岸井ゆきの“本気で殴られる”ことを求めた気迫の演技 釜山国際映画祭で映画『ケイコ 目を澄ませて』に大きな拍手

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2022.10.4
『ケイコ 目を澄ませて』岸井ゆきの 第27回釜山国際映画祭にて

『ケイコ 目を澄ませて』岸井ゆきの 第27回釜山国際映画祭にて

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10月9日(日)、第27回釜山国際映画祭・特別企画プログラム「Discovering New Japanese Cinema」の映画『ケイコ 目を澄ませて』公式上映が韓国・釜山シネマセンターで行われ、岸井ゆきのと三宅唱監督が登場した。

『ケイコ 目を澄ませて』は、元プロボクサー・小笠原恵子氏の自伝『負けないで!』を映画化したもの。『きみの鳥はうたえる』の三宅唱監督がメガホンをとり、両耳が聞こえないプロボクサー・ケイコと、視力を失いつつあるジムの会長の交流を描いた作品だ。主演の岸井ゆきのが演じるのは、生まれつきの難聴と付き合いながらプロボクサーとなった主人公・ケイコ。また、三浦友和がケイコを受け入れるジムの会長を演じている。さらに、会長の妻役で仙道敦子、ジムのトレーナー役で三浦誠己と松浦慎一郎が出演。そのほか、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中島ひろ子、仙道敦子らがキャストに名を連ねている。

 
 

『ケイコ 目を澄ませて』は、2022年2月の第72回ベルリン国際映画祭のワールドプレミアを皮切りに、世界各国の映画祭に出品。今回の釜山国際映画祭でアジアプレミアを迎えた。三宅監督は「アンニョンハセヨ。こうして釜山の大きなスクリーンで大勢の方と一緒に観ることができて楽しかったです」とあいさつ。岸井も「アンニョンハセヨ、岸井ゆきのです。アジアで最初のプレミアをご鑑賞頂きありがとうございます。この日を待ち望んでいたので感無量です!」と韓国語を交えて喜びを伝えると、満席の会場からは大きな拍手と声援が沸き起こった。

三宅監督は「この映画を作るまでボクシングについて全く知りませんでした。なぜ殴ったり殴られたりするのか分かりませんでした。でも多くの人がボクシングに夢中になってしまう。この謎について考えていくと、もしかしたら自分たちの人生についても考えていくことができるのではないかと思いました。この作品の主人公のモデルとなった小笠原恵子さんの生き方、純粋に自分のやりたいことをして、自分の人生を生きようとするエネルギーがこの映画の中心にあると思っています。岸井さんは映画の中でその全てを表現してくれています」と語った。

また、この日はシム・ウンギョンも応援に駆け付け、本作に魅了され、岸井に圧倒された事などを語った。岸井は「ボクシングのトレーニングを3か月行いました。その中でケイコを形作っていきましたが、トレーニング中からこれは二度とできない作品、役柄であるなという実感がありました。体づくりのために糖質制限をしていたので、すごく狭い世界しか見えなくなって、自分が見たいものしか見られない、聞きたい音しか聞こえないという状況でした。ある一点に集中力を注ぎ、その精神状態の中でケイコというキャラクターは作られていきました。この映画で身体が朽ちてもいいと思うほどに、このような経験は二度とできないだろうし、二度とできない瞬間をおさめてほしいと思いながら日々撮影に臨んでいました」と作品にかけた想いを明かした。

三宅監督は岸井とともに、ボクシング指導を担当した松浦慎一郎との撮影前のトレーニングを振り返り、「ボクシングの練習を始める前までは、ボクシングとはリングに一人であがって闘う孤独なスポーツだと思っていました。しかし実際に練習してみると、パンチをあてるのがものすごく怖いと感じ、互いに相手へのリスペクトがないと、ボクシングは練習すらできないということを学びました。ある日の練習で体格の全く違う僕と岸井さんがリングにあがって闘うという練習をしたときに、僕が本気で殴るわけにはいかないので遠慮してガードばかりしていたら、岸井さんから『なぜ本気で殴ってこないのか、なぜ真剣に向かってこないのか』と真っすぐ言われました。強さ、弱さは関係なく、その真っすぐな姿勢というものが、元々岸井さんにあり、ケイコというキャラクターにもあったのだと思います。それが“共に生きる”という姿勢にも繋がると、僕は練習中に感じ続けていました」と印象的なエピソードを語った。

これに対し、岸井は、「映画のためというよりか、自分自身がいかに強くなれるか、を考えてずっとやっていました。この映画をやり遂げられなかったら、俳優でいるのは難しいと思うくらい、必死で日々練習に臨んでいました」と本作にかける強い想いが溢れ出た。

三宅監督から、「目の前に素晴らしい役者さんがいて、素晴らしいスタッフの働きがあって、素晴らしいロケ地があって、それを撮り逃さないようにするということをまずは意識していました。それから、シム・ウンギョンさんがおっしゃってくれた“共に生きる”ということは、このように劇場で多くの人と“共に観る”こととも繋がっていると思います。どんな物語であれ、僕が映画を作るときは、スクリーンの向こうの世界とお客さんが、どのように同じ時間を過ごせるのかということについて考えながら作っています」と語った。

最後に、岸井は「私は映画が本当に好きなんです。この仕事を始める前からずっと観てきました。16mmフィルムで撮るということを知って、映画の撮影中にしか聞くことができないカラカラというフィルムの音を聞けるんだと思い、もう全てをここにかけるしかないんだという気持ちになりました。三宅監督と一緒に映画を撮るということ、16mmフィルムで撮るということ、そしてそのために集まってくれるスタッフの皆さんがいて、この映画を作ることができました。私はベルリン国際映画祭も他の映画祭も参加が叶わなかったので、この釜山が初めての映画祭となり、この映画を観た方とコミュニケーションとれる良い機会となりました。いま皆さんの表情を見て、この映画を観て何か感じて頂けたんだなということを思い、とても嬉しいです」とコメントした。

『ケイコ 目を澄ませて』は2022年12月16日(金)テアトル新宿ほか全国公開。

作品情報

映画『ケイコ 目を澄ませて』
(2022年/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/99分)
岸井ゆきの
三浦誠己 松浦慎一郎 佐藤緋美
中原ナナ 足立智充 清水優 丈太郎 安光隆太郎
渡辺真起子 中村優子
中島ひろ子 仙道敦子 / 三浦友和
 
監督:三宅唱
原案:小笠原恵子「負けないで!」(創出版)
脚本:三宅唱 酒井雅秋
製作:狩野隆也 五老剛 小西啓介 古賀俊輔
エグゼクティブプロデューサー:松岡雄浩 飯田雅裕 栗原忠慶
企画・プロデュース:長谷川晴彦 チーフプロデューサー:福嶋更一郎
プロデューサー:加藤優 神保友香 杉本雄介 城内政芳
French Coproducer: Masa Sawada
撮影:月永雄太 照明:藤井勇 録音:川井崇満 美術:井上心平 装飾:渡辺大智
衣裳:篠塚奈美 ヘアメイク:望月志穂美 遠山直美
ボクシング指導:松浦慎一郎 手話指導:堀康子 南瑠霞 手話監修:越智大輔
編集:大川景子 音響効果:大塚智子 助監督:松尾崇 制作担当:大川哲史
製作:「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会(メ~テレ 朝日新聞社 ハピネットファントム・スタジオ ザフール)
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業  制作プロダクション:ザフール  配給・ハピネットファントム・スタジオ
(C)2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
 
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