自分らしさを追求する姿をキュート&ポップに描く 髙橋颯、山口乃々華、矢部昌暉らが挑む『ジェイミー』ゲネプロレポート

レポート
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2021.8.9
ミュージカル『ジェイミー』

ミュージカル『ジェイミー』

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2017年、イギリスのシェフィールドで開幕した『ジェイミー』。イギリスBBC放送のドキュメンタリーをもとにしたとびきりハッピーなミュージカルは瞬く間に話題を呼び、同年にロンドン・ウエストエンドでの上演が決定した。イギリス全土の映画館での上演も行い、現在もロングランを続けている。さらに、映画化も発表されるなど、異例の大ヒットを記録。

“自分らしく生きる”ことを目指す少年を主人公に、多様性を尊重する現代的な価値観と、親子の愛情、友情といった普遍的なテーマを描く本作。日本初演が2021年8月8日(日)東京建物Brillia HALLにて幕を開けた。

この記事では、8日(日)の開幕に先駆けて行われた、髙橋颯(WATWING)、山口乃々華、矢部昌暉(DISH//)、吉野圭吾、永野亮比己、実咲凜音らによるゲネプロの様子をお届けする。

<STORY>
ジェイミー・ニュー(髙橋颯)には一つの夢があった。それはドラァグクイーンになること。そして高校のプロムに“自分らしい”服装で参加すること。
16歳の誕生日、母・マーガレット(安蘭けい)から真っ赤なヒールをプレゼントされたことをきっかけに、ジェイミーは夢に向かって進み始める。
親友のプリティ(山口乃々華)や、マーガレットの親友・レイ(保坂知寿)、ドラァグクイーン用のドレスショップを営むヒューゴ(石川禅)たちはジェイミーを応援するが、学校や周囲の保護者は猛反対。ジェイミーを理解しない父(今井清隆)との確執、クラスメイト・ディーン(矢部昌暉)から向けられる敵意など、困難にぶつかりながらも、ジェイミーは自分らしさを模索していく。


髙橋のジェイミーからは、一瞬か弱く繊細そうな印象を受けた。だが、意志の強さを感じさせるピュアな瞳と勝ち気な表情で、その印象はすぐ覆された。澄んだ歌声とコケティッシュな笑顔、軽やかなダンスで、森崎によるジェイミーとはまた違ったキュートさを持つ、応援したくなるような主人公を好演している。

台詞や展開は同じだが、リアクションや表情、間の取り方といった細かな部分の違いで母・マーガレットやレイとの距離感も微妙に変化しているため、新鮮な気持ちで楽しむことができた。

山口が演じるプリティは、真面目でハキハキした優等生という印象。楽曲の言葉一つひとつが心に染み込んでくるような、優しく甘い歌声が魅力的だ。ジェイミーに寄り添い、時に檄を飛ばす様子はまるで姉のよう。わちゃわちゃとした二人のやりとりに心が和む。

先にゲネプロを行った森崎・田村コンビは、高校生らしいやりとりの中にお互いへの尊敬や慈愛が見え、大人びた深みがあったが、髙橋と山口コンビは弾けるようなフレッシュさと勢いがあり、瑞々しい青春の一ページを覗いているような気持ちに。別の組み合わせではどんな親友コンビが見られるのだろうという期待が膨らんだ。

ミス・ヘッジ役の実咲は、生徒に見せる厳しい姿とプライベートな顔のギャップが凄まじく、思わず笑ってしまった。意外な一面から、作中では描かれていない彼女の心情やこれまでの人生にも想像を巡らせてしまう。

矢部によるディーンは、クールな雰囲気が際立っている。佐藤が演じたディーンと比べ、ジェイミーの存在を極力無視しようと努めているように見え、より尖った印象を受けた。気に食わない存在につっかかってしまう自分自身への苛立ちも滲ませるなど、思春期の少年らしい不安定さや複雑な胸の内をうまく表現しており魅力的だ。

ジェイミーやプリティを演じるキャストにより楽曲の印象も変わってくるが、周りの大人や生徒たちを演じる面々がしっかりと土台を作っており、安定感が心強い。美しいメロディやハーモニーと心地よいリズム、楽曲の魅力・楽しさを倍増させるダンスは、何度見ても楽しめること請け合いだ。


生徒たちによるダンスは、一糸乱れぬユニゾンを見せたかと思うと各々がのびのびと自由に動き、あちこちに視線を奪われる。クラスメイト一人ひとりの個性が感じられるのが楽しい。

ドラァグスは見た目通りのゴージャスでセクシーな魅力を振り撒いてくれる。上品でツンとした雰囲気のトレイ(吉野圭吾)、どことなくユーモラスなサンドラ(今井清隆)、キュートなライカ(永野亮比己)と、伝説のドラァグクイーン、ロコシャネル。たった四人で会場を圧倒する彼女たちのパフォーマンスはバイタリティに溢れている。

また、ジェイミー自身の明るさやポジティブさが本作の大きな魅力だが、同じく印象的なのは、彼を取り巻く理解ある人たちのエネルギー。ジェイミーが壁にぶち当たって傷付いてもまた立ち上がり、軽やかに進んでいけるのは、周囲の人々のあたたかい励ましや共感の力あってのことだ。

ジェイミーを理解してくれる親友のプリティ、深い愛情で彼を支えるマーガレット、どんな道も全力で応援してくれるレイ、同志としてジェイミーを導いてくれるロコシャネルたちドラァグスを見たら、きっと誰もが「こんな人たちが周りにいてくれたら」と思うはず。個性を尊重し、弱気を叱り飛ばしてくれる、パワフルな味方たちは魅力に溢れており、この作品が話題を呼び、圧倒的な支持を受けたのも納得できる。

「自分らしく生きる」という、簡単そうで難しいテーマに挑む一人の男の子からたくさんの勇気とハッピーをもらい、キャストの組み合わせによる化学反応も楽しめる本作。8月8日(日)〜29日(日)までの東京公演後、9月4日(土)〜12日(日)まで大阪公演、9月25日(土)・26日(日)は愛知公演が行われる。

取材・文・撮影=吉田沙奈

公演情報

ミュージカル『ジェイミー』
 
<東京公演>
期間:2021年8月8日(日)~29日(日)
会場:東京建物Brillia HALL

 
<大阪公演>
期間:2021年9月4日(土)~12日(日)
会場:新歌舞伎座

 
<愛知公演>
期間:2021年9月25日(土)・26日(日)
ー9月25日(土)18:00
ー9月26日(日)13:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール

 
<スタッフ>
音楽:ダン・ギレスピー・セルズ
作:トム・マックレ

 
日本版演出・振付:ジェフリー・ペイジ
翻訳・訳詞:福田響志
音楽監督:前嶋康明
美術:石原敬
照明:奥野友康
音響:山本浩一
映像:石田肇
衣裳:十川ヒロコ
ヘアメイク:宮内宏明
歌唱指導:高城奈月子
演出補:元吉庸泰
稽古ピアノ:太田裕子
演出助手:河合範子
振付助手:鎌田真梨  
舞台監督:幸光順平

宣伝美術:野寺尚子
宣伝写真:HIRO KIMURA
宣伝ポージング(ジェイミー):FUMIHITO
バルーン制作:家泉あづさ
宣伝衣裳:十川ヒロコ
宣伝ヘアメイク:沓掛倫雄(ジェイミー)、 真知子、 天野誠吾、 高原優子

<キャスト>
ジェイミー・ニュー:森崎ウィン/高橋颯(WATWING)
マーガレット・ニュー:安蘭けい
プリティ:田村芽実/山口乃々華
ディーン・パクストン:佐藤流司/矢部昌暉(DISH//)

ファティマ:伊藤かの子
ミッキー:太田将熙
サイード:川原一馬
サイ:小西詠斗
ベックス:鈴木瑛美子
ヴィッキー:田野優花
ベッカ:フランク莉奈
リーバイ:MAOTO
(五十音順)

ミス・ヘッジ:樋口麻美
ミス・ヘッジ(女性役U/S):実咲凜音
トレイ,ライカ(男性役U/S):永野亮比己
※U/Sアンダースタディ

ライカ・バージン:泉見洋平
トレイ・ソフィスティケイ(ヒューゴ/ロコシャネル役カバー):吉野圭吾

レイ:保坂知寿
ジェイミー父/サンドラ・ボロック:今井清隆
ヒューゴ/ロコシャネル:石川 禅

学生役SWING:
亀井照三
笹尾ヒロト
佐藤みなみ
山村菜海

※ジェイミー、 プリティ、 ディーン役及び、 ミス・ヘッジ、 トレイ、 ライカ役につきまして、 公演により出演キャストが異なります。 出演者を必ずご確認の上お申し込みください。
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