。
壮:そうですね、(大河内)直子さんが「青春群像劇なんだよ」と仰っていたんです。それぞれの主張の内容はわからなくても、人が自由に意見を通わせ合っている状況が伝われば、群像劇としての彼らの人生が浮かび上がってくるんじゃないでしょうか。彼らの情熱はちょっとまぶしいくらいなのですが、それは誰しも心のなかに持っているはず。その熱が見えた瞬間がこの作品の魅力になるのかな。難しい言葉の底には、すごくシンプルなものがあるということを脚本を読んでいても感じます。
壮一帆
池田:その通りですね。ただ懸命に闘う人達を観ていただきたい。僕の若い頃は政治について激論を交わすなんてことなく、とても平和な子ども時代を過ごしました。でもそれは、不自由だった時代の人が闘って得た平和です。彼らはもし見つかったら捕まるかもしれない中で、ただシンプルに「より良い社会ってなんだろう」「俺はこう思うぞ」と一人一人が自分の意見を言っている。現代なら隠れることはないけれど、僕たちは彼らが欲しかった権利をあたりまえに手にしながらも行使していない気がするんです。
須賀:彼らには自由はないけれど、正しく闘っている感じは受けるね。
池田:今だって、より良い世界、より良い社会にしていこうとしなけりゃいけない。その思いを触発される作品に必ずなると思う。登場人物達が熱く闘って生きている姿を見ることで刺激されると思います。
■"大河内ロマン派チルドレン"になる!?
──須賀さんと池田さんは、以前にも大河内直子さんが演出される舞台に出演されていますね。大河内演出のおもしろみとは?
須賀:自由ですね。まず俳優が自分でやれる環境を作ってくれるのはありがたいです。
池田:「こう動け」と言われることはほぼないです。だから自分で持ち込まないと何も始まらないんですけどね。自主性を重んじるというよりも、俳優から何か生まれてくるのをずっと待ってくれる感じです。
壮:待てば、いつか出てくるんですか?
池田:出てきますよ、個人差はあるけどね。これまでも、その人それぞれのタイミングでパッと花開く瞬間がありました。大河内さんの稽古では、みんなが出演しないシーンもずっと稽古場にいて、他のシーンを見ているんです。だから努力や苦労も同じように分かち合って、花開く瞬間も共有できる。その積み重ねがとても大切に感じられる現場です。
須賀:宮崎くんは一度稽古場に来てくれたよね。どうでした?
宮崎:ちょうど須賀さんと池田さんのシーンを見学したんですが、独特な緊張感がありました。通し稽古の直前に、すごく和やかにお話されているのに、怖い。
池田:怖いよね。闘わないと怒られる。逃げたり、型にはまったり、雑に演じると愛のある怒りをもらいます。ちゃんと向き合うことを求められるんです。
池田努
宮崎:大河内さんも通し稽古の間、「私も闘いだから」と一生懸命に音出し(効果音や音楽を出す操作)をしていたんです。通し終わった後は、大河内さんが「このシーンはもうちょっと何かできると思うから探ってみて」とオーダーすると二人がすぐに「あ、そうですよね!」と反応したのが印象的でした。「ここはこう動け」という表層的な指示ではなく、「動きに至るまでの内面を俳優それぞれが作らないといけないシーンだな」という共通認識が、パッとしたやりとりだけで通じ合っていたので、「これは高度な現場だな」と思いました。
須賀:俳優が今より先に行くまでのプロセスを踏むために、大事なものを投げてくれるようなイメージなんですよ、大河内さんの演出って。
壮:それって、答えがないから自分で探さなきゃいけないってことですよね?
池田:でも目指すところはある。それが何かはわからないけど、大河内さんの手のひらの上でうまく導かれますよ(笑)
須賀:そう。わからないけど、飛び込めばいい。そうすれば引き上げてくれる。
壮:そうですか・・・。じゃあ、私も闘う意気込みでドボーンと飛び込みます!
──大河内さんの演出が初めての宮崎さんと壮さんは、どんな気持ちですか?
壮:仮チラシが出た時に「おもしろそう」と言ってくださる方がいらして、好きな人はすごく好きな作風なんだなと思いました。とくに私はいろんな種類の舞台に出演させていただいているので、出演舞台のタイプによって反応して下さる方が違うんです。もともと小劇場が好きだった延長で宝塚も観るという方もいるし、宝塚しか知らないという人もいる。なかには「壮さんが出るから宝塚じゃなくても観るようになってハマった」と言ってくださる方もいて、世界を広げるきっかけになれれば嬉しいという気持ちです。『冬の時代』という芝居の魅力をしっかり極めて、次に繋げていきたい。
宮崎:僕も2.5次元からお祭り騒ぎのような作品までさまざまやるので、いろんな方に観ていただきたいです。友達からは「あのメンバーの中でやるんだ!」といっぱい言ってもらえて、期待を感じています。
壮:メンバーには驚きました。私、みなさん初めてなんです。
宮崎:僕も全員初めましてです。そんな中で、さっき須賀さん達が言ってたみたいに「自由にやってください」と言われたら・・・どうしよう。
壮:私もちょっとビビってます・・・。
池田:大丈夫ですよ!芝居にさえ向き合っていれば、楽しい稽古場です。
──これから稽古に臨むにあたっての思いは?
須賀:いよいよ始まってしまうな、と。ただ“大河内ロマン派チルドレン”の僕としては、いろんな俳優が集まる異種格闘技戦みたいな雰囲気を楽しめればいいかな。その空気感が作品にうまく乗るように、大河内さんが誘導してくれるはずです。
須賀貴匡
池田:いつできたの、その派閥(笑)。よし、僕も“大河内ロマン派チルドレン”の名に恥じぬようにがんばります(笑)これまで大河内さんの舞台は稽古期間が短かったんですが、今回はたっぷり時間が取れるので余裕を持って丁寧に取り組みたい。こんなにじっくり臨める舞台はなかなかないので、大切にしたいですね。
池田努
宮崎:僕もしっかりとこの作品に向き合って、“大河内ロマン派チルドレン”になりたい(笑)。メンバーは世代も経験もバラバラですけど、<売文社>のメンバーみたいに同士の一員として青春していきたいな。稽古場でたくさん試して、たくさん失敗して、みんなで笑ってぶつかっていければ、きっとすべて舞台の上に現れると思う。
宮崎秋人
壮:そうですね。この時代の人達が、制約がある中で負けが見えていながらも失敗を恐れずにやっていく姿勢にすごく憧れますから、私も同じように稽古場で失敗を恐れず、たとえ「変なこと言ってるな?」と思われても恥じずにどんどんぶつかっていきます。そして“大河内ロマン派チルドレン”に昇格できるように(笑)。
壮一帆
──息がぴったりですね!舞台でのみなさんの「闘い」を楽しみにしています。
取材・文=河野桃子 写真撮影=福岡諒祠
公演情報
■日程:2020年3月20日(金)~3月29日(日)
■会場:東京芸術劇場 シアターウエスト
■演出:大河内直子
■出演:須賀貴匡、宮崎秋人 / 壮一帆 / 青柳尊哉、池田努、若林時英、結城洋平、山下雷舞、溝口悟光、戸塚世那 / 小林春世、佐藤蛍 / 井上裕朗、羽子田洋子、青山達三
舞台は大逆事件(1910年)の後、渋六が設立した、代筆や文章代行を行う「売文社」の一室。あちこちから、忍術の本や広告作成などの依頼が次々と届いている。楽天家の渋六社長のもとには、ショーやノギ、不敬漢、デブ、文学士ら多士済々の社員が集まってくる。激動する社会、飄風の恋愛事件…。堺利彦や大杉栄、荒畑寒村、伊藤野枝など実在の人物が名前を変えて登場。大正デモクラシーの波の中、考え葛藤し、そして行動した表現者たち。知的で情熱的な若者たちをいきいきと描く物語。