【考察】DECO*27「ヴァンパイア」「シンデレラ」「インベーダー」 連なるように感情を擬人化した3作が脳内を支配する

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2021.10.15
インベーダー

インベーダー

黎明期からボカロ文化を牽引し続けてきた音楽クリエイター・DECO*27と、彼の制作において欠かすことのできないパートナーである作編曲家/ギタリストのRockwell。「ヒバナ」や「乙女解剖」など、多くの大ヒットボカロ曲を世に送り出してきた最強タッグに、ここのところよりいっそう心を揺さぶられ続けている。

誰かを想えば想うほどに苦しくなったり、自分を偽ったり、妄想が止まらなくなったり。生きている限り愛を求めてしまう人という生き物の性(さが)を、生々しく、それでいてキャッチーにリスナーへと届けてしまうのが彼ら。中でも、「ヴァンパイア」=“吸血鬼”、「シンデレラ」=“お姫様”と、明確なアイコンを通して表現する純真や葛藤は、あまりにも鮮烈だ。

「ヴァンパイア feat. 初音ミク」

<あたしヴァンパイア>という始まりから、<いいの?吸っちゃっていいの?>と、血に飢えるヴァンパイアのように積極的にアプローチする「ヴァンパイア」。DECO*27の62作目の楽曲にして、それまでに発表してきたボカロ曲とは一線を画すダンスチューンであり、<求めちゃってまた枯らしちゃって>しまうほど、もっともっと愛してほしい、という飽くなき欲求をヴァンパイアの吸血衝動に重ねた“ヤンデレ”曲だ。求めて求めて求めた挙句、<枯らしちゃって>=恋愛関係が終わってしまったならば、<泣いて忘れたら「はじめまして」>と、新しい恋へと突き進む<あたし>。そんな<あたし>によって<きみもヴァンパイア>になって、きっとその恋煩いは連鎖していく――。<割り切れないけど余りじゃない>というフレーズにしても、恋をしたことがある人ならば共感せずにはいられないだろう。印象的なギターリフが耳に残るRockwellのアレンジも、さすがの手腕だ。八三が担当したMVのイラストに描かれている初音ミクの首元には噛み傷を隠す絆創膏が貼られ、マスクを下げあらわになった口元にはかわいく尖った牙がのぞいていて、その小悪魔的な魅力も罪深い。YouTubeやTikTokでは、人気歌い手による“歌ってみた”動画やオリジナルの振り付けで踊るダンス動画が数多投稿され、その熱狂は当分続くだろう。

「シンデレラ feat. 初音ミク」

そんな「ヴァンパイア」に続き、8月に動画公開された「シンデレラ」は、同じく踊れるポップナンバーでありながら、肉食&ダークな初音ミクから一転、<残念なあたし>が主人公のナンバー。<だっだっだ だいじょばない ちょっと蛹になって出直すわ>というサビ始まりからして、引っ込み思案で<残念なあたし>の奮闘が、どうにも愛おしい。<愛とか恋とか全部くだらない>と強がっていたものの、<ホントのところはあなたにモテたい>だなんて、かわいいにもほどがある。恋をした途端、<決まんないの前髪が>とイライラしたり、目が合えば<逸らしちゃって まーた自己嫌悪>に陥ったり。これまた、あるある!という共感を呼ぶ。加えて、<入んないのこの靴が><鐘が鳴って灰になって><ハローをくれたあなたと踊っちゃって><ちょっとお待ちになって王子様>と、『シンデレラ』のストーリーを思わせるワードをたたみかけながら、好きな気持ちで猪突猛進したい女の子を待ち受ける現実感も提示。なんと絶妙なバランスだろうか。「ヴァンパイア」と同じくMVのイラストを手がける八三が描くのは、しょぼん顔の初音ミク。髪や瞳の色が同じこともあり、実は「ヴァンパイア」と「シンデレラ」の主人公は同一人物なのでは!?という考察ができたりもするし、「ヴァンパイア」と「シンデレラ」のMASHUP動画も話題に。楽しみは、まだまだ尽きない。

そして、もう1曲。とても気になるのが、「インベーダー」である。次世代のボーカルグループとして注目を集めるmzsrz(ミズシラズ)の4thシングルであり、9月25日にリリックビデオも公開されたこのナンバー。作詞・作曲をグループのプロデューサーであるDECO*27が、アレンジをRockwellがアレンジを手がけているではないか。しかも、「ヴァンパイア」=“吸血鬼”、「シンデレラ」=“お姫様”ときて、「インベーダー」=“侵略者”とは、どうしたって深読みしたくなる。

「インベーダー」

実際、“愛情”と“依存”をテーマに、身も心も“侵略”され翻弄される赤裸々な心情をあぶり出す「インベーダー」の歌詞は、「ヴァンパイア」「シンデレラ」同様、痛いほどに突き刺さる。「ヴァンパイア」の<割り切れないけど余りじゃない>と同じく、恋する胸の内に渦巻くモヤモヤを突くような<好きってどうも余ってしまうじゃない>。「シンデレラ」ににじむもどかしさが重なる、<君>を失いたくなくて自分の気持ちを押し殺してしまう、<バイバイは笑えないから 「嫌だ」は黙っちゃった>。しかし、<壊れちゃう>と不安を覚えながらも<溺れたいよ>と求めてしまうそのひとときは、もっとも“生”を実感できるのではないだろうか。そんな不安定な心の浮き沈みに、mzsrzという生身の5人の声がよく似合う。

ちなみに、「インベーダー」はグループ結成のきっかけとなったオーディション番組『ヨルヤン』の課題曲であり、mzsrzにとって原点の楽曲。その審査員でもあったDECO*27がTwitter上にイントロ・Aメロ・Bメロ・サビのトラックを2種類ずつ公表し、ファン投票によって各パートが決定、それを繋げて出来上がったという画期的な制作方法がとられていることもあり、緩急目まぐるしいメロディラインが印象的なロックナンバーだ。mzsrz の5人は、多感な10代。リスナーの感情とリンクする彼女たちの真っ直ぐな歌声とDECO*27×Rockwellが描く情動は、とんでもなく刺激的な化学反応を起こしているのだ。イラストをKICOが、振り付けを足太ぺんたが、モーショングラフィックをRayleighが手がけたリリックビデオにも、胸がざわざわ、ざわざわ。何度でも再生ボタンを押したくなってしまう。

大胆に迫ったり、どぎまぎ夢見たり、<バカみたい>に振り回されたり。「ヴァンパイア」、「シンデレラ」、「インベーダー」を、恋の三部作のようにとらえてしまうのは、乱暴だろうか。いづれにせよ、エモーショナルで中毒性が高く、連なるように感情を擬人化したDECO*27による3作が、今日も脳内を圧倒的に支配している。
 

文章=杉江 優花

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