「母」がテーマの二人芝居を4人のキャストでより豊かに育てる 音楽劇『春母夏母秋母冬母』稽古場レポート

レポート
舞台
2020.2.4
『春母夏母秋母冬母』稽古場写真

『春母夏母秋母冬母』稽古場写真

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2020年2月13日(木)から上演される『春母夏母秋母冬母』は、2018年5月にFUKAIPRODUCE羽衣 第23回公演として初演され、好評を博した二人芝居だ。

FUKAIPRODUCE羽衣は、深井順子が2004年に立ち上げた団体で、劇作家・演出家・音楽家の糸井幸之介が全作品を手掛けている。今回も糸井が作・演出・音楽を担当し、出演者は初演のオリジナルキャストである深井順子、森下亮に加え、土屋神葉と上西星来が新たに出演する。深井×森下のオリジナルキャスト、土屋×上西の新キャスト、森下×上西、深井×土屋の新バージョンと、全部で4パターンのキャストで上演するという新たな試みにも注目だ。

4パターンのキャストでどのように稽古しているのか、初演からどのように変わっているのか、本番まであと約2週間となった稽古場を取材した。

【作品について】 
「こなこ」と「ユキユキ」、中学生のカップルが深夜の公園で遊んでいる。遊具がそれぞれ絡まり合っているような幻想的な公園。 こなことユキユキが 4 つの遊具でエスキモーごっこに興じる間々に、こなこと母、ユキユキとママの、幼年期・思春期・ 壮年期の時を超えた物語が挟まれる。一組の男女が、母と子を自在に演じ分け、それぞれの子の様々な時点を紡ぎ、人にある愛と闇を照射する音楽劇。

『春母夏母秋母冬母』稽古場写真

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この日行われていた稽古は、中学生のこなこ(深井、上西)と母(森下、土屋)のシーン。シングルマザーとして夜遅くまでスナックで働く母と、家で留守番をしているこなこ、それぞれのモノローグと、2人のダイアローグから母娘の関係性や本当の気持ちが浮かび上がる、温かくも切ない場面だ。

まずはオリジナルキャストの深井と森下による稽古が始まった。初演からまだ2年経っていないということもあってか、全体的に完成度が高くスムーズに感じられた。2人のやり取りも息がぴったりだ。糸井からは顔の向きなどの細かな演出が付けられ、より精度を上げていく段階に入っている様子がうかがえる。

『春母夏母秋母冬母』稽古場写真

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同じシーンを数回やったところで、キャストを上西と土屋の新キャストに入れ替えて再び同じシーンの稽古が始まった。先ほどまでのオリジナルキャストの落ち着いた雰囲気から一転、新キャストの2人はエネルギッシュさがあふれ、元気さや明るさが前面に出ている感じを受けた。同じシーンでも演じる人が変わるとこんなにも印象が違うのか、と驚かされた。

このシーンでは、森下が出る回は森下が、土屋が出る回は土屋が、それぞれこなこの「母」を演じている。2人に共通しているのは自然体の演技だ。男性が女性を演じる場合、「女」を演じようと過剰になるケースもよく見受けられるが、2人の演技からはそうした過剰さや、無理に演じているといった違和感はない。それは恐らく、糸井が「母」=「女」ではなく、「母」=「一人の人間」として描いており、森下も土屋も性別を超越したところにいる「母」という存在を演じようとしているからではないだろうか。

『春母夏母秋母冬母』稽古場写真

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森下は周囲を優しく照らすような穏やかな温かみをにじませ、母の愛情の深さがしみじみと伝わってくる。糸井や深井との信頼関係もあるのだろう、迷いのない筋の通った安定感のある演技で、見る者に安心感を与える。

土屋は自分のアイディアを織り交ぜながらのびのびとした演技を見せ、糸井からのアドバイスにも柔軟に対応し、さらに自分なりのアレンジを加えながら様々に試しているようだった。「母」のかわいらしい部分や、強さと弱さの両方を持ち合わせている様子がよく伝わってきた。

『春母夏母秋母冬母』稽古場写真

『春母夏母秋母冬母』稽古場写真

続いて、土屋と深井ペア、森下と上西ペアという順番で、新バージョンキャストによる稽古が始まった。オリジナルキャストの2人は1977年生まれ、新キャストの2人は1996年生まれと年齢は離れているが、母娘として演じているとその差は全く感じられない。その役になりきる俳優たちの能力の高さと、演じる者の年齢や性別に関係なく作品世界を成立させる糸井の手腕があるからこそ、この作品は決してミニマムな世界に留まらない広がりを見せてくれるのかもしれない。

深井演じるこなこは、寂しさを抱きつつも気丈に振舞う健気さがいじらしい。母を愛し、母を求め、でも母を困らせないように遠慮もする、複雑な心境が細かな表現から伝わってくる。

『春母夏母秋母冬母』稽古場写真

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上西演じるこなこは、母をまっすぐに思う純粋さと、ちょっと天然でのほほんとした雰囲気が魅力的だ。深井と同じ役だが、上西の独自性が出るようにという工夫が随所に見られ、ここから稽古を重ねて本番がどのようになるのか楽しみだ。

印象的だったのは、演出の糸井のみならず、オリジナルキャストの2人が新キャストの2人に気づいたことを伝えたりアドバイスをしていた点だ。元々この作品は、深井の母親が亡くなったことや、糸井と深井と森下が同い年で40代に入ったことなど様々な状況が重なったことから、母親を描いた作品に取り組んだという経緯がある。それだけに、初演からの3人にとっては思い入れの深い作品なのだろう。稽古場のみんなで一緒に創り上げていこう、この作品をより豊かなものに育てていこう、という意思が伝わってきた。

『春母夏母秋母冬母』稽古場写真

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キャストの組み合わせが4パターンあり、それぞれに特徴のある全く異なる舞台になりそうだ。できれば複数パターンを見てそれぞれを見比べたい、それによってこの舞台をより深く知ることができるのかもしれない、と稽古場を取材して思った。

「母」をテーマにしながら様々な広がりを見せるこの作品は、見終えたときにきっと誰かのことを思い出してしまう、そんな「人」が「人」を思う温かく切ない舞台になることだろう。本作は2020年2月13日(木)〜2020年2月19日(水)まで、CBGKシブゲキ!! にて上演される。

取材・文・撮影=久田絢子

公演情報

CBGKシブゲキ!!presents
『春母夏母秋母冬母』
 
日程:2020年2月13日(木)〜2020年2月19日(水)
会場:CBGKシブゲキ!!
 
脚本・演出・音楽:糸井幸之介
出演:
深井順子
森下亮
土屋神葉 
上西星来

■2月13日(木)19:00公演、2月15日(土)14:00公演、2月16日(日)19:00公演=オリジナルキャスト(森下亮×深井順子)
■2月14日(金)・2月15日(土)19:00公演、2月16日(日)14:00公演=新キャスト(土屋神葉×上西星来)
■2月18日(火)19:00公演、2月19日(水)14:00公演=新バージョンA(森下亮×上西星来)
■2月17日(月)19:00公演、2月18日(火)14:00公演=新バージョンB(深井順子×土屋神葉)
 
料金:前売・当日:5,500円(指定席・税込)
 
主催・お問合せ:CBGKシブゲキ!! 03-6415-3363 / info@cbgk.jp
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