ウクライナ芸術の精華「キエフ・バレエ・ガラ 2022」が開幕、冬の来日公演概要も発表~記者会見レポート

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2022.7.16
(左から)寺田宜弘、エレーナ・フィリピエワ、ニキータ・スハルコフ、アンナ・ムロムツェワ

(左から)寺田宜弘、エレーナ・フィリピエワ、ニキータ・スハルコフ、アンナ・ムロムツェワ

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ウクライナの名門キエフ・バレエの団員たちが中心となって踊る「キエフ・バレエ・ガラ 2022」が2022年7月15日(金)の群馬・前橋公演から始まった。8月9日(火)までに全国16都市で20公演が行われる。7月14日、前橋で記者会見が行われ、エレーナ・フィリピエワ(芸術監督)、寺田宜弘(副芸術監督)、アンナ・ムロムツェワニキータ・スハルコフが登壇した。
 

■戦禍における初の海外ツアーの地は日本

2月下旬、ロシアのウクライナ侵攻を受けてキエフ・バレエも多大な影響を受けた。来日メンバーはキーウを一時的に離れ、ドイツやイタリア、オランダでそれぞれ活動している。個々に各国でチャリティー公演やバレエ団のイベントには出演しているが、キエフ・バレエとしてまとまった公演を海外で行うのは侵攻後初めて。本公演は昨年から企画されていたが、侵攻を受けて取り止める方向だった。だが、キエフ・バレエのダンサーたちから「日本で公演を行ってほしい」と要望があり、世界各国に分散しているメンバーが集まって実現した。

出演者たちは7月3日に来日し、前橋市に約2週間滞在。同市から練習場所と滞在中のホテル、食事の提供を受けたという。

フィリピエワは「戦争が始まった時、本当のことだと信じられませんでした。しかし現実でした。私は40日間キエフに留まりました。家族を置いていけなかったからです。国外に成人男性が出ることはできず、主人も多くの親類もウクライナにおりました。その間、劇場は閉鎖され、リハーサルも公演もできない状態でした」と開戦当初を振り返る。「今の私たちの気持ちを皆さんに数分間でお伝えするのは難しいです」と語るが、日本での温かなもてなしに接し「祖国から離れていますが、まるで家にいるようだと私たち全員が感じています。私たちとウクライナを支援していただいて本当に感謝しています」と述べた。

エレーナ・フィリピエワ

エレーナ・フィリピエワ

スハルコフも「侵攻が始まって私自身も衝撃を受けましたが、キエフの街自体は防衛がしっかりしているので、そこまで動揺することはありませんでした。今こうして日本に来ることができていますけれども、日本の皆様に感謝して、しっかりと公演を行って、キエフに戻れる日がくることを祈っています」と話す。

ニキータ・スハルコフ

ニキータ・スハルコフ

ムロムツェワは「私も最初はキエフに残っていましたが、そのうち家族を外国に連れていく決断をしました。そして恐怖を感じました。今後のことを計画できる状況にありませんが、日本に公演に呼んでいただいて感謝しています。祖国のウクライナのことを紹介する機会を得て感謝しています」と語る。

アンナ・ムロムツェワ

アンナ・ムロムツェワ


 

■日本への感謝を胸に、ウクライナの芸術家としての誇りを賭けて踊る

寺田は侵攻直前の2月23日にキエフを離れ、その後100日間ヨーロッパに残り、ウクライナの子どもたちの支援やチャリティーコンサートを行った。「芸術家として何ができるか」を考えての行動だった。「ウクライナの芸術をサポートしていかないと、もしかして消えてしまう可能性があります。素晴らしいウクライナの芸術を残すための活動をしてきました」と思いを話す。

寺田によると、5月25日からウクライナ国立劇場で舞台が再開し、7月に入ると週3回の舞台が行われているという。120人の団員のうちキエフに残った人は約30名ということで、ガラ・コンサートや新作を上演して活動しているとのこと。

「キエフ・バレエ・ガラ 2022」の出演者たちは、久々に皆で集まって公演に向けて練習する日々を喜んでいる。スハルコフは「団員全員ではなく一部ではありますが、こうして一堂に会してリハーサルをし、公演をすることができて、非常にうれしく思っています」と心情を明かす。

寺田宜弘

寺田宜弘

寺田は「今回の公演は非常に大事なプロジェクトです」と強調する。「(侵攻後に)キエフ・バレエとして初めてツアーに出たのが日本なんです。その映像を世界中に住んでいるウクライナの人たちに見てもらうと「ウクライナの芸術は生きている」ということが伝わると思うんですよね」と語る。なお寺田は今回新作『ひまわり』を振付する。「戦争はいつか終わります。戦争が終われば、新しいウクライナが必ず生まれると思うんですね。『ひまわり』という作品は、新しい、素晴らしいウクライナの国をイメージして創りました」と胸中を語った。

また、寺田は「今回の「キエフ・バレエ・ガラ」でウクライナの芸術家は一歩前へ進むことができると思います。戦争は必ず終わります。その時には新しいウクライナ、新しいキエフ・バレエが生まれると思います。今回、日本でバレエ団が1つになって公演できるということは、バレエ団一同非常に幸せなことであって、光藍社、日本の国民に感謝しています。ありがとうございます」と述べた。

クラスレッスン後の記念撮影

クラスレッスン後の記念撮影


■今冬、ウクライナ国立バレエとして来日し『ドン・キホーテ』ほかを披露

今年の冬にウクライナ国立劇場の来日公演が決定したことも発表された。招聘元の光藍社は劇場側と話し合い、オペラ、バレエ、オーケストラすべての公演を予定。総勢約200名での来日となる。12月17日から2023年1月15日にかけて約1か月にわたり全国公演を開催(公演場所は順次発表)。バレエ13公演、オペラ7公演、オーケストラ4公演、オーケストラ&バレエの特別公演を2公演、全26公演を予定する。8月末に先行販売を開始し、9月14日から一般発売。

なお、これまでは来日公演名を「キエフ・バレエ」「キエフ・オペラ」としていたが、冬から「ウクライナ国立バレエ」「ウクライナ国立歌劇場」と改称。現地劇場名に揃える形で、1972年の初来日以来親しまれてきた「キエフ・バレエ」の名称での公演は今夏が最後となる。

冬の公演でウクライナ国立バレエは『ドン・キホーテ』を、ウクライナ国立歌劇場は『カルメン』を、ウクライナ国立管弦楽団はベートーヴェン『交響曲第九番』を取り上げる。新春には「新春オペラ・バレエ・ガラ」と題し、オーケストラの曲とオペラの歌曲、一幕物のバレエを一緒に楽しめる公演を予定。光藍社としては、ウクライナ国立劇場と長年にわたり深めてきた関係を継続していくために冬の公演を決定したという。

冬の公演に向けてフィリピエワは「私たちにとって重要な公演です。私たちはダンスを生業にしています。舞台無しに生きていけません。そして全幕バレエをぜひ見ていただきたいと思い『ドン・キホーテ』全幕を日本にお持ちいたします」と説明する。

『ドン・キホーテ』の主役キトリに初めて挑むムロムツェワは「キエフ・バレエの真髄を全幕物として見ていただけることを楽しみにしています。私自身新しい役に挑戦します。日本でデビューできることをうれしく思っております」と意欲を示した。

【22年7-8月開催】「キエフ・バレエ・ガラ2022」来日公演PV

取材・文=高橋森彦

公演情報

「キエフ・バレエ・ガラ 2022」
 
■公演日程:2022年7月15日(金)~8月9日(火)
■公演会場:東京国際フォーラムホールC、J:COMホール八王子、NHK大阪ホール、愛知県芸術劇場、ロームシアター京都ほか北海
※演奏は特別録音音源を使用いたします ※3歳以下のお子様の入場はご遠慮ください 
※演目、出演者は変更になる場合がございます。予めご了承ください。
のお問合せ:光藍社センター 050-3776-6184 (12:00~16:00 土日祝休み) 
■公演の詳細、情報:https://www.koransha.com/ <こうらんしゃ で検索>
 
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公演情報

ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)
「ドン・キホーテ」「新春オペラ・バレエ・ガラ」


2022年
12月17日 (土) 14:00開演 神奈川県民ホール 大ホール 「ドン・キホーテ」
12月18日 (日) 12:00開演 東京国際フォーラム ホールA 「ドン・キホーテ」
12月19日 (月) 18:30開演 昌賢学園まえばしホール 大ホール 「ドン・キホーテ」
12月20日 (火) 18:30開演 市川市文化会館 大ホール 「ドン・キホーテ」
12月22日 (木) 18:30開演 めぐろパーシモンホール 大ホール 「ドン・キホーテ」
12月23日 (金) 18:30開演 いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール 「ドン・キホーテ」
12月25日 (日) 16:00開演 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館) 大ホール 「ドン・キホーテ」
12月27日 (火) 14:00開演 東京文化会館 大ホール 「ドン・キホーテ」
12月28日 (水) 15:00開演 アクトシティ浜松 大ホール 「ドン・キホーテ」
12月30日 (金) 16:00開演 ウェスタ川越 大ホール 「ドン・キホーテ」
2023年
1月3日 (火) 12:30開演 東京国際フォーラム ホールC 「新春オペラ・バレエ・ガラ」
1月3日 (火) 16:30開演 東京国際フォーラム ホールC 「新春オペラ・バレエ・ガラ」

※詳細は8月下旬公開予定

ウクライナ国立歌劇場(旧キエフ・オペラ)
「カルメン」「新春オペラ・バレエ・ガラ」
 

2023年
1月3日 (火) 12:30開演 東京国際フォーラム ホールC 「新春オペラ・バレエ・ガラ」
1月3日 (火) 16:30開演 東京国際フォーラム ホールC 「新春オペラ・バレエ・ガラ」
1月6日 (金) 13:00開演 東京文化会館 大ホール 「カルメン」
1月7日 (土) 13:30開演 東京文化会館 大ホール 「カルメン」
1月8日 (日) 15:00開演 フェスティバルホール(大阪) 「カルメン」

※詳細は8月下旬公開予定


第九
ウクライナ国立歌劇場
 
ベートーヴェン
「エグモント」序曲 作品84
ベートーヴェン
交響曲第9番 ニ短調 作品125 “合唱付き”

 
2022年12月29日(木)13:00開演 東京オペラシティコンサートホール
2022年12月30日(金)14:00開演 東京オペラシティコンサートホール
その他横浜公演も開催予定

※詳細は8月下旬公開予定
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