MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第三十回目のゲストはイワクラ(蛙亭) 女性である前に、私は芸人だから面白く話せたら良い
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MOROHAアフロの逢いたい、相対:イワクラ(蛙亭) 撮影=高田梓
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第三十回目のゲストは、男女お笑いコンビとして活躍する蛙亭のイワクラ。2020年12月5日(土)に放送された『ゴッドタン』内の企画「マジ歌ルーキーオーディション」にイワクラは出演し、芸人としての生き様を歌で表現した「ごめんなさい」を披露。<面白い人は性別で笑いを判断しない>、<お前らがマスかいてる間に私はネタ書いて必ず獲ってやるよキングオブコント>など心の内を歌い上げたあと、劇団ひとりに「歌っていうか語りに近い感じじゃない?」と聞かれて、イワクラは「MOROHAさんが大好きで」と答えた。そして今回、待望の対談が実現。作品作りへの思い、『ゴッドタン』のあのシーンについても語り合った。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
●謝罪の最上級は「許される資格がないから謝まりません」かもしれない●
イワクラ:寝坊しました! すみません!
アフロ:ハハハ。全然間に合ってますよ! MOROHAは二人とも遅刻をやっちゃう方なんですけど、イワクラさんもそうですか?
イワクラ:は、はい。
アフロ:相方のUKは寝坊をすると、まずタバコを吸うらしくて。一服しながらどんな言い訳をしようか考えると言ってました。
イワクラ:うわー、すげえ。
アフロ:そういうときに曲のフレーズも浮かぶらしいです。「人間は目の前の危機感に対して、どう対処しようか考えるときに1番頭が回るんだ」とか、それっぽいこと言ってましたけど。
イワクラ:私は、どんなときも頭が真っ白なんで真逆ですね。謝る術も思いつかないです。
アフロ:謝罪の言葉が思いつかないということ?
イワクラ:はい。それで結局「おはようございます」と言って、謝ることすらも忘れているときがあって。最悪の……「こいつ本当にやばい奴だ」と思われます。
アフロ:言葉にしないまでも、態度で申し訳ない感じは出すんですか?
イワクラ:それは、はい。「自分は本当にカスみたいな人間で……」という姿勢で行きます。
アフロ:俺の大好きな漫画で『アフロ田中』という作品があって。どうしても会社へ行きたくないから無断欠勤をする回があるんです。後日、上司から「何か言うことはないのか?」と聞かれて「何も言うことはありません」と。なぜなら、謝るということは「許しを乞う」ということだから、それさえもおこがましい。俺は寝坊をしたわけではなく、ただ会社に行きたくなかっただけ。これは許されることじゃないし、許されようとしちゃいけないから謝らないという。
イワクラ:すげえ。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:謝罪の最上級は「許される資格がないから謝まりません」かもしれない。
イワクラ:これ、ちょっとすごい話だ……。というのも相方(中野周平)がそういう人なんです。ネタを飛ばしても一切謝らない。「だって謝っても、その時間は戻ってこないじゃないか」と。
アフロ:まさにそういうことかもしれない。許しを求めるなんて、烏滸がましいと思っているんですかね。
イワクラ:言い方が違うから、私は毎度ムカついていたんですけど、考え方は一緒かもしれない。
アフロ:漫画の中では「どんな罵倒も受け入れる」と言ってました。
イワクラ:確かに。私がどんなに相方を罵倒しても「ヒヒヒヒ!」と笑ってます。うわ、中野さんはすごい人だったんだ!
アフロ:その姿が目に浮かぶ! ちなみに初めて中野さんの声を聞いたとき、良い声だなと思いました?
イワクラ:思いました。NSCにいた頃、中野さんが喋ると「声高っ! オモロ!」みたいな感じでみんながクスクス笑っていて。「アムロ・レイのモノマネしまーす!」と言って、そのネタはめっちゃ滑っていたんですけど、普通に喋っている声はオモロいなと。ネタで強いワードを言うときにも「この声だから面白く聞こえるんだな」と思います。
アフロ:中野さんは、コントでちょっと残念というか、生きにくいような役をされるじゃないですか。でも中野さんの持つ、あの声と雰囲気があるから、なんか悲壮感がないんですよね。「家に帰って友達がいなくても、この人は楽しく過ごせているだろうな」という安心感がどの役にもあるから、こっちも後味が良く笑える。それはすごいことだと思うんです。
イワクラ:最近、相方がめっちゃすごいなと思っていて。無敵なんで本当に。
アフロ:2人でテレビやラジオに出てるときは、イワクラさんが中野さんに対して「全然ダメな奴で」と言ってるイメージありますけど、心の中ではやっぱりすごいと思っているんですね。
イワクラ:めっちゃ思います。
アフロ:そうじゃなきゃ、コンビを続けられないですよね。
イワクラ:本人に直接言うことはないですけど、第三者には「中野さんはすごい」と言ってますね。
●ライブ後に「ギターがめっちゃ上手いですね」と言われるのは、一番良くない●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:ネタはイワクラさんが1人で考えているんですか?
イワクラ:設定だけです。中野さんに「めっちゃ喋るキャラにして」と言ったら、その通りにセリフや動きも考えてくれます。
アフロ:それだけ引き出しがあるんですね。
イワクラ:中野さんの中で「これはキタ! と思うことがある」と言ってました。
アフロ:「いよいよ、自分の中で眠っていたこのキャラを出せる」みたいな?
イワクラ:そうです。
アフロ:なるほど、それは俺もUKのギターにリリックを引き出して貰える感覚に近いのかもしれない。新しいリフを聴いた瞬間に「ようやくあの感情が曲になる」みたいに思った事はあるかも。漫画家さんの場合は、キャラクターが勝手に動き出すと言いますよね。イワクラさんが設定を考えるとき、頭の中で中野さんが勝手に動き出す感覚はありますか?
イワクラ:大体のネタがそうですね。まずは「中野さんが何をしていたら面白いのか」から考えます。
アフロ:中野さんが何をしていたら、それに対してイワクラさんがどう動いたら面白いのか。
イワクラ:いえ、私はまだそれが出来ていなくて。自分がどうすると面白いかをまだ考えられていないから、それで言うと今は中野さんに頼りきってる感じです。今後は、自分もちゃんと面白いネタを作らないとなと思います。
アフロ:やっぱりネタは両方が面白いと成立しないのかな?
イワクラ:このネタは中野さんに注目して欲しいと思ったら、そっちが立つようにしています。2人とも面白くてもいいと思うんですけど、楽しいだけになっちゃうかなと。
アフロ:楽しいと面白いは違うのか!
イワクラ:そう思います。もちろん、どんなネタでも楽しい気持ちがあるから、面白さを追うのは嫌じゃないですけど。
アフロ:俺らはライブをする上で、上手さが前に出ちゃうのは良くないと思っていて。技術的なところよりも「グッときた」が先にあるべき。相方はライブ後に「ギターがめっちゃ上手いですね」と言われるのは、一番良くなかった日だと言ってます。今の「楽しいのと面白いはどっちが前に出るべきか」の話とちょっと近いかもしれないですね。
●みんなも3位決定戦を生きているんだと思う●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
イワクラ:そうですね。あの、今日ちょっとお聞きしたいことがありまして。私は電車に乗っていたり、居酒屋へ行ったときにも「今、中野さんがどこで何をしていたら面白いかな」と考えるんです。アフロさんは、どんなときに歌詞が思い浮かぶんですか?
アフロ:俺は、ちょっと悲しい場面を見るとグッときちゃうんですよね。電車でお婆ちゃんに席を譲ろうとした人が「大丈夫ですよ」と断られちゃって、もう一度座り直す。そういう場面を目にしたときにグッときちゃう。優しい物語がうまく進まなかったとき、そこに向けた言葉はすごく核心を突いたものになる気がします。最近だとスポーツの3位決定戦が一番、すごいんじゃないかと思っていて。柔道の世界大会で優勝候補と言われていた日本人選手が準決勝で負けてしまったとき、周りも自分もすごく落胆してるはずなんです。だけど3位決定戦が残っている。そこは何をモチベーションに闘うのかと言ったら、俺の想像ですけど、銅メダルよりも自分の努力に対しての誇りだと思うんです。仮に3位になっても、周囲からは金以外認めてもらえない、自分自身も金メダルだけを追いかけて闘ってきた、それでも柔道に誠意を持って向き合い闘うが3位決定戦だと思う。だからテレビの前で、選手が入場する際の顔とか佇まいも見ちゃいます。
イワクラ:なるほど。
アフロ:そういう意味じゃ、世の中には3位決定戦を生きている人が沢山いると思う。多くの人が叶わなかった夢の続きを生きているわけだし。だから3位決定戦は雲の上のトップアスリートが俺たちの世界に降りてきた瞬間に思える。最近はそこにグッときました。
イワクラ:そういうときに歌詞が思いつくんですか?
アフロ:そうっすね。その気高さを称えたいなと思います。自分もそんな人でありたいと思うし。言葉よりも先に思いが出てくると曲の完成までもっていける気がします。何に感動して、自分はどうなのか、それを解析し言語化したのが俺の歌詞だと思います。イワクラさんはどうやってネタを作っていますか?
イワクラ:先ほど仰っていただいたみたいに、お婆ちゃんに席を譲ろうとして断られた人が中野さんだったら、どうするだろう? と考えます。断られたあとの中野さんが何をしていたら面白いかなと考えるのがめっちゃ楽しいですね。1人で想像して、電車の中でニヤニヤしちゃいます。
アフロ:それは恋ですよね。「あの人だったらどうするだろう」と考えるのは。
イワクラ:あ……うー!
アフロ:今、嫌そうな顔したなー!
アフロ・イワクラ:ハハハ!
●普通の人だから、普通のことをしていたらヤバいと思った●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
イワクラ:そもそも私がMOROHAさんを聴くようになったキッカケは、ダブルアートの真べぇさんが「めっちゃ良いアーティストがいる」と教えてくださって。それでMOROHAさんの曲を聴いたときに衝撃を受けたんです。それで、十三(じゅうそう)にあるライブハウスのファンダンゴ(※現在は堺に移転)へライブを観に行ったら、益々大好きになって。バイトへ行くときや帰り道に聴いて「自分も頑張ろう」と背中を押されていました。大阪時代は、居酒屋さんでバイトをしていまして。ある日、そのお店にアフロさんが来られたんです。「めっちゃ聴いてます」と言おうと思ったんですけど、ミーハーだと思われちゃう気がして、淡々とご飯を提供してました。聞こえてきたのが「俺、ダメなんですよね。先輩にも怒られてるし……」というお話をアフロさんがされていて。「まさにMOROHAや」と思いました。
アフロ:ハハハ! 何したんだろ! その時の俺! じゃあ、大阪で会ってたんだ。上京されたのは去年でしたっけ?
イワクラ:そうです。去年4月に上京しました。
アフロ:大阪でやれることはやったから、次のステップアップとして東京に来たんですか?
イワクラ:本当は、大阪で賞レースを獲ってから東京に行こうと思っていたんですけど、それよりも『キングオブコント』で優勝したいと思って。大阪の人は大阪で受けるんですけど、あえて2019年の『キングオブコント』は東京で受けてみたんです。そしたら初めて準決勝まで行けて。どちらにせよ、準決勝と決勝は東京でやるから、早めに上京して環境に慣れておきたいなと思ったんです。それに私は売れてなかったので、大阪に止まる理由もないなと思って来ました。
アフロ:なるほど。全ては『キングオブコント』の為だったんだ。上京をしたのは何歳のときですか?
イワクラ:30歳のときです。
アフロ:その年で上京するのは、お笑いに関係なくドキドキしました?
イワクラ:21歳でNSCに入ったんですけど、その前まで宮崎にいて。宮崎から大阪へ行くときの方が、上京する感覚は強かったかもしれないです。
アフロ:宮崎から大阪は暮らしは相当変わりそうっすね。今はルームシェアをしているんですよね?
イワクラ:そうです。大阪でもルームシェアをしていて、東京でもルームシェアをしてます。芸人になりたての頃、宮崎から来た普通の人間だから、普通のことをしていたらヤバいと思ったんです。「男とルームシェアするのは珍しい」と言われたんですけど、普通に一人暮らしをしても絶対に面白いエピソードは生まれないから、みんなで住むことにしました。
アフロ:なるほど。エピソードトークの為のルームシェアだったんだ! 『キングオブコント』の為の上京といい、お笑いに向けてのストイックさがひしひしと伝わりますね。
イワクラ:自分のことを「超普通」だと思っているので、何もしないのは怖いなと。
アフロ:ええ! そんなことないよ! ……と言ったら失礼だけど! 超普通だと思っているんですか?
イワクラ:一般人の中にいたら、挙動不審だから1発で「変な人だ」と思われるんですけど、芸人と比べたら自分はめっちゃ普通だなと。
アフロ:俺らも近いところがあるかも。「何故アコギとラップでやろうと思ったんですか?」とインタビューで聞かれたときに「生音だからこそのグルーヴと、逃げ場のない緊張感の為です」と答えているんです。それも本当なんですけど、単純にそれをやってる奴がいなかったというのもあるんです。自分がこの世界で残るために、特別な何かを作らなきゃと思う感覚は共感します。ただこの企画で伊集院光さんと対談したんですけど、「闇雲にニッチな特技を見つけようとしている若手に「好きじゃないもので勝てるほど甘くないよ」と伝えた」という話もすごく心に残ってます。確かにそことも向き合わないといけないよなと。
イワクラ:やっぱり、お金になるかどうかよりも好きなことで勝負したい。周りにお金を持っている人はいますけど、別に羨ましくないです。お金を持っていること自体は、すごいとは思うんですけど。
アフロ:ちなみに芸人で稼げるようになって、お金は何に使ってますか?
イワクラ:Uber Eatsでちょっと高い焼肉とかお寿司を頼んじゃいました。少し前では考えられなかったです。
アフロ:俺はちょっとだけ稼げるようになったとき、激安焼肉の安安以外の焼肉を初めて自腹で食べて、大興奮したのを覚えてます。そのあと安安へ行ったら何故か凱旋したような気持ちになりました。
イワクラ:わかります。自分が大きくなれた気がして、少しだけ誇らしくなるというか。
アフロ:凱旋で言うと、久しぶりに地元へ帰ったときに女の子が歩いているのを見て「東京帰りの俺なら口説けるかもしれない!」と妙な勘違いしている自分がいて。でも、実際は俺が音楽をやっていることを知らない人と会うと、ビックリするくらい滑るんです。この仕事をしていると、基本的に自分のことを知ってくれている前提の人としか喋らないから、最初から受け入れられる準備ができている。逆に、まったく知られていない人と喋ると会話がまるで盛り上がらなくて。「いつも自分のことを好きでいてくれてる人としか、接してなかったんだな」と痛感します。
イワクラ:めっちゃ分かります。私も知ってくれている人ばっかりに囲まれていて。大阪にいたときも、積極的に芸人を雇ってくれるバイト先で働いていたから、挙動不審でも怒られない。で、普通のところで働いてみると、本当にありがたい環境にいたんだなと思い知るんですよね。他にも、美容室へ行って「どんな髪型にしますか?」と聞かれて、これといって私はしたい髪型はないんですけど「別にない」という回答が、一番ビックリされる。だけど、私を知ってくれている人に「別にしたい髪型はないんですけど……」と言ったら「ないんですか!」と笑ってくれるんです。そのときに、自分は周りに優しくされているし、普段の環境が異常なんだなと思いました。
●『ゴッドタン』を観て、俺は申し訳ない気持ちになった●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:話は変わるんですけど。あの『ゴッドタン』観ました。
イワクラ:あ、ヤバい! そうなんです、すみません! 『ゴッドタン』の「マジ歌(ルーキーオーディション)」で「オーディションの締め切りが明日まで」となって。もう間に合わないし、良いアイデアが浮かばないから諦めていたんですけど、一度自分の言いたいことを書いてみようと思って。そしたら「これは歌いたい」と思える歌詞になったんです。あの……本当にMOROHAさんが大好きで、MOROHAさんみたいな歌を私も歌いたいなと思って。それで合格をいただいて、本番で歌わせてもらったんです。
アフロ:あの企画はオーディションだったんですか。
イワクラ:そうです。歌っている様子を撮影して、その動画を元に審査していただきました。私はギターが弾けないので、同期でMOROHAさんのことが好きなトニーフランクに「MOROHAさんっぽい感じで弾いて下さい」とお願いして。
アフロ:そうなんですね。俺達のライブは歯を食いしばって、険しい顔で観てる人が多くて。それも音楽の魅力だと思うだけど、でもやっぱり笑っていた方が良いとも思うんです。だからお笑い芸人を最高にカッコ良い職業だと思っていて、ネタにしてもらった時はすごく嬉しく思います。ただ、『ゴッドタン』のイワクラさんが出演した回を観て、俺はめちゃくちゃ悔しかったんです。お笑いの殿堂である『ゴッドタン』で、今まで俺が観てきた中で一番の熱量でネタにしてもらった。だけど、MCの劇団ひとりさんとおぎやはぎさんはMOROHAのことを知らなかった。イワクラさんが「MOROHAさんが好きで」と言ったときに「そういう人がいるらしいんだよ」というやりとりで終わったじゃないですか。もし、MC陣がMOROHAを知ってくださっていたら、もう1つ展開が、笑いがあったんじゃないかなと思って。自分たちに知名度があれば、もっとイワクラさんにとって特別な瞬間になったはずだったのに、とすごく申し訳ない気持ちになりました。
イワクラ:(真っ直ぐアフロの目を見て頷く)。
アフロ:でも、そのおかげで拡がった世界もありました。番組の一件で、おぎやはぎさんとひとりさんに知ってもらえていたらなーと思っていたところにタイミングよく『共感百景』という企画のオファーが来たんです。MCは劇団ひとりさん。これは受けるべきだとあの悔しさに背中を押してもらいました。本番の日ね、「アフロさんは情熱的な歌詞を書かれますけど、情熱が枯れてしまうことはあるんですか?」とひとりさんに聞かれたんです。会場のお客さんは楽しみに来てるから、そのムードを壊さないように和やかにすれば良かったんだけど、俺やっぱり熱くなっちゃって。「実は、『ゴッドタン』を観たんです。イワクラさんが「マジ歌」でMOROHAのことを言ってくれたんですけど、そのとき、ひとりさんは俺のことを知らなかったじゃないですか。あれが本当に悔しくて、その感情が新たな情熱になりました!」と一息で伝えたら、ひとりさんをポカーンとさせちゃって。会場がやばい空気になったんだけど、出演者にトリプルファイヤーの吉田(靖直)さんがいたから「こういう熱いことを言うと、吉田さんが冷めた目で見るんですけどね」と話を振って、吉田さんのキャラクターに助けてもらったという一幕があったんです。やっぱりMOROHAの真骨頂である、掴み掛かる姿勢は、自分のステージ以外では危険物なんだと痛感したし、勉強になりました。イワクラさんはバラエティに出るときは、自分の役割を考えたりしますか?
イワクラ:大喜利とか、考える系の企画は考えてないです。私のことをよく知らない人からすれば、何を言うか分からなくて怖い印象があるかもしれないですけど、その人のイメージを読んで「こう言うと思っているだろうな」ということは言わない。怖いことを言えばキャラには合っていると思うんですけど、自分のキャラじゃない方で、面白いことを言うようにしてます。そうするとMCの方から「そんな普通のことも言うんや」と言われて、その瞬間にちょっとムカつくというか。
アフロ:反発しているんですね。自分にキャラクターを付けたいと思いつつ、そのキャラに縛られちゃうのも嫌だし。
イワクラ:そうです。分かりやすくなるから、キャラクターは欲しいなとは思うんですけど。
●女性とか男性とか性別の問題はあると思うんですけど、それよりも前に芸人だしな●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:『キングオブコント』の話を聞いてもいいですか? やっぱり緊張しました?
イワクラ:出番直前は緊張しました。
アフロ:中野さんはどうだったの?
イワクラ:中野さんはそういうとき、無敵なんです。密着のカメラにも「ウェーイ」とか言ってたし、緊張はしなかったらしいです。
アフロ:イワクラさんにとってあのステージは、死にたいくらいに恋焦がれていた場所ですよね?
イワクラ:学生時代からずっとテレビで観てました。リハーサルのとき、モニターに自分たちが映っていて、まさに私がずっと観ていた画でした。「番組の中に自分がいる。本当に出るんだ」と思って嬉しかったです。最初は憧れの場所であり、コントを好きになったキッカケの大会で「芸人さんはカッコ良いな」と思ったんです。いざ芸人を始めて、NSC在学中にもエントリーしていたんですけど、そのときは優勝するつもりで出ていたわけじゃなくて。とりあえず出られるからという気持ちだった。だけど、徐々に準々決勝とか準決勝に行けるようになって「これは優勝すると言わないとダメだ」と。意識が低いと勝つことは出来ないと思うようになったら、今年初めて決勝に行けて。もちろん優勝が目標ではあるんですけど、自分のやりたいことをやれなかったら、優勝しても意味がない。一番は、かましたいと思ったんです。優勝はできなかったんですけど、自分ではかませたなと思って満足してます。
アフロ:そういうデカい場所に出るとなったら、お客さんの反応が良かったネタを選びがちじゃない? それはどうでした?
イワクラ:『キングオブコント』でやったのは、8月の単独ライブ用に作ったネタ(「実験体No.164」)なんです。実は、ウケるので言えば他のネタがあったんですよ。それでも、私はどうしてもアレをやりたいなと思って。
アフロ:客ウケのいいネタは他にもあったけど、自分たちにしか出せない世界観のネタを出した。
イワクラ:そうです。
アフロ:新しいものを出さないと過去に負けた気がしちゃいますよね。
イワクラ:そうなんですよね。今後もその姿勢は貫いていくつもりです。
アフロ:俺は、彼氏が空き缶をポイ捨てするネタ(「ドライブデート」)が好きです。ああいうネタをすると、周りから狂気を秘めた人に思われるんでしょうね。
イワクラ:ネタをする上で、何かしらのメッセージを送りたいのがあって。やっぱりポイ捨てとか歩きタバコとか嫌いなので「こうなるかもしれないよ」というか。なのでムカつくことをネタにする場合が多いです。あとは、歩きタバコをしていた人が、そのまま路上にタバコをポイ捨てをして。そこに警察官が来て「今、ポイ捨てしたでしょ。どっちの手で捨てた?」と聞いて「こっちです」と挙げた手を拳銃で撃つネタ(「罪」)もあって。日常生活で絶対にそんなことにならないけど、「お前はなんでそうならないと思って生きているんだ」と。
アフロ:ああ、それは歌になりそうだな。歌なら2番で手の平の銃跡をミルキーで塞いで救いにしたいね! ちなみに今、世間の流れとしては「性というものをどう表現するか」発言やマインドを問われているじゃない?
イワクラ:そうですね。
アフロ:イワクラさんは『ロンドンハーツ』で、積極的に下ネタを放り込みますよね。俺は大好きですけど、観る人によって反対意見もありますよね? それに関して思うことはありますか?
イワクラ:やっぱり女性とか男性とか、性別の問題はあると思うんですけど、それよりも前に芸人だしなと。だから女芸人で「風俗に行った」という話とか「普通せんやろ!」という感じだと思うんですけど、芸人なんだから面白く話せたら良いじゃんと思います。
●「アホやな、こいつ」と笑ちゃって。解散はせんとこと思いましたね●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:今まで組んだコンビは蛙亭だけ?
イワクラ:そうです。
アフロ:これまでに解散の危機はありました?
イワクラ:1回だけありました。賞レースのときに相方がネタについて何も考えてなくて、ツッコミを変えて欲しいと言っても変えてないとか。それに腹が立って「ムカつくし、解散したい」と言ったんです。そしたら、私が一度だけ断った仕事を蒸し返して「俺も言わしてもらけど、あれは断らない方が良いと思うよ」と言い訳に使ってきて。自分にも負い目はあったので、その場は「分かった。私も気をつけるわ」「まあ、俺の方も気をつけるから」と言って。
アフロ:五分五分に持っていかれたんだ。
イワクラ:「じゃあ1年後の賞レースまでに直ってなかったから、解散するから」と約束したんです。そこから1年後に全く直ってなかったので、私がブチギレて。その年は決勝に行けたんですけど、「前に言ったことが直ってないよな」と言ったら、また言い訳をしてきたので「そういうのマジでいらんわ」とブチギレて。「今日で解散します」と言ってマネージャーさんにも話して。周りの先輩からは止められたんですけど、「私はもう厳しいです」と言ったことがありました。
アフロ:中野さんはどうしたんですか?
イワクラ:土下座をして「申し訳ありません! 僕が全て悪かったです!」と。
アフロ:ハハハ、気持ちいいね! 気持ちのいい男だよ!
イワクラ:「アホやな、こいつ」と思わず笑ちゃって。それで解散はせんとこと思いました。
文=真貝聡 撮影=高田梓