MOROHAアフロ『逢いたい、相対。』平成ノブシコブシ・徳井健太と考える「芸の道」ーー己の芸を生業にする男たちの劣等感、覚悟、生き様

2022.10.28
特集
音楽

MOROHAアフロの逢いたい、相対:平成ノブシコブシ 徳井健太 撮影=suuu

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MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第三十三回目のゲストは、平成ノブシコブシの徳井健太。徳井と言えば、バラエティ番組『ゴッドタン』を始め、自身のYouTubeチャンネル『得意の考察』、著書『敗北からの芸人論』においても、独自の視点でお笑い芸人を語るスタイルで注目を集めている。そんな徳井を招いた今回は、11月からお笑い芸人をゲストに迎えたMOROHAのツアー『無敵のダブルスツアー』について、各芸人の見どころを語ってもらった。だが、それは1つのトピックにすぎない……。「音楽」と「お笑い」という己の芸を生業にする男たちの劣等感、覚悟、生き様を語っている。今、2人が考える芸の道とは一体?

『MOROHAアフロの逢いたい、相対』

新しい作品ができたら、自分で手紙を書いて関係各社に送るんです

アフロ:以前からショートメールでやり取りはしていましたけど、こうやってお話しするのは初めてですね。どうやって連絡先を交換したんでしたっけ?

徳井健太(以下、徳井):Twitterじゃないですか? コロナ禍になって「ネルソンズがバンドを結成したので、対バンをしていただけないですか?」とDMでお誘いしたのがきっかけだったと思います。

アフロ:事の経緯は何だったんですか?

徳井:ネルソンズが初めて『キングオブコント』の決勝に行ったのが3年前。その時の話を聞いたら「本当は行くつもりじゃないけど、行っちゃった」らしいんです。と言うのも、あいつら的には、その前の年に「これで落ちたら、もう俺らは芸人を辞めよう」と思うほど、渾身のネタが作れたにもかかわらず、決勝に行けなかった。で、次の年は「一応出ておこう」と思ってエントリーして、スベったと思ったらまさかの決勝へ行っちゃって。それがやるせなかったそうなんです。あの(和田)まんじゅうがなにをやっても楽しくない、みたいな。なんなら、お笑いを辞めたいと思うところまで陥っていたので「そういう時はロックでしょ」と提案しました。今はコンビ仲がいいのが微笑ましい時代だし、トリオでスリーピースバンドを組めば売れそうじゃないですか?

アフロ:確かに斬新! めちゃめちゃいいっすね! 

徳井:ですよね? それで「バンドをやってみたら」と言ったら、3人とも一生懸命練習してくれて。それから3ヶ月後に「俺がMCをやるからライブに出よう」と言ったんです。どうせなら好きなミュージシャンと一緒にやった方が緊張するし、俺も見たいと思ったので、ダメ元でMOROHAさんにDMを送りしました。結局、コロナで開催は出来なかったですけど。

アフロ:オリジナルも作っていたんですか?

徳井:コピー曲だけでしたね。だけど「楽しい!」と言ってました。「3人で音を出すのは楽しいっすね! 生きがいです!」と。

アフロ:生き甲斐にまで思えたら最高っすね! お笑いの方にも良い作用が働いたんですかね?

徳井:だと思います。やっぱり、今のあいつらは楽しそうですもん。今年『キングオブコント』の決勝に行ったし、音楽の力で元気になった可能性はありますね。

MOROHAアフロの逢いたい、相対:平成ノブシコブシ 徳井健太

アフロ:徳井さんが20代の頃は、先輩のアドバイスを聞いてました?

徳井:先輩付き合いをほぼしてこなかったんですけど、僕の中でコントはカリカ、漫才はタカアンドトシがトップだったから、この2組とだけは仲良くしていたんですよ。その人達から「お笑いとは何か?」を教えてもらいましたね。

アフロ:俺も元カリカのマンボウやしろさんがパーソナリティーをされている『Skyrocket Company』の収録場所が渋谷スペイン坂スタジオだった頃、(やしろさんが)竹原ピストルさんのことを「素晴らしい、かっこいい」と紹介したのを聴いて。その翌週に俺はMOROHAのCDを持って、やしろさんの出待ちをしたんです。結局ご本人には渡せなかったけど、スタッフの方に「竹原ピストルに負けじとカッコいいんで、ぜひかけてください」と言って。そしたら『スカロケ』でMOROHAの曲をかけてくれて、後日スタジオのゲストにも呼んでくれて。新曲の解禁も番組でやらせてもらったりしてるんです。

徳井:僕がやってることも、アフロさんとちょっと似てますね! やしろさんにCDを渡したように、僕はDMでMOROHAさんに連絡をして。MOROHAはどう見ても尖ってるから、1文字の助詞でも失礼があったり、温度が伝わらなかったら怒られるんじゃないかと思ってすげえ緊張しました。でも嘘をついちゃ駄目だなと思って、かなり神経質になってメッセージを書きましたよ。

アフロ:徳井さん自身がオファーを受け取る時に、そこを大事にするからじゃないですかね。「一緒にライブやってください」と言われた時に「本物の熱意はあるのか?」と見つめてるんじゃないですか?

徳井:昔は全然でしたね。吉本(興業)の良い所でも悪い所でもあるんですけど、僕が若手の頃は当たり前のようにライブがあったんですよ。だから、申し訳ない言動がいっぱいあったと思います。忙しいことを理由に、適当にやったりして。振り返ると、2014年の『コヤブソニック』が大きかったですね。小籔(千豊)さん自ら、ミュージシャンとか芸人とか関係なく、全員に手紙を書いたんです。僕らなんて小籔さんからしたら超後輩だし、仲も良かったから「出てくれへん?」だけで全然出るんですけど、わざわざ長文の手紙を書いてくださり、それが事務所経由で届いて「もし良かったら出てくれませんか?」と。小籔さんがここまでされるなら、こういう熱い想いでライブに呼んでくれてる方がいるんだったら「俺も全力で応えなきゃ」と思ったのは結構大人になってからです。

MOROHAアフロの逢いたい、相対:平成ノブシコブシ 徳井健太

アフロ:俺も熱意があるイベンターさんからのオファーだと、プラスαの気持ちが乗っかりますね。そういう経験は自分がオファーを出す時も、ちゃんと想いを伝えようと思うキッカケになりました。俺は今でも新しい作品ができたら、自分で手紙を書いてラジオ局とか関係各社に送るんですよ。

徳井:すごいっすね! それで反応はありました?

アフロ: 十枚書くと一枚くらいはチャンスとなって返ってくるんです。最初にチャンスをくれたのは、ダイノジの大谷(ノブ彦)さん。音楽雑誌にCDや手紙を送っても、あの人達はアーティストをプロモーションすることで対価をもらっているから、金にならなければ取り上げてくれないんです。なぜなら、それが仕事だから。でも大谷さんは芸人としてちゃんと生計を立てていて、音楽は愛情でやっている方なんですよね。

徳井:確かに、損得勘定ではやっていないでしょうね。

アフロ:そういう人に熱意を持って音楽を届けに行くと、すごくいいことがある。熱意で手にできるチャンスがあるんだ、と学びました。

徳井:というか、自ら営業できるミュージシャンとなると少なそうですよね。

アフロ:当時は20代真ん中くらいで金もないし、怖かったですね。芸人さんは30代後半でも若手と言われるじゃないですか。ミュージシャンなんて、30を超えたらもう中堅と言われていますから。

徳井:そうなんだ! じゃあ期限が自分の中にあったんですね。

アフロ:だから焦ってましたね。あと俺らは、似たような音楽をやっている人がいなかったのも大きいです。同じジャンルの先輩ミュージシャンに可愛がられたら、そこでフックアップしてもらえる可能性もあるんですけど、それが期待できないのは結構早い段階で自覚していましたね。今の話と繋がるんですけど、徳井さんの本『敗北からの芸人論』の中で徳井さんが喫茶店のマスターになれ、と言われた話を書かれていたじゃないですか。

徳井:東野(幸治)さんの章ですね。

アフロ:落ち込んだ時にふと応援してくれる喫茶店のマスターみたいな存在、そんな人が俺にも4人ぐらいいるんですよ。この人達に褒められたんだから、もうちょっと頑張ってみようと思えた人が。そういう先輩はいますか? 

徳井:いっぱいいます。例えば千鳥さんがそうですね。特にノブさんの存在は大きかったです。僕がお笑いを語るのをちょくちょくやるようになって、最初はそこまでフィーチャリングしてやってなかったんです。そしたらノブさんに「面白いからやった方がいい」と言われて。「いやぁ、ちょっとズルくないですかね?」と返したら「別に気にしなくていいんじゃない? そこはお前の面白いところなんだから、もっと伸ばした方がいいよ」と言われて、背中を押してもらいましたね。

台本に書いてないところで頑張ってる人が、
結局は売れるんだと思います

MOROHAアフロの逢いたい、相対:平成ノブシコブシ 徳井健太

アフロ:そのスタンスで、最初に手応え感じた現場って覚えてますか?

徳井:パンサー、ジャンポケ(ジャングルポケット)、ジューシーズがメインの『トリオさん』という番組があって。初めて呼ばれたのが『沖縄国際映画祭』の時で、3組とも昔から可愛がっている後輩ですし、『トリオさん』もよく観ていたから、ガムを噛みながら番組のダメ出しをしたり褒めるというのをしていて。そしたら演出の人が「こいつ、なんでガム噛みながらやってんのかな?」と疑問に感じた反面、吉村(崇)の方が知名度が高かった時代に「じゃない方が、的確なことを面白く言ってる」と驚いたらしいんです。それで2回目は小籔さんと『トリオさん』メンバーが企画をやっているのを、3時間ぐらい裏でひたすら見てメモを取って。「実はもう一つ企画があります! 徳井さんでーす」と呼ばれたら「先ほどの向井さんの一言なんですけど」と切り出して、そこもウケたんですよ。ただポイントなのが、その場にお客さんがいなかったんです。

アフロ:芸人さんの笑いだけで、空気が成立していたんですね。

徳井:その番組を作っているのが『アメトーーク!』の班だったので、「今度はそっちでやってみよう」となったんです。でも、そこにはお客さんがいた。観覧客から「なんでこいつが偉そうに批評してるんだ」と思われて超スベるんですよ。それを機に、その芸は5年間ぐらい封印されて。コロナで無観客の状態になった時に『ゴッドタン』が突然白羽の矢を立てて。

アフロ:それが『腐り芸人セラピー』。

徳井:その場はスタッフさんしかいないから、まっすぐパンチラインを放ち続ければなんとかなると思って頑張ったら、良い方に転んだんですね。そのあとに『ゴッドタン』で「腐りカルタ」という大喜利の企画に呼ばれたんですけど、ハライチの岩井(勇気)とインパルスの板倉(俊之)さんの心の闇がエグすぎたんですよ。自分なりの黒い言葉で戦ったんですけど、根本が違うなと思ってすごい凹んだんです。家に帰ってから「あの時、俺が逆張りで褒める方の大喜利りしていたら、もっとウケたのに。なんで無理して人の悪口を言ったんだろう」と反省して。次に『ゴッドタン』があったら、褒めに走ろうと決めたんですね。

アフロ:そしたら、もう1回チャンス来て。

徳井:そうです。ただ俺は褒めるつもりなんですけど、つい極論を言っちゃう時があって。もうちょっと優しく言えたら良かったかなと思うこともありましたね。  

アフロ:でも、自分の中では手応えを感じたわけですよね?

徳井:いや『ゴッドタン』はないですね。というか分かんないです。あの番組は編集がすごいだけで、終わった後の後味は全員悪いですよ。「これ大丈夫なのかな?」みたいにスタジオは毎回騒然としてます。

アフロ:スタッフさんの空気もそうなんですか。

徳井:あそこのスタッフさんは「お笑い狂信者」ばっかりなので、無理して笑うことはまずないんです。無残にスベる時はスタッフさんも笑わないし、MC陣も笑わない。それだけ正直な人達なんですよね。

アフロ:和気藹々の雰囲気にしないと、みんながポテンシャルを発揮できないっていうのが、今の世相の流れじゃないですか。それに思いっきり反して、ものすごいスパルタで追い込んでいく。

徳井:ハハハ。自己啓発セミナーですよ、あそこは。ちなみに僕らが若手の頃は、ガッと上がるチャンスって『ゴッドタン』『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』だったんです。『ロンハー』と『アメトーーク!』は、どちらも加地(倫三)さんが演出・プロデューサーじゃないですか。多分ですけど、台本は荒台本であって、基本的に下の子たちの出る場は書いてないんですよ。でも売れたいから出なきゃと思って前へ行って、スベったりあたふたしてる時に、先輩の刃が一斉にバーって向く。その時、どこまで前を向いていられるか。そこで売れていった人を何人も見たんですよね。吉村もそうでしたけど。

アフロ:血を流しながら前に進まなければいけない。

徳井:当時は(千原)ジュニアさんとか小籔さんも同じ並びにいて、ジュニアさんよりも面白くないのは俺らからすれば当たり前だけど、視聴者からすれば「ジュニアさんよりも面白くないのに、なんでテレビに出てんの?」となる。そんな中で、フット(ボールアワー)の後藤(輝基)さんとかは先輩を押しのけて、バンバン前へ出て見事に返していった。もはや神業だと思いましたね。でも、そういう人が売れていきました。だから台本に書いてないところで頑張ってる人が、結局は売れるんだと思います。

アフロ:『Love music』という音楽番組があって、俺らが出た時は生放送だったんですよ。その日はCreepy Nutsが俺らの先に出て、その後が俺達だったんです。同じ2人組で、メジャーデビューの時期もほぼ一緒。にもかかわらずCreepy Nutsの方が勢いはめちゃめちゃあって、俺らは「知る人ぞ知る」みたいな立ち位置だったんです。MCはダイノジの大谷さんで、俺らが歌った後にカメラの前で「MOROHA、めっちゃ良かったよ」と言われた瞬間、頭の中で「Creepy Nutsとどっちが良かったですか?」という返しが浮かんでたんです。生放送でそれを口にしたらリスクもあるけど道も開けると思った。でも、プロデューサーさんだったり、大谷さんにも恩がある。治安を考えたのもあったし、言う勇気もなかったので、その質問はしないまま普通に自分の役割を全うして終わったんです。今、徳井さんの話を聞いてあの時の自分がよぎりました。一波乱を起こして序列を変えたいなら、何かしらの負荷をかけて、リスクを背負って前へ出るべきだったんじゃないかな、って。

徳井:もう5歳若かったら言ってました?

アフロ:うーん、むしろ今だったら言うかもしれないっすね。あの時、言っていたら俺はここにいない可能性もあるとは思います。

徳井:短いスパンで見て下がったとしても、長いスパンで見るなら、そういう時に余計な一言を言うべきかなと思うんですよね。2009年の『M-1グランプリ』の決勝で、笑い飯さんに(島田)紳助さんが100点つけた時に、岩井が「これ、笑い飯の優勝でしょ」と言ったのが、1番の迷言だと言われているんです。そんなことを言ったら大会が台無しだし、笑い飯さんとか審査員にもちょっと失礼じゃないですか。確か、ハライチを結成して4年目だったのかな。あの一言のせいで岩井はかなり仕事を失ったとは思うんです。でも岩井を見ていたら「そういうことを言うから今の岩井がいるし、説得力があるんだろうな」と思うんですよ。この10年のスパンで考えると、あの一言を言った背景がすごく効いてる。むしろ僕は名言だと思うんですよね。

アフロ:それはめっちゃ思います。逆に『Love music』の俺は、その日の勝ちを拾いに行っちゃったんですよ。

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