『はい!丸尾不動産です。』姫路公演のリアルタイムフル配信が決定、多面性について考えさせる快作、シリーズ初参戦の堀くるみと未知やすえが発揮した場の支配力

レポート
舞台
2021.9.22
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』 撮影=田浦ボン

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』 撮影=田浦ボン

兵動大樹、桂吉弥が主演をつとめる人気舞台の第3弾『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』の大阪公演が9月7日(火)に終了した。2019年12月以来となった最新作は、コメディ要素、役者たちの芝居、そして現代社会への問いかけなどがまじわり、これまで以上に充実した内容となっていた。大千穐楽10月3日(日)には兵庫県・アクリエひめじ中ホールでの公演も控えており、リアルタイムフル配信も決定した。そこで今回は、『本日、家で再会します』についてレポートする。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

物語の舞台となったのは、大阪のとある寂れた町にあるスナック「つどい」。林田(吉弥)という男がひとりで店を経営しているが、客足はさっぱり。そんな経営不振のスナックに目をつけたのが、不動産屋の営業マン・菅谷(兵動)。再開発事業で一儲けを企む菅谷は、この土地を手に入れるため、幼い頃に生き別れたという林田の息子・正成(近藤頌利)の偽者を用意。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

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「父さん、一緒に暮らそう」と提案させ、店から追い出そうとしていた。しかしそこへ店の客(未知やすえ)、警察官(施鐘泰)、オカマ(佐藤太一郎)、ユーチューバー(安藤夢叶)、謎の女(堀くるみ)が次々とやってきて、開店以来、一番の賑わいに。想定外の来客たちを前に菅谷の計画も狂い始める。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

今作のすばらしいポイントはまず、役者たちがよりのびのびと「場」を楽しんでいるところである。前半の笑いどころとして見せ場のひとつになるのは、兵動と太一郎の罵り合いだ。太一郎演じるローズが、菅谷の顔面を酷評すれば、菅谷もローズの特徴的な部位をイジり倒す。この場面でふたりが放つテンションは、おそらく公演回ごとに違うはず。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

つまり姫路公演では、大阪公演時とはまた違った雰囲気になりそうなのだ。しかも兵動、太一郎のアドリブも絡めた口喧嘩を後ろで見ている吉弥が、思わず素で笑っていたところが印象的だった。「場」のノリを満喫している様子がうかがえた。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

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堀くるみも初舞台とは思えないコメディエンヌぶりを披露。彼女の演技は「めっけもん」だ。何が驚きかというと、堀が演じたキャラメルちゃんが中心になるシーンでは、ほぼすべて笑いが生まれる点である。時には、あの兵動さえも容赦なく叩き台にして笑わせにかかる。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

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自分の素性に対する疑いを晴らすため、咄嗟に「バイトをしにきた」と張り紙を指差すところの芝居など、リアクションや間合いも絶妙。後半にはシビアな展開が待っているのだが、それでも掘はオモシロ要素を欠かさない。役者としての今後に大きな期待を持たせるものだった。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

吉本主催以外の舞台には初出演となった未知やすえは、「さすが」という堂々とした立ち回りをみせた。舞台上での支配力が圧倒的だ。押すときは押す、引くところは引く。そのコントラストをはっきりつけていることもあって、「未知が動けば話が動く」というふうである。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

あと、彼女が劇中で要求する些細なモノが登場人物たちの運命を左右していく。そういう意味でも、彼女の言葉と動作は見逃してはならない。また、シリアスな役どころでありながら、合間に遊びを入れているので「場」が深刻になりすぎない。未知やすえの役者としての懐の深さにあらためて気付かされた。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

同作に流れる「人は誰だって多面的である」というテーマも見ごたえがあった。わたしたちは当然ながら、人前に出るときの姿と、自分や身内にしか見せない姿というものが二面、三面とある。『本日、家で再会します』の登場人物たちも、もちろんいろんな顔を持っている。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

再開発事業で大金を得るために詐欺まがいのことをする菅谷、女性として見られたいローズ、林田の息子を名乗る偽物の正成……など、みんなプロフィールも多面的だ。さらにある人物の「世を忍ぶ仮の姿」という台詞、各自が抱えている秘密などなど。人間のあり方、見た目、本性などはひとくくりにできない。そこに「差別」「容姿いじり」というワードもまじわってくるので、よりメッセージ色が濃くなる。多面性、表面と裏面、差別意識と好き嫌いの感覚、容姿をいじること。見えているものだけがすべてなのだろうか。もちろんそうではない。SNS全盛の時代、見えないところでも人はさまざまな生き方をしている。すべてがひとつの線となって『家で再会します』の内在的な物語を形づくっている。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』

今回は、言葉(台詞)で説得する要素が強まっているところにも注目だ。今の世の中で誰もが疑問に感じていること、違和感を覚えていること。それらを実直にあらわしているようにも思えた。上演時間は2時間を越えるが、訴えたいものがぎっしりと詰まった作品となっている。

取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン

配信情報

『はい!丸尾不動産です。〜本日、家で再会します〜』姫路公演 
●出演:兵動大樹 桂吉弥/佐藤太一郎、施鐘泰(JONTE)、近藤頌利(劇団Patch)、堀くるみ、安藤夢叶/未知やすえ 
●原案/本日、家を買います。(2015年6月上演) 
●作/古家和尚 
●原案・演出・プロデュース/木村 淳(カンテレ) 
●2021年10月3日(日)12:00開演、アクリエひめじ中ホール 
●ライブ配信日時:2021年10月3日(日)12時公演  ※上演時間は約2時間30分予定(Specialカーテンコール含む) 
視聴料金:3,850円(税込) 
取り扱い:イープラス(https://eplus.jp/maruofudosan-st/)  
販売期間:9月22日(水)5時~10月6日(水)21時まで
アーカイブ配信視聴可能時間:2021年10月6日(水)23時59分まで 
※ライブ配信後に再配信処理を行うため、視聴できない時間あり 
主催/企画・製作:関西テレビ放送 
丸尾不動産公式ホームページ  https://www.ktv.jp/event/maruo2021/ 
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