前貼りのみで江戸川乱歩の冒険活劇を怪演 「ザ・ショルダーパッズ」『少年探偵団』ゲネプロレポート

レポート
舞台
2020.11.10
少年探偵団と怪人二十面相  画像提供/オフィス鹿(写真:和田咲子)

少年探偵団と怪人二十面相  画像提供/オフィス鹿(写真:和田咲子)

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劇団鹿殺しの公演「ザ・ショルダーパッズ」『銀河鉄道の夜』『少年探偵団』が、あうるすぽっとで2020年11月7日(土)に開幕した(全公演、イープラス「Streaming+」を使用した配信あり)。

2004年から行ってきたマエバリ芝居を、新しい作品ラインとして練り上げた「ザ・ショルダーパッズ」では、男性俳優の衣装は基本、2枚の肩パットのみ。音楽にシンガーソングライターのタテタカコを迎え、多彩なゲストと共に名作文学を舞台化する。他では見られない少年探偵団たちの冒険譚が舞台上に立ち上がった新作『少年探偵団』の、2020年11月8日(日)のゲネプロの様子をレポートする。

菜月チョビが歌い上げる「ザ・ショルダーパッズのテーマ」に、白い衣装をまとった劇団鹿殺しの女優陣と股間に肩パッドの出で立ちで舞うショルダーパッズたちの美しいフォーメンションのダンス。冒頭からステージの温度は上がった。

「ザ・ショルダーパッズのテーマ」   画像提供/オフィス鹿(写真:和田咲子)

「ザ・ショルダーパッズのテーマ」  画像提供/オフィス鹿(写真:和田咲子)

怪人二十面相が世間を賑わせて、東京では皆が噂をしている。容姿を変幻自在に操る怪人だ。近くに紛れ込んでいないか、お互いに「お前が二十面相だろう」と疑い合っている。が、もちろん男性陣は裸だ。「これでは変装のしようがないのでは……?」、なんて疑問はさっさと捨ててしまおう。なお劇中で、さまざまな人物に化けた怪人二十面相が変装をとくシーンがあるが、この怪人を演じる君沢ユウキがどのようにしてこれらのシーンを演じるかは、ショルダーパッズならではの演出なので、最後まで注目してもらいたい。

丸尾丸一郎演じる小林少年のもとに小学生・羽柴壮二(松浦司)がやってくる。羽柴家のもとに二十面相から予告状が届いたのだ。壮二は裸にランドセルだ。そして股間のショルダーパッドからその予告状が出てくる。衣装の布地の面積は少ないのに情報量が多い。本作では探偵七つ道具や拳銃などの小道具がたくさんあり、男性陣はなぜかショルダーパッドの中に収納している。いろいろものを出すので危うい。大丈夫なのだろうか。

このとき、探偵明智小五郎(長瀬絹也)は海外にいて不在だ。小林少年は壮二と明智探偵の姪である花崎まゆみ(鷺沼恵美子)、桂正一(五十嵐結也)らを誘い少年探偵団を結成。子どもたちだけで二十面相との対決に挑む。なお少年探偵団の団員は、某卓球少女など脚本の丸尾によるオリジナルメンバーが加えられているので、彼ら独特の活躍にも刮目してほしい。

『少年探偵団』  画像提供/オフィス鹿(写真:和田咲子)

『少年探偵団』  画像提供/オフィス鹿(写真:和田咲子)

大胆不敵な怪盗による事件が続くのは江戸川乱歩の原作通りだが、鹿殺しによる『少年探偵団』では、丸尾によって主要な登場人物たちの背景がオリジナルの設定として加えられている。単純な勧善懲悪の物語ではなく、「正義とは何か」が揺らぐものになっている。劇の中盤で帰国する明智探偵でさえ、過去にあった事件によってトラウマを抱えている。「探偵に心なんかいらないんだ」と少年に説くような、心を失った大人として描かれているのだ。原作では頼もしい明智探偵も、本作では少し頼りない。

見ると、明智探偵は“半分”着衣した状態の衣装だ。ワンパクな格好しているショルダーパッズたちは、純粋に面白いことに挑もうとする、童心を忘れない大人たちの姿なのかもしれない。終盤で二十面相にまゆみが捕らえられたときに取った小林少年と明智探偵の選択の違いにも、その思いが現れている気がする。

また最後に怪人二十面相は「人間は変わる」という言葉を残すが、これは演劇のあり方を振り返り、再起動を宣言した劇団鹿殺しの「変わらない」決意を表しているのではないだろうか。

羽柴家のダイヤと仏像を奪おうとする二十面相との攻防や、小林少年とまゆみが地下室に閉じ込められ水攻めに合う危機、大鳥時計店や国立博物館での事件など、息をつく間もない凝縮された80分だった。おもちゃ箱をひっくり返したような賑やかで楽しい捧腹絶倒のエンターテインメントをぜひ堪能してほしい。次第にショルダーパッズの衣装に目は慣れていく。が、お尻を多用した振付満載のダンスの衝撃には最後までやられるので、油断はできない。

取材・文=石水典子

公演情報

劇団鹿殺し ザ・ショルダーパッズ
『銀河鉄道の夜』『少年探偵団』
 
■日程:2020年11月7日(土)〜15日(日)
■会場:あうるすぽっと
 
■上演作品
「銀河鉄道の夜」『銀河鉄道の夜』
原作:宮沢賢治
脚本:丸尾丸一郎
演出:菜月チョビ
音楽:タテタカコ
 
『少年探偵団』
原作:江戸川乱歩
脚本:丸尾丸一郎
演出:菜月チョビ
音楽:タテタカコ
 
■出演
丸尾丸一郎 菜月チョビ
 
鷺沼恵美子 有田あん メガマスミ 長瀬絹也 内藤ぶり 藤綾近 前川ゆう
 
君沢ユウキ 伊藤今人(梅棒/ゲキバカ) 松浦司 伊藤教人 五十嵐結也 勝又啓太
※メガマスミは『少年探偵団』に、伊藤今人は『銀河鉄道の夜』に出演します。
※他キャストは両作品に出演します。
 
■劇場公演料金
パンフ付き前売券 6,300円(税込・全席指定)
前売り・当日 4,900円(税込・全席指定)
ヤング券(U-22) 3,500円(税込)
 
【全公演配信】
■配信先:イープラス「Streaming+」
※一部のシーンで「キャスト カメラ」を使用

料金
前売り・当日 2,500円(税込)
※「パンフ付き前売り券」は、公演パンフレット(販売価格 1,500円)をご来場時、劇場にてプレゼント致します

■配信は【こちら】から
 
■安全対策
当公演は全国公立文化施設協会、及び劇場の定める新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインに基づき、安全対策を講じた上で上演いたします。詳細は特設サイトをご覧ください。
 
■特設サイト
http://shika564.com/sp
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