森優貴に聞く~Noismに招かれ新作『Das Zimmer』を演出振付、二度目の協同作業で目指すものとは?

動画
インタビュー
舞台
2021.1.7
森優貴 Photo: Ryu Endo

森優貴 Photo: Ryu Endo

画像を全て表示(10件)


りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館の専属舞踊団Noism Company Niigata(ノイズム・カンパニー・ニイガタ)が、『Duplex』Noism0 / Noism1を2021年1月22日(金)~2月11日(木・祝)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館スタジオB、2月25日(木)~2月28日(日)彩の国さいたま芸術劇場小ホール で上演する。芸術監督である金森穣の『残影の庭―Traces Garden』、ゲスト振付家の森優貴『Das Zimmer』(ダス ツィマー)という新作二本立てだ。SPICEでは、2019年12月初演の『Farben』(ファルベン)に続いてNoismから創作委嘱を受けた森にインタビューを実施。日本人として初めてヨーロッパの公立劇場(ドイツ・レーゲンスブルク歌劇場)のダンスカンパニーの芸術監督を務めた森に、日本唯一の公共劇場専属舞踊団であるNoismに接した印象や新作への意気込み、コロナ禍における展望を聞いた。
 

■長年欧州で活躍した身だからこそ感じる、Noismの存在意義

――2019年夏にドイツから日本に拠点を移され、同年12月、Noism1+Noism0(井関佐和子)に『Farben』(ファルベン)を演出振付されました。その際、Noismというカンパニーに感じた印象を教えてください。

帰国後第1作目をNoismで発表させていただき、メンバー、スタッフと創作をしていく過程の多方面で「日本唯一の公共劇場専属舞踊団」であることを日々実感していました。それは劇場文化が根付き、僕自身が慣れ親しんだドイツから帰国したばかりだからこそだと思います。

欧州では当たり前のことなのですが、芸術監督雇用した舞踊家たちが劇場に設置されている稽古場に毎日決められた時間に集まり、訓練し、創作のために集中できますそして舞台スタッフ、照明スタッフ、広報、制作といった公演を実現させる裏方の方々が常に同じ創作の場にいて、初日開幕前には欧州と同じように舞台上でリハーサルを連日行える環境があります。僕自身が22年間経験してきた当たり前の「劇場」の機能が確立されています。

このような環境で帰国後第1作目を発表させていただき、欧州と日本の創作環境の違いを全く感じることなく創作に集中できたのは大きなことでした。国が変わり、自分が置かれている生活が一変して間もない時期に、今までと変わりない劇場環境に触れて余計に「日本唯一の公共劇場専属舞踊団」という実感になったのではないかと思います。

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

――Noismのホームタウンである新潟にどのような印象を抱きましたか?

連日、劇場と宿泊施設の往復でしたが、劇場文化のみにとらわれず多様な文化・芸術が根づきやすい街なのではないかいう印象を持ちました。帰国後まだ間もない、他県の様子を熟知していない僕自身が感じることなので実際のところは分かりません。でもNoismが17年間活動を継続してきたことが他県で同じように可能かといえば大変難しいでしょう。新潟にはそれを可能にさせる街の在り方があるのではないでしょうか? それはNoismの実績で今もこれからもどんどん広がっていくと信じています。

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

――ダンサーたちに接して感じたことをお聞かせください。

自身との向き合い方、それぞれの取り組み方に物凄く「命」を感じました。欧州のように当たり前の劇場環境で、当たり前のように多国籍から集まり多言語を話し、多様な教育と宗教信仰を背景に育ってきたわけではありません。日本で公共劇場専属舞踊団としての機能の仕方を確立し発展を続ける唯一の集団の舞踊家たちです。日本の劇場文化・環境の中で舞踊と向き合い続けていく上での揺るぎない覚悟と、その中に潜んでいる個性。現在のNoismは国際的ですが、欧州から来たダンサーたちも日本での意識の持ち方、日本で舞踊芸術を創り上げて行く覚悟を背負っていると思います。だからこそ絶対的な質を見出し、提示し続けれられるのではないでしょうか。

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

 

■前作『Farben』で得た、重度と確実性のあるエネルギー

――森さんは多くの作品を発表されていますが、音楽と動きが溶け合い、観る者は感情を揺さぶられます。『Farben』は緻密な造りで、繊細な音楽性も素晴らしかったですが、ダンサーたちの踊りが奔放でした。森さんにとっても刺激的だったのではないでしょうか。Noismとのクリエイションを通して得たこと、感じたことはどのようなものでしたか?

勢いのある作品になるのか。根底に一種の落ち着きのような静寂を感じる作品になるのか。舞台にのせた時のエネルギーは、いつ、どこで、どう爆発させたいのか、何度爆発させたいのかそういうざっくりとした構想は音楽を何度も聴き、曲順の組み方を決め、流れを作ってしまうと自然な形で見えてきます。

Farbenに関しては大体の流れは決まっていました。僕自身の中で、ドイツでの生活から離れ未知の母国に戻るとう大きな変化を吹き飛ばすようなエネルギーがあったのでしょう。吹き飛ばすうのは、ある意味受け入れないとうことです。抵抗だったのかもしれませんね。クリエイションでもそのエネルギーは常にあったと思います。突き進む。振り返らない。とにかく突き進む。直感のみで突き進む。

場面によっては迷いなくどんどん出来あがっていく箇所もありましたし、エネルギーだけが一人歩きしていて、それを体現しきれない箇所もありました。しかし出演者全員が受け入れ、向き合い、消化していく忍耐と稽古によって僕自身が一人で解き放つエネルギーよりも確実に重度と確実性があるエネルギーを持った作品を創ることができたと思います。僕自身、出演者の過去の表現も、性格も、日常も知らない外から招聘された振付家として創作に入ったので、その時に求めるものを、その時にここから出てくる個性と合わせていったとう感じでしょうか。

Noismが16年目(当時)に差し掛かるという新時代の突入に際して新潟のお客様に暖かく受け入れていただいたことは心から嬉しかったです。

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

――『Farben』の創作時、芸術監督の金森穣さんと過ごす時間も多かったかと思います。交わした会話で印象に残っていること、金森さんの姿勢や言動から感じたことをお聞かせください。

新潟滞在時というよりは、お互いが新作のリハーサルに入る前に対談した「柳都会」2019年9月29日開催の「柳都会」vol.21 森優貴×金森穣が印象に残っています。あんなに長時間、欧州と日本の劇場文化の違いなどお互いが関わってきた環境について話したのは初めてだったので。一番大きな違いを感じたのは公立劇場専属舞踊団芸術監督として、振付家としての機能の仕方でしょうか。僕の場合はオペラと芝居、楽団という専属団体が集結する劇場のダンス部門の芸術監督として活動していたので、限られた時間の中で次々と新作(劇場イベントの小品から僕自身の新作公演、ミュージカル作品の振付まで)を発表しなければいけませんでした。一言で言えば舞台作品を次から次へと世に出していく工場です。そこが大きな違いだと思いましたね。

穣さんの姿勢や言動に関して感じるのは、「命」と「覚悟」です。これは肌で感じるとか触覚で感じ取るみたいなもので、先が見えない暗闇の中で自らの皮を剥ぎとり、血を流しながら己の命の火を燃やすような精神でしょうか。

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

Noism1+Noism0(井関佐和子)『Farben』(2019年) Photo:Kishin Shinoyama

 

■新作では、自分を裏切り「外して」みたい

――再びNoismに招かれ、新作『Das Zimmer』(ダス ツィマー)を披露します。作品タイトルはドイツ語で「部屋」という意味です。インスピレーションはどこから来ましたか?

初演のりゅーとぴあスタジオBは日常的空間で、埼玉公演の会場も小劇場です。どちらも観客との距離が通常の劇場公演よりも近いので、前回の『Farben』とは違う「密室」的な作品をというのが理由の一つです。そして架空の物語性がある作品を創りたいと思いました。

別に原作があるわけでもなく、人物の設定や、お互いの関わり方はスタジオでリハーサル初日から少しづつ想像し、出演者を見ながら振り分け創っていきました。当初予定していた構想は原作があり、それをモチーフにした上で「部屋」という空間に焦点を当ていこうと考えていました。しかし結果的にその構想を却下し「部屋」のみだけが自分の中で残りました。それでもその「部屋」に集まる人物を群像劇のように描きたいと思い今の構想に至りました。

Noism1『Das Zimmer』リハーサル Photo: Ryu Endo

Noism1『Das Zimmer』リハーサル Photo: Ryu Endo

――音楽はラフマニノフとショパンです。エツィオ・ボッソ、マックス・リヒターらによる現代曲を用いた『Farben』とは趣が異なります。選曲理由をお知らせください。

当初は全く違う、そしてもっと具体的な作品を創作する予定でした。当初希望していた音楽は事情により使用が難しいということになり、現在の曲・構想にたどり着きました。ラフマニノフ前奏曲をはじめとする数曲を使用します。一部分のみ違う箇所もあるのですが、ショパンも含めピアノ独奏曲です。

劇場の舞台と比べて空間がより小さくなり、観客との距離が縮まることを意識していたので、耳に入ってくる音楽もそれなりのエネルギー、ボリューム感を意識しました。これは主観的な感覚なのですが、空間のサイズと使用する音楽のエネルギー、ボリュームが一致しないのは不快でしかありません。そして今回の作品には一種のクラシック要素、時代要素を取り入れたいと思いましたので、当初予定していた使用曲が使えなくなり、作品構想を変えざるを得なくなった時、それならいっそのことクラシック音楽、それもピアノ演奏の曲でと思い選曲に至りました。

Noism1『Das Zimmer』リハーサル Photo: Ryu Endo

Noism1『Das Zimmer』リハーサル Photo: Ryu Endo

――創作に寄せてのコメントで「今回は、自分の中で少し「外してみる」ことに取り組んでみるという課題を、前期リハーサルを終えた 10 月 25 日に自分自身に課した」と記されています。そのあたりの挑戦について詳しく教えていただけますか?

自分の中には自分が納得する自然な構想の組み立て方や感覚で感じる流れがあり、それをとても大切にしています。今回はその組み立て方や流れに反してみるとうことです。その筋は僕にしか分からないもので、筋が通っていると自分が感じるだけかもしれませんが。あとは、たとえば始点があり終点があると必ずしも考える必要もないかなと。作品自体が架空であるならば、そこで少し不快や違和感を感じてもいいんじゃないか、必ずしもきっちり枠組みに嵌らなくてもいいんじゃないかと思っています。でも、実際のところどこで自分が納得するのかどう自分を裏切っていくかは分からないですが。

Noism1『Das Zimmer』リハーサル Photo: Ryu Endo

Noism1『Das Zimmer』リハーサル Photo: Ryu Endo

 

■「自分自身が喜びを感じる道を歩みたい」

――『Das Zimmer』は新年のリハーサルで仕上げ、本番を迎えます。そこに向けての意気込みといいますか、期待していること、楽しみにしていることをお聞かせください。

ダンサーたちとは前回のFarben』の時よりもお互いを知っているので、僕が話す言語が伝わりやすいということはあります。今回はあまり踊ってほしくないというか――踊ってほしくないといえば語弊がありますが――ステップを踊ってほしくないというか、演じるとか踊るとかではなく、てくださる方々「部屋」の中で起こる出来事を目撃してもらいたい。そういった作品に仕上げていってほしいなと思いますね。

Noism1『Das Zimmer』リハーサル Photo: Ryu Endo

Noism1『Das Zimmer』リハーサル Photo: Ryu Endo

――世界中が困難な状況に陥り、舞台芸術も厳しい事態となっています。今現在、そしてこれからどのように向き合っていこうと考えていますか?

帰国し1年半が経過しました。予想もしていなかった現在ですが、僕自身にとっては失ったものよりも得たものの方が多かった気がしています。自分の中でもう一度創ること、踊ることへの再認識もありましたし、多方面での新たな出会いが可能性を広げてくれました。本当に先が見えない現在ですし不安は募ります。しかし目の前のことを一つひとつ全力で行っていく。ありきたりなことですが、今現在の僕には目の前のことだけでも溢れかえっています。それは創ることであったり、教えることであったり、2021年から2023年の間の作品依頼の準備だったりします。

帰国した自分がこの先どういった方向性で活動していきたいのかも徐々にはっきりしてきた気がしていますそして何よりも振付家森優貴ではない個人の森優貴としてどんなあり方でいたいか。歩みたくない道は歩まない、避けて通るとうのでなく、あえて通る必要がないと選択する。自分自身が喜びを感じる道を歩めるようにと思っています。

【動画】Noism1『Das Zimmer』 PR movie(short ver.)

インタビュー=高橋森彦

公演情報

『Duplex』Noism0 / Noism1

『残影の庭―Traces Garden』
■演出振付:金森穣
■音楽:武満徹《秋庭歌一具》より *伶楽舎による演奏音源を使用
■衣裳:堂本教子
■出演:Noism0
※初演:ロームシアター京都「シリーズ 舞台芸術としての伝統芸能Vol.4 雅楽」(2021年1月10日)

 
 『Das Zimmer』(ダス ツィマー)
■演出振付:森優貴
■音楽:S.ラフマニノフ、F.ショパン
■衣裳:鷲尾華子
■出演:Noism1
 
【新潟公演】
■日時:2021年1月22日(金)~2月11日(木・祝)
1月22日(金)19:00
1月23日(土)17:00
1月24日(日)15:00
1月29日(金)19:00
1月30日(土)17:00
2月1日(月)19:00
2月2日(火)19:00
2月5日(金)19:00
2月6日(土)17:00
2月7日(日)15:00
2月10日(水)19:00
2月11日(木・祝)17:00
※全12回
■会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈スタジオB〉
■入場料:一般 5,000円、U25 3,000円、高校生以下1,000円(税込・整理番号付自由席)
■詳細:https://noism.jp/npe/duplex/#NIIGATA

 
【埼玉公演】
■日時:2021年2月25日(木)~28日(日)
2月25日(木)19:30
2月26日(金)19:30
2月27日(土)15:00
2月27日(土)18:30
2月28日(日)15:00
※全5回
■会場:彩の国さいたま芸術劇場〈小ホール〉
■入場料:一般 6,000円、U25 3,000円(税込・整理番号付自由席)
 
【新型コロナウイルス感染拡大防止のため、以下の点にご留意ください】
・感染予防のため、通常とは異なる形態で演じられる場合があります。
・発熱や咳・咽頭痛などの症状がある方、体調に不安がある方はご来場をお控えください。
・必ずマスクの着用をお願いします。
・ご来場の際には、社会的距離の確保をお願いします。
・クロークでの荷物のお預かり、アフタートークは当面行いません。
・ご来場のお客様のご連絡先を、保健所等の公的機関に提供する場合があります。
・客席内での大声での会話、発声はご遠慮ください。
・社会情勢の変化により、公演内容を変更または中止する場合がありますので、今後の情報に十分ご注意ください。
※U25(25歳以下)・高校生以下の方は入場時に身分証をご提示ください。
※未就学児の入場はご遠慮いただいております。
※開演時間を過ぎますと、演出上の都合により入場を制限させていただきます。予めご了承ください。

 
主催:公益財団法人新潟市芸術文化振興財団 
共催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉公演)
製作:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
シェア / 保存先を選択