ReN ループステーションを駆使した“一人”の音作りと生音のアンサンブル、初のバンド編成ツアーを控えた現在の想い
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――「千輪花火」のような和的情緒のある曲は、海外の人が聴いても新鮮だと思います。
僕が好きな洋楽のサウンディング、“ちょっとシリアスなんだけどビートがある”っていうのと、日本のエッセンスを混ぜられたと思っています。聴いてくれる人の中でどう響くのか僕自身まだよくわかっていないところがあるんですけど、ライブを通して盛り上がるものになっていく予感があります。
――終わりつつある恋の気配を、打ち上げ花火をモチーフにして描いている曲ですね。
花火をテーマにした曲にトライしてみたくて。最近、なかなか花火を見られてないんですけど、自分のしてきた苦い経験とかを引っ張り出して作りました(笑)。
――(笑)。花火の美しさって独特ですよね。一瞬で消えてしまうわけですから。
千輪花火は開くまでに時差があるんですよ。“バーン!”って音が鳴ってから数秒の間に願い事をすると叶うというのがあるらしくて、想いを寄せる花火なんです。いろんな花火について調べる中で、“こんなのがあるんだ?”ってなりました。
――花火が綺麗だからこそ、恋の終わりを予感しているこの曲の主人公の心情は切ないんでしょうね。
“もうどうしようもないな……”っていう想いなんでしょうね。でも、しんみりした曲にはしたくなかったので、こういうサウンドの中で爽快に歌っています。
――躍動感がある分、切なさが際立つ感じも夏っぽいです。暑くて、草木が青々と生い茂ったりもして生命力に満ち溢れているのに、不思議と切なさも漂う季節が夏ですから。
そうですね。夏は外に出ると蝉もたくさん鳴いているし、音がものすごいけど、それが突然なくなっていくから、余計に切なくなるのかもしれないです。
――この曲がまさにそうですけど、ReNさんの曲は聴いていると物語や風景が浮かびます。
聴いた人に景色を浮かべてもらいたいんです。「千輪花火」も1本のラブストーリーを頭の中で描けるような楽曲になっていたらいいですね。同じような経験がある男性だったら、頭の中で思い浮かべる女性がいるだろうし(笑)。男が持っている女々しさっていうのもあると思うんですけど、そういうものも「千輪花火」にはもろに出ていますね。
本当の心の言葉を並べたら、それは“女々しい”とされているものなのかもしれない。だから女々しい万歳です。
――男性の中にあるウェットな感情をReNさんは度々描きますよね?
はい。女々しいんだと思います(笑)。
――(笑)。こういう感情は、男女関係ないと思います。
いろいろ削ぎ落していった末に残る感情って、そういうものになっちゃう気がするんですよ。本当の心の言葉を並べたら、それは“女々しい”とされているものなのかもしれない。だから女々しい万歳です。
――《知ってるよ あいつといるの 知らないフリをしてるけどさ》と歌っている「No No Lies」も、そういう感情が伝わってくる曲です。
普通、こういう気持ちってあんまり言いたくないじゃないですか?
――そうですよね。
でも、言いたくないことだからこそ本音なんですよ。「No No Lies」は今回のEPのラストですけど、切ないけど温かいこういう曲で締めくくりたいというのは思っていました。
――この曲、アコギの音がすごく良いですね。
今までもそうだったんですけど、今回は1個1個の音を大切にしたい気持ちがありました。“大切にする”って“綺麗にする”っていうことじゃなくて、“アコースティックの生を込める”っていうような感覚なんですけど。
――楽器の音と歌が、とても自然に融け合っています。
“全部が綺麗に融け合っていて欲しい”って、僕は毎回のレコーディングで言うんです。そこは自分なりの正解、腑に落ちるポイントを追っかけ続けています。
――「エール」も心地よいサウンドですね。《頑張ってなんて無責任な言葉さ 涙を堪えて もがいて生きてるんだ 大丈夫だよなんて気軽に言うなよな ahh 僕のなにがわかるって言うんだい》というフレーズの生々しさが印象的です。
僕の中にあるヒリヒリと痛い感情を歌っています。相手に悪気がなくても“頑張って”とかいう言葉がその通りに伝わらないことってあると思うんです。応援とかエールは、必ずしも言葉が必要ではないと感じていて。ただ寄り添うことがすごく力になることもあると思うんですよね。
――複雑な感情をじっくり描いているからこそ、リスナーに対する温かなエールにもなっている曲だと思います。
これは1テイクで録ることにトライしました。10月からのツアーで一緒にやる大樋祐大のピアノと一緒に敢えて一発で録っています。
――歌はファルセットを多用していますね。
はい。もともと歌いだしのキーが高かったんですよ。何も考えないでギターを弾いて歌ってみたら《頑張って》っていう歌い出しがいきなり出てきたんです。“じゃあまた明日リハーサルでスタジオに集合ね”ってなってから歌い始めたので、みんな戻ってきました(笑)。考えて作った曲ではなくて、歌っていたら必然的に感情と共に出てきたメロディです。ちょっとかっこいい言い方みたいになっちゃいますけど、言葉がメロディを連れてきた感じで、難しいことは何も考えていなかったです。
――感情が乗っかった言葉が自ずとメロディになることってあるんでしょうね。
そうですね。それが詞先の曲の強さだと思います。
――感情がものすごく乗っている言葉は自ずと音楽と化すんだと思います。ラップと歌を区別する厳密な定義がないのも、それが理由なのかも。
ヒップホップ、ラップの世界観とシンガーソングライターは共通するものがあると、僕も思っています。ヒップホップも感じた悔しさ、自分の内面を歌いますからね。
――例えばボブ・ディランの歌も、ラップのように感じることがあるじゃないですか?
ほんとそうです。ボブ・ディランはまさにヒップホップだと思うし。ヒップホップは曲調だけじゃないなって思うんですよ。こういうことを言うとヒップホップが大好きな人に怒られるかもしれないけど(笑)。でも、僕はヒップホップって生き様だと思っています。ヒップホップマインドって反骨精神、自分を向上させていくマインドで、音楽をツールとして戦っているやつらのことを言うんじゃないかなって思っています。だから音楽をやっていなくてもヒップホップ気質の人っていっぱいいるんですよ。そういうエネルギーが僕は大好きです。
――「Higher」も、ReNさんが持っているそういうエネルギーを伝えてくれる曲だと思います。《追い風を待つだけの生き方じゃ虚しい》というフレーズからも、不屈の精神が伝わってきますから。
“自分から動かしてやる”っていうか。この曲は「エール」とほぼ同時期に書いたんですけど、曲調は全く違います。何かを始める時の動きって必ず重いし、何かが変化する時って必ず痛みが伴う気がするんですよね。でも、そういうことを越えた先に良い景色が待っているはずだという想いを込めています。
――ライブでお客さんにも歌ってもらえる状況が戻ってきたら、大合唱が起こるんじゃないでしょうか?
そうですね。僕はこの曲に関してサビという概念がなくて。聴いた人の心に響いたところがサビになって欲しいと思っています。みんなの感じるサビをライブで認識したいですね。
――先ほども少しお話した通り、10月からのツアーはバンド編成ですね。
はい。バンドで全国を回れることになって感無量です。
――バンドでライブをやることによって、また一人でやる時に活かせる発見もできるんじゃないでしょうか?
それも大きなテーマですね。バンドでやることによって一人やる時に還元できるものもあるだろうし、その逆もあると思うので。あと、今までとは違うサウンドでお客さんに曲を聴いていただきたい気持ちもあります。バンドスタイルでのライブは挑戦だから、またそれによって人間拡張できると思うし、その経験は一人でのライブにも活かせそうです。
――ドラムはSANABAGUN.の澤村一平さん、ギターは磯貝一樹さん、キーボードは大樋祐大さん、ベースはTHE 2の森夏彦さん。メンバーが強力ですね。
祐大と、ぺーちゃん(澤村一平)に関しては過去に楽曲を一緒にやったことがあって、その時の思い出を僕はすごく大事にしているんです。磯貝一樹くんも『ReNBRANDT』の「Can’t get enough of you」でギターを弾いてくれました。大好きなギタリストなんですよ。SNSでバズったギタープレイヤーで、世界からも注目されている彼にレコーディングに参加してもらったんですけど、今回声をかけたら“やろう!”って言ってくれて嬉しかったです。間違いない精鋭たちが揃ったバンドになりました。ヒリヒリとしていて、ちょっと女々しさもあり、ロックもありっていう人間らしいライブを彼らと一緒にしたいと思っています。
取材・文=田中 大 撮影=菊池貴裕
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●2022年10月28日(金)