実験成功!キタニタツヤがEP『LOVE: AMPLIFIED』に仕掛けたサプライズに込められた真意を紐解く

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2023.7.28

 

――ではあらためて、1曲ごとの解説を聞かせてください。まず「ラブソング feat. Eve」について。

Eveさんが受けてくれることになって、そこから完全にゼロから作った感じです。なんとなく、ドロッとしたラブソングみたいなものを作りたいとは、最初に思っていました。それってEveさんのイメージと、ちょっと違うじゃないですか。あんまり恋愛とかではないところで歌詞を書いているから。ドロッとした恋愛の曲は、自分(キタニタツヤ)っぽいと言っていただくことも多いので、そこをぶつけたら面白いんじゃないかな?というのは、なんとなく思っていて。ただそれとは別に、音でもやりたいことはあったし、Eveさんらしいところで、なおかつ自分がやりたいことというラインが、あのへんだったんですよね。

――歌、ばっちりでしたね。

合いましたね。Eveさんの普段の曲って、速いパッセージのメロディが多いというか、細かくてめちゃくちゃ上下して、みたいな、そういうメロディを書いてみたいなという欲求も、自分の中にあったんですけど。自分という楽器を想定した時に、歌えなくはないと思うけど、きれいに鳴らないかもな、というのはなんとなく思っていて。やればできるはずなんですけど、自分からチャレンジしに行かないというか、だったらもっと自分らしさがハマるメロディにしようかなみたいな、ついそっちを取っちゃう癖があったので。Eveさんという、いわば新しい楽器を手に入れて、そしたらこういうメロディが作れるようになる、みたいなところがあったから、普段は書かないような、細かくて速くて、上下幅が広くて、みたいなメロディが書けたので。今までの自分にないものを引っ張ってもらえたし、自分がやりたかったことも出来たし。

――いいことづくめです。

楽器に例えるのは失礼かもしれないですけど、たとえば新しいギターを買った時に曲が出来たり、新しいソフトを買った時に曲が出来たり、それと同じ感覚で自分のクリエイティヴィティが刺激される感じはありましたね。


 

――suisさんに歌ってもらった、「ナイトルーティーン feat. suis from ヨルシカ」はどうですか。

これに関しては、僕はヨルシカのベースをずっと弾いていて、いろんな曲があるんですけど、バックのミュージシャンとして「suisさんの声のここらへんが一番いいな」と思っていたのが、すごく生活感ある曲を優しく歌っている瞬間なんですよ。今年の頭から、ヨルシカのツアーが2本あって、ずっと一緒にいたんですけど、そこでやっていた「左右盲」という曲があって。すごく生活感のある、人肌のぬくもりを感じる曲で、音源ではsuisさんのオクターブ下でn-bunaが歌っているんですけど、ライブでその曲をやる時に、n-bunaが突然「俺はギターが忙しいから。キタニ、やれるよな」って。いやいや、こっちもそこそこ頑張ってベース弾いてるんですけどって思ったけど、でもヨルシカでは雇われなので「わかりました。やります」って(笑)。

――あはは。それでやることになった。

でもやってみたら、自分が普段キタニタツヤとしては出さないような声の出し方が出来て、「これはハマりがいいな」と。だったら自分も、似たような質感の曲を作って、suisさんと一緒に歌ってみたいなと。そしたら本当に、生活感丸出しの歌詞になっていったみたいな。本当は音のイメージが先だったんですけど。

――声の質感も、曲調とぴったり合っていて。

これは、仮のキーを設定して、そこから上げたり下げたりするかな?と思ってお渡ししたんですけど、そのままのキーで行けたんですね。「俺もけっこうsuisさんのことわかってるやん」と思いました(笑)。ずっと聴いて来てるんでね。


 

――次は、シンガー・キタニタツヤの2曲について聞きます。「知らないあそび prod. indigo la End」は?

これはいい曲ですね。「川谷(絵音)さんが歌ってくれよ」っていう気持ちに、どうしてもなっちゃいますけど(笑)。いい曲です。僕のために書いていただいたとおっしゃっていたので、歌詞のドロドロした部分も、自分と似通う部分があるなと思ったりしました。包み隠さず言えば「サイテー男」という、そういう歌詞じゃないですか(笑)。これは川谷さん節だなと思いました。

――まあ…確かに(笑)。

これは、デモをお出ししていただいてから「キーを自由に決めていいよ」と言っていただいたので、自分のほうでプリプロして、4パターンぐらい作ったんですよ。その中でどれがいいですか?ということを、indigoチームに聞いて、最終的にこのキーにしていただいたんですが。僕は、今世に出ているバージョンの、マイナス2のバージョンが一番いいかな?と思っていたんですよ。自分の曲だとしたら、自然に選ぶキーがマイナス2だったんですけど、もっと余裕をもってウィスパーで歌うだろうな、という設定で。そのほかに、それよりプラス3の、多少無理したバージョンも出していたんですけど、今のキーのやつが一番いいとおっしゃっていただいて、「うわ、頑張んなきゃ」ってなったんですけど。結果的に自分だと選ばなかったキー、選ばなかった響かせ方になって、それが面白かったですね。自分で聴いても「いいじゃん」って思いますし、もうちょっと無理したほうがいいのかな、と思ったりしました。


 

――新たな引き出しを開けてもらった感覚ですか。そしてもう1曲が、「やんぐわーるど prod. NEE」です。これはもう、一聴して、NEEらしさ全開の曲をそのままぶつけてきたなと思いましたね。

そうですね。くぅくんらしいし、まさにNEEですね。これは特に「こういう曲を作ってくれ」ということもなく、お任せする形でした。強いて言えば、おもちゃ箱っぽい感じで、シリアスになり切らない、おちゃらけた感じで、NEEのファニーさが僕はすごく好きなので、そういう曲を作ってほしいということではなくて、「そういう部分が好きです」ということだけは伝えていたんですけど。結果的に、自分がNEEのいいなと思っているところが十二分に発揮されている曲だなと思いましたね。面白かったのが、デモの時にくぅくんのボーカルが入っているんですけど、たぶん都内の一人暮らしの家で歌ってるから、こそこそ歌ってる声なんですよ。「この感じわかる!」みたいな(笑)。自分も学生時代、実家で歌っていた時は思い切り声を出せないから、その感じがめっちゃわかったので。くぅくんは、自分の4つ下とかなのかな。大学生の頃の自分をすごく思い出しちゃいましたね。

――この曲は、メンバーのコーラスもガンガン入っていて。まさにNEEらしいバンドサウンド。

そう、それもね、僕は自分の曲だと一人で声を重ねまくるんですけど、NEEって、バンドメンバーでギャーギャー歌ってるのがすごくいいじゃないですか。あの4人のバランスがめちゃくちゃいいので、「それはぜひやってくれ」と。だから僕が多重録音しまくるコーラス部分もあれば、「ここはNEEにやってほしい」と自分が言ったところもあって、スタジオで4人がギャーギャー歌ってるのを、ニコニコしながら眺めていました。ドラムのやつ以外みんな年下だから、みんながわちゃわちゃ楽しんでレコーディングしているのが可愛くて、微笑ましいんですよね。保育園の先生になったような気がしました(笑)。みんな元気良くて、いいチームですよね。すごく楽しかったです。

――結論すると、「楽しかった」に尽きますかね。この4曲は。

そうですね。人とやるのは本当に面白いし、その面白さを持ち帰って自分一人で作るような曲もありますし。それこそ、昨日(7月6日)リリースされた「青のすみか」という曲は一人で作り切ったんですけど、みんなで一緒に作るという経験が、そこへフィードバックできるというか。これからもそういうことはどんどんやっていきたいし、この企画をその口実として(笑)、シリーズ化していけたらなと思っていて。

――それはめっちゃいいですね。

もっとほかに、やってみたいなと思う人もいるし、これからも出てくる気はするので。せっかくソロでやっている強みとして、関わる人を曲ごとに選べるということがあるので、自分はかなり浮気性でやっていきたいというか。頑固でいるのもいいんですけど、たぶん自分はそういうタイプではなくて、その時々で考えることや言うことがコロコロ変わっていくタイプだと思うので、作る曲もコロコロ変えていきたいですしね。そういう意味でこの企画は、すごく自分の糧になっていますね。

――今後にも期待します。そう思って見ると、この『LOVE: AMPLIFIED』というタイトルも、いろいろ応用が利きそうな気が。「LOVE」を何かに変えても、「AMPLIFIED」を何かに変えても、続けていけそうなタイトルだなあと。

実は、そういうスケベ心もあります(笑)。

――今回の「AMPLIFIED」は「増幅」ですよね。このワードはどこから?

自分が、ボーカルという楽器について思っていることがあって。たとえば曲を作って、メロディと歌詞を書く時に、そこに含まれている、ソングライターが頭に持っている観念的なものが、メロディと歌詞に100%出力されたとしても、その概念が入っているメロディや歌詞をボーカリストが歌う時に、ボーカリストのフィルターを通ると、そこでかなり味がついて。結果、ソングライターの頭の中にある純然たるものは、人の耳に届くことはないんですよね。ポップスってそういうものだという感覚があるんです。

――はい。なるほど。

だから、そのボーカリストのフィルターを通った状態で世の中に届くよ、という想定をした上で、メロディと歌詞を書くべきだと思っていて。自分の場合は、自分が歌うのがほとんどだから、自分というボーカルを通すとこういうふうに届く、というものを想定して、逆算して、メロディと歌詞を書くという癖が、無意識的についてきているんですよね。自分という楽器は、変えようがないじゃないですか、自分の体だから。ボーカルという楽器が、ポップスという音楽の世界においては、避けられないフィルターだなという感覚があって、だからこそ自分というフィルターの性能がどうなるのか、ほかの人が曲を書いても、自分というボーカルを通せば自分っぽくなるのか、あるいは、自分が自分らしさ100%で書いた曲を、ほかの人が歌うとどういう響き方になるのか。みたいなことも思っていたので、その実験をしてみようという感覚がありました。

――深いです。それが今回のコンセプト。

だから今回は、テーマを「LOVE」に絞って、僕にとっての愛とは何だろう?と思った時に、27年間生きて来て、愛という観念についても僕なりの歪み方があって、自分なりに偏っているものがあって。それをメロディと歌詞に起こした時に、それを歌う人が僕ではなかったら、まったく別の見え方で人の耳には届いていると思うんですね。「ラブソング feat. Eve」のセルフカバーを、「青のすみか」のカップリングとして録ったんですけど、案の定、歌詞の見え方が全然違うんですよ。自分が歌うと、ある種のえぐみが出て、さらっと歌えない。えぐいものが、えぐいまま出ちゃう。それはそれでいいんですけど、それはさんざんやってきたからいいとして、Eveさんにまったく同じものを歌わせても、えぐくならないというか、あの人はさらっと歌うから。歌詞に対してニュートラルな距離感を保っている、そういう歌い方が出来る人なので、聴こえ方が全然違う気がしていて。だからこの実験は、「実験は成功じゃ」と。やっぱり響き方が全然違っておもろいぞ、というのがあって。

――確かに。

それはほかの曲でも、川谷さんが川谷さんらしい歌詞を書いて来ても、自分が歌うことによって、ちょっと濁りが生まれるわけじゃないですか。その濁り方が面白みだし。だから、川谷さんが歌ったバージョンも聞いてみたいなと思ったりするんですよね。

――そうですよね。それ、全員でやってほしいかも。

1曲を一人が歌って、それがオリジナルだというのは、もう古いんじゃないか?という気もしているんですよ。ネットで「歌ってみた」文化みたいなものがあって、ボカロとか聴いてる若い子たちにとって、原曲は一バージョンでしかないんですよ。それはポップスの世界でも全然あっていいなと思うし、だから自分も今回の曲のセルフカバーを出すし、曲を書いてくださった方は、セルフカバー版を出してほしいですし。そういうことをどんどんやってもいいよねと思うし、それぐらいボーカルという楽器は、曲に対しての影響が、ギターとかベースに比べてデカイので。ということで、長くなっちゃったけど、ボーカルは味付けの濃い増幅器だなあという意味合いで、「AMPLIFIED」というタイトルにしました。だから今後は、『ナントカ: AMPLIFIED』にしていくのかな。わかんないですけど。全然変わるかもしれないですけど、ボーカルという楽器の考え方がまた変わったら、タイトルも変わると思いますけど。

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