新国立劇場バレエ団『竜宮 りゅうぐう』演出・振付の森山開次に聞く~「舞台は“奇跡が詰まった玉手箱”」

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2020.7.21
森山開次(『竜宮 りゅうぐう』演出・振付・美術・衣裳デザイン)

森山開次(『竜宮 りゅうぐう』演出・振付・美術・衣裳デザイン)

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新国立劇場バレエ団『竜宮 りゅうぐう~亀の姫と季ときの庭~』(以下『竜宮』)の公演が、いよいよ2020年7月24日(金)からはじまる。新型コロナウィルスによる自粛期間を経て最初のバレエ公演となるこの『竜宮』は、バレエファンや舞台ファン、「劇場」を愛してやまない者にとっては待望のも上演でもある。今回は振付のほか演出・美術・衣裳デザインに携わった森山開次がリハーサルの合間を縫ってインタビューに答えてくれた。(文章中敬称略)

【動画】『「竜宮 りゅうぐう」~亀の姫と季(とき)の庭~』トレーラー

 
 

■御伽草子の『浦島太郎』に出逢い、走馬灯のように物語がつながった

今回新国立劇場バレエ団に『竜宮』を振り付けるにあたり、森山は「日本をテーマにしたバレエを、というお話をいただきました」という。この題材を選ぶにあたり、バレエ作品として展開することも踏まえながら、森山は数々のおとぎ話を振り返ったという。そのなかから選んだのが、誰もが知るおとぎ話、『浦島太郎』であった。

「『浦島太郎』は、最初はシンプルでバレエにはしにくいと思っていました。でも羽衣伝説のように日本各地はもとより、アジア地域にも様々な形で伝わっている物語があるように、『浦島太郎』も様々な伝わり方をしている。そうしたなかで出会った御伽草子の『浦島太郎』には、亀が竜宮城のお姫様であったり、太郎が玉手箱を開けてお爺さんになったあと鶴に変身したり、竜宮城は地上にあるなど、びっくりするようなことが書かれていました。また竜宮城には四季折々の庭があったり、鶴と亀に象徴される大きな時の巡りなども描かれており、それを読んだ時、自分の中で物語が走馬灯のようにつながったのです。これであればバレエにできると思いました」

Photo by Isamu Uehara

Photo by Isamu Uehara

タイトルを『竜宮』としたのは「そのほうがかっこいいな、と(笑)。また正直なところ、自分でも"竜宮"とは何だろうと思いますが、ビジュアル的な桃源郷のような、一つの世界の象徴として捉えていただければと思います。またサブタイトルの" 季(とき)の庭"は先にお話した竜宮城にある四季の庭で、これを表現することで、日本の四季の移ろいの美しさやすばらしさを認識していただければと思いました」という。

 

■バレエの「軸」の強さに感じる魅力。作品を通して団員一人ひとりの個性を引き出したい

森山は新国立劇場ではダンス公演で『弱法師』(2003年)をはじめ、『曼荼羅の宇宙』(2012年)や『サーカス』(2015・18 年)、『NINJA』(2019年)などで自らダンサーとしてだけでなく、演出・振付・アートディレクションを行っているが、バレエ団と本格的にクリエイションを行うのは今回が初めてとなる。

「今回バレエ団と深く関わって作品をつくることを、とても嬉しく思っています。改めてバレエと向き合い、バレエの応用力の広さというのでしょうか。いろいろな要素を取り入れることができる懐の広さや深さを感じている」と森山。

「例えばトゥシューズを履いて表現――パ・ド・ブレが素敵だなぁと思うんです。太郎と姫の別れのシーンで、姫の哀しみを表現するためにトトトトト……というパ・ド・ブレを使ったりしています。あとプロムナードも素敵ですよね。どちらもトゥシューズで立つという、日々のトレーニングを積んで培われた軸がしっかりしているからできる美しさであり表現で、そうした軸の強さに僕は惹かれ、またそれが僕の感じるバレエの、大きな魅力の一つなのかもしれません」
 

Photo by Isamu Uehara

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バレエ団とのリハーサルはワークショップのような形で、比較的早くから取り組んでいたが、いよいよ本格的に始まるという矢先に非常事態宣言が出て、リハーサルはおろか、公演自体もどうなるかわからないという状況に陥った。

そうした事態を経て「団員の皆さんは身体を維持することが大変だったろうと思いますが、今は時間がない中でも舞台に立てる喜びや、向かうべきところがあるという目標があるなか、一緒に力を合わせて日々リハーサルを重ねています。モチベーションはすごく高まってきていると思います。僕としてはダンサー達のそうした思いをしっかりと受け止めて、しかるべき方向へ導いていきたいですね」

さらに「先日吉田都次期芸術監督がテレビの取材で、キッチリ揃えることが得意な日本のダンサーの長所の上に、さらに個性を加えていくことが課題、というようなことを話しておられました。僕としても団員一人ひとりの個性を引き出していければと思っています」と意欲をのぞかせた。

 

■遊び心とインスピレーションの源は「妄想」。『竜宮』の新たな森山ワールドに期待

国内外で広く活躍し、ダンスやオペラの振り付けも行う森山だが、新国立劇場のダンス公演で披露した『サーカス』『NINJA』では、カラフルでキッチュな衣裳によるスタイリッシュなビジュアルの中にも研ぎ澄まされた緊張感が心地よく漂い、かと思えば「兜」と「カブトムシ」を掛けるといった、童心に返るようなニヤリ、クスリとさせられる遊び心も仕込まれているのが魅力のひとつだ。果たして今回の『竜宮』のキャスト表にも「イカす3兄弟」「タイ女将」「サメ用心棒」など、なにやらワクワクするような役名が並んでおり、新たな森山ワールドへの期待が高まる。

こうしたインスピレーションはどこから来るのか。

「妄想でしょうか(笑)」と森山。「この『竜宮』の企画が始まってからダンサーたちと会うまでの間、作品プランを積み上げるなかでいろいろと妄想し、言葉遊びや語呂合わせをしてみたり、工作をしていたりしました」という。森山がインタビューの間、ずっと手にしていた亀の人形も、その「工作」でつくったものだという。

森山の"工作"による亀。セットとして舞台に登場するとか

森山の"工作"による亀。セットとして舞台に登場するとか

そしてリハーサルが始まり「イメージしていたものをダンサーに振っていくわけですが、当然、実際のリハーサルの中でイメージがさらに膨らんでいくこともあります。役を振った時はそのダンサーたちのパーソナリティーをよく知らなくても、リハーサルが進むにつれて、例えば"イカ、ハマってるな"といった喜びもあったりしますね(笑)。いい意味で裏切られたりがっかりしたりということを繰り返しながらクリエイションをしていくのは、本当に楽しいことです」とにこやかに語る。

ハマってる、というイカにも注目! Photo by Isamu Uehara

ハマってる、というイカにも注目! Photo by Isamu Uehara

とはいえ「ソーシャルディスタンス」と言われる昨今、バレエの表現にも様々な制限が、やはりかかる。「創作のうえで、非常に難しい問題。触れ合わないバレエを作るのか、ダンサーにマスクを強いるのか、どういう表現をお客様に届けていくべきなのかなど、今でも悩み毎日葛藤し、自分自身に問いかけています」

「例えば最初からソーシャルディスタンス・バレエとして触れ合わず、リフトもせず、距離を取ってマスクをして踊るという企画であるならともかく、2~3メートルの距離を取り、触れ合わず……というのでは、バレエの素晴らしさを伝えるための舞台が成立しない。必要最低限以上は触れ合わないような振付にするなど、日々の試行錯誤はあります。とはいえ、舞台上には30人以上のダンサーがいたりしますから、それが密だと言われてしまうと、どうすればいいのかということになる」など苦悩をのぞかせる。

このコロナ禍の時代、バレエダンサーにとっては制限の多い日々ではあるが「本番の舞台に向かうまでは意識をしっかり持ち、そして舞台に上がった時は表現者としてしっかりバレエをお届けしたい。見に来た子供たちが"バレエはいいな"と思うような、またバレエ団員たちは新しい現代的な動きにも挑戦しながら、バレエの醍醐味をしっかり伝えていけるような、そんな舞台にしたいと思います」

 

■意欲溢れるリハーサル。劇場という玉手箱の中にある、それぞれの"奇跡"を見つけて

この森山へのインタビューの前、中劇場の舞台では太郎役の奥村康祐を中心としたシーンのリハーサルが行われていた。太郎とそれを取り囲むダンサーたちの動きには時々バレエ以外のエッセンスも見られ、また色鮮やかに象られたセットが日本のおとぎ話でありながら、和風とも洋風ともつかない独特な世界観も感じさせられる。

舞台中央では森山を中心に、振付補佐の湯川麻美子をはじめスタッフらが脇で見守るなか、リハーサルを繰り返すダンサーの姿は生き生きと躍動感に溢れ、遠目からでもモチベーションの高さと踊れる嬉しさ、新作に対する意欲の高さが熱く伝わってきた。

Photo by Isamu Uehara

Photo by Isamu Uehara

 

最後に森山に観客に向けてのメッセージを聞いた。

「今のこの状況の中で公演が打てる喜びを、とても強く感じています。お客様にはしっかりと、思いを込めた舞台をお届けしたいと思っていますので、どうぞ楽しみにしていてください。

またこの物語は時の話でもあります。劇場は玉手箱という、時を封じ込めた場所です。その玉手箱をあけたときにどんな奇跡が起こるのか、その瞬間をどうぞ楽しみにしていただきたい。そしてバレエに携わる、すべての人たちの思いを封じ込めた劇場に、ぜひ足を運んでください」

コロナ禍の自粛期間により、ダンサーも観客も、「時」に対し様々な認識を抱いたことだろう。果たして劇場という玉手箱の中詰まっているものは何か、カーテンコールまでしっかりと見届け、その中身を確かめてみたい。

取材・文=西原朋未

公演情報

新国立劇場 こどものためのバレエ劇場 2020
世界初演・新作バレエ公演「竜宮 りゅうぐう」~亀の姫と季(とき)の庭~

 

■日程:2020年7月24日(金・祝)~31日(金)
■会場:新国立劇場オペラパレス
■演出・振付・美術・衣裳デザイン:森山開次
■音楽:松本淳一
■映像:ムーチョ村松
■照明:櫛田晃代
■振付補佐:貝川鐵夫、湯川麻美子
■出演
〇2020年7月24日(金・祝)13:00~
プリンセス・亀の姫:米沢唯、浦島太郎:井澤駿
〇2020年7月25日(土)13:00~
プリンセス・亀の姫:池田理沙子、浦島太郎:奥村康祐
〇2020年7月25日(土)19:00~
プリンセス・亀の姫:木村優里、浦島太郎:渡邊峻郁
〇2020年7月26日(日)13:00~
プリンセス・亀の姫:米沢唯、浦島太郎:井澤駿
〇2020年7月26日(日)19:00~
プリンセス・亀の姫:池田理沙子、浦島太郎:奥村康祐
〇2020年7月29日(水)13:00~
プリンセス・亀の姫:木村優里、浦島太郎:渡邊峻郁
〇2020年7月30日(木)13:00~
プリンセス・亀の姫:米沢唯、浦島太郎:井澤駿
〇2020年7月31日(金)13:00~
プリンセス・亀の姫:木村優里、浦島太郎:渡邊峻郁
新国立劇場バレエ団

 
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