初来日ウースター・グループがレコード完コピ異色作

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2015.12.22
 Early Shaker Spirituals - Photo by Steven Gunther

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伝説の前衛劇団ウースター・グループが初来日

“まだ来日していなかった最後の前衛劇団”と言われるアメリカのウースター・グループが初来日し、12月22日(火)&23日(水・祝)@東京・青山のスパイラルホールで公演する。しかも、その演目が異色作『初期シェーカー聖歌:レコード・アルバムの上演』というのだから、有識者の間では「なんですと!?」という感じで話題となっている。

Early Shaker Spirituals - Photo by Paula Court

Early Shaker Spirituals - Photo by Paula Court

ウースター・グループは、エリザベス・ルコンプトとスポルディング・グレイによって1975年に創設された、知る人ぞ知る前衛劇団。設立以来、ルコンプトの演出で30作を超える演劇、ダンス、映画、ビデオ作品を発表してきた。演劇に映像やテクノロジーを導入した先駆的な存在であり、テクノロジーを縦横に用いた重層的な演出、その情報量とスピード感で演劇表現を拡張・深化させる創作で、常に現代演劇界を牽引してきた。

ニューヨークはソーホーのウースター・ストリートにあるアトリエ「パフォーミング・ガレージ」(1960年代にフルクサス芸術運動の一環として設立されたGrand Street Artists Co-opの一部)を拠点とし、世界各地へもツアー。その作品の多くは、戯曲だけでなく映画、映像資料、個人史、他者のパフォーマンス、レコードなどを素材に、精密なコピーと再解釈を通して作られている。ちなみに日本では、怪優ウィレム・デフォーを輩出したことでもよく知られている。


失われつつあった聖歌を完コピ!?

今回の初来日で公演する『初期シェーカー聖歌:レコード・アルバムの上演』も、演劇における「模倣」と「再現」といった要素に確信犯的に挑んだ実験的試みと言える。素材となっているのは、なんと同名のレコード。演出家のルコンプトが、中古レコード店の「宗教」コーナーで1963年から76年にかけてメイン州のサバスデイレイクで録音された『初期シェーカー聖歌』のLPレコードを見つけたことから、このプロジェクトは発進した。劇団員を引き連れてシェーカーのコミュニティを訪問し、同レコードのリードシンガー、シスター・ミルドレッド・バーカーとも面会して、レコードの“完コピ”上演に挑んだ異色作なのだ。

Early Shaker Spirituals - Photo by Paula Court

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シェーカーといえば、シンブルで機能的に洗練された家具などの工芸品でよく知られているが、そもそもはクエーカー(キリスト友会)から分離した教派(キリスト再臨信徒連合会)のことを指す。1774年、イギリスはマンチェスターの工場労働者だったアン・リー(Ann Lee : “マザー・アン”)と8人の仲間たちが、キリスト教の新派クエーカーから別れ、信仰の自由を求めてアメリカに渡り、新たな教派シェーカーとして布教を続けて教団を発展させた。

シェーカー教徒は厳格な清教徒で、ユートピアの共同体を作ることを理想として「自給自足の共同生活」を基本とした。俗世間を離れた田園で農業や牧畜を中心にした自給自足の集団生活を送り、酪農品や木製品などを販売して生計をたてながら、独特の文化を生み出した。所有欲を嫌い、規律を重んじ、労働を尊び、その労働によって高い精神性を保てると信じていた。そして、懺悔、男女平等、禁欲、独身主義、忍耐、純潔、清潔、平和主義、勤勉、質素を心がけた。こうした中からシンプルで優美、機能性に優れ、細部の加工が丁寧なシェーカー家具が作り出されたというわけだ。

最盛期の1850年ごろには18か所の共同体に6000人以上の信徒が共同生活を送り、南北戦争では良心的兵役拒否の先駆となった。しかし、南北戦争後は急速に工業化が進んだことで大きな影響を受け、1900年には1000人程度となり、さらに禁欲的な独身主義のため後継者も育たず、19世紀後半ころから衰退。現在はメイン州サバスデー・レイクのシェーカー村に、数名の信徒が残るのみとなっている。

Early Shaker Spirituals - Photo by Paula Court

Early Shaker Spirituals - Photo by Paula Court

シェーカーの聖歌は、作曲されるのではなく「授けられる」ものであり、単旋律で伴奏なしに歌われ、独特の集中力と美しさを持つ。また、シェーカーという名は当初、礼拝時に激しく身体を揺らした(シェークする)ことから名付けられたともいい、独自のダンスも踊られる。

ウースター・グループ『初期シェーカー聖歌:レコード・アルバムの上演』も、アメリカのフォーク・ミュージックを取り入れたシェーカー独特の聖歌を集めたレコードを端緒として、シンプルかつ忠実な演出により完コピするものとなっている。女性キャストは、歌い手のインタビューを含むレコードの内容を忠実に「上演」するため、虚飾のない再現行為に徹し、後半は男性キャストと共にさまざまなソースを用いて再構成されたシェーカーのダンスを踊る。その繊細にして誠実な独特の磁場から、時代や場所を超えた不思議な感覚がもたらされる。

今回の来日は、従来一般の音楽祭とは異なる脱領域的でオルタナティブな表現を紹介するフェスティバル「サウンド・ライブ・トーキョー」の最終演目となる。音楽・アート・演劇といったジャンルにこだわらず、音と音楽への反時代的アプローチをしている表現をあえてクリティカルに紹介するフェスティバルだからこそ、今作の来日も可能になったということだろう。ともあれ、目からも耳からもウロコが落ちる体験となることは間違いないはずだ。

Early Shaker Spirituals - Photo by Paula Court

Early Shaker Spirituals - Photo by Paula Court

イベント情報
ウースター・グループ『初期シェーカー聖歌:レコード・アルバムの上演』

■日時:12月22日(火)19:30、12月23日(水・祝)16:00/19:00
※会場ロビーにてウースター・グループ他作品の映像展示あり(開演1時間前開場)
会場:スパイラルホール(港区南青山5-6-23)
■料金:前売3,500円/当日4,000円
出演:シンシア・ヘッドストロム、エリザベス・ルコンプト、フランシス・マクドーマンド、ビビ・ミラー、サジー・ローチ/マックス・バーンステイン、マシュー・ブラウン、モデスト・フラコ・ヒメネス、ボビー・マクエレバー、ジェイミー・ポスキン、アンドリュー・シュナイダー
演出:ケイト・ヴァルク
■公式サイト:http://www.soundlivetokyo.com 

 

ウースター・グループ
エリザベス・ルコンプトとスポルディング・グレイによって1975年に創設されて以来、ルコンプトの演出で30作を超える演劇、ダンス、映画、ビデオ作品を発表。代表作に『Rumstick Road』(1977)『L.S.D. (...Just the High Points...)』(1984)『Frank Dell’s The Temptation of St. Antony』(1988)『Brace Up!』(1991)『The Emperor Jones』(1993)『House/Lights』(1999)『To You, The Birdie!』(フェードル)(2002)『Hamlet』(2007)『There is Still Time..Brother』(2007)『La Didone』(2009)『Vieux Carré』(2011)『Cry, Trojans!』(トロイラスとクレシダ)(2014)など。ロウアー・マンハッタンのウースター・ストリート33番地にあるパフォーミング・ガレージを拠点に、南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアをツアー。パフォーミング・ガレージは、1960年代にフルクサス芸術運動の一環として設立されたGrand Street Artists Co-opの一部。

http://thewoostergroup.org/
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