SHE’SがどこまでもSHE’Sらしく、10年間の感謝とともに完遂した初武道館ワンマン

レポート
音楽
2022.2.28
SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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SHE’S in BUDOKAN  2022.2.24  日本武道館

※以下のレポートはネタバレを含みますので、見逃し配信を未視聴の方はご注意ください

大舞台に呑まれるでもなく、過度に特別感を煽ることもない。誠実さやユーモアを携え、音楽を鳴らす楽しさと伝えたい思いを届ける——これまで培い育んできたやり方で堂々とステージ立ち、真っ向勝負で歌い鳴らした初武道館ワンマンだった。そのことが何より感動的だった。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

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定刻を少し過ぎたところでBGMのボリュームが上がり、暗転。ステージを覆った紗幕に映るモノクロの手描きアニメーションに、バンドの歩みを想起させるような過去のライブ映像やオフショットが差し込まれていく。そのまま鳴らされた1曲目は「追い風」。サビに入るところで紗幕が落とされ、それまでシルエット状態だったメンバーの姿が露わになると、その背後からレーザー光線が放たれる。爽快で痛快な滑り出しだ。曲調はポップながら、直近のアルバムツアーでも顕著だった重低音を強調した音作りはこの日を見据えたものだったのか、と合点がいくくらい迫力満点のサウンドで大会場を揺るがし、アリーナからもスタンドからも無数の手が挙がる。

SHE'S 撮影=Shingo Tamai

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SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

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これまでで最も関係者席からステージが遠いライブなので、表情の機微までは見てとれないが、メンバーそれぞれとにかく楽しそうなのはよく分かった。歌声も演奏する姿も明らかに気合充分だけれど、力んだ感じは全くない。赤に染まる舞台から挑発的に繰り出す「Masquerade」、耳慣れた力強いビートからのアンセムソング「Un-science」。序盤からライブ映えする楽曲を惜しみなく投下していく。ところどころメロディラインにアレンジを加えて歌う井上竜馬(Vo/Key)が鍵盤を弾きながら巧みにジェスチャーを交えて盛り上げ、広瀬臣悟(Ba)は悠然と両手を広げて客席を見渡し、ハンドクラップを誘う。お立ち台で反り返ってソロを決める服部栞汰(Gt)も曲ごとのニュアンスに忠実なビートを叩き出す木村雅人(Dr)も、みな表情には笑顔があふれている。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

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4曲目の「Over You」イントロのドラムビートを契機にバンドロゴの描かれたバックドロップが上昇すると、そこには総勢7名の管弦楽器チームがスタンバイ。このファンには馴染みの深い編成によって音像にさらなる彩りが加わると同時に、縦長のLED照明群が点灯するなど見た目の華やかさも一層高まっていく。

撮影=MASANORI FUJIKAWA

撮影=MASANORI FUJIKAWA

AOR風味のミドルナンバー「Do You Want?」までをほぼ曲間無しで演奏し終えたところで、この日最初のMC。服部の「ついに来たぞ、武道館!!」という第一声に、盛大な拍手で答える観客たち。開催を発表してからかなりの期間があった上、(会場を押さえたところからだともっともっと長い)、コロナ禍ゆえ「無事開催できるのか」と不安になる瞬間も多々あっただけに、感慨もひとしおだろう。こういった状況下でも来てくれる決断をしたファンのおかげで今日がある、心置きなく楽しんでほしい、と井上。思い返せばこの2年、SHE’Sはその時々の状況に応じて出来ることを積極的に考え出し、実行してきたバンドでもある。そのうちの一つ、自粛期間にファンとともに作り上げた「In Your Room」がここで力強く輝きを放つ。

撮影=MASANORI FUJIKAWA

撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

セットリスト全体としてはアニバーサリーに相応しく、最新アルバム『Amulet』の曲を多めに入れつつもベストセレクション的なものとなっていた。幾度となく演奏してきた曲たちで構成されているということは、これまで彼らが何を大事にし、どんなものを美しいと捉え、どんなふうにそれを聴き手に届けてきたのかを、現在のモードや技量で表現したライブでもある。「Ugly」や「Delete/Enter」の打ち込みやシンセベースを用いたモダンで“非バンド的”なアプローチも、温かみのあるファルセットボイスで無数の電飾の灯りの中届けた「ミッドナイトワゴン」も、“ピアノロック”のみに拘泥することなく音楽性を拡張してきたヒストリーを象徴する楽曲たちだ。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

中でも圧巻だったのは、井上がグランドピアノを奏でた「White」から「Ghost」へと至る中盤のゾーン。ブレイクビーツ調のシーケンスが醸し出す不穏な空気と歪んだバンドサウンドが行き交う「Clock」から、ストリングスによる長尺のイントロを経て突入した「Ghost」は間違いなくハイライトの一つだった。アウトロの没入感たっぷりに白熱する個々の演奏、とりわけ服部による激情のギターソロは、もはや名物と呼びたい。わかりやすくアガる曲だけが盛り上がりを呼ぶわけじゃないのがSHE’Sのライブ。

SHE'S  撮影=Shingo Tamai

SHE'S 撮影=Shingo Tamai

普通、ミドルテンポ以下の楽曲たちをこれだけ並べることはあまりしないだろうし、過去のSHE’Sのライブでもここまでは無かった気がするけれど、彼らが持つメロディセンスの秀逸さを堪能できると同時に、大きな会場で演奏されることで曲のスケールの大きさが際立ち、より本領を発揮した感まである。武道館だからといって特別感に寄りかかることもなく(もちろん編成や照明には特別感があったが)、真新しさよりもむしろこれまで持ち合わせてきた強みや美点の数々を、主にバンドアンサンブルの向上と洗練によって一まわりも二まわりも大きなスケールで伝える内容となっていたことも、特筆に値すると思う。井上のボーカルにもこれまで以上の凄みを感じられた。

SHE'S  撮影=Shingo Tamai

SHE'S 撮影=Shingo Tamai

決して早くないスピードだけど、ゆっくりステップアップして来れた、と10年間を振り返ったのは木村のMC。まあ、バンドシーン全体を見渡せばそこまで遅くもないタイミングだとは思うけれど、どれか一曲で飛び抜けたわけでも特定のシーンの盛り上がりに乗ったわけでもなく、ジワジワと地力を付けスキルを磨いてきた結果として辿り着いたメモリアルな初武道館であることは間違いない。それだけに、最新シングル「Blue Thermal」でグッと力を込めて歌い上げられた<夢のような世界が今  僕らの居場所に変わる>という一説がとても輝かしく誇らしげに響く。気づけばもう、ライブは終盤だ。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

ピースフルなゴスペル調のコーラスとクラップで一体感を生んだ「Imperfect」、一際チアフルでカラフルな「Dance With Me」などを経て、最後のMCへ。ライブの手応えと信頼感を「声を出していないはずなのに一緒に歌ってる、聴こえてくる、そんな感覚です」と形容した井上が、注がれる大きく長い拍手に「やだぁ、泣いちゃう」とおどけたあと「10年分、ありがとう」と真摯に伝える。この時に限らず、何度も何度も彼らは「ありがとう」を伝えていたのだが、こんなに感謝に満ち溢れたライブも、それが全然クドくならないのも、今まであんまり見たことがない。人柄って大事だ。

SHE'S  撮影=Shingo Tmai

SHE'S 撮影=Shingo Tmai

SHE'S  撮影=Shingo Tamai

SHE'S 撮影=Shingo Tamai

「音楽が大好き同士の関係でいよう。そんな仲間でいよう」(井上)

11年目から先へ向けたメッセージを伝えた後、「Stand By Me」で紙吹雪が舞う中、本編を締めくくった4人は、アンコールに応えて再登場すると、今日に至るターニングポイントとなった初期曲「Voice」を演奏して歓喜を呼び込む。そして、バンドの歴史と在り方を凝縮した2時間のラストナンバーは、いつものように「Curtain Call」だった。クライマックスの<あなたが光なんだ>のところで、こんなに明るい武道館は見たことないというくらいの光量が客席側を照らす。あまりにド直球な愛情の伝え方に自然と笑顔になって、その後ちょっとじーんとさせられてしまった。真っ直ぐで面白いことが好きで外連味のない4人組。初めて会ったときからずっとSHE’Sとはそういうバンドだったし、この先もきっとそうだ。いや、絶対。


取材・文=風間大洋 撮影=MASANORI FUJIKAWA、Shingo Tamai

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

セットリスト

1. 追い風
2. Masquerade
3. Un-science
4. Over You
5. Do You Want?
6. In Your Room
7. If
8. Ugly
9. Delete/Enter
10. ミッドナイトワゴン
11. White
12. Letter
13. Chained
14. Clock
15. Ghost
16. Blue Thermal
17. Imperfect
18. Dance With Me
19. The Everglow
20. Stand By Me
[ENCORE]
21. Voice
22. Curtain Call

ライブ情報

SHE’S in BUDOKAN
ライブ配信日時:2月24日(木)開演19:00
見逃し配信:2月25日(金)00:00 〜 3月4日(金)23:59
販売期間:2月16日(水)12:00 ~ 3月4日(金)21:00
料金:2,800円(税込)
特典映像:新曲「Blue Thermal」MV(Documentary of BUDOKAN ver.)
※特典映像の配信期間:2月25日(金)00:00 〜 3月4日(金)23:59
詳細:https://news.hulu.jp/shes-in-budokan/
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