「世界を知りたい思いがむくむくと膨れあがって……」~10年かけて26か国を訪れた山口智子と世界を旅するトークイベントが5/3に開催

インタビュー
イベント/レジャー
2023.4.14
山口智子

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山口智子のトークイベント『LISTEN. 山口智子と世界を旅する』が2023年5月3日(水・祝)にホテルニューオータニで開催される。

山口智子は、未来へ伝えたい「地球の音楽」を映像ライブラリーに収めるプロジェクト「LISTEN.」を自身のライフワークとしてきた。10年にわたって26ヶ国めぐり、250曲を越す曲を収録してきた同プロジェクトは、書籍「LISTEN.」として発売されている。SPICE編集部では山口智子に単独インタビューを実施。「LISTEN.」プロジェクトに懸ける思いやトークイベントの構想などについて、たっぷり語ってもらった。

もっと世界に耳を傾けてみたいと思って……

ーーこの「LISTEN.」プロジェクトが始まるきっかけから教えてください。

「LISTEN.」という言葉は、まさに「耳を傾ける」という意味ですよね。ちょうど2010年頃、この「LISTEN.」という気持ちに立ち返りたいなと、自分自身が強烈に感じた時期でもありました。
 
その頃といえばーー。私は小さい頃から超テレビっ子で、テレビにたくさん感動をいただいて育ったテレビ大好き人間ではありますが、当時のテレビ界の、全てが解説や説明づくしの風潮に内心疑問を感じていました。例えば、被写体が喋る前から解説テロップがバンバン出てきたり……。情報の洪水に溺れてしまいそうな、そんな息苦しさを感じていました。

「聞く」ということは、耳を澄まして、心を開いて、世界を受け入れること。世に溢れかえる情報と騒音の洪水の中で、自分自身、私を取り巻く世界に「耳を傾ける」という気持ちや、世界を感受するセンサーを、しばらく忘れて生きてきたことにふと気づきました。世界にもっと耳を傾けてみたい、世界をもっともっと知りたい、そんな心の声が聞こえてきて、改めて世界に出会い直してみたいという思いが強烈に芽生えました。教科書の中で与えられた情報ではなくて、自分の心で世界を感じたいという思いがむくむくと膨れ上がって、「LISTEN.」を立ち上げました。私たちの地球での滞在時間には限りがあるわけですから、思い立ったら即行動ですよね。
 
リズムとかメロディとか、もちろん話す言葉もですけれど、 「音」は障壁をも越えて進み、新たな出会いから新たな美しさを生み出します。そして世界各地の様々な風土や暮らしに育まれて伝えられてきた音楽は、世界を美しく彩ってくれる。国籍や話す言語の枠を超えて、瞬時に世界中で感動をシェアできることも、音の魅力ですよね。そこには説明も解説も要らない「体感」する感動がある。そう、「LISTEN.」のテーマは「体感」なんです。

脳で情報を「知ったつもり」になるのではなく、心と体で「体感」するべき感動が世界には溢れています。そこに導き誘ってくれる入り口が、リズムやメロディという「音」。初めて聞く異国の音楽に無性に懐かしさを感じたり……。「音」に誘われて私の「LISTEN.」の旅は始まりました。撮影という「仕事」として使命を背負うことで、心が挫けそうな時でも、ちょっと勇気を出して一歩踏み出せますよね。そして素晴らしい感動に出会ったら、出来れば私なりの個性で夢ある美味で彩りつつ、さらに楽しいエンターテインメントとして伝えていけたらと思いました。

ーー「LISTEN.」の著作を読んでいて、いろいろな感情が湧き起こりましたが、一番は山口さんの生き様はなんて格好いいんだろうと思ったんです。それはプロジェクトを「背負う」覚悟があったからこそなのでしょうね。
 

背負うというよりは、純粋に自分の大好きな憧れのスターを追いかけている感覚なので、苦労などものともせず、楽しく突進していけました。私は幼い頃からテレビや映像に夢をもらって大人になったので、やはり自分が映像に関わるなら、水や食物と同じように私たちになくてはならないエネルギー源となる映像を、夢ある形でお届けしたいと思っています。

だから「LISTEN.」撮影のロケハンでは、歌や演奏の場所やシチュエーションにこだわりました。彼らが一番輝く場所や、私が本当に見たい聴きたいと思う状況実現のために、徹底的に撮影場所を探しまくりました。もちろん、彼ら自身が「こんなチャレンジをしてみたい」「こんな時が一番幸せ」というリクエストには絶対にお応えしたいので、あらゆる手を尽くしました。「LISTEN.」は、地球の宝として宇宙に向けて自慢できるライブラリーです。

魂が一番ドキドキするものに羅針盤の針を定めていく

ーー現地に行かれて、徹底的にリサーチを重ねて、一度帰国されて準備されて、本番の撮影というスタイルを基本とされていたと思うのですが、このプロセスの中で一番楽しい瞬間は? 逆に大変な場面は?

「LISTEN.」では、既存の常識や枠にはまりたくなかったので、自分たちでゼロからリサーチを始めることを心がけました。真っさらな気持ちで見知らぬ地に立った時は、最高にワクワクする瞬間です。そして「LISTEN.」、耳を傾けてまず飛び込んでくる感動を大切にして、純粋に大好きだという憧れと共に追いかけました。

……旅は、その地に立つ以前から始まっていますよね。自分の部屋で本を読んだり、いろいろリサーチを始めて、彼の地に思いを馳せるところからもう始まっている。「LISTEN.」を始めた頃は、今のようにYouTubeでなんでも情報が入手できる時代ではなかったので、実際に現地に行って、ショップでCDを買い込んで聴きまくるということから始めていました。そして好きだと思える音楽に出会うと、ひとつ扉が開き、また続々と扉が開き、実際にその地に立つことで、思いもよらぬ新たな出会いに繋がっていく不思議。やはり、自分の体と心で感受する大切さを感じました。

だから、心の声に耳を傾けて、世界に向けて一歩を踏み出して、大好きだと思えるものへと焦点を絞って、魂が一番ドキドキするものに羅針盤の針を定めていく。「体感」のセンサーに耳を澄まして、学びながら行く手を探っている時間は最高に楽しいです。

心から尊敬する大好きな人に出会えたら、今度は彼らが尊敬する人や大好きな人に結びつけてくれて、出会いは想像を超えた予期せぬ大展開へと続きます。人から人へと繋がる不思議なご縁の連鎖は、まさに奇跡のような不思議な神のお導きを感じる瞬間でもあります。

ーー普通、人が「苦労」と感じることも、まるで奇跡のように楽しんでいらっしゃった。
 
大好きなものを追いかけている時間に、「苦」なんて存在しませんよね。数日内に結果を出せとか、急げ急げという生産性重視の社会の中では「苦労」と感じることでも、100年1000年後にも色褪せないものを目指して歩む道のりなら、かけるべき「時間」をしっかり味わう感動があります。

「LISTEN.」は、私とアメリカ人監督の2人が軸となり少人数制で作っています。限られた予算の中で、出来るだけ自分たちにできることは自分たちで動いて節約しつつ、出演してくださる皆さんが最高にハッピーになれる撮影のために、しっかり準備をして予算と時間をかける。その中から生まれるリアルな幸福オーラを「LISTEN.」に収めたいと思いました。多分、人に真似できない「LISTEN.」プロジェクトの最大の強みは、「時間」だったと思います。

「時間」のかけ方について、教えてくださったのはモノづくりの職人さんたちです。「かけるべきものにはかける」という精神。素材準備や手間に時間をかけずに作ったものは、すぐに綻びが出て長く使い続けられない。孫子の代まで愛でてゆける良質なもの作りには、時間が必要だと。本当に良いものは、何度でも飽きることなく味わい直せる。だから、1000年後でも色褪せない新鮮な感動を伝えたいという願いを込めて、「LISTEN.」を作ってきました。

「LISTEN.」には、余計な解説やテロップはありません。「音」を皆さんそれぞれにダイレクトに「体感」していただきたい。過剰な情報や時流の風潮に流されることなく、見てくださる皆さんの感受のセンサーに託し、皆さんそれぞれの旅を始めてほしい。「音」を受け止めた感動を、それぞれの方法で、それぞれの人生で、それぞれの扉を開けていって欲しい。

ーー「千年後の未来に届けるタイムカプセルに、あなたは何を入れますか?」という質問をされていますね。今振り返って印象的だった答えはありますか?
 
じいちゃん・ばあちゃんから教えてもらった歌とか、ほとんどの方が、何世代も受け継いがれてきた自分たちの音楽や芸能を、誇りと愛を持ってタイムカプセルに入れたいとおっしゃっていました。家族や仲間と共に奏で歌い踊り、毎日を力強く生き抜いてきたパワーが詰まったかけがえのない宝物です。その中でちょっとユニークな答えもありました。
 
アラ・ギュレルさんというトルコの写真家の答えは素敵でした。「1輪の花を入れたい。タイムカプセルを開けたときに、未来の人間は、自然の美しさや力を知るだろう」と。また、南米アルゼンチンの大平原を馬で駆け巡る、牛を追う牧童である「ガウチョ」の答えも、野生の中に秘めたる知性が光って素敵でした。ガウチョの皆さんの多くの答えは、「馬で原野を駆け巡る、風のように自由なガウチョの暮らし」というものでしたが、あるひとりのガウチョの答えは、「種と水。命にとって何より大切なものだから」。あと、深い哲学を秘めて衝撃的だった答えは、南インドの音楽家の言葉です。南インドは古代より、命ある喜びと感謝を音楽として歌い奏でて神に捧げるという文化があります。彼の言葉は、「何も入れない。なぜなら、命は箱に入れた途端に死んでしまうから」。今この瞬間に、本気で命を燃え立たさなくてどうするんだ? と問われたようで、ぐさっと胸に刺さりました。

「今」というこの瞬間こそが、未来を築くという思い。これは私たちの「LISTEN.」プロジェクトの隠れたテーマでもあります。1000年後にも色褪せず、未来に誇りたいかけがえのない「今」の輝きを詰め込んだ「宝のボックス」。それが「LISTEN.」です。

ーー今後も「LISTEN.」プロジェクトは続けられるという理解でよろしいですか?

コロナ禍を経て、今までと同じような撮影や発信はできなくなってしまいましたが、プロジェクト自体は、立ち上げた私と賛同してくれる仲間がいる限り、新しい形を模索しながら続けていくつもりです。
この10年は、素敵な音楽文化を追いかけ続けた日々でしたが、今私の手元には、まだ発信できていない10年分の映像や録音素材という宝が眠っています。ホンモノは、何度味わっても美味であり、何度出会い直しても新たな発見や感動があります。だから、まだ生かしきれていない宝を、新たな技術や、新たな出会いを生かして、新しい発信方法についていろいろ探っているところです。森や山や海、大自然の中に飛び込んで「体感」する野外劇場や、地方風土を生かした祭りなんかも、絶対に面白くなる! と、いろいろ勉強しているところです。

ーーなるほど。これまでの旅の知見やご経験、感動をもっとシェアされていくということですね。そのひとつが5月3日に行われるトークイベントかと思います。どんなイベントにしたいかという構想はありますか?

「LISTEN.」の10年分の映像素材の中から、まだ未発表のものなどをいろいろ見ていただきつつ、思いを世界に馳せて皆さんとお話ししたいです。大画面スクリーンや音響も整った会場ですので、「LISTEN.」にたっぷり浸っていただけると思います。

ちょうどゴールデンウィークですが、交通渋滞や人混に飛び込んでいかなくても、映像や音から世界旅行気分に浸っていただけるかも?(笑)。皆さんと一緒に、心の翼で羽ばたいて世界各地を駆け巡りたいです。そして、参加してくださる皆さんから「こんなことを聞いてみたい!」「こんなことを話したい!」というアンケートを募っているので、皆さんの声による進行内容を今いろいろ考えています。
参加型イベントです。「まさかこんな質問?」という質問にもお答えする気満々ですから(笑)、ぜひ皆さんご参加ください。


ーー最後にどんな方にトークイベントに来ていただきたいか、コメントをお願いします!

「体感したくてたまらない!」というみなさん、ぜひご参加ください。あとは……思えば私の人生を振り返ってみると、大嫌いだったものが、ある日突然、何かのきっかけで大好きになる。そんな激変の連続です。

例えば、今私はフラメンコにハマっていますが、一時期大嫌いになって2度とやるもんかと思ったことがありました。15年ほど見向きもしなかったのですが、ある時、たまたま仕方なく旅の途中で通り過ぎたスペインで、地元の少女たちが歌い踊る宴に出会い、ズキュンとハートを射抜かれて……それ以来、ほぼ毎日フラメンコを踊る人生に激変しました。

あとは、昔苦手だったものひとつに「インド」がありました。人が溢れて、お腹を壊しそうで、絶対に訪れたくない国でした。ところが「LISTEN.」の旅で、やはりどうしても避けて通れないという事態になり、嫌々訪れた南インドで、素晴らしい音楽や食文化に出会い、今や「I LOVE INDIA!」と叫びたいくらい、インドの壮大な文化にひれ伏しています。

人生って、「今までの思い込みは何だったんだろう」という、不思議な出会いの連続ですよね。ですから「山口智子なんて大嫌い」、「LISTEN.なんて興味ない」と思っている方も、イヤイヤでも結構ですので試しにいらしてみませんか? 「音」の力が、思いもよらぬ楽しい人生の激変を巻き起こしてくれるかもしれませんよ(笑)。

取材・文=五月女菜穂

イベント情報

『LISTEN. 山口智子と世界を旅する』
 
開催日:2023年5月3日(水・祝)
会場:ホテルニューオータニ 鶴の間 
時間:14:00~15:10 予定
 
料金:一般 8,000円
問合せ:Tel.03-3234-7777(宴会予約 平日10:00~18:00/土・日・祝日9:00~18:00 ※火曜定休)
 
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