『ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS』レポート Mr.Childrenや宮本浩次、MISIAらが音楽を通じ示したもの

レポート
音楽
2021.10.22
Bank Band Photo:樋口 涼

Bank Band Photo:樋口 涼

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『ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS』

ミュージシャンたちの歌と演奏に聴き惚れた。同時に、刻一刻と変化していく空の色に見とれた。画面越しではあるのだが、音楽と青空と雲とのアンサンブル、風と草木のハーモニーを察知するのは格別な体験だ。3年ぶりの開催となる『ap bank fes』、今年は初の無観客配信ライブとなった。会場に選ばれた千葉県木更津市にある「クルックフィールズ」は、「農」「食」「アート」が融合したサステナブルファーム&パークで、コロナ禍でのフェスのあり方を模索していく中で導き出された場所ということになるだろう。

『ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS』のテーマは「to U」。櫻井和寿の言葉を借りると、「自分以外の誰かのためを想って」ということになる。配信ライブはドローンによるクルックフィールズの空撮映像から始まった。銀色のソーラーパネルが光り輝いている。池の表面に青空が映っている。Bank Bandの「to U」で描かれている世界と共通する風景がここにある。ステージが設置されたテントへと映像は寄っていく。

小林武史のピアノに続いて櫻井和寿の歌声で始まった1曲目は「緑の街」だった。この場所でこのシチュエーションで歌われることによって、特別な輝きを放っていた。<届け この想い 今の君に><いつかきっと会える その時まで>といったフレーズは画面越しのリスナーの胸にダイレクトに届いたのではないだろうか。いつの日か、生のライブを思う存分楽しんでほしい。一緒にライブを楽しみたい。そんな気持ちがこもった歌として届いてきたからだ。小林武史(Key)、小倉博和(Gt)、亀田誠治(Ba)、河村“カースケ”智康(Dr)、沖祥子(Vn)、小田原 ODY 友洋(Cho)、Kayo(Cho)というBank Bandの演奏が櫻井の歌と一体となって届いてきた。

続いてはキリンジの「Drifter」が演奏された。心憎い選曲、そして心に届く選曲だ。櫻井のヒューマンな歌声と、その声を包み込むようなBank Bandが素晴らしい。音楽を奏でることの気持ち良さが画面越しにも伝わってくる。気持ち良さ、楽しさだけではない。その楽しさの背後に強い意志のようなものがあることも伝わってくる。音楽の懐の深さを感じるのはこんな瞬間だ。

「あいにく無観客、しかも配信ですが、カメラの向こうにたくさんの人がニコニコ笑顔でいるイメージ、確信で。しっかり何かが届いていると信じてやりたいと思います」と櫻井のMC。曲間やMCの最中も小林がピアノを奏でている。この日演奏された曲たちがこのピアノの調べによって、ゆるやかにつながっていると感じた。

「緑の街」に続いては、活動初期からap bankのテーマ曲のように歌い続けてきた中島みゆきの「糸」。<誰かを温めうるかもしれない>というフレーズを、本気で共感して人たちが歌い、奏でるからこそ、この曲の説得力が際立っていく。糸の織りなしが織物になるように、Bank Bandの一人一人の音が混ざり合って、画面越しのリスナーを包み込んでいく。

一人目のゲストとして登場したmiletの1曲目は「inside you」。繊細さと凜とした強さとが共存するソウルフルな歌声がダイレクトに届いてくる。彼女の歌声の波動のようなものが確かに伝わってきた。「とっても気持ち良くて、うれしいです。胸が高鳴ってどこかに行っちゃそうですけど。画面の奥のみなさんに、この思いと自然と生きているというこの瞬間の生感を楽しんでいただければと思います」という言葉に続いては「Ordinary days」。多彩な表情を備えていて、なおかつ起伏に富んだ歌からは、さまざまな思いがほとばしっていく。彼女のスケールの大きな歌声が空と大地が広がるクルックフィールズによく似合っていた。<そこに光が差すように>というフレーズが歌われている瞬間、光り輝く雲が見えて、歌と自然とが一体になっていると感じる瞬間があった。

続いてのゲストはこれまでにも数多くap bank fesに参加しているSalyu。1曲目は「風に乗る船」。まるでこの日のステージそのものが“風に乗る船”のようにも見えてくる。ステージの上のテントが帆だ。Salyuの歌声がクルックフィールズの木々を揺らす風に乗って届いてくるかのようだった。「Bank Bandのみなさんとこうして奏でられて、とてもうれしいです」という言葉に続いては「THE RAIN」。曲が展開していくほどに、Salyuのボーカルが広がっていく。聴き手にも高揚感や開放感をもたらす歌声だ。

「この方は登場の仕方で一気にボルテージをあげてくれます」という小林の紹介に続いて、ド派手なサンバの衣装で登場したのはKANだった。青空と白い雲、あたりに広がる緑、そして黄色と赤の羽根。対比がすごいことになっている。1曲目の「何の変哲もないLove Song」は先日発売になったBank Bandのベストアルバム『沿志奏逢 4』にも収録されている曲だ。この曲の出だしの<晴れ渡る空に白い雲>というフレーズも、この場所にぴったりだ。ほのかにレゲエのテイストがにじむ牧歌的なアレンジがいい。KANのフレンドリーな歌声にも見事にマッチしていた。KANがキーボードを弾きながらの歌を披露したのは説明不要の「愛は勝つ」。歌の世界と衣装とギャップが激しいが、曲の持っているパワーは確かに伝わってきた。

3曲目はKANの最新アルバム『23歳』収録曲の「君のマスクをはずしたい」。なんと櫻井が白に赤の羽根を背中に装着している。KANのサンバ衣装に合わせたスタイルで登場して、ギターとコーラスで参加したのだ。ギターサウンド全開のロックンロールに、タイムリーな歌詞が乗っている。残念ながら無観客なので客席の笑顔を見ることはできないが、おそらく配信で視聴している人たちは画面を見ながら、笑っていたのではないだろうか。おもしろさが音楽の世界をさらに豊かにすることもある。根底にあるのは人を楽しませたいという“to U”の精神だろう。さらにKANと櫻井の共作による“弾き語り”ならぬ「弾かな語り」を二人のアカペラで披露した。歌声、ハーモニ、歌詞、曲の構成、アレンジ、どれもさすが。遊び心あふれる音楽を本気でやっている。歌い終わって、見えない拍手に対して、羽を揺さぶって応える二人の姿が最高だった。

続いては配信の特別版に収録されているMr.Childrenのステージだ。「ただいまという気持ちと、配信ご覧のみなさんもap bank fesによく戻ってきてくれました、おかえりなさいという気持ちをめいっぱい注いで、何がなんでもこの曲を」という桜井のMCに続いてのMr.Childrenの1曲目は「彩り」だった。MCで語っていた「ただいま」と「おかえり」という言葉はこの曲の歌詞にも共通するものだ。桜井の「ただいま」に対して、田原健一、中川敬輔、鈴木英哉が「おかえり」と返して歌っている。メンバー4人が木々に包まれたステージ上で時折、笑顔を浮かべ、気持ち良さそうに演奏する姿が印象的だった。

「すっごく気持ちいいよ。幸せです。僕らだけが幸せになってもなんなので、今、観ているみなさんを目一杯幸せにしたいと思います」という桜井の言葉に続いては「HANABI」。4人が心をひとつにして奏でることによって、バンドならではの、そしてライブならではの高ぶりや熱がリアルに伝わってくる。<君に逢いたい>というフレーズが配信であるからこそ、より強く響いてくる。桜井と鈴木が笑顔で向き合ってのフィニッシュ。

桜井のアコギのつまびきで始まったのは「I'll be」だ。歌声が演奏を牽引し、演奏が歌を牽引して、後半にいくほどに壮大な広がりを見せていく。バンドだからこそ到達できる高みへと、メンバーが一致団結して目指していくようなステージだ。バンドサウンドからは確かなパワーが伝わってきた。このパワーはおそらく画面からリスナーの目と耳に入り、エネルギーへと変換されたのではないだろうか。

ステージを囲んでいる木々が風で揺れている。こんな日には自然に口笛が吹きたくなる。Mr.Childrenの最後の曲は「口笛」。メンバーが丹念な演奏を展開している。さりげないのに、かけがえがない。いや、さりげないから、かけがえがない。そんな歌。Mr.Childrenのステージが終わると、空のブルーにかすかに薄いパープルが混じり、夕暮れ空に近づいていた。空に浮かぶ雲の灰色の色合いも美しい。

「ついにこの方をお呼びします」という小林の紹介に続いて、宮本浩次がピアノとバイオリンの調べに乗って登場した。そのままバンドの演奏が加わって始まったのは宮本のカバーアルバム『ROMANCE』収録曲、久保田早紀の「異邦人」だ。歌詞に出てくる<空>や<大地>が、このステージを取り巻く自然とシンクロしていく。宮本の自在な歌とパフォーマンスは野外というシチュエーションによく似合っている。他の出演者との大きな違いは行動半径の広さだ。1コーラス目の途中でステージを下り、芝生の中で歌ったかと思うと、ステージに戻ってうつぶせになり、階段から落ちそうになりながら歌っている。歌の表現と全身での表現が連動していて、歌に込められた感情の起伏がそのまま、パフォーマンスにも反映しているのだ。

2曲目はクルックフィールズの風に吹かれながらの「風に吹かれて」。エレファントカシマシの代表曲の一つだ。宮本が歌いながら、「エブリバディ」「ベイビー!」「会いたいぜ!」といった言葉をシャウトしている。画面越しの観客の気配を感じながら歌い、パフォーマンスしていることがはっきり伝わってくる。宮本が芝生におりて石ころを拾い、手の平に乗せて歌う場面もあった。大地すべてがステージで、自然が小道具。自然の中での宮本の自然な歌声が胸を揺さぶっていく。

夕陽を浴びて走り回りながらの「ハレルヤ」、<涙のあとには笑いがあるはずさ>などのフレーズがとつてもない説得力を放っていた「悲しみの果て」、空と大地と画面越しに愛が充満していくような「P.S. I love you」と、規格外の歌とパフォーマンスを展開。縦横無尽な、そして一心不乱の歌の連続。宮本のステージが終わった瞬間、笑ってしまった。とてつもないものには人を笑わせる力がある。そして理屈抜きで人を愉快にする力がある。

歌のパワーを実感させるステージが続く。「圧倒的な歌唱力を聴いていると、透明になるというか、浮遊していく感覚になります」という小林の紹介に続いて、この日の空の色を思わすような衣装で登場したのはMISIAだった。まずは「アイノカタチ」。小林の奏でるピアノに乗って、伸びやかな歌声が聴き手に寄り添っていく。途中からBank Bandの演奏が加わって、歌の世界観が広がっていくと、太陽が大地を照らすように、MISIAの包容力あふれる歌声があたり一面に降りそそいでいく。

「音楽を届けたいという思いは、みんなで一緒に力を合わせて生きていこうよという思いそのものという気がしています。私の思いも一緒に届けさせていただけたら」という言葉に続いては「歌を歌おう」。この曲は、MISIAが中心となって制作プロジェクトを立ち上げて、さだまさしがコロナ禍を踏まえて作詞作曲したチャリティソングだ。「to U」「自分以外の誰かのためを想って」というテーマともリンクする。空や大地や聴き手と共鳴していくような歌声が見事だった。<I sing a song for you>という歌声からは歌う決意のようなものもにじんでいた。

日が沈み、あたりが暗くなり、フィナーレが近づいていく。櫻井和寿が再び(いや、三度、四度?)登場して、Bank Bandでの演奏が展開されていく。フェスが終盤に差しかかり、薄暮が広がるタイミングでのフジファブリックの「若者のすべて」。選曲の素晴らしさも際立っていた。“この場面で歌われるのがふさわしい”と感じる曲が並んでいた。「若者のすべて」の<同じ空を見上げているよ>というフレーズにもグッと来てしまった。

「ずっとやってきたことは変わらず、自分以外の誰かのことを想って集ったり、演奏したりしている気がします。今から歌う歌はサブタイトルにBank Bandのテーマ曲とついてます」という櫻井のMCに続いては「奏逢 〜Bank Bandのテーマ〜」。音楽によって人と人とを繋ぐ温かなエネルギーに満ちあふれた曲だ。櫻井がハンドクラップしながら、「ちょっと立つかい? 立つかい?」と近くで観ているスタッフをあおっている。いや、これはスタッフだけではなくて、画面越しのリスナーへの言葉でもあるだろう。座って観ている場合ではない。演奏している人間も聴いている人間も等しく笑顔にしてしまう歌だ。一転して、たおやかなバイオリンで始まり、パーソナルな歌声が深く染みてくる「MESSAGE -メッセージ-」へ。Salyuも参加して、櫻井とのデュエットによって、歌の世界に奥行きが増していく。

続いては宮本が登場して、宮本浩次×櫻井和寿 organized by ap bank名義の「東京協奏曲」が披露された。小林武史と宮本浩次と櫻井和寿という3人のつながりから生まれた曲だ。とっぷりと暮れた空の下での歌。宮本の歌で始まり、櫻井が繋いでいく。Bank Bandの演奏も二人の歌と一体になっていく。同じステージで一緒に歌っているからこその信じられない化学変化が起こっていた。一方の素晴らしい歌声がもう一方の素晴らしい歌声を引き出していく。<言葉になれ><メロディになれ>というフレーズでのハーモニーをなんと表現したらいいのだろうか。音楽の素晴らしさがこの瞬間に凝縮されていた。最後には二人が肩を組む場面もあった。微笑ましくも、どこかシュールな構図だ。

奇跡的なコラボレーションに続いてはSyrup 16gの「Reborn」。小倉のスライドギターによって、音楽の深い森へと誘われていくようだ。櫻井の歌とBank Bandのニュアンス豊かな演奏に聴き惚れた。櫻井が繰り返し歌っていた<Reborn>というフレーズは、この困難な時代に深く強く響いてきた。

すべてが名場面と言いたくなるような『ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS』。「えんやこら」という歌声と和太鼓など、民謡の持っているプリミティブなパワーが詰まったSEが流れて、MISIAも参加して始まったのはBank Band feat. MISIAの「forgive」だ。MISIAの生命力あふれる歌声での始まり。MISIAと櫻井が一緒に歌っている。ともに飛び跳ね、全身で歌の世界を表現している。MISIAと櫻井がデュエットし、Bank Bandが躍動感あふれる演奏を展開することによって、人が連帯することのかけがえのなさも伝わってくる。櫻井が夜空を見上げている。MISIAが目を閉じてマイクを握りしめ、うつむきながらバンドの演奏を聴いている。櫻井が見上げていたもの、そしてMISIAが耳を澄ましていたものは“未来”であるに違いない。<声よ響け><次の未来へと><涙を連れて飛んでけ><次の僕らへと>という二人の歌声が聴き手に未来のありかを示していく。

「自分以外の誰かや何かのことを想って活動を始めたap bankなんですが、長い時間を旅して、自分達にもこんな豊かな思いを届けてくれる曲になるとは思ってなくて、大変ありがたいことだと思っています」と最後の曲の前に小林からの挨拶があった。さらに「この曲が寄り添って、いろんな想いとともに旅を続けていけることを願って」という小林の言葉に続いて、最後に演奏されたのはap bank fesのテーマ曲とも言える「to U」だった。Salyuの穏やかな歌で始まり、櫻井の柔らかな歌声が加わっていく。櫻井とSalyuのハーモニーにはap bankのここまでの歩みも染みこんでいるようだった。フェスの根底に流れるヒューマニティーを象徴するような歌と演奏でのフィニッシュ。夜のとばりがフェスの終演の天然の幕となった。

音楽の素晴らしさと自然の美しさのハーモニーを堪能した。無観客配信という形で、ミュージシャンとリスナーが同じ場所にいるわけではないからこそ、つながっていくことのかけがえのなさが際立ったフェスだった。音楽とは奏でる側と聴く側を連帯させるものでもあるだろう。個人的な感想になってしまうが、画面越しであったが、あふれるほどの愛と希望を確かに受け取ったと感じた。

誰かに向けて、何かに向けて、そして未来に向けて。こうしたあり方は困難な時代だからこそ、必要なことであるに違いない。クルックフィールズで展開された数々のステージによって、『ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS』が示したものは、次のステージへと確実につながっていくだろう。


取材・文=長谷川誠 撮影=樋口 涼

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