JUJUの最新ベストアルバム『YOUR STORY』ロングヒットの背景を考える

4月8日にリリースされたJUJUの最新ベストアルバム『YOUR STORY』が売れている。どのくらい売れているかというと、4月第一週のオリコンウィークリーアルバムチャートで1位を奪取すると、4月中はベスト3の座を譲らず、5月第一週に再びウィークリー1位に浮上。4月度月間オリコンアルバムチャート1位、女性ソロとしては今年度初となる。そして忘れていけないのはこの作品はCD4枚組52曲という収録曲の多さで、通常盤￥3960(税込)はびっくり廉価プライスである。それがこんなにウケている理由を、昨今の長期自粛生活との関わりの中で考えてみる。

 

①自宅で過ごす長い時間＝ゆっくりたっぷり楽しめる＝CD4枚組52曲という物量がハマった。

②過去を振り返る音楽番組、ドラマの再放送やアーカイヴスでJUJUの歌が再発見された。

③癒しと安らぎを求める世の中のムードにJUJUの歌の持つ優しさ、大きさ、せつなさがハマった。

④映画館自粛の中で、CD1枚を一つの“シアター”に見立てた設定がハマった。

⑤リクエストを元にした究極のベスト的選曲が、ライトからコアまで幅広いファンを結束させた。

⑥コンセプチュアルな選曲と箱モノとしての存在感の魅力にアナログレコードを知る世代のファンが反応した。

 

というのはすべて空想で、ヒットの理由が後付け以外にわかるのならだれも苦労しない。つまるところJUJUというボーカリストの有無を言わせぬ歌の表現力をベースに、“歌手であること”だけにこだわり続ける潔さ、“物語を歌うこと”に特化したコンセプト、時代に合うヒットを生み出すべく、スタッフを含め徹底的に楽曲に磨きをかけるストイックさに加え、ファンにはもちろん我々取材班にも開けっぴろげかつフレンドリーに接してくれる、心のソーシャル・ディスタンスを守らない人間的な器のでかさが加わり、魅惑のJUJUワールドは形成される。そんな彼女のデビュー16年の軌跡を濃縮した究極ベストが、自粛期間にもロングセラーを続けている。人々の疲れや不安、心のトンガリをそっと癒してくれている。それはとてもハッピーな出来事だと思う。

 

あらためて、『YOUR STORY』とは何か。詳しくはアルバムリリース時のインタビュー（※）を再読してほしいが、ファンからのリクエストを中心に、膨大なシングルとアルバムのカタログの中から選りすぐった52曲(新曲含む)を4枚のディスクに振り分け、それぞれを色分けした“シアター”に見立てたコンセプトは秀逸の一言。「これはシネマコンプレックスJUJUです」と本人が語る通り、「シアターREDは大きな愛」「シアターPURPLEはままならぬ思い」「シアターPINKは恋の初期衝動」「シアターBLUEは人生の応援歌」という、4つのテーマの中で新旧の代表曲が新たなイメージをまとって輝きだす。
（※JUJU『YOUR STORY』インタビュー　http://spice.eplus.jp/articles/266695 ）

実際に聴いてもらわないと説明しづらいのだが、たとえば「シアターBLUE」の9曲目「ANTIQUE」が終わって「PRESENT」のピアノのイントロが始まった瞬間のゾクゾクっとする流れ、からの「かわいそうだよね(with HITSUJI)」の圧倒的にリアルな孤独感は、アルバム『I』で聴くよりもさらに強烈。たとえば「シアターRED」の後半、ピアノと弦のドラマチックなバラードがこれでもかと続いた果てに登場する「YOU」から「I」の繋がりは、一対一のラブソングがより大きな連帯にも似た愛の世界へ昇華するさまを見事に伝えて余りある。これぞベスト盤ならではの新しい流れ。新曲/初CD化曲4曲を含め、そんな瞬間が4枚のディスクのあちこちに用意されてあなたに聴かれるのを待っている。

 

ヒット曲だけを知っているリスナーはもちろん、JUJUの全曲を知っているファンにも新たな感動を。「どのシアターに、あなたが主人公になれる物語がありますか？」とJUJUは言った。そして「かけがえのない“あなた”を見つけることが人生の中の一番大きなテーマ」「どんなことがあっても最終的にはREDに行きついてほしい」とも言った。これから『YOUR STORY』を聴く人は幸せだ。時間はたっぷりある。本当の映画よりひょっとして面白い、年中無休のシネマコンプレックスJUJUへようこそ。