シド “承認欲求”というキーワードのもと壮大なストーリーを作り上げたツアー、東京公演で見た新たな一歩

レポート
音楽
2019.12.5
シド 撮影=西槇太一

シド 撮影=西槇太一

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SID TOUR 2019 -承認欲求- FINAL
2019.11.21 東京国際フォーラム ホールA

2か月以上に及ぶ旅の終わりに、4人の目はどんな景色を見るのだろう。11月21日、東京国際フォーラム ホールA。最新アルバム『承認欲求』の世界を、壮麗な映像やタイポグラフィを駆使して表現する『SID TOUR 2019 -承認欲求- FINAL』。2か月前、松戸で見た劇的なパフォーマンスはどこまで進化したのか。18時40分、期待しかない幕が開く。

シド 撮影=西槇太一

シド 撮影=西槇太一

あなたをあなたと認めてくれるものは何ですか? ――ステージ前に下ろされた斜幕に次々と流れるシリアスなメッセージが、広い会場内に静寂を呼ぶ。いつのまにステージに現れたメンバーが1曲目「承認欲求」を演奏し始めても、歓声は上がらない。言霊のパワーをとことんまで追及する、計算されたオープニング。幕が切って落とされ、「see through」が始まっても状況は変わらない。異様な景色だが不思議と違和感はない。マオの「行くぞ!」という掛け声と共に「螺旋のユメ」が始まると、ようやく夢から醒めたように客席がざわめきだす。照明が一気に全開になる。明希が強力なスラップベースをぶちかます「MUSIC」で、見慣れたシドのライブが戻ってきた。Shinjiが拳を突き上げ、ゆうやがラテン風味の踊れるビートを叩き出す。さすがファイナル、演奏の充実度はばっちりだ。

シド/マオ 撮影=西槇太一

シド/マオ 撮影=西槇太一

「ツアーの集大成を見せます。最後まで楽しんでください」

ここからは、あたたかいムードのスロー/ミドルチューンを三連発。「2月」は明るく力強く、「手」はShinjiのアコースティックギターと共にもの悲しく、「淡い足跡」は柔らかく優しく。曲間には字幕のモノローグが、曲中では歌詞がスクリーンに映し出され、『承認欲求』という現代の病をじっくりと読み解いてゆく。かつてないコンセプチュアルな、シアトリカルな演出に、ライブでありながら劇場にいるような気分になる。シドの楽曲をふんだんに散りばめた、これは一つの物語。アップテンポで盛り上がる「罠」も、騒ぐというよりはかみしめる。聴き慣れた歌詞にあらためて聴き耳を立てているような、不思議な感覚。

シド/Shinji 撮影=西槇太一

シド/Shinji 撮影=西槇太一

「みんなへのプレゼント、新曲持ってきました」

このツアーでもらった気持ちのお返しに――。マオの言葉に続いて歌われた、リリース未定のピカピカの新曲「delete」。猛烈なスピードで疾走するハードロックを、嬉々として演奏する4人。ライブ映えする曲だ。そのまま「Trick」へと突入し、尖ったロックビートを叩きつける。じっくり聴かせるシドと、荒ぶるシド。鮮やかな二面性が絡み合い、ライブは中盤へと進んでゆく。

あなたにとって、あなたは必要ですか? ――謎かけのような、心理テストのような言葉がスクリーンに流れてる。ステージはアコースティックセットに衣替えされ、ゆうやがカホーンを、Shinjiがアコースティックギターを爪弾く「ポジティブの魔法」を、マオが楽しそうに歌ってる。真剣に弾いてる明希にちょっかいを出し、明希がそっぽを向くシーンにみんなが笑った。シリアスなトーンのライブの真ん中の、ちょっとした息抜きタイム。曲が終わってもトークは止まらず、「Shinjiが歌詞を読んでない説」でひとしきり盛り上がる楽しさは、文字ではとても再現不能だ。天然のShinji、ボケるゆうや、突っ込む明希。「昔は俺だけしゃべってたんだけどね(笑)」と、すっかりトーク力が向上したメンバーにマオも嬉しそうに笑ってる。

シド 撮影=西槇太一

シド 撮影=西槇太一

久しぶりすぎてドキドキする――。そんなマオのつぶやきに続いて歌われた「青」は、みずみずしく若い勢いはじけるビートロック。15年前の曲が、『承認欲求』というコンセプトのもとに新たな命を持つ、長いキャリアが生んだ賜物だ。再び字幕のメッセージをはさみ、さらに勢いを付けてぶっとばす「Blood Vessel」へ。刺激的な赤いライトがぐるぐる回り、場内の熱がグッと高まってきたところへ「プロポーズ」を投下する、これが盛り上がらずにいられるか。マオがステージを走り抜け、オーディエンスの手に触れそうな位置で歌ってる。Shinjiがステージ最前線に飛び出してソロを弾きまくる。さらにスピードを上げ、ツービートで爆走するパンクチューン「park」へ。会場はヘドバン大会と化し、大歓声と突き上げる無数の拳でカオス状態へ。歌い終えたマオが「みんなが頭を振ってくれると、俺の心の炎が燃えます」と言った。このカオス、この一体感、これがシド

シド/明希 撮影=西槇太一

シド/明希 撮影=西槇太一

「横浜アリーナで大合唱したこと、覚えてますか? 一緒に歌ってくれたら嬉しいです」

それは3月10日、シド結成15周年グランドファイナルのラストに歌われた感動の1曲。その未来に、光に、罪はなくて――。シドからファンへ、そして自らの未来に捧げる「その未来へ」の歌詞が、溢れる光の中で何度もリフレインする。この多幸感、この一体感、これがシド。本編ラストを飾ったのは、アルバム『承認欲求』の核心と言える壮大なバラード「涙雨」だった。スクリーンに雨が降る。歌詞が浮かぶ。マオが両手を広げて雨を受け止める。始まりと同じように、静寂の中でのエンディングだが、そこには戸惑いも不安も何もない。なんて優しく、心地いい静寂だろう。

僕らがバンドキッズだった頃、「アンコール!」って言い出すほうだった? ――アンコールの拍手に呼び戻された4人が、ステージに現れるなり「アンコールを言い出すか否か」で盛り上がっている。明希は率先してコールしていたらしい。他愛もない話に花が咲く、それほど楽しいツアーだったのだろう。「出逢いは?」「キセキ!」と叫ぶコール&レスポンスからの「デアイ=キセキ」は、明るく爽やかに。恒例のメンバーコールからの「循環」では、Shinjiがステージから駆け下りて客席を走り抜けるパフォーマンスをやってのけた。さらに「ドラマ」「エール」とポジティブなロックチューンをたたみかけると、ライブはいよいよグランドフィナーレへ。

シド/ゆうや 撮影=西槇太一

シド/ゆうや 撮影=西槇太一

「最後に俺たちとみんなで、同じ色を纏って、このライブを終わります」

たどり着いたのは、どんな色の朝? 僕たちはまた色を纏う――。ラストチューン「君色の朝」の鮮やかなフレーズがいつまでも耳に残る。これまでとは異なる演出をたっぷりと盛り込んだ『承認欲求』ツアーは、承認欲求というキーワードのもと、新旧の楽曲を交えて一つの壮大なストーリーを作り上げる画期的な試みだった。

ツアーはまだ、延期された2公演が残っているが、シドがここから新たな一歩を踏み出したことは間違いない。2020年5月9、10日は河口湖ステラシアターで『SID LIVE 2020 -Star Forest-』が開催されることも発表された。変わらないものと、変わりゆくもの。どちらもしっかり持って、シドはまた新たな旅に出る。

取材・文=宮本英夫 撮影=西槇太一

 

セットリスト

SID TOUR 2019 -承認欲求- FINAL
2019年11月21日(木) 東京国際フォーラム ホールA
01 承認欲求
02 see through
03 螺旋のユメ
04 MUSIC
05 2月
06 手
07 淡い足跡
08 罠
09 delete(新曲)
10 Trick
11 ポジティブの魔法
12 青
13 Blood Vessel
14 プロポーズ
15 park
16 その未来へ
17 涙雨
<ENCORE>             
18 デアイ=キセキ
19 循環
20 ドラマ
21 エール
22 君色の朝

ライブ情報

SID LIVE 2020 -Star Forest-
2020年5月9日(土) 河口湖ステラシアター
2020年5月10日(日) 河口湖ステラシアター
※詳細は後日発表
 
SID TOUR 2019 -承認欲求- 振替公演
2019年12月29日(日) 埼玉 / 大宮ソニックシティ OPEN 17:00 / START 18:00
2020年1月5日(日) 宮城 / 東京エレクトロンホール宮城 OPEN 17:00 / START 18:00
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