妃海風が宝塚歌劇団退団後初のミュージカル作品として出演する『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』への意気込みを語る

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2020.1.10

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1960年、ホラー映画『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』を、脚本・歌詞をハワード・アシュマン、音楽をアラン・メンケンが手がけてミュージカル化。のちにアカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞し、作品はオフ・ブロードウェーでの大ヒットを受けて、1986年にはミュージカル映画も誕生した。

超個性的なキャラクターたちと謎の植物「オードリーⅡ」の抜群の存在感、キャッチーな楽曲が人々の心を掴み、日本では過去に10回上演。2020年3月からは東京公演を皮切りに、11回目の上演が決定した。物語はちょっとブラックだが音楽はかなりポップ。根強いファンを持つこのカルト・ミュージカルを演出するのは上田一豪。そして、これからのミュージカル界を担う若手キャストが集結した。

物語の舞台はさびれた街の小さな花屋。そこで働く冴えない青年シーモア(鈴木拡樹・三浦宏規/Wキャスト)は、店主のムシュニク(岸 祐二)に怒られてばかりだ。シーモアは同僚のオードリー(妃海 風・井上小百合/Wキャスト)に恋をしているが、彼女にはオリン(石井一孝)という歯科医のボーイフレンドがいる。ある日、シーモアは町で奇妙な植物を手に入れる。意中のオードリーにちなんで、「オードリーⅡ」と名付けたその植物を店に置くと、店はなんと突然、大繁盛! しかし、「オードリーⅡ」(声の出演:デーモン閣下)には、人々を魅了する不思議な力がある一方で、とんでもない秘密が隠されていた。やがて「オードリーⅡ」によってシーモアの人生は一変し、一躍有名人となるのだが――。

シーモアが恋をするオードリーは、天真爛漫で奇想天外な女の子。演じるのはWキャストで、2016年11月に宝塚歌劇団を退団したトップ娘役の妃海風と、アイドルグループ乃木坂46の井上小百合だ。本作が宝塚退団後初のミュージカル作品となる妃海は、特別な思いで臨む。

●「舞台が好き!」という気持ちが2020年に向けての原動力に●

2016年に退団した妃海は、しばらく自身の方向性を定められずにいた。「やっぱり情熱がないと人には伝わらないと思うので、何か心がときめくようなことはないかと1年間、必死にもがいてきました。自分がどうなりたいか全然わからなくて。この仕事は向いてないのかなとか、いろいろ考えたのですが、舞台に出演させていただいたことで私はとても表現することが好き、人間が好きということに気付くことができました。それが原動力になっているので、今は本当にワクワクしています!」。

久々のミュージカル作品は、幼い頃から意味も分からず観ていた同名映画。ただ楽曲だけはしっかり頭に入っている、と妃海。「この作品を出させていただくということで、改めて映像を拝見したときに、曲が頭に残っていて。それはアラン・メンケンが手がけているからこそだと。ロックだったり、ロマンチックだったりと様々なパターンがあって、耳馴染みの良い曲ばかりで。物語は、ブラックだけどロックでハッピー! みたいな、ハチャメチャな世界観が面白いですよね。小さい頃はB級映画の良さがあまり分からなかったのですが、大人になった今は興奮します!」。

●オードリーは愛嬌があってチャーミング。真っ直ぐに演じたい●

この取材会で妃海は、複数の記者に囲まれながらも物怖じすることなく、瞳をキラキラと輝かせ、弾むような声で生き生きと話してくれた。彼女が現れただけで周囲が明るくなるも、まばゆいわけではない。その明るさは、なぜだか昔から知っているような安心感や親近感を与えてくれる。そんな魅力あふれる女性だ。

役であるオードリーについて尋ねると「変な子」と形容する。だがキャラクターを掘り下げるうちに愛嬌とチャーミングな部分が残ったという。「すごく甲高い声を出したり、動きも少し変なところはあるのですが、本当にピュアで一生懸命。目の前にあることに全力で生きているからこそ、そう見えるのかなと思いました。演じる上でも奇をてらわず、真っ直ぐピュアに、かわいく演じられたらと思います」。

ピュアで一生懸命、言い換えれば一途でまっしぐらとも言える。妃海自身も、オードリーに自らの片鱗を見ているようだった。「私はハマり症のところがあって、好きだと思ったら盲目的に好きになるタイプなんです(笑)。あと、これはこうだ! と決めたら徹底するというか。宝塚時代も私なりに「娘役とはこうである」というイメージがあって。元々はおしゃべり大好きなんですけども、理想の娘役になるにはプライベートから徹底しなくてはいけないと、口数を少なめにしたり、部屋のカーテンを全部ピンクに変えたり、洋服もシックが好きでしたけど、フリルだけにしたり。他にもお好み焼きと白ご飯を食べるのではなく、ホットケーキを食べるとか(笑)。そういうふうに徹底していましたね。でもそうするうちにそんな自分も好きになることが出来たんです。その経験があって今の自分が出来上がっているので、宝塚で培った土台を残しつつ、またどんどん自分の好きなものを見つけていければ嬉しいですね。」

「こうであらねばならない」という考え方から解放された今、オードリーも生身な感じで演じていけたらと意気込む。そして、稽古場で生まれるものを大切にしたいと、これからの化学反応に期待を寄せた。

●生まれ変わったらアイドルになりたいくらい、アイドル好き!●

合同取材を経て、個別インタビューでさらに話を聞いた。

――オードリー役も井上小百合さんとのWキャストですが、いかがですか? 公式サイトの映像でも、オードリーに対する見方がお二人とも全く違っていて興味深かったです。

本当に全然違うと思います。私もWキャストは初めてなので、同じ役をどういうふうに演じるのか、そこも楽しみです。個人的には生まれ変わったらアイドルなりたいぐらいアイドルが好きなので、井上さんとご一緒できること自体が嬉しいです。ご挨拶をした時の第一印象は「かわいい」(笑)。舞台も拝見させていただきましたが、あんなにかわいらしい感じなのに、舞台では颯爽とされていて。そのプロ意識もすごいと思いました。

――楽曲についてもお聞かせください。さきほど『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』はとにかく楽曲がお好きだとおっしゃっていましたが、いざ演者として向き合ってみていかがでしょうか?

細かいことはこれからですが、全曲ほぼ知っているという状態で臨めるのは嬉しいです。曲のイメージを掘り下げて歌っていかないといけないと思うので、なぜ楽しいのか、なぜ耳に残るのか、歌い方や声色も勉強しようと思います。作品のファン目線はもうここまでです! これからは役に寄り添っていきます!

――ミュージカルに出られる際、どのように楽曲を掘り下げているのでしょうか?

ある先輩から教わったことなのですが、「楽曲がこういう展開になるということは、こういう気持ちの変化があるから曲調が変わる。そういう意図があって作曲家は作っているから。ということは、その前の芝居ですでに変化を捉えてないとつながらないよ」とか、そういったアドバイスがヒントになっています。楽曲とセリフをつなげることを勉強したので、まずは楽曲を覚えて、時間を見つけてさらに掘り下げるようにしています。4分程の曲でも感情が動かされて、泣いたりするじゃないですか。歌ってそれくらい感情を伝えるには最適な道具じゃないかと私は思っていて、それがセリフとマッチした時、また捉え方がまた違ってくるんです。例えば、高音であることにも意味があって、それが分かると高音も出やすくなったり。日常的に感情を歌にしていたら変な人なっちゃうから歌わないですけど(笑)、「確かにこの感情になって歌ったら、伝わるよね」というのはあります。

●舞台はお客様の感情とともに作っていくもの。それが醍醐味●

――妃海さんがミュージカル作品に出演されて、気をつけていること、大事にしていることは何でしょうか?

ミュージカルって、お客様によってはセリフから歌になるところで違和感を覚えられることがあるんです。そういう違和感があると成立しなくなるので、違和感なく歌のパートまでお客様のテンションを持っていかなければいけない。そこはストレートのお芝居よりも気をつけようと思っています。

――それは、その日のお客さんの雰囲気も感じ取ったりもするのですか?

不思議なことに、舞台に出た瞬間「今日のお客さんはこんな空気だ」と感じるんです。私が勝手に感じているだけかもしれませんが、そう思ったら私の気持ちも変わっていきます。そこが舞台という生ものの魅力だと思います。

――お客さん一人一人はコンディションが違うのに、会場に居合わせるとやがてはひとつの大きな塊になっている感じ、ということですね。

本当に不思議なんです。悲しい作品を演じていて、いつもより会場の悲しみが増していると感じる時は、「今日のお客さんは悩み事が多いのかな」とか思ったりしますし。お客様は、ただそこにいるだけじゃなくて、一人一人の感情が舞台にも伝わってくるので、本当にお客様とみんなでその日の舞台を作っているんだと思います。お客様なしでは成立しないし、お客様が会場に入ると雰囲気も全然違うんです。それも舞台の醍醐味だなと思います。

――妃海さんは人の気配というか、気を感じやすいタイプですか?

そこまで敏感じゃないと思いますけど、話しているうちに勝手に相手のことを察知して、フォローしているのではないかなと思う時はあります。人と会った後、「元気が出たよ」って言われることがあって。知らずのうちに元気づけているのかもしれません。

――確かに今、インタビューの間も明るい気持ちになります。小さい頃から人見知りではなかったのでしょうか。

素質として持っているものは、元々こういう感じだと思うんですけども、小学校1年生ぐらいに宝塚と出会うまでは引っ込み思案で、人見知りが激しかったんです。親も心配するぐらい人見知りで。それが宝塚と出会って変わっていきましたね。舞台で歌を歌って、キラキラして、笑顔がきれいな世界に憧れて、私も「あの人たちになりたいな」って思ううちに、どんどん明るくなってきて。人前で歌を披露したいという気持ちも芽生えて、そこからですかね。

●舞台に立つと生活のすべてを見透かされているような気がする●

――ミュージカルがご自身を変えてくれたんですね。幼いころからミュージカルファンとのことですが、純粋にファン目線で舞台をご覧になる時は、どういうところを観られていますか?

舞台って、俳優自身の生き様を隠せないと思うんです。目の動かし方や、呼吸の使い方、役をどういうふうに作っているかとか、そこから生き様が見えてくる。そんなことを思いながら観るのがすごく楽しいんです。

――逆に、観られている立場としても、その観点を意識されますか?

もう、丸見えだと思います。役がつき始めた頃とか、恥ずかしかったり、情けなくなったりして、本当に丸裸になった感じでした。衣装でいっぱい着飾って、更にその上で役というものを1枚被っているのに、丸裸のような感じがする。だからこそ、日々のレッスンや生活、気の持ち方をしっかりしていないといけないなって、舞台ってそういうことが丸々出るんだなと思います。

――素人考えだと、役になっているからこそ、自分じゃないという感覚になるのでは思ったのですが、それとは逆ですね。

役として演じているけど、丸裸で、どこか見透かされている感じがするんです。例えば、私に悲しいことがあったりすると、そのことがお客様にも見えてるんじゃないかという感覚に陥ったり。ミュージカルや舞台の役者さんというのは、日常から気をつけていかないといけない、本当に大変な仕事だと思います。でも、それ以上に素敵な仕事だなと思います。

――話は変わりますが、大阪公演は新歌舞伎座で8日間ありますね。

嬉しいです! 地元・大阪ということで、家族、知り合い、友達みんなが観にきてくれますし、新歌舞伎座のある街も楽しいので、そこに通えることも嬉しいです。

――新歌舞伎座は舞台と客席の距離が近い感じがします。ぐっと迫ってくるような。

舞台と客席の距離が近くなると、お客様の表情が見えやすくなるからテンションが上がるんです! お客様の顔は見えれば見えるほど嬉しいので、新歌舞伎座の舞台からお客様を見たいです。

――妃海さんの「俳優としてのモットー」はありますか?

俳優としてやっていく中で、日々をしっかり味わって、大切に生きること。何も影響されない時間ってなくて。こんなにも人生で起こったことが影響を及ぼす仕事は他にないと思うんです。嬉しいこと、悲しいこと、何でも仕事につながっていくのが俳優なんだろうと。だから、日々を全力で味わいながら生きていくことを大切にしていきたいです。

――ちなみに、普段は何をしてる時が一番楽しいですか?

普段ですか? シャンパンを飲んでる時です(笑)。1日の終わりにシャンパンとかスパークリングを飲む時が最高に幸せです!

●全世界で愛される名作ミュージカルを初めて観てスイッチがオンに●

宝塚歌劇退団後、目標を見つけようとあがいていたころ、ある日を境に突然、「ミュージカルをしたい!」と目覚めた。「一緒に頑張っているマネージャーもびっくりさせてしまうほど、突然スイッチが入ってしまって」。それは、ミュージカルの金字塔『レ・ミゼラブル』の2019年版を観た後のことだった。妃海にとっては『レ・ミゼ』初体験だったという。「最初から最後まで泣きっぱなしで、こんな作品があるんだと思って。それから本当にミュージカルって素敵だなと。『レ・ミゼ』キャストと同じ時間、空間を共有していることにたまらない気持ちになりました」。
すべての役に感情移入できたという『レ・ミゼ』。やってみたい役は? との質問に「理想はジャン・バルジャンなんですが……(笑)。やっぱりファンテーヌかな。身を挺して愛する者を守って、最後は本当に神様の存在になる。素敵だなと思います」。そんなミュージカルスイッチがオンになった前後に『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の出演が決定した。この必然、幕開けを期待せずにはいられない。

取材・文=Iwamoto.K 撮影=福家信哉​

公演情報

ミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』
 
<東京公演>
日程:2020年3月13日(金)~4月1日(水)
会場:シアタークリエ
<山形公演>
日程:2020年4月11日(土)・12日(日)
会場:山形市民会館
お問い合わせ:山形市民会館 023-642-3121
<愛知公演>
日程:2020年4月14日(火)~16日(木)
会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
お問い合わせ:キョードー東海 052−972−7466
<静岡公演>
日程:2020年4月18日(土)
会場:静岡市清水文化会館(マリナート)
お問い合わせ:キョードー東海 052−972−7466
<大阪公演>
日程:2020年4月20日(月)~27日(月)
会場:新歌舞伎座
お問い合わせ:新歌舞伎座 営業部 06-7730-2121
 
脚本・歌詞:ハワード・アシュマン
音楽:アラン・メンケン
翻訳・訳詞・演出:上田一豪
 
キャスト
シーモア:鈴木拡樹 / 三浦宏規
オードリー:妃海風 / 井上小百合(乃木坂46)
 
ムシュニク:岸祐二
オリン:石井一孝
オードリーII(声):デーモン閣下
 
まりゑ、清水彩花、塚本直 / 榎本成志、高瀬雄史
 
公式サイト:https://www.tohostage.com/little-shop-of-horrors/
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