薮宏太「退屈な日常をちょっと面白くするヒントを届けられたら」~音楽劇『MONDAYS/このタイムループ、まだまだ終わらない!?』インタビュー

インタビュー
舞台
19:00
薮宏太

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2022年に公開され、口コミで話題が広がってロングランヒットを記録した映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』。小さな広告代理店のオフィスを舞台に、社員全員が同じ1週間を繰り返すタイムループ作品が、上演台本・演出ウォーリー木下、音楽・三浦康嗣(クチロロ)のタッグのもと、音楽劇『MONDAYS/このタイムループ、まだまだ終わらない!?』として舞台化される。舞台版は、メインキャラクターは映画と同じだが、主人公と視点を変えたまるでパラレルワールド。映画を観た方も新鮮に楽しめる作品となっている。

舞台版の主人公・映画オタクなプランナー兼営業の村田を演じる薮宏太にインタビューを行った。

「映画を見て、作り込まれた作品だと感じました」

ーー一度本読み稽古をされたと伺いましたが、本読み稽古の感想や印象を教えてください。

会話がメインなので、テンポや間が大事だと感じました。「音楽劇」と聞くと「歌うのかな」と思われる方も多いと思いますし、実際歌うのですが、それだけじゃなくて音の効果、音楽とセリフの間合いがすごく重要なんだろうなと。面白い脚本だからこそ演者がしっかりやらないといけないと感じました。

ーー原作の映画は拝見されましたか?

舞台のHPにも「上映が3館からスタートして話題を呼び、最終的に80館超の映画館で上映された」とあるように、友達と「面白い映画があるって話題になってるらしいね」と話して、その後配信で見ました。ほとんどワンシチュエーションで、同じ場所にいるけどいろいろな気付きによって物語が膨らんでいく。物理的なセットなどではなく脚本でそれを成し遂げているのが面白いですよね。映画を観た時はもちろん舞台化するなんて思っていませんでしたし、さらに自分が演じるならと考えることもなく、単純にすごく作り込まれたいい作品だなあと思いました。

舞台の上演が発表された時に、メンバーの有岡(大貴)から「薮ちゃん『MONDAYS』やるの? 僕、あれ好きなんだよね。味噌汁炭酸タブレットは出てくる?」と聞かれました(笑)。映画好き・エンタメ好きな人こそ観ている作品だと思うので、その舞台版に自分が出演できるのは嬉しいです。

ーー自分が演じることになり、舞台の台本を読んで改めて感じた作品の面白さを教えてください。

タイトルにも「タイムループ」という言葉が入っているので、観ている人はすぐ気付くというか、知っていますよね。でも、登場人物たちは気付いていなくて、徐々に気付き始める。俯瞰で見ているお客さんと、気付いていない人たちの温度差みたいな面白さがあると思います。

あと、タイムループしているので、お客さんは「またこのセリフを言うだろう」と想像する。台本を読んで驚いたのが、本当に同じなんです(笑)。見ていて「またきた」と思ったり、お客さんも口に出したくなるだろうな、というワードもたくさん入っていたりするので面白いです。

セリフの言い方を少しずつ変えていくかどうか、ループに気付くきっかけになる鳩をどう表現するかは稽古が始まらないとわかりませんが、気付いていたのが1人、2人だったところからどんどんみんなを巻き込んでループから抜け出すために頑張るという流れを面白く見せたいです。

薮宏太

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ーー映画は円井わんさんが演じるプランナー・吉川が主人公でした。舞台では視点を変え、村田が主人公になります。映画と舞台で、キャラクターの印象はいかがでしょう。

人格的には変わっていないと思います。勤務先はいわゆるブラックな労働環境だと思うんですが、その中でも自分のやるべきことはしっかりやっている生真面目なタイプなんだろうなと。だからこそブラックな環境になってしまうんでしょうね。なんでも頑張っちゃうから、仕事が回ってしまって大変になっていっちゃうみたいな印象を受けました。

ーー演じられる村田は薮さんと同じく映画好きという設定です。

好きな作品のセリフを覚えているというオタク気質なところに共感しました。僕も好きな映画は何回も観てしまうタイプで、『もののけ姫』はBlu-rayを持っていてつい観てしまいますね。子供の頃に初めて映画館で観たジブリ作品が『もののけ姫』なんです。今も定期的に見るし、「ここでこのセリフだ!」みたいな(笑)。音楽とかも、仕事上新しいものも聴きますが、好んで聴くものは昔から変わりません。気に入ったものを長く味わうタイプです。

ーー役作りに向けて、どんな準備をしていますか?

ここ数年は海外のミュージカルが多かったので、現代の日本人を演じるのは久々。社会に溶け込めるかが大事だと思います。会社勤めは想像がつかないところもありますが、家族や友達は会社勤めしていますし、僕は電車とかでも溶け込めるので(笑)。この仕事をしていると感覚が鈍ってしまう時があるので、「普通」を大切にしたいと思っています。

ーー舞台期間中は同じ作品を繰り返すわけですが、アドリブを加えたくなるタイプですか?

僕は極力アドリブをやらないタイプです。もちろんハプニングがあった時に場を繋ぐことはありますが、アドリブを入れるかどうかは演出家さん次第。絶対にアドリブは入れないでくれという方もいれば、アドリブ大歓迎な方もいるので、今回はウォーリー(木下)さん次第ですよね。公演を重ねて役が深まり、より良いものにブラッシュアップしていくのは好きですが、台本がもう面白いので何か加えようとは思いません。……と言いながら本番が始まったらアドリブ入れてたらごめんなさい(笑)。

もし自分が『MONDAYS』のような世界に入ったら……

ーー作中では、タイムループに気付いたキャラクターたちがさまざまな行動に出ますが、もしご自身がタイムループに巻き込まれたらどうしますか?

最終的には解決に向けて動きますが、その前にちょっとズルします(笑)。ヨーロッパに行ってサッカーの試合を観るとかしたいですね。

ーー映画の内容にちなんで、「いつかやろうと思いながら先延ばしにしていたこと」があったら教えてください。

いろいろありますね。年初めに「マッチョになろう」とか「体をすごく柔らかくしよう」とか毎年思うんですが、続かないですね。人生で一度はマッチョになりたいんですけど(笑)。先延ばし癖があって、子供頃の夏休みの宿題も最後まで溜めちゃうほうでした。でも「本当はやりたい」という思いはあるので、やれと言われたらやるかもしれないです。

ーータイムループとは少し違いますが、やり直したい出来事、あの頃に戻りたいという時代はありますか?

高校生ですかね。友達が少なかったので(笑)。……でも、恵まれていたし、少ないのが悪いわけじゃないか。でも思春期でちょっとツンツンしていたと思います(笑)。やり直したいと言うより、この精神年齢でもう一度学生になれたらすごく豊かな生活を送れそうですよね。

ーー学生になったらこれをしたい、と言う具体的なものはありますか?

体育祭のリレー選手を決めるタイム測定で、ハッスルしすぎて転んで骨折したんです。その結果リレーには出られなかったのでやり直したいです。しかもちょうど『滝沢歌舞伎』の公演中だったのでギプスをして出ることになって、マネージャーさんにすごく怒られました。タッキーは優しくて「何やってんの(笑)」くらいの感じでした。

体や顔の角度まで計算するのが舞台の面白さ

ーー作中での絡みが多い平間壮一さんの印象はいかがでしょう。

1年ほど前に『イン・ザ・ハイツ』を観劇させてもらい、すごくいい俳優さんだと思いました。会話から急にラップに入っていく場面も多くて、すごくテクニカルなことをされているなあと思いながら観たので、今回ご一緒できると知って嬉しかったです。しかも同い年で誕生日が1日違いらしくて、意外と共通点もあるんだなと。ビジュアル撮影の時に少しおしゃべりしましたが、フィーリングも合いそうで楽しみです。

ーー他のキャストさんはいかがですか?

本読みにいらっしゃらなくてまだお会いできていない方もいますが、梶原(善)さんは名人芸というか、もう出来上がっているんじゃないかと思いました。先日公開された『三谷幸喜「おい、太宰」』でも思いましたが、キャラクターに入るのが抜群に上手いですよね。本読みでも、セリフの前に「はは」と笑うところがちゃんとした笑い声で、お芝居がのっているのに自然に聞こえる。長年のキャリアで培ってきたものでしょうから盗めるところがあるかわかりませんが、勉強したいと思います。

ーーPARCO劇場や渋谷の街に対する思い・思い出も教えてください。

舞台と言えばグランド系は日比谷・有楽町、小劇場系は下北沢という勝手な印象があって、渋谷はその中間というか。いろいろな作品に取り組んでいる印象があるので、PARCO劇場に立てるのはすごく光栄です。あと、渋谷PARCOに『ジョジョの奇妙な冒険』のショップができたので行きたいです(笑)。

薮宏太

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ーー俳優としてのご自身の強みをどう考えていらっしゃいますか?

モットーというか大切にしていることは「作品に入る時にフラットでいること、受け入れること」です。僕は何回も稽古をして疲弊するタイプではなくて、厳しい指導で参ってしまうこともないんです。座組の雰囲気は主演の方がいかに和やかにいるかにもよると思うので、極力心掛けています。

お芝居における自分は、あまり分析ができませんね。皆さんはどう思っているんでしょう? ただ、作品にはいつも真摯に、できる限り向き合おうと思っています。稽古期間中は四六時中考えていますし、ステージに立っていても、心が乱れないようにする大切さは常々感じています。

ーー舞台で演じることの面白さ、難しさはいかがでしょう。

やっぱり、舞台はお客さんの視点が自由なのが大きいですよね。座る席によって角度も違って、同じ場面でも印象がすごく変わることがある。お客さんが気付いているかは分かりませんが、顔の角度や体の向きなど、細かい部分まで考えています。覚えるのがセリフだけじゃないのは難しさであり楽しさでもありますね。

ーーこれまで出演した舞台で手応えを感じたことも教えてください。

去年出演した『tick,tick…BOOM!』という作品では、2時間半の公演で一度も袖にはけませんでした。自分の反省を描いている作品だったので、台本を読んだ時にト書きやナレーションだと思っていた部分も全部セリフで(笑)。あれを1ヶ月乗り切ったのは自信につながりました。演出のアンディ(・セニョールJr.)さんは、さっき話した体や顔の角度といった細かい部分まで大事にする方だったので、それも自分にとって大きな経験になりました。

ーー最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。

退屈な日常にひと工夫や気付きを加えることでちょっと面白くできると感じてもらえたら嬉しいなと思っています。映画のパラレルストーリー的な部分もあって、舞台版ならではの良さも出てくると思うので、原作の映画を好きな方にも楽しみにしていただけたら嬉しいです。
 

■ヘアメイク
二宮紀代子

■スタイリスト
寒河江 健(Emina)


■衣装クレジット
ジャケット ¥74,800-/シャツ ¥28,600-/パンツ ¥33,000-/以上全てmarka/その他スタイリスト私物
※すべて税込

<問い合わせ先>
PARKING(パーキング)
東京都目黒区中目黒1-3-8
渡辺ビル1F
03-6412-8217

 

取材・文=吉田沙奈    撮影=池上夢貢

公演情報

PARCO PRODUCE 2025
音楽劇『MONDAYS/このタイムループ、まだまだ終わらない!?』
 
【上演台本・演出】ウォーリー木下
【作曲・音楽監督】三浦康嗣(クチロロ)

【出演】
薮 宏太 平間壮一 南沢奈央
森田甘路 吉本実憂 松尾敢太郎
岡田義徳 大空ゆうひ 梶原 善
 
【東京公演】2025年10月5日(日)~27日(月)PARCO劇場
【大阪公演】2025年11月1日(土)~3日(月祝)森ノ宮ピロティホール
【長野公演】2025年11月8日(土)・9日(日)サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール

 
【公式サイト】https://stage.parco.jp/program/mondays/
【ハッシュタグ】#音楽劇MONDAYS
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