東京スカパラダイスオーケストラがいまだからこそエンターテインメントを通して世界に伝えたい想い

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2020.4.25
東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦、沖祐市 撮影=横井明彦

東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦、沖祐市 撮影=横井明彦

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昨年(2019年)デビュー30周年を迎えた東京スカパラダイスオーケストラ。国境やジャンルを超えて、愛する音楽の力を世界中に届け続けてきた彼らが、演出家・野田秀樹と出会い、音楽、ダンス、演劇、伝統芸能、アートやその土地の文化が融合した前代未聞の文化混流パフォーマンス『東京キャラバン』の創作に参加。ブラジル、仙台、東京を旅して、届けてきた文化ムーブメントへの熱い想い、そして、いまだからこそ、エンターテインメントを通して世界に伝えたい想いを、メンバーを代表して谷中敦(B.sax)と沖祐市(Key)に語ってもらった。

――本題に入る前に、一言だけ。3月20日の無観客ライブ生配信、最高にかっこよかった。

沖祐市:ありがとうございます。あれをやれるように、頑張ってくれたスタッフに感謝してます。

谷中敦:お客さんがいなかったけど、関係なかったかもね。やれることがうれしいという気持ちが、メンバーの中にすごくあった。もちろんお客さんがいて、そこに向かって行く時のエネルギーとは違うんだろうけど、カメラの向こうにお客さんを感じてたから。何万人とかでしょ?

:「今、何万人見てます」って、スタッフが教えてくれる。「4万人突破!」って言われて、「4万人のお客さん!」とか呼びかけて(笑)。

谷中:MCで言ってたね。

:こういうことができるのが、いまの時代、いいですよね。

――ともかく、我々の願いは、(新型コロナウィルスが)早く収束して、自由に音楽を楽しめる環境になってほしいということです。

:世界中がこんなことになるとは、ね。

谷中:生まれて初めてのことだし、人類の歴史の中でもこんなこと初めてじゃない? 昔のペストとか、その時はどうだったかわからないけど、こんなに人類共通の敵が出てきたこともないんじゃないですか。温暖化と同じぐらい、新型コロナに対して全人類が団結すべきだと思う。

東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦  撮影=横井明彦

東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦  撮影=横井明彦

いろんな人間と会うことによって、自分が磨かれる。文化は移動することによって価値を増すと思うし、人間もそうだと思うんですね。

東京キャラバン ロゴ

東京キャラバン ロゴ

谷中:(『東京キャラバン』の資料を見ながら)この『東京キャラバン』のロゴ、かっこいいですね。手塚治虫っぽい感じもあるし。

――ぽいですね。そういえば。

谷中:あ、松たか子さん。初めて共演できるんだ。

――え、初めてでしたっけ。

谷中:そうなんですよ。僕、『東京キャラバン』に参加したくて、最初に松さんにメールで連絡をさせてもらったところから、野田秀樹さんにその話が渡って、それでスカパラでブラジルに行けることになったので。元々、松さんが繋げてくれたんだけど、ブラジルのときは松さんが参加できなかったから、「あー、松さんいないのか」と思ってたんだけど。いらっしゃらないのに繋げてもらったことが、逆にうれしかったし。それで今回、初めて共演させてもらえるのを楽しみにしてます。

――5年越しの共演。

谷中:津村(禮次郎/能楽師)さんも参加してくださるんだね。

:再び一緒にできるの。うれしいね。

谷中:最初の『東京キャラバン』の駒沢公園でやっていたものを、映像だけ見させてもらいましたけど、かっこよかった。何て言うのか、全体がかっこいいんですよね。いろんな要素が入ってるんだけど、野田さんの美意識というか、しっかりアート性があるし、音楽もしっかりしてるし、でもお芝居らしくエンターテインメントで、お客さんを笑わせたりとか、飽きさせない工夫や、身近に感じさせる工夫があるわけじゃないですか。そのバランス感覚が素晴らしいと思います。尊敬します。僕と野田さんの接点は、松さんに誘われて『オイル』というお芝居を見せてもらったのが最初で、本当に素晴らしいと思って、いつか何かの形でご一緒させてもらえたらと思っていたので。実現できてうれしかったですね。

東京スカパラダイスオーケストラ/沖祐市 撮影=横井明彦

東京スカパラダイスオーケストラ/沖祐市 撮影=横井明彦

すごく苦しい時期ではあるけど、苦しいから文化や音楽は二の次になるか?というと、そうではなくて。衣食住以外に、絶対に必要なものだと思うんです。

――『東京キャラバン』でスカパラは、メインの出演者でありつつ、サウンドトラックというか、ダンスやパフォーマンスの音楽もやってます。

:僕らは、いろんなボーダーを取っ払ってやるのが好きなバンドなので。楽器を演奏しながら動くのがスタンダードなバンドなので、水を得た魚のように、すごく楽しかったですね。僕もちっちゃいキーボードを持って動いたりして、ダンスも一緒にやって、能とコラボレーションして。世界中のダンスと一緒になるのが、僕はダンサーじゃないけど、完全にその気になれるというか、一緒に入り込める感じが楽しかったです。

谷中:ブラジルのダンスって、何て言ったっけ? カポエイラとジョンゴ、すごく良かった。勉強になりました。カポエイラは、昔、ブラジルにいた黒人奴隷の人たちが、体を鍛えることが禁じられていたので、踊ってるように見せながら体を鍛えていた、そういう由来があるみたいで。ぎりぎりの知恵というか、そういうのを聞くと、胸が熱くなりますよね。ブラジルに行かなかったら、そんなことも知らなかったから。

――あの年はブラジル、仙台、そして六本木の3公演。特に印象的だったことは?

谷中:仙台に行ったときに、和太鼓のAtoa.の高橋兄弟と出会ったんですけど、自分たちなりに和太鼓を表現していてとても印象に残りましたね。人柄も最高で。その出会いもあって、スカパラのツアーの仙台公演のときにゲスト出演してもらって一緒に「Paradise Has No Border」を演奏しました。

:野田さんって、すごい反骨精神あふれる方だという印象があって、自由であるためにたくさん努力をなさっている方だと、僕は勝手に思ってるんですけど。だからこそ、仙台の小学校に行っても、都会の真ん中の六本木に行っても、ブラジルに行っても、突然そこだけ夢の扉が開けるみたいな、野田さんの監修で演者が揃うだけで、夢の世界が実現していることがすごい魅力だと思いますね。僕らも安心して舞台に立てるし、夢の世界の住人の一人になれる感じがしてます。


 

 

――通常の音楽フェスとはやはり違う。

:そうですね。野田さんの気迫を感じます。無理やりくっつけるわけでもないですけど、スカという音楽も、元々はジャマイカで、独立運動の気運だったり、反骨精神の中で生まれてきた音楽だったりするし。ジャマイカでは一度終わったけど、それが世界中に飛び火して、アメリカに行ったりイギリスに行ったり、日本に来て僕らと融合していまもやっているわけだから。僕らもスカの持つ反骨精神、自由でありたいという気持ちがあるし、それとリンクしてるんじゃないかな?と思います。

谷中:うん。そうだと思う。

:そして野田さんは楽しそうなんですよね、いつも。

谷中:ブラジルで、ペンキを入れた洗面器に裸足で入って、ペタペタって絵を描いていくパフォーマンスがあって。野田さんもそれをやる場面があったんですけど、洗面器が割れちゃって、野田さん、足を切っちゃったんですよ。で、血が出てるのに、むちゃすごい笑顔で(笑)。子供みたいに歩き回ってるのを見て、本当にびっくりしちゃった。

:子供みたいなんだよね。

谷中:ブラジルの出来事の中で、あのシーンは、俺の中ではけっこうクライマックスだった(笑)。それで、さらに覚醒したかのように、より楽しくなっちゃってる。すごい!と思った。

――ノダイズムが、『東京キャラバン』のエネルギー源。

:圧倒的に、そうですね。野田さんだから安心してます。何やってもいいような気がしちゃうというか、そうさせてくれるというか。ダメなものがない。全部OK!って、全部楽しんでくれる、大きい感じがあるから。演出家って、そういうポジションなんでしょうね。誰よりも自分が一番楽しんでやる、それが大事なんだと思います。とにかく、野田さんの魅力に尽きますね。

東京スカパラダイスオーケストラ/沖祐市 撮影=横井明彦

東京スカパラダイスオーケストラ/沖祐市 撮影=横井明彦

――能楽師の津村禮次郎さんとのコラボレーションも、相当に刺激的だったんじゃないですか。沖さん、能楽って、接点ありました?

:『東京キャラバン』が初めてでした。あんなに自由なものだとは全然知らなかった。僕も詳しいことはわからないけど、仕草の一つ一つには型があるんでしょうけど、それを自由に組み合わせてやってくれているんだと思うんですけどね。

スタッフ:津村さんは特別なんです。観世流緑泉会の重要無形文化財保持者で、すごい先生なんですけど、スカパラさんと同じで、魂が「Paradise Has No Border」の方なので。本当なら、能楽じゃない音で踊ることはないんですよ。でもインプロビゼーションのような形で踊ってくださって。

:ノリノリでしたね。

谷中:「スキャラバン」で踊ってもらったの、すごかったね。あんなにテンポが速い曲でやってもらうの、珍しいんじゃないですか。

:津村さんは本当にすごい技をお持ちなんですけど、子供みたいなというか、無邪気というか。そういう意味でも野田さんと一緒で、最初から打ち解けてくださってね。

東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦 撮影=横井明彦

東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦 撮影=横井明彦

谷中:うん。童心をお持ちなのにジェントルというのが、一番かっこいいじゃないですか。子供の頃を忘れないけど、ジェントルに、一流の男であろうとする。それと、イベントのキャッチフレーズの“旅する文化ムーブメント”という言葉で思い出したんですけど、文化って、旅することによって価値を増すんだと俺は思っていて。自分たちも世界各地で、「日本の東京から来たバンドだね」ということで面白がってもらったりとか、移動してきた人によって、地元の文化が素晴らしいんだということがわかることもあると思うんですね。

――ですね。

谷中:自分たちが元々持っていた宝物に気づくのは、旅人が新しい視点を持って来てくれるからだと思うんですよ。文化が移動してくることによって、元々持っていたものが光り輝く部分もあるし、自分たちが持っていたものをほかの場所に移動させることで、珍しいと思ってもらうこともある。そこで価値が生まれて、もてはやされることで、さらに磨きがかけられる。そして移動している間に、いろいろなものと混ざって、物事は変わっていくわけじゃないですか。文化は移動することによって価値を増すと思うし、人間もそうだと思うんですね。

――ああ。はい。

谷中:いろんな人間と会うことによって、自分が磨かれる。自分探しというのは、家の中で一人でやるものじゃないと思うんですよ。自己探求というと、限りなく自分の場所を掘っていくようなイメージですけど、そうではなくて、自己探求しようと思う人間ほど、外に出て行く必要がある。自分の存在がどういうものかを、ほかの場所に行くことで知っていくことなんだなと痛感しているんですね。スカパラはいろんな場所へ移動することによって、価値を増していると思うし、いろんな場所で演奏することによって、曲が力を得て、自分たちも演奏家として力を得ていく部分があるのかなと思ってます。

:うん。

谷中:たとえば、「海外で感じてきた風を日本で吹かせるよ」とか、「それをまた向こうに持って行きます」とか、MCでよく言ってるんですけど。その気持ちでずっといることが、自分たちにとってプラスだし、『東京キャラバ』ンの“旅する文化ムーブメント”という考え方はとてもいいなと思います。

東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦 撮影=横井明彦

東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦 撮影=横井明彦

――この間のベスト盤の取材のときに、スカパラが海外に行くと、「いまスカを進歩させてるのはお前らだ」って、よく言われるって、そういう話題が出ましたよね。それってまさに“旅する文化ムーブメント”そのもので。

谷中:元々、ジャマイカで3年しか流行ってない音楽ですから。それをほかの国の人たちが面白がってるから、いまも続いてる。それを東京で30年やっているというのは、たぶんジャマイカで30年やるのとは意味が違うと思うんですよ。それは、ジャマイカから世界各地に移動したことで、スカという音楽が力をつけたということはあるかもしれない。スカ自体が、すごくノー・ボーダーだもんね。音楽性がね。

:そうそう。

谷中:ラテン圏では、スカが最終的な記号みたいになっている気がする。スカをベースにした人たちがいろんな種類の音楽をやることもあるけど、プエルトリコ出身のResidente(レジデンテ)や、チリ出身の Ana Tijoux (アナ・ティジュ)というラテン圏の友人ミュージシャンたちも自分たちなりにスカを取り入れて、多くの人にわかってもらいやすくしてる。ラテン圏の複雑なリズムを単純化するときに、スカはすごく素晴らしい記号として作用しているんじゃないかと思ったりしました。

――ほんと、『東京キャラバン』のコンセプトにスカパラはぴったりですよね。

:北から南まで。

東京スカパラダイスオーケストラ/沖祐市 撮影=横井明彦

東京スカパラダイスオーケストラ/沖祐市 撮影=横井明彦

――素晴らしい宴になりそうです。未定の部分も多いと思いますけど、スカパラとしての意気込みを聞かせてもらえれば。

:2016年に始まったものが、今後、どういう花が開くのか。世界の情勢が毎日変わっていく中で、さっき谷中も話しましたけど、こんなに世界が一つの気持ちになる時代になるとは、まさか予想してなかったんですけど、その中で……そこは野田さんが一番戦ってらっしゃるところだと思うけど、舞台に出て表現することを生業にしている人たちが、いますごく考えなきゃいけない場所に立たされているわけで。すごく苦しい時期ではあるけど、でも逆に、苦しいから文化や音楽は二の次になるか?というと、そうではなくて。そういうところで人と人とを繋げるのも、音楽やダンスの大事な表現だと思うので。衣食住以外に、そういうものは絶対に必要なものだと思うんですね。

谷中:本当にそう思う。

:そしてスカパラも、30周年を終えて、また次に向かうポイントに立ったところなので。いよいよもっと“やってやるぜ”という気持ちが湧いてきて、スリルを楽しむぐらいの気持ちでやっていきたいなと思ってます。じゃないと、生ぬるいことをやってると、それなりのものになっちゃうし、流されていっちゃうと思うから。谷中がよくMCで「戦うように楽しんでくれ」と言ってるけど、気持ちの中では戦うように、でも楽しみたいなと思うので、楽しむために何ができるか?を考えて、やろうと思います。

取材・文=宮本英夫 撮影=横井明彦

※2020年5月23日(土)、24日(日)東京・代々木公園での開催を予定していた『東京キャラバン』は延期となりました。
東京キャラバン公式ウェブサイト:https://tokyocaravan.jp/ 

東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦、沖祐市 撮影=横井明彦

東京スカパラダイスオーケストラ/谷中敦、沖祐市 撮影=横井明彦

 

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