バリトン黒田博に聴く東京二期会『パルジファル』~70周年記念公演に大役アムフォルタス役を歌う

インタビュー
クラシック
2022.7.7

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2022年7月13日(水)~17日(日)東京二期会による『パルジファル』上演において、大役アムフォルタス役を歌うバリトン歌手 黒田博。いまや日本を代表するオペラ界の重鎮的な存在だ。前回2012年の上演に引き続き、二期会創立70周年記念公演において再びこの役に挑む心境や役柄についての思いを聴いた。

アムフォルタスという役を歌う快感

――今回の『パルジファル』上演においてアムフォルタス役を歌われますが、意気込みをお聞かせください。

2012年に上演された東京二期会による『パルジファル』公演でもアムフォルタス役を歌わせて頂きましたし、他のワーグナー作品の上演においてもいくつかの役で出演させて頂いていますが、個人的には若い頃、特に学生時代はそれほどワーグナーが好きではありませんでした。

「どれだけ時間をかけて同じことをずっと言い続けているんだ」というような思いがつねにあったんですね。ところが、実際プロダクションに参加し、演じる立場になって見ると「これだけの時間と、これだけの音楽が必要なんだ」ということが実感として分かるようになってきました。

アムフォルタスは魔の誘惑に負け、本来なら立場的に守りぬいてゆかなくてはならない ”聖槍” をも奪われ、自らも致命的な “傷” を負います。そして、傷を負った肉体的な痛みよりも、自分が犯した罪に対しての精神的な痛みのほうがどれほど辛いものか――という苦しみを延々と歌いあげるわけですが、それを歌うこと自体、マゾヒズムのようにも思えてきます。心が捻じ曲げられてしまうような内面の痛みを自らの歌で表現するその苦痛が、快感にすら思えてくるのです。そのような生き様こそがアムフォルタスという役のすべてであり、それを再び歌い、演じられるのを嬉しく思っています。

――二期会は今年創立70周年という記念の年を迎えるわけですが、『パルジファル』を上演する意義というものについてどのように思われますか?

二期会は、1952年の創立当初からモーツァルト作品とともに、ワーグナーをはじめとするドイツオペラ作品を中心に制作・上演するという理念を掲げてきました。創設者であった中山悌一先生は、当初からワーグナーのニーベルングの指輪全作(全4作品)を完結上演させるということに大変熱意をもって取り組んでいらっしゃいました。

そのような歴史からも、70周年記念の公演の一環としてワーグナー最後の作品である『パルジファル』が上演されるのは、二期会の揺るぎない理念と精神が今なお紡ぎ継がれているということの表れと感じています。

>(NEXT)アムフォルタスという役の存在意義

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