北村想によって書かれた、命と時間を巡る物語──2019年に全国を巡演した『A列車に乗っていこう』が、perky pat presentsにより名古屋で上演

2020.9.11
インタビュー
舞台

『A列車に乗っていこう』出演者と演出家。左から・空沢しんか、春日井琴子、演出家の加藤智宏

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演出家で演劇プロデューサーの加藤智宏が主宰する名古屋の演劇ユニット〈perky pat presents〉。毎回さまざまな作家の作品を取り上げ、俳優も作品に合わせてその都度キャスティングするプロデュース形式で公演を行っているが、旗揚げ以来、中でも数多く上演しているのが名古屋を代表する劇作家・北村想の作品だ。2011年の第1回公演『ロストゲーム』に始まり、2012年『この恋や思いきるべきさくらんぼ』、2016年『DOWMA』、2017年には『ザ・シェルター』を上演。そして第18弾となる今回、2020年9月10日(木)~13日(日)まで名古屋・天白の「ナビロフト」で公演を行うのが『A列車に乗っていこう』である。

perky pat presents『A列車に乗っていこう』チラシ表

今作『A列車に乗っていこう』は、北村が昨年〈トム・プロジェクト〉のために書き下ろし、石田ひかりと松風理咲が演じた二人芝居だ。全国を巡演し愛知県内でも上演されたが、残念ながら名古屋公演は行われなかった。今回の上演にあたり加藤は、石田ひかりが演じた看護師兼個人教師役に〈劇団ジャブジャブサーキット〉の空沢しんか、松風理咲が演じた難病の女子高生役にフリーで活動する春日井琴子を起用。この作品を北村想ゆかりの劇場「ナビロフト」(北村がかつて率いていた〈プロジェクト・ナビ〉の拠点だった)で上演することを、企画立案当初から決めていたという。

当地・名古屋では、新型コロナウイルスの感染拡大第2波における新規感染者は徐々に減少傾向にあるものの、まだまだ油断できない状況の中、上演を決意するに至った経緯や今作の演出プランなどについて、演出を手掛ける加藤智宏に話を聞いた。


── 今回の公演を企画されたのは、まだ名古屋市の感染者数が多い時期ではなかったですか?

上演を決めたのは、第1波がピークを超えて下がり始めた頃ですね。第2波がここまで早く来るとは思っていなかったけど、ちょっと収まり始めたので、そこから稽古を始めて収まり切ったところで本番を迎えられるかな、と思ったんです。

── 結果的に、公演間近の現在はかなり減ってきたので良かったですね。

ちょうどいい具合に下がってきて、運がいいとしか言いようがない。第2波が来て、このまま感染者数がまたグッと上がっていくようだったら延期か中止か、ということは考えながらやってましたね。ただ、いかにして俳優同士が密な状態にならないか、ということを考えながらやらなくては…と思った時に、この作品は2人しか出ない会話劇で、座った状態の距離というものを演出の中に取り込んで考えていけば上演可能だな、と。

── 作品先行ではなくて、こういう状況下で出来ることを企画した、ということですね。

先が見えない状況で様子ばかり見て待っていても仕方がないので、出来ることを探しました。それでたまたまですけども、6月に「円頓寺Les Piliers」(加藤が運営する小劇場)で女性5人の芝居をやる予定でいたんです。でもそれは、まだみんなが強く警戒していた時期だったし、その状態で稽古をしても楽しくないと思ったので3月末に中止にしたんです。その芝居で実は空沢さんにもオファーをかけていて、当時は所属劇団の公演が重なるからとお断りされたんだけど、空沢さんから「ジャブジャブサーキットの公演は中止になりましたけども、そちらはどうですか?」と連絡があって。うちも6月の公演は中止にしたけど、待てよ、これで空沢さんはしばらく暇になるんじゃないか? って(笑)。

『A列車に乗っていこう』は、〈トムプロジェクト〉の公演も観てるし台本も読ませていただいていて、これは僕にとって面白い芝居だなと思ったので、いつか演出したいと思っていたんですよ。今ならこの作品をやれるかな、と思って空沢さんに声を掛けて、ジャブジャブの了解も得て。それで相手役をどうしようかな? と思った時に、ちょうど愛知県で緊急事態宣言が出る前、3月末のギリギリの時に「円頓寺Les Piliers」で〈喜劇のヒロイン〉という劇団が公演をしていたんです。そこに春日井さんが出ていて、素直な芝居をするな、という印象があったので今回の女子高生役をやってもらおうということで声を掛けて、実現に至ったという経緯ですね。

稽古風景より

── 空沢さんとの組み合わせもいいな、と感じて?

面白いかな、と思って。初対面同士で演じてもらうのが結構好きな方なので。

── これまで想さんの作品を何作も演出されてきましたが、今作の演出面で工夫されていることなどは?

想さんのホンって、すごく強いんですよね。だから結果的に同じようなテイストの作品にはなっていく。台本が持ってるベクトルがあって、基本的にはそこに向かっていくわけなので、よっぽど元を解体するような演出でないとガラッと変わるっていうことにはならないと思っていて。でも想さんのホンはなかなか崩せないというか、切り込めない。手強いです(笑)。

── セリフ一つひとつの言葉の力が強いですしね。ちょっと構成を変えたところで。

バランスが崩れてきちゃうんですよね。それは何本演出してもそう思う。ただ、これはたぶん僕の感じ方なんだけれども、最近の作品の方がまだ余白がある。(初期の傑作と言われる)『ザ・シェルター』を演出した時は、どうしようかしらと思って(笑)。

── 初期作品の方が、より手強いですよね。

そう。まずホンを読んで面白いから、これはもう(舞台化しなくても)読めばいいだろうっていう。『寿歌』もそうなんだけど。それからすると最近の作品は、哲学であるとか物理学であるとかが散りばめられていて、そういう知識は(芝居を観る人や台本を読む人)みんなが持ってるわけじゃないし、ひょっとしたらむしろ「ちょっと哲学は…」と敬遠するような部分があるかもしれないので、そこをどうやってお客さんに伝えていくか。それも説明的にならない方法でやっていくところが、今、想さんのホンを演出していて面白いところですね。だからすごくやりがいがある。4年前に演出した『DOWMA』もすごくやりがいがありました。しかもあれは(日本三大奇書の一作とされる)夢野久作の「ドグラ・マグラ」が題材になっていたから余計なんだけど。

稽古風景より

── ごく近年に書かれた、この『A列車に乗っていこう』で魅力を感じた点というのは?

この作品は「時間と永遠」の話なんですね。「永遠とは何か」であるとか、「人はどこに向かうのか」とか、「命の時間」であるとか、特に演出を始めてからそういうことにすごく引っ掛かりを感じて。命は無くなるものなのかどうなのか? ということに対する答えとしては芝居の中で出していきますけども、今まで一緒に居て、亡くなってしまった人に対するオマージュというか。以前〈avecビーズ〉で演出に抜擢された『さよならの霧が流れる港町』(2018年2月上演)も、想さんが今まで影響を受けてきた人や関わってきた人たちの“死”というものを扱っていて。

── 想さんは当時、早逝した親しい人たちのことを書いた、と仰っていましたね。

そうそう。なんかそういう、「今まで一緒にやってきた人が亡くなるっていうのはどういうことなんだろう?」「その人たちは本当に亡くなっているの?」「居なくなるってどういうこと?」というテーマがあるような気がして。そう思いながらこの芝居を稽古していると、〈perky pat presents〉を始めて10年位になりますけど、その間に出演していただいた役者で亡くなった人も何人かいて、なんか不思議な感覚なんです。「その人たちは、居なくなったんではないのかもしれないね」というような考え方が、この芝居のテーマなのかもしれない。僕の場合は芝居の関わりのある人で言ってるけれども、それだけじゃなくて自分の身内であるとか友達であるとか、「身近な人たちが亡くなるというのはどういうことなんだろうか」ということを、湿っぽくならずにちょっと考えるような作品になるといいかな、と思います。

── 基本的には会話劇なわけですよね。

そうです。ずっと喋っています。

── シチュエーションも変わらず?

電車の中と駅と、あとは丘を眺めている場所、小川のほとりというのがあるけど、舞台美術としては椅子があるくらいで、ほとんど変わりません。

稽古風景より

── 〈perky pat presents〉では映像を使う演出というのは珍しく、2016年の『霊鳥類、南へ』の「愛知県芸術劇場」公演(「あいちトリエンナーレ2016舞台芸術公募プログラム」で上演。この他、「七ツ寺共同スタジオ」でも別バージョンとして上演)以来だと思いますが、この時と同じく浜嶋将裕さんに映像を依頼したのは、演出面で何か目的があったわけですか?

このご時世、みんな仕事がいきなり無くなって、会社に勤めている人たちはまだしもフリーで活動している人たちは本当に収入が途絶えていますよね。コロナが始まってから、クラウドファンディングとか寄付とかいろいろやってるけれども、どうも僕はそういうのがあんまり好きじゃないみたいで、それよりもまず、彼らと一緒に仕事をして作品を創っていった方がいいなと。彼らにとってもただお金をいただくっていうことではなくて、仕事として収入が得られる方がいいんじゃないかな、という思いがあって、ハマジ(浜嶋)も東京で何やってるんだろう? と。他にも映像をやってる人はいっぱいいると思うけど、僕がたまたま関わってるのはハマジしかいなかったので。

── 演出面での目的以上に、浜嶋さんと仕事がしたかったという。

そうです。ハマジのセンスは信頼しているので。あと、劇場も使う人がいないと。

── この「七ツ寺共同スタジオ」(取材当日の稽古場所)を訪れるのも久々ですよね。

そうですね。「ナビロフト」で上演しようと思うとスケールが違うんで、いつまでも「円頓寺Les Piliers」で稽古は出来ない。それで今は七ツも空いてるから、稽古場として借りれば、それもここの収入になっていくので。

── 「ナビロフト」で上演する、というのは最初から決めていたんですね。

この作品をやるなら、コロナに関係なく「ナビロフト」だな、と思っていたんです。あの劇場は階段状の客席から舞台を見下ろしますよね。しかもアクティングエリアが広いから、下を見ているという感じじゃなくて、遠くを見ながら尚且つ目線が下に行く状況のところで上演したかったんです。

── 二人芝居なのであまり広すぎる空間では間延びしますし、「ナビロフト」は適度な広さですね。今回は客席も通常約80席のところ、間隔を空けて35席程度に留め、消毒や換気など考えられる限りの感染防止対策を行うそうですが、それでも劇場へ足を運ぶのがまだ不安な方や、さまざまな事情で期間中に来場できない方のために公演のDVDとBlue-rayの限定販売も行われるとか。

受注生産という形で、初めての試みですね。単にひとつの公演を収録する、というだけじゃなくて、収録と編集を担当してくれる田中(博之)君が、「劇中で映像を使うと、どうしても光量が足らなくなるところもあるので、収録用にシーンを別撮りしないとちゃんと見えない」とアドバイスをくれたので、昼公演と夜公演の間にそのシーンの収録をするとか、そういうことを含めて全部ちゃんと編集をして作品としてクオリティの高いものを作りますので、それをお渡しして楽しんでいただければ、ということですね。


【『A列車に乗っていこう』公演収録映像DVD、Blu-ray 限定販売】
●料金:3,000円(消費税・送料込)
●予約締切:9月30日
●発送予定:10月上旬
●収録・編集:田中博之
●予約問い合わせ:office perky pat 加藤 090-1620-4591 rsm87200@nifty.com

perky pat presents『A列車に乗っていこう』チラシ裏

取材・文=望月勝美

公演情報

perky pat presents 18『A列車に乗っていこう』

■作:北村想
■演出:加藤智宏
■出演:空沢しんか(劇団ジャブジャブサーキット)、春日井琴子

■日時:2020年9月10日(木)19:30、11日(金)14:00・19:30、12日(土)14:00・19:30、13日(日)14:00
■会場:ナビロフト(名古屋市天白区井口2-902)
■料金:一般3,000円 学生以下2,000円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「原」駅下車、1番出口から徒歩8分
■問い合わせ:office perky pat 加藤 090-1620-4591 rsm87200@nifty.com

■公式サイト:http://officeperkypat.web.fc2.com/indexperkypatpresents.html

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