翼和希、「芸事は正解がないからこそ、誰かに認めてもらうと自信に繋がる」――OSK日本歌劇団創立100周年連載『OSK Star Keisho』第3回

2022.3.14
特集
舞台

翼和希 撮影=高村直希

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1922年に誕生し、2022年に創立100周年を迎えたOSK日本歌劇団(以下、OSK)。SPICEでは1月よりスター達に質問の「バトン」を用意してもらい、次のスターへと繋ぐリレー形式のインタビュー連載企画『OSK Star Keisho』を掲載中だ。第3回は、今年入団10年目を迎えた男役スターの翼和希(つばさかずき)が登場。男役の王道を行く存在感の翼は、写真撮影中もまばゆいほどの「イケメンオーラ」を放つ。一方、インタビューでは人懐っこい笑顔とトークで周囲を和ませ、二枚目の一面も見せる。2月に大阪松竹座で開催した『レビュー春のおどり』が、いよいよ東京・新橋演舞場で3月25日(金)より幕を開ける。本公演では第一部「光」、第二部「INFINITY」とも大活躍した翼。作品をより深く楽しめるエピソードも話してもらった。

『OSK Star Keisho』

――まずOSKに入られた経緯を教えてください。

歌劇と出会ったのは中学2年生です。私の姉が2人とも演劇部に所属していまして、ある年の文化祭で、「演劇部でやりたい演目」と持って帰ってきたのが宝塚歌劇団のビデオでした。それを観た私がハマって。それまでは芸事は全くやってなくて、むしろ人前で何かを表現するのは恥ずかしくてできないような子だったんですけれども、何が起きたのか……。青天の霹靂とはこのことだなと思ったくらいに衝撃を受けました。

――それまでの翼さんはどんな女の子だったのですか?

スポーツがすごく好きで、中学に入ったときはバレーボール部に所属していまして、朝から晩までバレーボールのスポーツ少女でした。ちっちゃいときも、外で走り回っていて、怪我が絶えない子だったみたいです。でもそのおかげで運動神経は培われたのかなと思います。

翼和希

――OSKとはどのような出会いをされたのでしょうか?

特に男役に憧れて、まずは宝塚を目指したのですが、ご縁がなくて。そのときにお世話になっていた教室の先生にOSKを教えてもらいました。大阪松竹座で『春のおどり』を拝見して、「まだ男役の夢を諦めなくていいんだ」と、そのままの勢いで受験しました。願書も発送を頼んでいたら間に合わない時期だったので、直接事務所まで取りに行って、そこで願書を書いて出しました。

――OSKの男役にはどういうイメージがありますか?

「男」の漢字が「漢」のイメージです。男役さんには麗しい中性的なイメージがあったのですが、OSKは力強さがあって、清々しい気分になるというか。自分がスポーツをやっていたからなのか、「男前の先輩」みたいな感じに見えました。

――では、OSKに入団されて、先輩からいただいた言葉で今でも印象に残っているものはありますか?

本当にたくさんのお言葉をいただいて、全部自分の引き出しになっているのですが、「第一にお客様への感謝の気持ちを忘れないで、一人ではできないんだよ」ということです。研修所時代、舞台実習に出させていただいたときに、上級生の方々からは「舞台実習だけど、お客様に観ていただくものだから、お客様への感謝の気持ちを絶対に忘れないこと。周りの方々にもしっかり感謝の気持ちを持ちなさい」と言っていただきました。それは年齢を重ねるごとに身にしみて、コロナ禍になってさらに響くものがあります。

ロケットボーイの翼和希 (c)松竹

――入団して10年になりますね。その間、壁を乗り越えてご自身の糧にしたというご経験はありますか?

私は5~6年目のときに大阪松竹座の公演から外れて、小劇場の公演に出ていました。その2年間を経て、次に出させていただいたのが桐生麻耶(きりゅうあさや)さんのトップお披露目公演でした。そこで経験したことのないラインダンスのボーイをさせていただきました。紗幕が下りている前で一人、歌って踊るということを経験したことがなかったので、「どえらい大役が来た!」とものすごく慌てたのですが、「自分の中でできることをやらなきゃ」と、自分なりに重ねてきたものをマックスでやりました。そしたら桐生さんに「すごくいいから、もっとやりなさい」とお褒めの言葉をいただいて。そのとき、「やってきたことが間違いじゃなかったんだ」と自信にもなりました。芸事は正解がないので、自分の中で模索したものを「これだ!」と思ってお届けするのですが、何か一つでも「それでいいんだよ」と言ってもらえることで確信に変わりました。それは自分の中での大きいターニングポイントだったかなと思います。

翼和希

――大阪松竹座には出られない日々があって。劇団員としては、大きなところにも出たいというお気持もあったのではないでしょうか。

出られないと聞いたときは泣き崩れました。大阪松竹座は年に一度のお祭りですし、出られないというのはすごくショックで、最初はへこんでいました。でも、ありがたいことにお仕事をいただけて、そこでプラスになることは何だろうかと考え方を変えられたので、それからは「あちらで学べないことを今、自分たちは学べている」と思って過ごしていました。いつまでもウジウジ考えても何も変わらないし、マイナスなことも考え方次第でいくらでもプラスになるので……。自分はそういう運命だと思って、ここでできることを全うしようとシフトチェンジできました。

――では、逆にこの10年ですごく嬉しかったこと、良かったことは何ですか?

先ほどお話しした、桐生さんに「いいんだよ」と言っていただいたことも一つのターニングポイントですし、3年目のときに出た高世麻央(たかせまお)さんのトップお披露目公演の「Stormy Weather」もそうですね。このとき、初めて大劇場公演で歌のソロをいただきました。「Stormy Weather」のお稽古が始まったとき、演出の荻田浩一先生が全員の歌を聴いてくださって、踊りも見てくださりました。「みんなの声が聴きたいだけだから気楽に」と言われたので、その通りにしていたのですが……。そのあと、スタッフさんが「フィナーレの譜面ができたので配ります。名前を呼ばれた人は来てください」と私たちを集合させて、高世さんや桐生さん、楊(琳/やんりん)さんたちの名前を呼ばれていきました。そしたら「翼さん」と。呼ばれると思っていなかったので、返事をする声も裏返って……。もう嘘なんじゃないかと思いました。稽古場では驚きがすごすぎて、家に帰って、譜面を見て、譜面に「翼」と書いてあるのを見て実感し、泣きながら音を取りました(笑)。うれし泣きでした。

写楽を演じる翼和希 (c)松竹

――100周年記念公演でも、第一部、第二部ともソロの場面が多く、歌も踊りも大活躍でした。翼さんが出て来られたら会場の雰囲気が変わり、皆さんの意識が翼さんに注がれた感じもあって、引き込まれました。

私は『春のおどり』の日舞で役名がついたことがなかったのですが、去年初めて中臣鎌足の役をいただきました。今年は、第一部では写楽の役をいただけて、鎌足と同じぐらいの衝撃がありましたね。写楽は彼が見たものをどんどん舞台で表現して「花の巻」から「夢の巻」へといざなう役割もありますし、写楽の見た世界がそのまま「光の巻」に繋がっていくという大役です。写楽をやると伺ってからはもう、写楽を調べまくって、映像もたくさん観ました。でも、実際に観るのと演じるのとでは全然違うので悩みましたね。

翼和希(左)と唯城ありす (c)松竹

――どのように翼さんなりの写楽を作り上げられていったのですか?

脚本の戸部先生にもお話をたくさん伺いに行ったり、相手役の白夜太夫を演じた唯城ありす(ゆしろありす)と話し合ったり、いろんな方にお話をお伺いして作っていきました。脚本の先生が「翼さんの中の素の部分が見たいんだよね」とおっしゃったのですが、素の部分を舞台上で出すという感覚があまりなかったので、「普段の自分を出すとは、どういうことだろう」……これは今も悩んでいます。「自然体でいい」と頭ではわかっていても、表現をするのは難しくて。自分ではわからなかったので、桐生さんに芝居とか所作とかを「見てください」とお願いしたり、お芝居のアドバイスをいただいたりと助けていただきました。楊さんもお忙しいのに「その心情だったらこうした方がいいんじゃない?」とか、たくさんアドバイスしてくださって。そうしてできた写楽なので、私一人では作れませんでした。

翼和希

――素を見せることに難しさがあるとのことですが、翼さんはオンとオフの切り替えははっきりしている方ですか?

とってもはっきりしているんじゃないかなと思います。皆さんに会うと楽しくなっちゃうんですけど、家に帰ったらプツンとスイッチが切れます。歌稽古をしたり、台本を読むこと以外では、家であまり言葉も発さないかもしれないです。頭では考えているんですけど、声を出すことがあまりなくて。もう完全に抜け殻です。でも、玄関の扉を出たら「翼です!」となります。(撮影時のような)こんな格好をしていたら人に見られますし(笑)、電車の中でもシャキっとしておこうとなりますね。

「望郷の鳩」で旅人を演じる翼和希 (c)松竹

――第二部の「望郷の鳩」の旅人役も印象的でしたね。あの場面はフィナーレの直前にありましたが、その意図するものはなんだったんでしょうか?

語ると長くなるのですが、いいですか!? これは楊さんに言われて「ハッ!」と思ったんですけど、楊さんも「なんであそこのタイミングであの場面を入れたんだろう」とずっと気になっていたとおっしゃっていて。もちろんノアの箱舟のお話だとわかっていましたが、なぜ「ジャストダンス」とフィナーレの間に入れているのか。それを楊さんはずっと考えていたと。そして、最終通しの段階で楊さんが「わかった!」とおっしゃって。「望郷の鳩」はオープニングの伏線回収。第二部「INFINITY」のオープニングで歌う「青のINFINITY」で、楊さんの歌詞の一番にある<押し寄せる波>なのかなと。<押し寄せる波に全てがさらわれて 何も残らない ただ青い波だけが残った>というのはノアの箱舟ですよね。「ということは、鳩の場面と一緒だよね」と。鳩はエデンを探し求めて旅を続け、オリーブを見つけて帰ろうとしている。その中で、波にもまれていくんだと思うんです。

「望郷の鳩」 (c)松竹

――なるほど。

二番の歌詞は私が<吹きすさぶ風>と。世界を光る風が駆け抜けて、どんどん希望が見えてきて。次に華月(奏/はなづきそう)さんが<濁流は蠢き>と歌って、また嵐に揉まれる。私は回っている盆の真ん中でもがいている踊りをするのですが、おそらく嵐に揉まれている場面なのですよね。楊さんは「鳩=OSK」だと思うと。「OSKも鳩のようにいろんな歴史を見てきた。どん底もあれば、絶頂期のときもあり、いろんな経験を経て、大阪松竹座という最初の地に帰ってきた。だから、フィナーレも平場なんだ」と思いました。平らな地から100年のその先へと積み重ねていこうよと、OSKの新しい歴史が始まる。それでフィナーレに繋がっていくと思ったら「すごい!」と思いました。自分で気付けなくてめっちゃ悔しかったんですけど、楊さんにそう言っていただけてすごく腑に落ちましたね。そう考えると「望郷の鳩」の場面がしっくりきました。

翼和希

――そう聞くとまた拝見したくなります。新橋演舞場でご覧になる方はぜひ着目してもらいたいですね。「INFINITY」は7月の南座公演『OSK日本歌劇団創立100周年記念公演「レビュー in Kyoto」』でも上演されるので、楽しみです。その南座公演ですが、第一部は「陰陽師 闇の貴公子☆安倍晴明」(原作 夢枕獏『陰陽師』シリーズ(文藝春秋刊)より)ですね。

私は源博雅(みなもとのひろまさ)役をいただきました。頑張るしかないなと思って、今は漫画の『陰陽師』を読んでいます。読めば読むほど博雅が愛しくて。博雅は熱い男で、芸事をとっても愛しています。貴族であるけれども、一人を好むので、安倍晴明に惹かれる部分があるんだろうなと思います。晴明もそういう博雅だから心を開く。晴明と博雅はいいタッグ感がありますよね。その関係性は、楊さんを支えていくことにも重ねてしまうのですけど、私も博雅のような存在になりたいと思いながら見ています。余裕があって冷静な晴明に対して、わちゃわちゃしている博雅は大型犬みたいでかわいくて(笑)。観れば観るほど、どっぷりはまれる作品だと思いました。ビジュアル撮影をしたときも、楊さんの晴明がきれいすぎて……! メイクをされて、お衣裳とかも全部着たらもう、人じゃなかったです。めっちゃきれいでした。

――楊さんとタッグを組む役はこれまでもありましたか?

『円卓の騎士』のときにアーサーとランスロット役でありましたけど、こういう密なお芝居はあんまりやったことがないので緊張しますが、頑張ります!

楊琳(右)と翼和希

――では、リレーのコーナーにまいりましょうか。楊さんからのご質問です。「あなたにとってOSKとは?」

今の私のすべてだと思います。「これ、OSKでやってみたら面白いんじゃないか」とか、「こういうのを舞台でやったらどうかな」とか、何をしてもOSKに繋げます。自分の生活の軸がOSKなので、今、OSKを取り上げられたら、それこそ私は廃人になってしまうと思います。

――次回の連載は舞美りら(まいみりら)さんと千咲えみ(ちさきえみ)さんがご登場くださいます。最後にお二人へのご質問をお願いします。

舞美さんと千咲は、100周年にふさわしい、ダブル娘役トップスターという華やかな体制を取られているので、「今後、下級生の娘役さんたちに継承してもらいたい、お互いの好きなところは何ですか?」でお願いします。舞美さんも千咲も持ち味が違うから、楊さんと組まれているときも楊さんの雰囲気が全然違います。それは観ていても楽しくて。お二人には素敵なところがたくさんあるので、お互いにいいなと思うところをお話していただきたいですし、下級生に繋いでいきたいと思うことも知れたらいいなと思います。

翼和希

取材・文=Iwamoto.K 撮影=高村直希

公演情報

『OSK日本歌劇団創立100周年記念公演「レビュー春のおどり」』
第一部「光」:演出・振付 山村友五郎・尾上菊之丞・藤間勘十郎
第二部「INFINITY」:作・演出 荻田浩一
 
新橋演舞場公演
【日時(6公演)】
3月25日(金)12:00/16:30
3月26日(土)12:00/16:30
3月27日(日)11:30/16:00
【出演者】
楊琳、舞美りら、千咲えみ、白藤麗華、虹架路万、愛瀬光、城月れい、華月奏、遥花ここ、実花もも、翼和希、穂香めぐみ、りつき杏都、壱弥ゆう、朔矢しゅう、椿りょう、雪妃詩、唯城ありす、柚咲ふう、京我りく、凜華あい、依吹圭夏、純果こころ、せいら純翔、翔馬かいと、空良玲澄、真織ひな、璃音あかり、華蓮いろは、柊湖春
(特別専科)桐生麻耶、朝香櫻子
【観劇料(税込)】
S席(1・2階)9,500円/A席(3階)5,000円

公演情報

『OSK日本歌劇団創立100周年記念公演「レビュー in Kyoto」』
第一部「陰陽師 闇の貴公子☆安倍晴明」:原作 夢枕獏『陰陽師』シリーズ(文藝春秋刊)より
作・演出 北林佐和子
第二部「INFINITY」:作・演出 荻田浩一
【劇場】
南座
【日時】
7月9日(土)11:00/15:00
7月10日(日)11:00/15:00
7月11日(月)休演
7月12日(火)11:00
7月13日(水)11:00
7月14日(木)休演
7月15日(金)11:00
7月16日(土)11:00/15:00
7月17日(日)11:00/15:00
7月18日(月・祝)11:00/15:00
【観劇料(税込)】
一等席:8,500円/二等席:4,500円
  • イープラス
  • OSK日本歌劇団
  • 翼和希、「芸事は正解がないからこそ、誰かに認めてもらうと自信に繋がる」――OSK日本歌劇団創立100周年連載『OSK Star Keisho』第3回