ヨーロッパ企画『あんなに優しかったゴーレム』記者発表会レポート~「非常にシンプルで力強い“これがヨーロッパ企画”というような劇です」

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2022.8.24
ヨーロッパ企画『あんなに優しかったゴーレム』劇団代表で作・演出の上田誠。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)

ヨーロッパ企画『あんなに優しかったゴーレム』劇団代表で作・演出の上田誠。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)

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京都の劇団「ヨーロッパ企画」が、劇団10周年で上演し、代表作の一つと自負する作品をリメイク再演する『あんなに優しかったゴーレム(以下ゴーレム)』。ある田舎町に取材に来たドキュメンタリークルーたちが、その町のゴーレム伝説に巻き込まれていく様を、集団で漫才をするような雰囲気で描いた作品だ。今回は登場人物を追加し、町の住人の視点を増やすことで、笑いだけでなくある種の恐怖感も倍増させるという。サイココメディであり、ファンタジーコメディでもあるという本作について、8月2日に劇団代表で作・演出の上田誠の記者発表会が、大阪市内で行われた。


ほぼ全出演者が顔をそろえ、毎年にぎやかに行われている本公演の記者発表会。しかし今年は都合により、酒井善史が上田そっくりのファッションで一瞬登場したのをのぞいて、上田が単独で会見に臨んだ。

上田に「ドッペルゲンガーかと思った」と言われるほどのそっくりぶりだった酒井善史(右)。

上田に「ドッペルゲンガーかと思った」と言われるほどのそっくりぶりだった酒井善史(右)。

『ゴーレム』を再演することになったのは、前作『九十九龍城』とは好対照な作品というのが、まず一つ。また初演はかなり時間ギリギリで完成させたため、やり残した所や、14年の時を経てブラッシュアップできるポイントが多いことも、決め手だったという。

『九十九龍城』は、魔窟的なセパレートされた空間で、映像との絡みがあるという、かなり変わった作りの、僕らの最新形のような作品になりました。それで次は逆に、ヨーロッパ企画の原形質とも言うべき、ストレートなコメディをやりたいと思った時に、この作品が思い当たりました。舞台上にいるゴーレムが、本当に動くのか? という、登場人物たちのやり取りによって、どんどん客席の笑いが増幅していく、自分たちの中ではすごく『コメディをやってるなあ』という手応えのあった自信作です。

この頃は劇場のサイズが、比較的大きな空間に移ったタイミングの、第二回目ぐらい。当時は舞台の高低差を使うことを意識していて『高さのある舞台装置を作れないか?』ということで、地面のレベルをかなり高い所にして、そこから土の中に掘り下がるという構造にしました。土の中に掘り下がっていくことと、記憶が掘り下がっていくことを、ストーリー的に絡めていくという試みの中で作られた作品です。

当時の僕らは、いろいろ試行錯誤をしている時期で、脚本がなかなか……(笑)。ギリギリになって今の設定を思いついて、そこからすべてがワーっと転がって、その勢いのまま本番に突入したんですが、それがある奇跡的な結実の仕方をしたという思いがあります。とはいえ初演の頃のメモを見ると、もっとオルタナティブな世界の歴史が掘り起こされて、割と凶暴なことが起こる……というようなことを考えていて。今なら後半の部分を、そんな感じでもっと加速できる気がするので、リメイクであり最新作という再演にしようと思いました」。

ヨーロッパ企画第26回公演『あんなに優しかったゴーレム』(2008年)。 [撮影]清水俊洋

ヨーロッパ企画第26回公演『あんなに優しかったゴーレム』(2008年)。 [撮影]清水俊洋

神埼投手(酒井善史)のドキュメンタリーを撮影するために、プロデューサーを始めとするTVクルーたちが、彼の故郷のグラウンドを訪れる。その片隅には巨大な土の像があり、神崎は「このゴーレムとキャッチボールをしていた」と、それが生きているかのようなことを言い出し、クルーたちは困惑。さらに町の住民たちからも「ゴーレムの世話になった」などの証言が集まってくる。クルーたちは本来の目的そっちのけで、ゴーレムの謎に突っ込んでいくが、それによって秘められた記憶が明らかになっていく……。

「『ゴーレム』は、コメディでありホラーでありファンタジー」と語る上田誠。

「『ゴーレム』は、コメディでありホラーでありファンタジー」と語る上田誠。

今回の作品を説明する時に『郷愁のファンタジーコメディ』と『精神の奥底に切り込むサイココメディ』と、真逆のようなことを言うんですけど(笑)、本当にホログラムシールのように、角度を変えれば見え方が変わり、どっちから観ても成り立つ作品になっています。ゴーレム(を信じる)目線から観たら、非常に優しいお話。ゴーレムは神崎投手や地元の選手たちを優しく導いて、この町のためにつくした……という物語に見えます。

でも一方『それはただの土の塊では?』という目線で観ると、とても怖いお話なんです。もしゴーレムがいないとしたら、神埼投手がキャッチボールをしたというのはどういうことだろう? この町はどのような成り立ちをしていて、裏でどんなことが起こっているんだ? という所を見ると、きっと恐ろしいことになってくると思いますし。

初演では、この怖さとファンタジーをある断面から見たら、ちゃんとコメディとして笑える! という発見があって、そこからバババッとできあがりました。そういう意味では、コメディであることは前提で、しかしその中にサイコ味もあれば、ファンタジーもあり……という作品です」。

毎回記者発表会の司会を担当している、MBSアナウンサーの松井愛(左)と上田誠。

毎回記者発表会の司会を担当している、MBSアナウンサーの松井愛(左)と上田誠。

今回は劇団員の本多力が出演しない代わりに、『ギョエー! 旧校舎の77不思議』(2019年)に出演した、亀島一徳(ロロ)と金丸慎太郎がゲスト出演。上田いわく「77の怪異に向き合ってバトルしてくれた、とても骨太な役者たち」とのことだ。さらに役者のあり方も「群像のヨーロッパ」から、さらに各人の個性を+αできたらと期待している。

本多がやっていた音声スタッフの役は、今回は亀島さんです。エチュードで一から(役を)作っているので、新たな音声スタッフ像ができると思います。さらに、神崎が新人からベテランになったとか、中川(晴樹)さんはディレクターからプロデューサーにするとか、当時の役そのままというよりは『10年経って、こういう人になってるだろうな』という変化が、やっぱり生まれています。

初演の頃は、僕は群像で一つのキャラクターを作る方が絶対面白いと思っていたし、あまり他に観たことがなかったんです。特にドキュメンタリークルーって、一人の被写体に対して、蛇のように付いていくというアンサンブルなので、一人ひとりの役者というより“団体”と考えている所がありました。

でも今は、各役者が個々でも仕事をしていて、お客さんも結構『この役者さんが良かったね』という目線でもご覧になるので、役者一人ひとりの見せ場もちゃんと作るという風に、作り方も変わってきています。ただそれでも、群像のうねりの面白さっていうものは、ヨーロッパにしかできないという思いは、やっぱりあるんで。群像の中で生きながらも“自分”という個が立つように、どう見せ場を作るか? というようなことは、ヨーロッパ企画の役者の中では、大きなテーマになっていると思います」。

ヨーロッパ企画第26回公演『あんなに優しかったゴーレム』(2008年)。 [撮影]清水俊洋

ヨーロッパ企画第26回公演『あんなに優しかったゴーレム』(2008年)。 [撮影]清水俊洋

また、前作『九十九龍城』と今回の『ゴーレム』は、かつて発明した演劇手法を発展させることと、「旅行感覚」があるという点で共通しているという話も。

僕らは過去にいろんな作品を、発明品のように作ってきた思いがあって、それをなるべく生かしつつ、プラス何かを盛り付けるということを、そろそろやってみたいという時期に差し掛かりました。『九十九龍城』も『Windows5000』(2006年)というコメンタリー形式の劇を、今現在の形でやってみたら……という手付きで作ったものです。あれは新作で今回は再演ですけど、その心持ちはそんなに変わってない。演出をガラっと変えることはありませんが、各スタッフワークはアップデートされた形になると思います。

後はこういう時期なので、舞台上ぐらいは旅行というか、トリップ感のあるお芝居をやりたいなと、前回メンバーと話していて。だから『九十九龍城』は、何となく香港の魔窟に行った気分になればいいなあと思って作りましたし、舞台を観るというのは、そういう行為にも続いてるんだと思いました。今回は過去の記憶と、さらにそこからもう一つ掘り下げた、もしかしたらあったかもしれない歴史みたいな所に旅をしていくような、そんなお話になっています」。

大阪記者発表会の名物、酒井善史の生ナレーションで送る劇団活動の振り返り映像。

大阪記者発表会の名物、酒井善史の生ナレーションで送る劇団活動の振り返り映像。

そして毎年会見の息抜きとなっている、劇団員のプレゼンテーションコーナーだが、今回は「こんなに楽しい稽古場」というお題で、各人のコメントのみを紹介。

諏訪雅は「サイコな共演者」というタイトルで、完全に心霊案件の体験を平然と語る中川晴樹がサイコに見えたという話を。土佐和成は「初演からパワーアップ」というタイトルで、演出やスタッフワークなどすべてがパワーアップしている中で、唯一「若さ」だけがダウン。しかし若さがいらない劇なので、それすらパワーアップだという主張を。藤谷理子は「こんなに優しかった共演者」というタイトルで、自分の恐怖体験談を共演者たちが微妙な空気で受け止めた中、唯一西村直子だけが「あれ怖かったわー」と言ってくれたのが優しかった……という話が、それぞれ披露された。

コメントで登場した劇団員たち。

コメントで登場した劇団員たち。

上田は諏訪の話に補足して「事前に『みんなはそういうもの(超常現象)って信じますか?』というアンケートを取った時に、中川さんは全然信じないタイプだったんです。でも明らかな霊体験をしているのに『そういうのは別にないと思う』と言ってました。体験していないから信じないんじゃなくて、体験しても信じないことがあるんだなあと(笑)。僕はすごくそういうのが見たいけど、全然体験がなくてつまらないなと思ってて。一回それで、自分の世界をガラっと変えたいなと思っています」と語った。

また土佐の話にも「『サマータイムマシン・ブルース』は大学生の話だから時間切れですが(笑)、『ゴーレム』や『曲がれ! スプーン』とかは、みんなが年齢を重ねれば重ねるほど面白みが出るタイプの劇。あとTVクルーを現場でいろいろ見かけるようになったので、クルーの仕草をみんなで真似ています」という「TVクルーあるある」が楽しめることも付け加えた。

ちなみに中川の体験したオカルト? な話は、ヨーロッパ企画のYou Tubeチャンネル内の「ヨーロッパ企画の生配信」8月8日放送『中川晴樹の「俺のラジオ」』アーカイブで、38:30頃からくわしく触れているので、興味のある方はご確認を。

中川晴樹の「俺のラジオ」#20 -夏-


 

そして最後に上田は「この作品は劇団の原点というか、中間地点。10年間いろんなシステムを紆余曲折してやってきて、かなりシンプルで力強いものができたという感覚が、当時あったんですね。これがヨーロッパ企画の現在形であり、基本形。これ以上でもこれ以下でもない、これがヨーロッパ企画です……というような劇だと思うんで。今回やったことが、今後僕らの作る群像劇のベースになるんじゃないか? という風に考えています」と、会見を締めくくった。

初演の『ゴーレム』は、会見中でも「ツアーの中で育てられた」と上田が述べたように、最初に見た京都公演と、約1ヶ月後に観た大阪公演で、明らかに物語の掘り下げ方が変わっていたのに驚いた記憶がある。あの時とは違い、すでに脚本も方向性も見えた状態で作る今回の再演は、勢いではなくじっくりと掘り進んだからこその、仕掛けや発見がそこかしこにある、怖楽しい舞台になるはずだ。8月中にはMBSで特別番組も放送される予定なので、ぜひチェックをおこたりなく!

ヨーロッパ企画 第26回公演 『あんなに優しかったゴーレム』 DVD CM

公演情報

ヨーロッパ企画 第41回公演『あんなに優しかったゴーレム』

■作・演出:上田誠
■出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、藤谷理子/亀島一徳、金丸慎太郎

■日程:
<滋賀公演> ※プレビュー公演
2022年9月10日(土) 栗東芸術文化会館さきら中ホール
<京都公演>
2022年9月16日(金)~9月19日(月) 京都府立文化芸術会館
<東京公演>
2022年9月28日(水)~10月10日(月・祝) あうるすぽっと
<新潟公演>
2022年10月18日(火) りゅーとぴあ 新潟市民芸術会館・劇場
<埼玉公演>
2022年10月20日(木) RaiBoC Hall(さいたま市民会館おおみや)大ホール
<神奈川公演>
2022年10月22日(土) 関内ホール
<名古屋公演>
2022年10月25日(火) 愛知県産業労働センター ウインクあいち 大ホール
<大阪公演>
2022年11月5日(土)・6日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
 
■公演特別サイト:http://www.europe-kikaku.com/e41/
※この情報は8月23日時点のものです。新型コロナウイルスの状況などで変更となる場合がございますので、公式サイトで最新の情報をチェックしてください。
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