『アルプススタンドのはしの方』高校演劇、脚色ver.、映画を経ての集大成! 東西2チームによるインタビュー
(左から)奥村徹也、中井友望、三木梨紗子、若宮ハル
今年、映画がロングラン上映された『アルプススタンドのはしの方』。甲子園のスタンドの隅っこにいる冴えない4人の高校生が描かれる。もとは2017年に兵庫県立東播磨高等学校が上演し、第63回全国高等学校演劇大会で文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞した作品だ。その大会のようすを放送するNHK『青春舞台』で見ていた奥村徹也(劇団献身)が「面白い!」と惚れ込み、2019年には自身の演出で上演。
そして今年また、奥村が関西弁を話す<関西チーム>を演出し、当時リアルタイムで高校生として作品を知る若宮ハル(若宮計画)が標準語の<関東チーム>を演出し、上演は2021年1月7日(木)から11日(月・祝)まで東京・浅草九劇にて。その演出2人と、それぞれのチームに出演する三木理沙子と中井友望に話を聞いた。
<関東><関西>2チームによる上演
ーー2019年の舞台、映画に続いて、奥村さんが『アルプススタンドのはしの方』を手掛けられるのは3度目ですね。
奥村:初めてこの作品を観たのが、NHKの『青春舞台』という番組で東播磨高校の上演だったんです。そこで「この作品面白い」といろんな人に紹介しているうちに、2019年に浅草で公演できることになり、原作の籔くんと共に改稿し、元の台本にはなかった厚木先生を登場させたんです。さらにそれが映画にもなり、たくさんの方に観ていただけました。だから今回は、厚木先生が出てこないオリジナル脚本に戻っての原点回帰です。でもただの原点回帰では面白くない。なにか新しいことにもチャレンジしようと、関東チームと関西チームの2バージョンにしました。
奥村徹也
ーー関西チームは奥村さんが演出、関東チームは若宮ハルさんが演出されますね。それぞれのチームの特徴は?
奥村:関西チームは、今までの人と新しい人が混ざったチームです。中井(友望)さんや(藤谷)理子ちゃんといった新しい人と、オリジナルの東播磨高校の公演に出ていた左京さんと、映画に出ていた平井亜門くんという、今までの歴史を踏まえた集大成でありながら、新しいところにも踏み出すぞという冒険のキャスティングでもあります。これがどういうふうになるのか楽しみですね。中井さんはフレッシュですけど、舞台のキャリアを積んでいる方々が集まっています。ただ、うまい人は芝居ができちゃうので、作品のもともとの良さが損なわれないように、危なっかしかったり、舞台を楽しんでいる感じはなるべく忘れてほしくないです。舞台が2回目の中井さんは、楽しそうにやっていますよ
中井:楽しいです……!
ーー関東チームはいかがですか? 関西チームよりも先に稽古を始めていますよね。
若宮:部活動みたいな感じですね。
三木:そうでうすね。和気あいあいとしていて、雰囲気が良いです。若宮さんと私たち(出演者)は歳が近いんですよ!なので、ワイワイ楽しくやってます。若宮さんの言葉はわかりやすくて、「ここはこういうふうにした方がいいんじゃない?」と言ってくださるので「なるほどそういう手もあったか!」と納得しながら進めています。
若宮ハル
若宮:演出では、自分だけで決めないようにしようとしています。役者さんに「このパターンとこのパターンと、こういうやり方もできると思うけど、自分の解釈だとどれが一番しっくりくるかな?」と聞いて、「じゃあこうしたいです」と返ってきたものに「それならこういう見せ方にするのがいいかな」というふうに、会話をしながら作っていこうとしています。せっかく初めての人と舞台を作るので、自分だけの面白さじゃなくて、このチームにしか出せない面白さや解釈を出せたらいいですね。役者さんの材料を調整するのが演出である自分の仕事だと思っていますし、その方が面白いかな。
会話劇に挑む!それぞれの稽古もよう
ーーもしかして、三木さんと中井さんは今日が初対面ですか?
中井:初めてですね……
三木:そうですね……!
奥村:コロナですし、顔合わせもしてないんです。稽古も別々ですしね。
ーー互いのチームの稽古は見るんですか?
奥村:見ないですよ。見せないし!
若宮:知らない状態で稽古していますね。
奥村:一緒に稽古場にいる予定は一度もないので、もしかしたら本番を客席から観るのが最初になるかもしれないです。……気になる?
中井:気になります……
奥村:あっちのチームの方が楽しそうだったらどうしようねぇ。こっちのチームは俺とみんなの歳が離れてるしなぁ……。いや、観てもらってもいいんだけどね。でも稽古を観たことでお互いに先入観が入っちゃったら面白くないかも。
中井:自分が演じるのと同じ作品だから気になるというよりは、単純にひとつの舞台としてどうなっているのかが気になるというか、楽しみなんです。もし同じ関西弁だったらもっと気になるかもしれないけど。
中井友望
三木:たしかに全然別モノとして観るぶんには気にならな……いや!でも、やっぱり気になります!どういう感じで稽古しているかとか、どんな雰囲気なのかとか、気になっちゃいますね!
ーー稽古はまだ始まったばかりですが、この作品の面白さや好きなところは?
三木:会話劇なので、4人それぞれのキャラクターや掛け合いが見どころだなぁと思っています。田宮(橋本乃依)の天然ですっとんきょうな発言だったり、藤野君(犬飼直紀)と安田(三木)の掛け合いも「ふふっ」っと笑えるところがあって面白いです。
三木理沙子
中井:会話劇、という印象は強いですね。稽古よりも前に映画を見た時には、「青春!」って感じたんですよ。台詞にも「そういうのが青春なんかな」とあるけど、キラキラして見えたんです。でも台本を読み合わせしたら、「青春」というより「会話」という印象でした。ひとつひとつの間や、会話や、言葉が、私が想像していたのと皆さんが発するものが違うので、聞いているだけですごく楽しい。会話の面白さを感じてもらえる作品だと思います。
三木:会話だけで進めていくのはやったことがないし、難しい……。しかも台詞が長いのですごく大変だけど、若宮さんがアドバイスや指摘をしてくださってどんどん変わっていくので、すごく新鮮で楽しいです。
ーー会話劇を演出するにあたって、どんなことを意識していますか?
若宮:もとの戯曲が関西弁なので、標準語にした時に、ノリツッコみやボケやツッコみがケンカしているように見えないように気をつけています。自分達でどうしたら良いシーンになるかを考えながら、ニュアンスを変えてみたり、間を作ってみたりする作業がすごく大切ですね。このことはメンバー全員の共通認識にしています。そのためには、みんな初めましてだし舞台経験もバラバラなので、コミュニケーションをとることを大事にしているんですよ。一日7~8時間くらいの稽古時間のうち半分くらいはワークショップをしたり、うまく会話にするためにはどうしたらいいかとか、お芝居の脚本を使わない時間をとっています。半分遊びながらやっているみたいですけどね(笑)
奥村:おお、そんなに稽古してるのか……(中井に)ちょっと焦ったね(笑)たしかに稽古場の雰囲気や仲良し感は大事だと、僕も思います。技術的にも差があることで、俳優の間にちょっとずつストレスや不和が生まれることってよくあるので、それは無くしたい。ちょっとケンカしても、仲直りしないまま2~3週間の稽古と本番を過ごすことはできてしまうので、そうやってごまかしたりしたくないな。出自もキャリアも違う人達だけど、短い稽古期間のなかでちゃんとみんなが言いたいことを言える関係になって、座組の一体感ができていくといいですね。あと、会話はやっぱり相手をよく見ることと、相手に委ねることが重要。そのためにも仲良くなって欲しい……ってことにつきるかな。
2チームをマンガに例えると……!?
ーー『アルプススタンドのはしの方』は高校演劇で、つまり高校の部活で上演された作品です。高校演劇の経験があるのは、若宮さんだけですか?
若宮:ですね。この作品が全国大会で優勝した時にちょうど高校生でした。福岡に住んでいたので全国大会は遠くて観に行けなかったんですが、NHKの『青春舞台』で作品を観ていました。雲の上の存在というか、「全国で優勝する子達ってこんな感じなんだ、輝いてるなぁ」って。だから、不思議な気持ちですよ、その遠い存在だった作品を演出できるなんて。
ーーほかの3人は、高校演劇のイメージは?
中井:高校演劇って、知らなかったです。演劇部の存在はもちろん知っていたけど、どんなことをしてるのか知る機会がなかったし、友達からも聞いたことなかった……。知っていたら自分も出たかったかも。
三木:私は知っていたんですけど、観たことはなくって。学校で演劇部の発表を観る機会もないですし、どういうものなのかあまり理解できていないです……。
奥村:僕のところは、そもそも演劇部がなかったんですよ。演劇の文化がなかったんですよね。今回、僕たちは高校生じゃないけど、シンプルなオリジナルの戯曲を部活みたいに一生懸命やる!っていうことには変わりないです。冒頭の演出は高校演劇をモチーフにしてるけど、それ以外は、この脚本を与えられた環境でちゃんと一生懸命やる。それが、高校演劇をリスペクトすることかなと思います。
若宮:高校演劇とふつうの演劇を分けて考えることはないですよね。違いがあるとしたら、高校演劇は優劣がついちゃう。大会を勝ち進んでいくので、そこに熱を注ぐところはあるのかな。だから今回、チームごとにバトルするわけじゃないけど、高校演劇で他の学校を意識するのに似たような感覚はちょっとあります。
奥村:でもさ、マンガの主人公だとしたら関東チームの方ですよね?こっちは経験者もいて、オリジナルに出演していたキャストもいるので、高校野球でいったら強豪校でしょう。マンガだとしたら、フレッシュな主役に挑まれて、負ける方ですよね!?
みんな:(笑)
奥村:一緒に稽古はしていないけど、意識している感じはやっぱりあります。会わないけれどお互いに切磋琢磨している。どっちのチームもまったく違うので、楽しんでほしいですね。
インタビュー・文:河野桃子
撮影:鈴木裕介
(左から)奥村徹也、中井友望
(左から)三木理沙子、若宮ハル