野村萬斎インタビュー/「狂言 ござる乃座 64th~野村万作卒寿記念『唐人相撲』~」がCS衛星劇場でテレビ初放送

インタビュー
舞台
2022.4.12
野村萬斎  (撮影:宮田浩史)

野村萬斎 (撮影:宮田浩史)

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昨年(2021年)10月に開催された野村萬斎主宰の狂言会「狂言 ござる乃座」の第65回公演が早くもCS衛星劇場で2022年4月15日(金)に放送される。萬斎の師父・万作の卒寿を祝ったこの舞台では、古典狂言最多の40数名を要する大曲『唐人相撲』を上演。同時放送される『素袍落』と合わせ、その見どころを萬斎に聞いた。

狂言 ござる乃座 64th~野村万作卒寿記念『唐人相撲』~  (撮影:政川慎治)

狂言 ござる乃座 64th~野村万作卒寿記念『唐人相撲』~ (撮影:政川慎治)


「いずれの作品も狂言の本質を捉え、真骨頂といえる表現が詰まった魅力的な演目です」

ーー昨年上演された『唐人相撲』は、唐の国に滞在していた相撲取りが皇帝に帰国を願い、最後にもう一度だけ相撲を取るというにぎやかで動きのある舞台でした。公演を終えたいま、どのような手ごたえを感じていらっしゃいますか?

この作品はもともと20年前に、父・万作の古希を祝う舞台として復曲したものでした。今回は父の卒寿祝いで再び上演したのですが、40数名と登場人物が多く、いろんな方の協力がないとできない珍しい作品でもあるんです。そのため、今回も父にゆかりのある狂言愛好家の皆さんや、私を支えてくださっている多くの俳優陣の力をお借りすることで、無事に実現へと漕ぎ着けました。前回と大きく異なるのは、これまで私が演じてきた相撲取りの役を息子の裕基に任せ、私は念願だった通辞を演じたことです。その結果、親子3代の共演となったわけですが、90歳の父と、55歳の私、そして20代の息子というそれぞれの世代による芸をお見せできたことは、大きな意味があったなと感じております。

ーーまた、萬斎さんが演じられた通辞は相撲取りと唐の国の人々の間に立ち、通訳をする人物です。この役の魅力とはどういったところでしょう?

狂言には決まった型があり、私どもの一門はアドリブが禁じ手となっています。ただ、『唐人相撲』の通辞だけはアドリブを許されている。それゆえ、演出の要になる役だなと改めて感じました。先ほどもお伝えしたように今作は出演者が多く、次々と人が出たり入ったりしますので、その時間を埋める作業もしなければならない。これはキャリアがないとできない大役でもあります。それに、控えめな人よりも、ちょっとでしゃばるようなタイプの人間に合っている役ですので…そこはいろんなアドリブも含め、たくさん楽しませていただきました(笑)。

野村萬斎 (撮影:宮田浩史)

野村萬斎 (撮影:宮田浩史)


ーー通訳という点で言えば、唐の人々は不思議な言葉を使っていらっしゃいますね。

唐は架空の国という設定で、ここがポイントでもあるんです。唐の人間たちが話す言葉も「唐音(とういん)」と呼ばれるインチキ外国語で、そこに面白さがある。しかも、狂言にはセリフに抑揚をつけるという特徴がありますから、たとえデタラメな言葉でも、それがポジティブな言葉なのか、それともネガティブな言葉なのか、もっといえば喜怒哀楽などもすべて抑揚だけで伝えることができるわけです。その意味で、この『唐人相撲』はまさしく狂言の真骨頂が楽しめる演目とも言えますね。

ーーでは、今回放送されるもう一作の『素袍落』の魅力についてもお聞かせください。

どうしても注目度は『唐人相撲』に奪われがちですが(苦笑)、『素袍落』も狂言の名曲であり、大曲です。私も何度も手掛けていますが、酔っ払う演技も含めて、太郎冠者の真骨頂を描くという意味では、この役ができるようになれば狂言師としてひとつ上のレベルにいけると呼べるほどの作品です。物語もシンプルで、使いに出た太郎冠者がお酒に酔ってしまい、気が大きくなってしまうというもの。人間はさまざまなことに抑圧されて生きていますが、“ときにはこうして発散するのも大事なんじゃないか”、“そのあとで怒られてもいいんだよ”ということが描かれていて、いかにも狂言らしい内容です(笑)。私はいつも太郎冠者という人物が、皆さんにとってのスーパースターのような存在になれたらなと思っているのですが、まさしく庶民の代弁者のような姿をご覧いただけると思います。

ーー今回の放送では異なる2演目でそれぞれ狂言の違った面白さが感じられそうで楽しみです。

『唐人相撲』は初心者でも理屈抜きに楽しんでいただける作品です。また、狂言のお話には“人間は滑稽な生き物だ”という批評性がありますが、だからといって人間を否定しているのではなく、むしろ愛おしく描いているのが狂言の在り方なんです。例えば、『唐人相撲』では相撲取りが勝つ姿よりも、何をやっても敵わない唐人たちの負けっぷりの良さに人間の愛くるしさが詰まっている。“負けてもいいじゃないか”といった人間愛が凝縮されているんです。さらには、この作品では10代から90代までの役者がずらりと同じ舞台に立っている。その姿は人間社会の写し絵のようでもあるんですね。これほど“多様性の中の人間の存在を魅せる”という狂言の本質を捉えた作品はないと言えますので、ぜひこの機会に狂言の面白さに触れていただければと思います。

野村萬斎 (撮影:宮田浩史)

野村萬斎 (撮影:宮田浩史)

プロフィール:野村萬斎 Mansai Nomura:1966年4月5日生まれ。東京都出身。狂言師。1969年、『靱猿』で初舞台を踏む。1994年、萬斎を襲名。2002年より世田谷パブリックシアターの芸術監督を20年間務めた。近年の出演作にドラマ『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』第7シリーズ、『死との約束』など。


撮影(野村萬斎人物写真):宮田浩史
取材・文:倉田モトキ
ヘアメイク:奥山信次(Barrel)
スタイリスト:中川原寛(CaNN)
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舞台写真撮影:政川慎治

 

放送情報

狂言 ござる乃座 64th~野村万作卒寿記念『唐人相撲』~
CS衛星劇場にて2022年4月15日(金)午前8:30~10:45 テレビ初放送!
 
狂言「素袍落」
■出演:野村萬斎、野村太一郎、石田幸雄
■STORY:突然伊勢神宮への参詣を思い立った主人が、伯父を誘うため太郎冠者を使いに遣る。伯父は辞退するが太郎冠者に門出の酒を振る舞う。酔った太郎冠者は調子に乗り…。

 
狂言「唐人相撲」
■出演:野村万作、野村萬斎、野村裕基、石田幸雄、深田博治、高野和憲ほか
■STORY:唐に滞在していた日本の相撲取りが皇帝に帰国を願い、最後にもう一度相撲をとることになる。通辞(通訳を兼ねる大臣)の行司で、臣下の唐人が次々と相撲取りに挑むもかなわない。熱心に観戦していた皇帝だが…。

 
■映像収録日:2021年10月31日(東京・国立能楽堂)
■衛星劇場公式サイト:https://www.eigeki.com/series/S73378

 
■CS衛星劇場の視聴方法:https://www.eigeki.com/page/howto
■衛星劇場カスタマーセンター 0570-001-444
【受付時間】10:00~20:00(年中無休)
(IP電話専用 03-6741-7535)
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