ジョージア国立バレエ団のゲストを迎える第33回清里フィールドバレエは「ドン・キホーテ」~バレエ・シャンブルウエスト今村博明総監督に聞く
「ドン・キホーテ」
今年で33回目を迎える野外バレエ「清里フィールドバレエ」が2022年7月29日(金)~8月8日(月)まで、清里高原萌木の村の特設野外劇場で開催される。1990年、バレエ・シャンブルウエストの今村博明総監督と川口ゆり子芸術監督、萌木の村代表取締役社長の舩木上次らの出会いによって生まれた野外劇場でのバレエ公演は、今では毎年3万人を超える観客が訪れる、清里の夏の風物詩へと成長した。長期にわたって継続されている日本唯一ともいえるバレエ公演で、この夏を心待ちにするファンも多い。
今年の演目は「ドン・キホーテ」。2018年に初演し好評を博した笑いあり、幻想的な森のシーンに打ち上げ花火もありの、野外ステージならではの演出も期待できる演目だ。さらにジョージア国立バレエ団のリーディング・ソリストであるニノ・サマダシヴィリ、そしてサンフランシスコバレエ団のソリスト・山本帆介が初日の主演を務めることも話題のひとつ。フィールドバレエではおなじみの小野絢子&福岡雄大ペア(ともに新国立劇場バレエ団プリンシパル)、東京バレエ団プリンシパルの上野水香のほか、松村里沙、川口まり、土方一生、藤島光太といったバレエ・シャンブルウエストのダンサー達も顔を揃える。今年の見どころについて、今村総監督に話を聞いた。(文章中敬称略)
今村博明総監督
■お祭り感満載の「ドン・キホーテ」。野外劇場の魅力も存分に発揮する演出にも注目
――まず今年の演目「ドン・キホーテ」からお話を伺います。2018年に初演され、「ジゼル」「眠れる森の美女」などと並演されることはありましたが、今回は初めて全日程での上演となります。この演目を選んだ理由は。
明るく楽しい、誰もが楽しめお祭り感もあるバレエを、と思い選びました。3年前のコロナ禍から、また最近はとくに暗い話題が多いのですが、だからこそお客様に楽しんでいただきたい。2幕のドン・キホーテの夢のシーンは野外劇場の本物の森の中で踊るので幻想的ですし、3幕では打ち上げ花火も上がります。明るさ、神秘性、荘厳さ、華やかさなどが揃っており、バレエの楽しさを来ていただいたお客様に楽しんでいただければと思いました。
――打ち上げ花火も清里フィールドバレエならではの演出の一つですね。初めてバレエを見るお客様にもおすすめできるバレエでもありますね。
「ドン・キホーテ」
■日本初来日!ゲストのニノ・サマダシヴィリはニーナ推薦の秘蔵っ子
――初日の主演をジョージア国立バレエ団のニノ・サマダシヴィリさん、サンフランシスコバレエ団の山本帆介さんが踊ります。両名とも初めて名前を聞く方々が多いのではないかと思いますが、まずニノ・サマダシヴィリさんはどのようなダンサーなのでしょう。
ニノさんは2016年からフィールドバレエにゲスト出演されていたニーナ・アナニアシヴィリさん推薦のダンサーです。実は今年は「日本・ジョージア外交関係開設30周年」記念の年であることをジョージア関係者から伺い、フィールドバレエでゲストにダンサーを呼んではどうかというご提案をいただきました。そこで国際交流の意味も含め、ニノさんに初日の主演をお願いすることとしました。
ニノ・サマダシヴィリ(ジョージア国立バレエ団)
ニーナ・アナニアシヴィリさんはボリショイバレエ団やアメリカン・バレエ・シアターでプリンシパルを務めた「世界のニーナ」で、今はジョージア国立バレエ団の芸術監督をされています。ニノさんはそのバレエ団で「白鳥の湖」や「ジゼル」、「眠れる森の美女」などで主演を踊る、いわばニーナの直弟子なのです。私はまだ彼女の踊りを見たことはありませんが、ニーナさんイチオシのダンサーということで、期待しています。
ニーナさんはフィールドバレエの出演を機に、バレエ・シャンブルウエストのアーティスティックアドバイザーに就任していただいており、今年もコーチとしてニノさんととともに来日予定です。「世界とつながるフィールドバレエ」の国際化に一役買ってくださっています。彼女は清里が大好きなんですよ(笑)。
■凱旋公演の山本は表現力にも期待。多様なキャストもフィールドバレエの楽しみ
――ニーナさんの秘蔵っ子であるニノさんと踊るのが、バレエ・シャンブルウエストのダンサーである山本帆介さんで、いわば今村監督のお弟子さんと言える方ですね。
帆介君は私の方からニーナさんに推薦しました。実はジョージアのゲストダンサーは男女のカップルで踊っていただく予定でしたが、男性がなかなか決まらなかったので、私が帆介君を紹介したのです。彼はシャンブルウエストからサンフランシスコに拠点を置いて20年になりますが、自身のキャリアの新たなステップとして日本で踊る機会があればという話をしていたので紹介したところ、ジョージア側からも「今村さんが薦めるのであれば」ということで快諾いただきました。
山本帆介(サンフランシスコバレエ団)
――山本さんにとっては凱旋公演ともなるわけですね。山本さんは千秋楽で東京バレエ団の上野水香さんのお相手も務めますね。
実は水香さんが昔、牧阿佐美バレヱ団にいたとき、帆介君がゲスト出演し、一緒に踊ったことがあるのだそうです。2人ともその時のことを覚えていて、水香さんも「楽しみです」と仰ってくれました。何かご縁を感じますね。
――それは楽しみです。今村監督から見た山本さんの特徴はどのようなところでしょう。
とにかく日本人離れしたスタイルの良さですね。恵まれた体型に加え、海外の生活が長いのでそこから得た日本人とはちょっと違う、彼独自の表現力にも期待しています。
――このほかシャンブルウエストの方々は松村さん、川口さん、土方さんや藤島さんら、土田明日香、柴田実樹さん、江本拓さんなどおなじみの方々が出演しますね。小野絢子さん、福岡雄大さんのほか、橋本直樹さん、清水健太さんなどゲストも豪華です。
はい。バレエはキャストが変わると世界観や雰囲気が変わるのも楽しみの一つです。シャンブルウエストの層も厚くなっており、様々なキャストを取り揃えましたので、ぜひ1度といわず複数回、見ていただければと思います。
「ドン・キホーテ」
■野外バレエならではの強み。国際交流を含め、世界とつながるフィールドバレエへ
――フィールドバレエではこのほか「末来をつくる子供たちによる交流コンサート」が組まれている日もありますね。
「交流コンサート」は子供たちがバレエにふれ、取り組むきっかけになればと思いはじめたもので、これも今年が3年目になります。山梨県、長野県の近郊のバレエ教室の生徒たちを招待していましたが、今年はこれを全国からの応募のスタイルに変更しました。現在すでに東京や東北地方からの応募があり、締め切りを待って選出に入るところです。
交流コンサート
清里フィールドバレエは2020年のコロナ禍のなかでも、野外バレエならではの強みというのでしょうか、密を避けて上演をすることができました。あの時の公演「白鳥の湖」では、密にならないように客席の間隔を開け、接触を避け4羽の白鳥も手を繋がないで踊るなど、振付の変更を余儀なくされたところもありましたが、途切れることなく今年33回目を迎えられ、またニーナさんの出演をきっかけに国際交流、世界へ繋がるフィールドバレエとしても歩んでいます。ぜひ足を運んでいただき、現実を忘れるような楽しい夢の世界に浸っていただければと思います。
――ありがとうございました。
「ドン・キホーテ」
取材・文=西原朋未
公演情報
「ドン・キホーテ」
■会場:清里高原 萌木の村 特設野外劇場
■総監督:今村博明
■芸術監督:川口ゆり子
■出演:
7月29日(金):ニノ・サマダシヴィリ(ジョージア国立バレエ団)、山本帆介(サンフランシスコバレエ団)
7月30日(土):土田明日香、橋本直樹
7月31日(日)・8月6日(土)川口まり、藤島光太
8月1日(月)・4日(木):小野絢子、福岡雄大(ともに新国立劇場バレエ団)
8月2日(火):石原朱莉、清水健太(ロサンゼルスバレエ団)
8月5日(金):松村里沙、土方一生
8月7日(日):柴田実樹、江本拓
8月8日(月):上野水香(東京バレエ団)、山本帆介(サンフランシスコバレエ団)
バレエ・シャンブルウエスト