Rei、今の生活に対する思い彼女の音楽への覚悟、そして決意表明「人肌を感じるような隣にいれる作品を作りたい」
Rei
4月3日(金)に配信シングル「What Do You Want?」をリリースしたRei。本来なら、いつものように関西までキャンペーンで来てくれて、普通にインタビューが出来ていただろう。ところがどっこい、こういう御時世になってしまい、彼女にとっても私にとっても、初となるZOOMを使ったインタビューとなった。パソコン越しとはいえ、個人的には1ヶ月ぶりとなる、演者の顔を見てのインタビューだったのでワクワクしつつも、一体どんな感覚になるのだろうというドキドキもあった。最初は確かに少し探るような雰囲気もあったが、いざ話し出してみたら、いつも通り、彼女は誠実に話してくれたし、このような環境だからこそ、いつも以上に深く、濃く話し合いたいと互いに思えたのも大きかった。良い意味で、今回のシングルを中心にした話ではなく、今の生活に対する思いを中心に聞けたので、根っこである音楽のぶっとい話に自然と辿り着いたように思う。結果、彼女の音楽への覚悟、そして決意表明まで聞けたのは、本当に、本当に嬉しかった。どこを取っても太字見出しになるような、鋭い言葉ばかりの彼女のインタビューを是非とも読んで欲しい。
ーーお互いに初ZOOMインタビューですが、いかがですか?
違和感が凄いですよね。やっぱりインタビューして頂く時は、対面ばかりなので話のテンポは掴みにくいです。生で会ってる時の息遣いや視線を感じられないわけですよね。
ーーインタビュー以外でZOOMを使われたりはしていますか?
ZOOMは打ち合わせでしか使った事ないですけど、友達にビデオレターを送ったりはするようになりました。「こういう曲が出来たよ」と送ったりもしますし。だから、コミュニケーション密度は高まっていますよね。文通もしているし、海外の友達にもメールしたりとか、日本のお菓子の詰め合わせを送ったりしました。
ーーそれは凄く素敵ですね。だけど、まさかこういう形でしかインタビューが出来なくなる環境になるとは全く思っていなかったです。
誰もが全く想像していなかったですよね。
ーー生活環境は大きく変わりましたか?
決まった時間に起きて練習するという、いつもやっていた事の延長線上のような生活ではあります。朝8時くらいから練習、曲作りをして、お風呂に入って、また練習をして。特別な事は別に無いですけど、より音楽と向き合えています。
ーーそれにしても練習や曲作りに対する時間のかけ方が凄いですよね。
時間感覚は危ないですね。加減がわからないので、腱鞘炎になったりしますし。でも、普段だと外出する時間に外出していないので、やれちゃうんですよ。限られた時間を凄く有意義に過ごせてるとは思っていますけど。
ーー後、朝8時くらいから活動するって凄いですね。
普段から朝7時とかには起きるタイプなんです。最近の私の考察ですけど、音楽のテンポ感は生活リズム感から影響を受けているので、朝起きてご飯を食べる時間や寝る時間によって正確性が上がるかなと。だから、夜に起きている人は夜の音楽になりますし、私も意図して、そういう夜の音楽を作る時は、夜ふかしする事もあります。
ーーそこまで生活感が音楽に影響されるとは思っていなかったです。僕が生活の事について質問したいと思ったのは、先日Twitterで「誰にも会わない日でもお化粧をする。マスクが汚れてもお気に入りのリップを塗る。ギターは見てるからね。なんつって」とつぶやかれていたのが好きだったんですよね。こういう環境だからこそ、気を緩めない感じというか。
こんな赤裸々な事を男性のライターさんに話すのもあれですけど、好きな人のために可愛い下着を着けるんじゃないんですよ、女の人って。例えば仕事で気合いを入れる為とか、逆に自分に自信を持てない時のおまじないだったり。誰にも会わないのに、いいストッキングに足を通すとか、お化粧をするとかは自分に対してのマナーですね。
Rei
ーーそういう誠実さがReiさんらしいなと思いますし、練習や曲作りにかける時間の話もそうですが、音楽に対して誠実に向き合っておられると思うんです。
音楽って、人生の色々な場面でもたらす作用が違うと思いますが、今の私にはお守りになりつつあります。ネガティブな気持ちから逃れるために没頭する場所みたいな。
ーー実際、今の状況になってからの曲作りには、どのような手応えを感じておられますか?
手応えはあったり、なかったりですね。筆が走らない日もありますし、試行錯誤しています。
ーー今、どのような作品が生まれそうかとか、そういう感覚はありますか?
今はパーソナルな作品を作りたいと思っています。自然と聴く音楽が作り手との距離が近くて生々しい作品が多いので、そういう人肌を感じるような作品を作りたいです。
ーーパーソナルな作品というのは、とても興味深いです。今の社会の空気は感じていないといけないでしょうけど、あまりにも、それに囚われすぎた作品になると、聴いてる人はしんどいかなとも思うんです。
私も、そこからは逃れたいと思っています。ワイドショーも友達との会話も、今の状況の話ばかりで、頭真っ赤っかにして考えてしまうので、そこから逸脱したいんです。私の音楽はそういったものとは無関係な駆け込み寺として、逃避できる場所にしなきゃいけないなと。
ーー本当にそうですよね。だから、むやみに明るく頑張れと音楽で歌われるのが一番しんどいんですよ。
本当にそう! 今だからこそエンターテイナーは本気でふざけなきゃ。私たちじゃなきゃ、誰がふざけるんですか? この苦しい状況をむしろ笑い飛ばすようなコンテンツを作りたいんです。
ーーそういう意味では新曲「What Do You Want?」は、こういう騒ぎの前に作られた曲だと思うのですが、意図せず強いメッセージソングになっていると思うんです。単なる頑張れソングじゃないですし、笑い飛ばすではないですけど、ちゃんと抜けもある楽曲なんですよね。
新曲はこの展開を予想だにせず作りましたけど、結果、今にフィットしているなと思います。「欲望」をテーマにした曲で、自分の欲望を見定めて真っ直ぐ向かっていく主人公を描いたんです。特に今、大切なものに優先順位を付けざるを得なくて。ピクニック、お花見、バーベキューをしたいという気持ちも欲望のひとつだし。自分が何を欲しているかを知って生きていくという意味では、タイムリーかなと。ひとりで過ごす時間が増えて、自分にとって一番大切な事が浮き彫りになってきて。そんな中で、幸せを掴み取ろうと言いながらも、幸せを待ち受けてる人は、私も含めて多いと思うんです。でも、今は自分で料理を作らないといけないし、危険を犯してまでスーパーに行かないとお尻も拭けないし、本当に人生の縮図だなと。今は否応なく、そういう事に気付く時間だし、この曲のメッセージと共通しているなと思います。
ーー音楽と時代が偶然にも、そうやってリンクしていくのは、本当に不思議だし面白いし凄いですよね。
エレファントカシマシの「悲しみの果て」という曲は、宮本さんのパーソナルな事から作られた曲なのに、東日本大震災の時に励まされて泣いている人々がおられたというエピソードを読んだ事があって、その時に音楽は本当に凄いなと思ったんです。シチュエーションに合わせて聴けるというのは、音楽特有の柔軟性ですよね。
ーーReiさんはこの環境に対しても落ち込みすぎず、色々な事を常に考えていますよね。
ちゃんと落ち込んでいますよ(笑)。それが大事だと思いませんか? ちゃんと落ち込んだ事が無い人のほうが大人として危ないですよ。ちゃんと悲しんで、ちゃんと怒る人でありたいなと。こんな時に平静を保っているほうが健康に悪いです。人を傷つける事さえしなければ、感情は発散した方がいいですしね。
ーーやはり、僕はその誠実さが本当に好きなんですよね。
ありがとうございます。でもこの誠実さが邪魔くさいことの方が殆どですよ、表現者としては!(笑)。きちっとし過ぎていない人にしか作れない音楽のかっこよさもありますから。
ーーなるほど、そういう事も考えられたりするんですね。もしかしたら、そういう事も関係しているかもですが、僕はReiさんが、例えばドラマーの中村達也さんとか、荒々しくてワイルドな人と組んだ時の音楽が大好きなんですよ。
音楽は、異素材MIXが一番良いですよね。そこにケミストリーが生まれるんだと思います。ひとつのプロジェクト成功の為に、お互いがお互いにしか出来ない事で補完する事が大切だし、そうすれば完成度が高くなると思うんです。
ーーご自身の事を客観性を持って、しっかりと見ていられますよね。
自分がどういう人間なのかを俯瞰して見ると、神経質なところがあるから、そこを緩めて崩してくれるチームと仕事をしたいなと思うんです。私は極端な部分も持っていますけど、自制心が働いて突っ切れない事もあって。表現としては突っ切った方が良いんですけど、歯止めを効かせてしまっている時は、「解放していいよ」と背中を押してもらえたら強いものが出来ますね。今までに自分は7作、世に放ってきていて、だからこそ今までの常識を疑わないといけない場面にいると思うんです。例えば、インタビューだって手癖で答えられるようになっているからこそ、その一歩先を行くために、常に「本心で語っているか?」と、自分を疑わないといけない局面にきているんですよね。
Rei
ーーインタビューに関して言うと、しっかりと自分の言葉を持って喋るミュージシャンだなという印象が、最初にお会いした時からあるんですよ。
ありがとうございます。でも、喋り言葉より書き言葉のほうが得意だと思っているので、そこを意識しながら喋っていく事で、インタビューは楽になりました。まぁ、心構えに過ぎないのですが。
ーーそういう心構えという意味では、まだ先になる思いますが、ライブが楽しみなんです。誠実な気持ちを持って、この環境を過ごしてきた人のライブは、とても強くて凄いものになると思うんです。
そういう期待は嬉しいです。ライブが無くなった事で、そんな時でも音楽をキャッチして待ってくれている人の有り難さも感じています。ライブを初めてやった9歳の時から、もう20年間くらいライブをやってきましたので、久しぶりにライブをやる時に、どんな感じになるのかは、ちょっとわからないですね。あがり症になるかも知れないですし。だから、家でライブごっこをやってるんですよ。ライブハウスに朝10時入りとかを想定して、私服から私服に敢えて着替えたり、シミュレーションをやっています。もはや緊張して、あがってもいいから、とにかく音楽を人に聴かせたい欲望が強まっています。
ーー先程の誰にも会わなくても家でお化粧をするじゃないですけど、ライブごっこも、かなり意味がある作業ですよね。
基本的にはトレーニング目的ですね。椅子に座ってばかりだと筋力も落ちますし。
ーーライブへのストイックな心構えが本当に感じられます。
ステージは化けの皮を剥がしてきますから。嘘をつけない場所なんです。その場所に今、晒されていないという危機感はあります。ちゃんと今を生きていなかったらヤバいなと。化けの皮が剥がされた時は生き様が表れますから、いい加減に生きていちゃいけないんです。今、デジタルでしか繋がれないからこそ、体感することの価値が高まっているじゃないですか。だから、みなさん演出過多を観たいわけじゃない。生々しさ、リアリティー、ドキュメント、それこそ名の通り、ライブを観たいと思うんですよ。演者の力量が試されますよね。だから、鍛錬を怠っている演者には未来が無いです。でも、こういう時に無力さも感じるんですよ。健康第一、音楽第二とみんなに、そして自分にも言いたいですね。
ーー音楽の無力さをわかっているからこそ、音楽に賭ける意気込みがむちゃくちゃ伝わってきます。
音楽だけでなく、Twitterで本音、それは弱さや不安を吐露出来る人はかっこいいと思います。不可抗力だって発言する前に尻込みしてしまう自分がいる。私も色々なところで繋がりたいですけど、中身空っぽなんで、自分の持っている水量が限られているんです。器用な人は音楽とSNSで、ビーカーごとに水量を分けられるんでしょうけど、私は1本の太い蛇口から水を出す事しか出来なくて、それが音楽なんです。だから、音楽にだけ気持ちを取っておきたいですし、他のところで必要以上に吐き出すと希薄化してしまいますから。やはり、音を言葉で説明するのは無理があるので。
ーーそういうふうに思われていて、そして現在の様な環境の中で、今日のインタビューは音楽について、とても誠実な言葉でたくさん話してもらえたので嬉しかったです。本当にありがとうございました。
取材・文=鈴木淳史