リモート朗読で25年ぶりに復活『12人のおかしな大阪人』(配信中)~構成の東野ひろあきに聞く「自粛の時期に、値打ちのあるものを残せた」

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2020.6.9
2020リモート読み合わせ版『12人のおかしな大阪人』​メインビジュアル。

2020リモート読み合わせ版『12人のおかしな大阪人』​メインビジュアル。

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2020年5月6日に、リモートの読み合わせが生配信されて話題となった、三谷幸喜の代表作『12人の優しい日本人』(以下、日本人)。さらに、そのパロディ作品として1995年に上演された『12人のおかしな大阪人』(以下、大阪人)までもが、ほぼオリジナルキャストによるリモート読み合わせが実現した。5月31日に配信が終了した『日本人』とバトンタッチするかのように、同日夜に公開が開始され、現在も無料配信中だ。

「12人の陪審員が話し合い、殺人の疑いがかかった女性の有罪/無罪を決める」という設定は同じだが、事件について割と真面目に議論し合う『日本人』に対して、『大阪人』はつい話の中にボケツッコミやダジャレを交え、話題がどんどんズレまくるという、大阪人にありがちな会話をデフォルメした喜劇に。当時の関西小劇場のパワーを結集した傑作だったが、再演はおろかソフト販売もない幻の作品だったので、復活に歓喜した人は多かったはずだ。本作の作家の一人で、配信映像の構成を担当した東野ひろあきに話を聞いた。

東野ひろあき(今回の配信映像より)。1995年舞台版では、守衛役で出演もした(桂九雀とWキャスト)。

東野ひろあき(今回の配信映像より)。1995年舞台版では、守衛役で出演もした(桂九雀とWキャスト)。

■三谷さんには、苦笑いして“まあいいや”と言われた覚えが

──『大阪人』は、インターネット黎明期に上演されたこともあり、WEBにもほとんど情報が載ってない作品です。まずは作られた経緯から教えて下さい。

(プロデューサーの)G2と(演出・出演の)生瀬(勝久)が「『日本人』の登場人物を大阪人にして、大阪ならではのワチャワチャした芝居をやろう」という話をしたのが始まりですね。2人の間で、基本設定や出演者が決まった辺りで「誰かにまとめてもらおう」ということになり、僕に声がかかりました。

──脚本クレジットは、G2さん・生瀬さん・東野さんとなってますが、3人でアイディアを出し合ってまとめる、という形だったんでしょうか?

いや、G2と生瀬から「こういう登場人物で」「こういう事件で」というのを指示された覚えはなくて、うだうだと話したことを僕がまとめたと記憶しています。それを2人が読んで、稽古していく中で「ここはカット」「ここは書き換えて」という感じで、形にしていったと。演劇の現場ではよくあることですね。

──その時、三谷幸喜さんの許可は取ってたんですか?

G2が「お断りを入れたら、苦笑いして“まあいいや”と言われた覚えがある」と(笑)。今回も一応、今三谷さんが所属してるSIS(カンパニー)に連絡したら「“はいはい”と言ってます」というお返事がありました。まあもともと『日本人』も(映画)『12人の怒れる男』が元ネタなので「僕らが作ったのは、あの映画の大阪人版です」と、言おうと思えばできるんです(笑)。

【動画】2020リモート読み合わせ版『12人のおかしな大阪人』​ 予告編


──大阪公演初日3日前には「阪神・淡路大震災」という、当時誰も経験したことがなかった規模の大災害が起こりました。

今回の配信を見た東京の役者さんに「公演をすると決めた時に“こんな時に演劇なんて不謹慎だ!”とか言われなかったんですか?」と聞かれたんですけど、今思うとあの頃は「コンプライアンス」という言葉が、一切なかったんです。だから「この時期にエンタメをやるのはどうなんだ?」という声が、今ほどは出なかったと思います。

──そもそも「不謹慎狩り」や「自粛警察」という概念がなかった。

そうそう。それともう一つは震災の時点で、すでに稽古場で通し稽古もやって、ほぼ完成していたというのが大きくて。これが未完成だったら「今回はやめとこか」ってなってたかもしれないけど、むしろ(本番)直前だから実現したんでしょうね。だから結局一番心配だったのは、お客さんへの対応です。オンラインのシステムなんかなかったし、来られない人にちゃんと払い戻しができるのか? とか、本当に大変なのは制作さんだったと思います。

『12人のおかしな大阪人』1995年舞台版の宣伝チラシ。

『12人のおかしな大阪人』1995年舞台版の宣伝チラシ。

──わかぎゑふさんは、東日本大震災の時に、あえて自分の劇団の東京公演を続行したのは、『大阪人』の経験にならった……というようなことを、確かおっしゃってましたね。

そのわかぎゑふが、家にある不用な服を持ってくるよう呼びかけて、神戸に送ったりもしました。出演者のサインを寄せ書きにした色紙を会場で売って、そのお金を寄付するということもやったし。2,000枚ぐらいは売れたんとちゃいますかね? それまでサインがなかったキムラ緑子は「これでサインが書けるようになった」と言ってました(笑)。

ただ今回のコロナと共通することがあったとすると、余震の心配があったんです。「人を大勢集めて、クラスターが起こったらどうするんだ」というのと同じで「人がいっぱいいる場所で、大きな揺れが起こったら危険だ」と。やっぱりヘルメットの位置や、避難経路の確認をちゃんとするようにはしましたけど、結局は「まあ、何とかなるやろう」と、勢いで押し切ったとしか言えないです(笑)。

──そのアバウトさも大阪人っぽいですね。作品自体の評判はいかがでしたか?

悪い話を聞いたことがないです、僕は。配信でも少し使った、当時の記録映像を見ると、始めから終わりまでビックリするぐらい、ドッカンドッカンとウケてたんです。自分で言うのも何ですけど、あれぐらいウケてたら「面白いなあ、満足したなあ」と、みんな思わはったんじゃないですかね。

『12人のおかしな大阪人』2020年配信版の宣伝画像。

『12人のおかしな大阪人』2020年配信版の宣伝画像。

■2時間で上演した本を、今読み合わせたら2時間半以上に

──今回の企画は、どういう流れで実現したのでしょうか。

『日本人』の生配信があってすぐ、山西(惇)から「あれ、僕らもやりません?」とLINEが入ったんです。そしたら、みやなおこも同じように言ってきて、三上市朗もSNSでそんなことを書き込んでた。そこで「グループLINEを作って、みんなに呼びかけようか」という話になって、ほとんどのメンバーが集まりました。でもその時みんなの頭の隅にあったのは「生瀬はやれへんな」(笑)。というのも彼は、SNSを一切しない人なので。一応、山西から声はかけたけど、やっぱり「自分は無理なんで、みんなで楽しくやっといて」と言われた、という報告がありました。

──オリジナルキャストでは、キムラ緑子さんも不参加でしたね。

ドリちゃん(キムラ緑子)は「面白そう!」って言って、すぐグループLINEに参加したけど、その後で『日本人』の配信映像を見て「私、やめとくわ」と。「出ないけど、応援団になる」ということになりました。実際「生瀬さんがやった役は、松尾貴史さんがええんちゃう?」と最初に言ったのは、ドリちゃんでしたからね。

『12人のおかしな大阪人』1995年舞台(記録映像をキャプチャ)。

『12人のおかしな大阪人』1995年舞台(記録映像をキャプチャ)。

──その松尾さんと、松永玲子さん&小椋あずきさんが、今回新たに加わりましたが。

牧野エミはいない(2012年逝去)し、佐々木靖乃は演劇から遠ざかったし、新しいキャストが4人いるなぁと。まずドリちゃんの役は、僕がかなり松永玲子を押しました。彼女は「キムラ緑子さんに憧れて、この世界に入った」と(映像内で)コメントしてるんですけど、それは知らなかったです。最初「松永は(牧野が演じた)おばあちゃんがいい」と考えてたんですね。でも……実は、舞台初日の5日前に、牧野エミが車で事故を起こして、稽古に出られなくなった、ということがあったんです。幸い大事に至らなかったので、本番には出られたんですけど。

──え! それは初耳です。

交通事故の後に地震もあって、非常に呪われた公演でした(笑)。その休み中に代役をして、もし何かあったら本番に出てもらおうと思ってたのが、小椋あずきだったんです。一番ストレートにこの役と関わってたんだから、おばあちゃん役は小椋にしようと。となると、松永はキムラ緑子の役どころで。佐々木の役は「新しい人をもう一人増やすより、がっしゃん(東野)がやれば?」という話になって、僕がやりました。佐々木に当て書きした、ダジャレばかり言うアホみたいな役なんで、あまりやりたくなかったんですけど(一同笑)。

『12人のおかしな大阪人』1995年舞台。

『12人のおかしな大阪人』1995年舞台。

──確かにダジャレがクドいけど「あれは佐々木さんがやってた」と言われると、納得のキャラでした。脚本は、オリジナルのままだったんですか?

かなり削りましたね。舞台の上演は2時間ぐらいだったんですけど、今回、何ヶ所かで止めながら読み合わせたら、これは2時間半では収まらんぞと。配信だったら90分ぐらいにしたいので、いらない所をどんどん削りました。

──配信版ですら「いらん話ばっかりしてるなあ」と思いましたが……。

舞台版は、もっともっといらんことを言ってました(笑)。「何で今回、こんなに時間が長くなったんやろう?」と思って、記録映像を見直したら、みんなまだ若かったんで、とにかくやり取りが早いんですよ。マシンガンのようにしゃべりまくって、ダダダーッ! とツッコんでたんが、やっぱり歳を取って……しかも読み合わせで、台本を前にしてるから、余計にのんびりしたんでしょうね。

──『日本人』の皆さんは、ZOOMを使いこなすのに苦労したと言ってましたが、『大阪人』の方も同じだったんじゃないでしょうか?

『12人のおかしな大阪人』1995年舞台。

『12人のおかしな大阪人』1995年舞台。

コング(桑田)さんの家にWi-Fiが入ってないという所から始まって、ZOOMの会議に全員がそろわないということが、何回もありました。「誰それの音が切れた!」「こっちが固まった!」とか。やっぱり10何人もが、ZOOMで一度にそろうのは大変です。

──5・6人でも結構トラブルめいたことが起こるのに、その倍ですからね。

そうでしょう? だから何回か読み合わせて、後でいい所を編集しようと最初は思ってたんですけど、ZOOMの分割画面って、毎回やるたびに自分(の映像)の場所が変わるので、これはアカンと。だから、ウォーミングアップ的な読み合わせを一回やった後「次は何が起こっても通して読もう」といって、最後まで止めずに読んだ。その映像を使用しています。

──ということは、あれは一発撮りだったんですか?

場面転換の所でいったん止めたりはしましたけど、ほぼ強引にワンテイクで撮りました。あとで見直したら、特に僕の所で音が飛んだり、動きが途切れてる所がいっぱいあったんですけどね。でも他のZOOMを使った企画も「演劇じゃないし、完ぺきにはできるものではないのでご容赦ください」と、みんな納得してやってるみたいなんで、まあ大丈夫かなと。

2020リモート読み合わせ版『12人のおかしな大阪人』​より。

2020リモート読み合わせ版『12人のおかしな大阪人』​より。

■このやり方を覚えたので、近いうちに新作も読んでみます

──では編集を担当した、平田純哉さんの役割は。

ただ読み合わせを流すだけじゃなくて、やっぱりナレーションとかTV番組風の枠を付けて「お、ちゃんと作ったやん!」という編集をした方がいいんじゃない? と、僕が提案したんです。本職の(TVディレクターだった)G2がおるし(笑)。でもG2は多忙だというので、平田君を紹介されました。早稲田大学4回生の、21歳。

──『大阪人』上演の時には生まれてなかった人が。

彼はG2の劇団「モジリ兄とヘミング」に役者として出ていたんですが、その舞台の予告映像を一晩で作ったし、自分のYou Tubeチャンネルも持ってると。それで僕らではわからない映像技術面を、この21歳にすべて任せることにしました。しかも彼はその歳で「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」が大好きで、関連動画を見漁っていたというし、G2の劇団を受けたのも、昔、僕や升さんとかと一緒に作ってたコント番組を見ていたからだと。

公演中の楽屋写真。(左から)キムラ緑子、牧野エミ、みやなおこ、三上市朗(当時は三上壱郎)。 [写真提供]三上市朗

公演中の楽屋写真。(左から)キムラ緑子、牧野エミ、みやなおこ、三上市朗(当時は三上壱郎)。 [写真提供]三上市朗

──ラジガジや『現代用語の基礎体力』を見ていた21歳って、かなり渋いですね。

だからこの状況が「嘘みたいや」って、すごく喜んでましたよ。読み方とかの中身は自分たちで工夫したんですけど、映像の映り方とか、見た目の画作りは彼に演出してもらいました。彼がすごいのは、若いけど物怖じしないんです。「升さん、そこはもう少し前に出た方がいいです」とか。普通はそこまで言えませんよ。役者としてもクセ者だし、今後要注目の逸材だと思います。ただギリギリまで編集をしていたら、アップロードに思ったより時間がかかって、開演が40分ぐらい押してしまって(笑)。みんな「演劇は押すもんだよね」と言ってくれてましたけど、そこは申し訳なかったです。

──できあがった映像を見ての感想は。

僕もそうだし、みんな新鮮な経験だったと思います。もちろん本当は舞台でやりたいけど、一番良かったのは、この時期に何か面白いことができたということなんです。(緊急事態宣言が)解除されるまで何もせずに通り過ぎてしまうのと、何か一つ値打ちのあるものを残せたのとでは、全然違う。だからひょっとしたら、元の世の中に戻って劇場が開いても、またちょっと読み合わせてみました……っていうのも、面白いんやないかという話になってます。

阪神・淡路大震災のチャリティとして販売された色紙。「今ヤフオクにも出ていますよ(笑)」(東野)

阪神・淡路大震災のチャリティとして販売された色紙。「今ヤフオクにも出ていますよ(笑)」(東野)

──動画サイトの「踊ってみた」と同じノリで「読んでみた」みたいな。

そうそう。もうこのやり方を覚えたから、これで終わるんじゃなくて、新作をやってみるのもいいじゃないかと。多分、お金もうけのためじゃなくて、草野球みたいなノリになると思うけど。実は、まだ公表はできませんがタイトルも決まっていて、近いうちに収録して、配信するつもりです。乞うご期待! ということで。

──それは非常に楽しみです! では最後に、まだこの動画をご覧になってない方たちに、オススメポイントなどがあれば。

そうなんです、もっと1万、2万とか再生されてほしい(笑)。ポイントとしては、やっぱり大阪人あるある……というか「おるおる」を、楽しく笑ってもらうのが一番の肝でしょうね。あえて『日本人』と比較すると、あっちは割と平均的な“日本人”たちのお芝居ですけど、こっちは本当にけったいな人ばかりがそろった“大阪人”の劇なので、より気軽に笑ってもらえると思います。

この動画を見て、大阪の若い子が何人か「僕らもこんなんやりたいですわー」って言ってきたんですよ。だから「やったらええやん、許可なんか簡単に取れるで」って焚き付けたら、ちょっと考えてくれてるみたいです。あと名古屋の知り合いにも「12人の名古屋人の芝居を作らないか」って、提案しています。今回をきっかけに、いろんな「12人もの」が新しく生まれたらいいですよね。いつかそういうのが集まって「12人フェスティバル」とか(笑)。そんなことが実現したら、ホンマに面白いと思います。

【動画】2020リモート読み合わせ版『12人のおかしな大阪人』​ 本編

配信情報

2020リモート読み合わせ版『12人のおかしな大阪人』​(無料配信中)

■配信URL:https://youtu.be/sREChhyaK30​
(『12人のおかしな大阪人』を読み合わせてみたん会) ※終了時期未定

 
■演出・出演:升毅、わかぎゑふ、川下大洋、蟷螂襲、みやなおこ、コング桑田、三上市朗、東野ひろあき、山西惇、桂九雀/松尾貴史、松永玲子、小椋あずき
■共同脚本・構成:東野ひろあき
■共同脚本:G2、生瀬勝久
■音楽:ザビエル大村
■映像編集・監督:平田純哉

初演データ

『12人のおかしな大阪人』
■プロデュース:G2
■演出:生瀬勝久(劇団そとばこまち)
■脚本:東野博昭、G2、生瀬勝久
■出演:生瀬勝久(劇団そとばこまち)、升毅(MOTHER)、わかぎえふ(リリパット・アーミー)、キムラ緑子(劇団M.O.P.)、川下大洋(ドナインシタイン博士)、蟷螂襲(PM/飛ぶ教室)、みやなおこ(劇団そとばこまち)、牧野エミ(MOTHER)、コング桑田(リリパット・アーミー)、三上壱郎(劇団M.O.P.)、佐々木靖乃(MOTHER)、山西惇(劇団そとばこまち)/東野博昭・桂九雀(Wキャスト)
※所属劇団や芸名は、1995年当時のものです。

 
《大阪公演》
■日程:1995年1月20日(金)~25日(水)
■会場:近鉄アート館

 
《東京公演》
■日程:1995年1月28日(土)~31日(火)
■会場:スペース・ゼロ
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