クラシックもロックもジャズも、素晴らしい。伝えたいのは、それらが関わり合ってこそ新しいものが生まれること~角野隼斗(Pf.)×イープラスの新事業「エージェントビジネス」

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クラシック
2020.11.17
角野隼斗

角野隼斗

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イープラスが新しく始動した「エージェントビジネス」。契約アーティストたちはどのような思いで、イープラスとのパートナーシップを結ぶことにしたのか。それぞれのヴィジョンを聞くアーティストサイドのインタビュー第二弾は、ピアニストの角野隼斗。

国内最大級のピアノコンクール「ピティナ・ピアノコンペティション」で優勝して以来(2018年)、クラシック界から大きな期待を寄せらると同時に、「Cateen かてぃん」名義によるYouTubeチャンネルでは、ポップス・ジャズ・アニメ・ゲームなど他ジャンルの音楽を扱ってフォロワー数を着実に伸ばしてきた(2020年11月現在、54.8万人)。そんな角野が、イープラスとのパートナーシップを通じて、描き出そうとするヴィジョンとは?

——角野さんといえば、クラシック音楽のピアニストとしての「角野隼斗」としての顔と、ジャンルレスに即興演奏も交えたパフォーマンスを展開する「Cateen かてぃん」の顔、両方を自在に行き来しておられますね。

「かてぃん」は3、4年前から趣味的に自分の弾きたいものを発信する名義として始めたのですが、クラシックと他ジャンルの音楽とを扱う二つの側面がぼんやりと存在し、行き来している感じですね。自分の中で「角野隼斗」と「かてぃん」が明確に分かれているわけではありません。

クラシック音楽をできるだけ多くの人に聴いてほしいという思いはあります。クラシック音楽は、やはり特殊です。何百年も過去の音楽を再現する芸術ですから。廃れることはないけれど、トレンド性はないので、逆に言えばむちゃくちゃ流行ることもない。
しかしなぜか、ベートーヴェンのソナタに身を投じる人々が数百年も後を絶ちません。それはやはり、音楽そのものに惹かれているからなのです。とてつもない魅力があるから、何百年も続いている。逆に何百年も続いているから、すごいのだとも言える。まさに時が物語るわけです。その凄まじい芸術を途絶えさせてしまうのは、人類にとっての損失です。その伝統を継承していく人たちがいるのは、とても重要なことなのです。

ショパン - 木枯らし (Op.25-11)

とはいえ僕は、無闇にクラシックを広めたいとか、皆が皆クラシックを聴いて欲しいと思っているわけではないんです。極端なことを言えば、世の人たちが皆クラシックしか聴かなくなったら、音楽の進化はそこで止まってしまうと思っています。なぜなら、先にも言った通り、クラシックは再現音楽で、過去の創造物ですから。過去に生きた音楽家たちが創り上げたものがクラシックであるとすれば、今を生きるミュージシャンは、それと同じく新しいものを発信し続けなければならない。そしてそこには聴衆が必要です。そうやって音楽の進歩は続いていくんです。(クラシックの)ファンを増やしたいのはもちろんですが、それだけが目的じゃなく、なぜそれが人類にとって必要で、どういう良さがあり、どう伝えていけば、音楽業界や文化全体がよくなるのか。そこも含めて考えていきたい。

その意味で、「角野隼斗」と「かてぃん」が完全に独立するのはよくないと思っています。両者が僕の中でシームレスにつながっているからこそ、21世紀に存在する多様な音楽の中で、クラシック音楽が孤立せず、その立ち位置もわかってくる。他ジャンルとの関わり合いの中でこそ、クラシック音楽がどう生き続け、輝き続けられるか。そこを常に考えていきたいと思っています。

——そうした角野さんの思いが、イープラスの橋本会長と意気投合する部分だったのでしょうか。

橋本さん(イープラス代表取締役会長・橋本行秀氏​)もクラシック音楽と、他ジャンルとの関わり合いについてよく考えておられる方です。昨年10月にeplusリビングルームカフェ&ダイニングでのライブに出演させていただき、その後ゆっくりと意見交換をさせていただくなかで、共鳴するところを大いに感じました。

eplus LIVING ROOM CAFE&DININGでのライブの様子(2019年10月19日 撮影:安西美樹)

eplus LIVING ROOM CAFE&DININGでのライブの様子(2019年10月19日 撮影:安西美樹)

僕は当時音楽事務所には所属していない状態で、YouTubeチャンネルが急成長していましたので、プロモーションは自分でやることこそ大切なのだと感じてきました。しかしコンサートやアルバム制作、コラボレーションなどを展開していくことを考えたとき、自分が頭の中でイメージし得ることとイープラスさんが蓄積されてきた具体的なもの、知見やデータなどが合わさることで、新たな聴衆との出会いを期待できると感じました。

やはり、自分1人の力なんて限られているんです。基本的には、あるものに掛けた時間と人数が多ければ多いほど、すごいものになる。たとえば、中学生や高校生でも、ダンスとか吹奏楽とか、お金をかけていなくたって、たくさんの人数と時間が関わって本当にすごいものが生まれたりする。自分のヴィジョンに共感してくれて、協力してくれる人が増えれば増えるほど、それはすごいものになる。それがイープラスさんとできると思っています。

——音楽ジャンルの多様性の素晴らしさを、角野さんはどんな場面で感じますか?

今の時代、とくにネットを通じて実感しますが、TikTokなどを見ていると、いい時代だな、と思います。中学生や高校生たちが、とにかく「バズろう」としている(笑)。つまり、他の人とは被らずに、なんとか面白いことをやろうとしているんですね。それは、これまでの日本の学校教育の中で培われていた「他の人と一緒じゃなければいけない」みたいな価値観とは真逆。自分が人と違うところを肯定的に捉えて、コンテンツにしてさらけだしていく。自分の趣味や特技だけに関わらず、ときには「障がい」と捉えられてきたような側面も。どういう見せ方にすれば魅力的になるかを、みんなTikTokの中で競いながら一生懸命に考える。

2020年7月には同じく動画配信等で活躍するピアニスト3名とともに配信ライブを開催(『NEO PIANO CO.LABO.』撮影:福岡諒祠)

2020年7月には同じく動画配信等で活躍するピアニスト3名とともに配信ライブを開催(『NEO PIANO CO.LABO.』撮影:福岡諒祠)

もちろん、「バズる」ことに特化しすぎることで生じる弊害もあります。一つは、安易に「わかりやすい」方向に走っていってしまうこと。15秒の動画で人の心を掴もうとすれば、とにかく気楽に楽しく、となってしまう。けれど、気楽なものになればなるほど、失われるものもある。たとえば、60分あるクラシックの大曲を3分に縮めました、みたいなことをやって、良さが本当に伝わるかといえば、難しいでしょう。芸術性は失われてはいけないですから、発信する側の責任というのは、常に考えていたいですね。

それから、特定のジャンルが「バズる」ことで、他の素晴らしいものが広がる隙間がなくなってしまう可能性があること。一つの領域が広まれば広まるほど、他の分野は圧縮されてしまう。世の人たちの“可処分時間”の取り合いになってしまうんです。「バズる」ことは特定領域の普及のために大切なことではあるけれど、全体を考えたときには弊害にもなり得る。世の中には、素晴らしいものがたくさんありますから。

僕は、「角野隼斗」と「かてぃん」の活動を、ただ「どちらもやります」というだけはなく、両者をどう「繋ぐ」かを考えていきたい。日頃クラシックはあまり聴かない方々にも、この世界がクールだということも伝えたいし、逆にクラシックしか聴かない人たちにも、ダンスミュージックもロックもジャズも素晴らしいし、それらの関わり合いの中でこそ新しいものが生まれるのだということも伝えたいです。

——12月13日のサントリーホールでの初ソロ・リサイタル、そしてフルアルバムのリリースも、角野さんのそうした活動の一つとして、期待が高まります。

ショパンやリストの作品を弾くほか、ハンガリー狂詩曲にジャズ的要素を入れたり、長いカデンツァを挿入したりといったアレンジもお届けします。そして僕自身のオリジナル曲も。実は、そうしたことは、当時のショパンやリストのようなコンポーザー=ピアニストたちがやっていたことそのままなんですよね。200年前にも行われていたんです。僕は彼らの世界に憧れがあって、アルバムもそうした僕の憧れが形になりました。

角野隼斗1st.フルアルバム『HAYATOSM』ジャケット(初回盤)

角野隼斗1st.フルアルバム『HAYATOSM』ジャケット(初回盤)

■若い音楽家たちへのメッセージ

世界は広いですから、多様な人々が積み重ねてきた長い歴史があります。その階段を登った先の、次の一段を自分で足していきたい、そんな気持ちを大切にしてほしいです。

そのためには、自分の不完全な部分もさらけ出す勇気を持つこと、そして闇雲に頑張らないこと。いきなり完璧にはなれないし、自己発信しないとわからないことだってたくさんあります。考えて、発信して、反省して、そのサイクルの繰り返しをし続けることによって「自分らしさ」の片鱗を見つけられると思います。

取材・文=飯田有抄

関連情報

【本件に関するお問合せ先】agent-info@eplus.co.jp
【契約アーティストのプロフィール一覧】https://eplus.jp/sf/artist
 
【関連記事(事業概要)】https://spice.eplus.jp/articles/277579
 
【インタビューシリーズ】
◇第一回:“個の時代”のアーティストたちとともに イープラスの新事業・エージェントビジネスが目指すもの~代表取締役会長・橋本行秀氏インタビュー https://spice.eplus.jp/articles/277674
◇第二回:サクソフォン音楽が300年先、400年先の未来に残るように~上野耕平(Sax.)×イープラスの新事業「エージェントビジネス」 https://spice.eplus.jp/articles/278307

リリース情報

角野隼斗 1st.フルアルバム『HAYATOSM』
 
発売日:2020年12月23日発売
品番:em-0007(初回盤)/em-0008(通常盤)
価格:3,000円(税込)
デジタル配信:2020年12月11日配信開始
初回盤:3面デジパック仕様、封入16Pブックレット
通常盤:16Pブックレット
(初回限定ボーナストラック1曲)
 

公演情報

『角野隼斗ピアノリサイタル』
 
■日時
2020年12月13日(日)リアル公演 15:15開場/16:00開演
2020年12月13日(日)ストリーミング公演 20:00開演 ※夜公演はStreaming+配信のみ
■会場:サントリーホール

【16:00公演】全席指定 一般5,000円(税込) 学生券(P席)3,000円(税込)完売
【20:00公演】視聴券 2,500円(税込)
・一般発売:2020/10/11(日)10:00~2020/12/20(日)21:00
※アーカイブ期間:2020/12/13(日)20:00~2020/12/20(日)23:59
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