andropが新曲や未発表曲も交え、"今"の姿を表現した初のオンラインワンマン
androp
androp online live 2020 "RainMan" 2020.9.26
9月26日、andropが開催した『androp online live 2020 "RainMan"』。内澤崇仁の弾き語りライブや、Creepy Nutsとの2マンライブなど、すでにこれまでも配信形式のライブは行なってきたandropだが、ワンマンライブはこれが初。約8ヶ月ぶりのステージとなった。このライブは、10月3日までアーカイブ配信が行われていることもあり、これからご覧になる方のためにもネタバレ要素は極力少なくしていきたいのだが、総論を述べてしまうと、普段の彼らのステージからはあまり見ることができない、かなりレア度の高いものになっていたことはお伝えしておこうと思う。
この日のセットリストは、ライブの定番曲から懐かしい曲まで幅広くセレクトされていたのだが、サポートキーボードに別所和洋を迎えた編成だったこともあり、この日しか聴くことのできないアレンジが施されていたものもあった。たとえば「Tonbi」では、原曲にはなかった鍵盤を大胆に加えたことで、柔らかさや温かさが際立つ形に。内澤はギターを弾かず、目を閉じ、マイクスタンドを握りしめてファルセットを響かせていた。また、「画面の向こうのあなたに、光がしっかりと、いつまでも、灯りますように」という一言から始まった「Hikari」では、室内の照明をほぼ消灯。真っ暗闇の中、スポットライトだけが演奏しているメンバーを照らし出す。そんなメッセージ性をグっと高める演出は、なんとも彼ららしいところだった。
androp・内澤崇仁
オンラインライブということもあってか、この日のライブはメンバーのトークが非常に多かった。かなりラフでくだけた内容のものから、楽曲にまつわるエピソードや裏話など、リアルタイムでライブを観ているユーザーからのコメントを拾いながら、4人はアットホームな雰囲気で会話を繰り広げていた。また、今年1月に開催された10周年記念公演2デイズのドキュメンタリー映像を流し、メンバーが副音声的にコメントしていく場面も。舞台裏や演出についての話など、当日のことを思い返しながら和気藹々と話していたが、「照明さんも一拍ごとに、一緒に演奏してますから」という話など、ライブ制作に携わっているスタッフにもスポットを当てていたところが印象的だった。
androp・佐藤拓也
また、過去を振り返るのみでなく、バンドの現在にフォーカスする部分もとにかく多かった。平たく言うと、コロナ禍で制作された未発表の新曲が、このライブで多数披露されたということだ。それは「こんなに新曲をライブでやる日はないと思う」と内澤が話すほどで、まだ正式なタイトルもついていない楽曲も含まれていた。それらの制作エピソードを交えつつの演奏になったのだが、その中で披露された「Lonely」は、10周年記念ライブのアンコールで突如演奏された曲。伊藤彬彦が刻むレイドバック気味なビートや、前田恭介が操るシンセベースの音色、佐藤拓也が奏でる耳に残るギターリフに、内澤が歌うリフレインするメロディーなど、チルな雰囲気たっぷりのこの曲は、土曜の21時という時間帯にもふさわしく、なんとも心地よかった。
androp・前田恭介
そして、9月21日に配信され、この日のライブタイトルにも掲げられている「RainMan」も初披露された。この曲に関しては、今年の8月に行なったレコーディングのドキュメンタリー映像も用意されていたのだが、内澤は「androp史上、一番優しい曲ができた」と話す。
「RainMan」の原型が生まれたのは、昨年6月に行なった『daily』を掲げたツアーのときだったそうだ。当時、喉を悪くしていた内澤は、かなり限界の状態でツアーに臨んだのだが、周りの大きなサポートもあり、無事に完走することができた。また、精神的にも困憊していたこともあり、なかなか曲が作れない時期が続いていたが、ツアーを終えたときに「まだ行ける」と思い、その気持ちを忘れないために作ったのがこの曲の原型だ、と話していた。
androp・伊藤彬彦
時は流れ、今年。新型コロナウイルスの影響を受け、当初のリリース予定を一旦すべて白紙にしたandrop。そこで今届けるべき音楽を考えたときに、この曲に光が当たり、原型を「直接的な表現ではなく、ほっとするような、寄り添えるような曲に作り変えていった」とのこと。
先のレコーディング・ドキュメンタリーで、この曲について“ファンタジー感”と言い表していた内澤。まさにその言葉の通り、「RainMan」は、まるで絵本をゆっくりとめくっていくように曲が進んでいく。聴き手を選ばないアコースティックサウンドにしろ、柔らかなタッチでありながらも研ぎ澄まされたバンドアンサンブルにしろ、それこそ直接的ではないものの、しっかりとしたメッセージが込められた歌詞にしろ、そのどれもが優しく、温かく、心の深いところまでじっくりと沁み渡ってくる。
androp
この原稿を書いている今現在、新型コロナウイルスの影響によって生じた様々な制限も、一時期に比べたら緩和されてきている。しかし、ふと未来に思いを馳せると、なかなかポジティブなイメージを浮かべにくいこともあるのが正直なところだ。そんなときに、音楽や芸術に光を求める人たちは、とても多いと思う。暗闇の中で見出した希望を形にしたような「RainMan」であり、ひいてはこれまで“光”をテーマに掲げてきたandropの音楽は、今の時代にとても優しく響く。
「音楽の活動の仕方はもしかしたら変わっていくかもしれないけど、音楽自体は変わらないじゃないですか。だから、我々は変わらずに、心に届く音楽を作っていきましょうよ」と、メンバーに話しかけていた内澤。andropの音楽は揺らぐことなく、これからも続いていく。
取材・文=山口哲生