原田美枝子らがショーン・ホームズの演出で新たなチェーホフを魅せる 『桜の園』会見&プレスコールレポート

2023.8.8
レポート
舞台

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ 『桜の園』会見より

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ロシアの劇作家アントン・チェーホフが1903年に執筆、翌年に初演された『桜の園』。時代が大きく転換し、価値観の変化を余儀なくされる中で葛藤や矛盾に悩む人々を描いた物語だ。PARCO劇場開場50周年記念シリーズとして上演されるのは、サイモン・スティーヴンスが2014年に発表したアダプテーション版。2022年に『セールスマンの死』を新解釈の演出で魅せ、多くの演劇ファンを唸らせたショーン・ホームズが、約120年前に生み出された物語を、時代や国境を超えて描き出す。

初日に先駆けて行われた会見には、原田美枝子、八嶋智人、成河、安藤玉恵、川島海荷、前原滉、松尾貴史、村井國夫が登壇した。

 

ーーまずは意気込みをお願いします。

原田美枝子:ショーンさんがキャプテンで、私たちは大航海に出ているような感じです。一生懸命やってきて、良い船出ができるんじゃないかと思っています。

八嶋智人:ショーンさんの演出で、新しいチェーホフになっています。美術を見ても「本当にチェーホフ?」と感じると思うんです。今回は地方公演もありますから、たくさんの方に劇場で体験してほしいですね。

成河:演出のショーンさん、美術のグレイス(・スマート)さんの発想がすごく刺激的で、「そんな考え方、表現の仕方があるのか」と驚きの連続です。今日はプレビューということでまだショーンさんがいるうちに直せますので、余分なものを削ぎ落として尖らせていきたいです。

安藤玉恵:「チェーホフはちょっと難しい」と思っている方もいるかもしれません。でも、ショーンさんと一緒に作ったからこそ、とてもわかりやすいものになったと思います。初めて見る方も「チェーホフってこういう感じなんだ」と理解していただけると思うので、ぜひ観にきてください。

川島海荷:本を読んだ時点では難しいと思っていましたが、稽古を重ねるうちにどんどん立体的になって、すごく楽しいです。あと、個人的な話になりますが、初舞台がPARCO劇場だったのでとても嬉しいですし、成長した姿を見せられるように頑張ります。

前原滉:僕はショーンさんの演出を受けるのは3回目です。毎回面白くて、今回も「こう作るんだ」と思っている間にまた変わっていきました。さっきまで変更があったので結構みんなてんやわんやですが、豊かになっていくのを感じるので、見たことのない『桜の園』を観ていただけると思います。

松尾貴史:チェーホフの作品は今回が初めてです。これだけの歴史ある名作ですし、お芝居に詳しくない方でも目にしたことのあるようなタイトルですから、関わらせていただけるのが嬉しいです。個人的な話になりますが、子供の頃からショーンさんが演出する舞台に出演するのが夢で……。

一同:嘘つけ(笑)!

松尾:毎日泉のようにアイデアが出てきて、「そういう解釈もあるか」「そんな深さがあるのか」という発見の連続です。大千穐楽に向かって、どのようにこの作品を成長させていけるかというのも楽しみにしていただきたいです。

村井國夫:今回はショーンさんの演出で、一つひとつの言葉の裏まで深く考えられています。人間の欲望や裏切り、醜いものも掘り起こしており、気が狂いそうになるほどに深いものを感じられます。これから公演できることを喜ばしく思っています。

ーー原さんは今回、3回目のチェーホフ作品となります。

原田:ショーンさんに初めて会った時、パワフルで繊細で楽しい方だという印象を受けました。実際その通りで、俳優みんな、ショーンさんからものすごいエネルギーをもらい、自分たちにとって最大限のエネルギーをつい出してしまう。みんなを持ち上げていい力を引き出してくれるので本当に楽しいです。今、ようやくコロナから解放されてきて、俳優がやっていることを直に感じていただけるので、ぜひ楽しんでいただきたいと思います。

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ 『桜の園』会見より

ーーショーンさんの演出を受けてみていかがでしょう。

八嶋:美枝子さんがおっしゃった通り、演劇的スタミナがすごくあって稽古の密度もギュッとしています。楽しいから我々もどんどん役に入っていますね。グレイスさんの美術や衣装もそうですが、本当にみんなで作っている感じです。あとは、いわゆるロシア革命前夜に限定された戯曲ではないんです。それによってむしろ普遍的になっているという面白さがすごくあります。物事が大きく変わっていく過渡期にいる人間って結局よくわからない。その面白さを一緒に体験してもらって、時代の捉え方、人間がどういうものかを見せる、チャレンジングなものになっていると思います。「こいつら全員自分勝手だな」「人の話を聞かないな」とマスクの中でツッコミながら見ていただくと楽しいんじゃないかと思います。

成河:今回はサイモンさんの現代語訳を上演します。稽古中にオンラインで繋いでたくさんお喋りしましたが、ショーンさんはサイモンさんと繋がりが強くて、彼の言葉を理解していますし、サイモンさんはチェーホフをすごく深掘りして現代語訳している。古典を知り尽くした上で自由に作っていると言うことを何度も思い知らされました。さらに議論をみんなで共有できるので、居心地も風通しも良かったです。

安藤:ラブリーとウェルダンをすごく言ってくれるし、今ハッピーかどうか聞いてくださるので、ハッピーでお芝居できました。演じることが楽しくてしょうがなかったです。

川島:海外の演出家さんとお仕事をするのは初めてで、どんな感じなんだろうと思っていました。でも、トーンや語尾で全部バレちゃうし、すごく的確なアドバイスをもらえました。発する言葉というか中の部分から作っていくのが印象的で勉強になりました。

前原:僕は川島さんと逆で、イギリス人の演出家とのお仕事ばかり。だから日本で経験を積み重ねてきたキャストの皆さんから学ぶことが多いです。あとは海外から来て日本語を覚えてくれたりするんです、「とりあえず生」とか(笑)。セリフナンバーをわざわざ日本語で言ってくれたり。人柄が出ていて、一緒に仕事をするたびにすごく好きだなと思いますね。

松尾:『セールスマンの死』に出演した鈴木保奈美さんに聞いたら「すごくリベラルでどんどんアイデアが湧くしアイデアを採用してくれる。とにかく楽しくて快適」と聞いたのでものすごく安心した状態で稽古に入りました。鈴木さんがおっしゃる通りでしたし、お客さんが持っている想像力に対する敬意をすごく持っている前提で表現させてもらえる。それで新たな発見ができて快適だなと思います。

村井:私は60年近い俳優生活をしていますが、ショーンさんほど自由でジェントルな人はいないですね。涙が出るほど優しい言葉をいただいて、頑張れるというか信用できると感じました。日々演出が変わっていく自由さと美しさが感動的で、参加して本当に良かったと思っています。

ーー最後に、お客様へのコメントをお願いします。

原田:本当にお芝居をするのが楽しいですし、どんどん奥行きが出てきています。また、ショーンさんは人・空間・心を動かすのが上手です。劇場全部が大きな流れになるんじゃないかと思うのでぜひ劇場に足を運んで体感していただきたいです。

また、開幕に向けて演出のショーン・ホームズからもコメントが到着した。

PARCO劇場で3作目となる演出の機会をいただいたことをとても光栄に思っています。そしてさらにそれがチェーホフの傑作戯曲『桜の園』であるのは非常に光栄なことです。私の長きにわたる友人でありコラボレーターのサイモン・スティーヴンス版の『桜の園』は、ダイナミックでありながら原作に忠実で、その奥深さ・矛盾・ばかげた不条理を捉えています。原田美枝子さんをはじめとする、作品への情熱と才能に溢れるキャストの皆様とご一緒できたこと、そして『セールスマンの死』を共に創ったクリエイティブチームの皆様と再びご一緒できたことは本当に大きな喜びでした。このプロダクションが、同じようにまた観客の皆様を刺激し、楽しませ、そして感動させるものになることを願っています。そして、7日のプレビュー公演で初めて観客の皆様とこの作品が出会うことを楽しみにしています。



プレスコールで公開されたのは、原田演じる女主人・ラネーフスカヤが“桜の園”に帰還し、個性豊かな人々との再会を果たす前半部分。

原田は可憐でどこか呑気な女主人を好演。彼女の帰りを待ち侘びる実業家のロパーヒン(八嶋智人)や兄のガーエフ(松尾貴史)たちの浮き足だった様子が可愛らしい。養女のワーリャ(安藤玉恵)と娘・アーニャ(川島海荷)の気の置けないやりとり、トロフィーモフ(成河)と再会したラネーフスカヤの驚きなども印象的で、後半に向けてどう描かれるのかワクワクした。

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ 『桜の園』舞台写真

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PARCO劇場開場50周年記念シリーズ 『桜の園』舞台写真

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“桜の園”は借金返済のために競売にかけられようとしており、どこかヒリついた空気が漂っているが、くすっと笑えるセリフやユーモラスな行動も多く、堅苦しさや難しさはない。過去の栄光を忘れられないラネーフスカヤやガーエフといった貴族、現実や未来を見据えて行動するロパーヒンたちの対比が明確なだけでなく、私たちが観てもわかりやすい現代語訳がなされており、物語がすんなり入ってくる。舞台上にはない桜の木が想像できるような演出と美術も魅力的で、会見で出た「観客の想像力への敬意」という言葉にも納得できた。初めてチェーホフに触れる方にとっても親しみやすいのではないだろうか。

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ 『桜の園』舞台写真

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本作は2023年8月7日よりPARCO劇場にてスタート。その後、宮城、広島、愛知、大阪、高知、福岡でも巡演される。

取材・文・撮影=吉田沙奈

公演情報

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
『桜の園』
作:アントン・チェーホフ
英語版:サイモン・スティーヴンス
翻訳:広田敦郎
演出:ショーン・ホームズ
 
出演:原田美枝子、八嶋智人、成河、安藤玉恵、川島海荷、前原滉、川上友里、竪山隼太、天野はな、永島敬三、中上サツキ、市川しんぺー/松尾貴史、村井國夫
 
日程・会場:
東京公演:2023年8月7日(月)~8月29日(火)PARCO劇場 ※8月7日(月)プレビューオープン
宮城公演:2023年9月2日(土)東京エレクトロンホール宮城 大ホール
広島公演:2023年9月6日(水)上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)
愛知公演:2023年9月13日(水)日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
大阪公演:2023年9月16日(土)~9月17日(日)森ノ宮ピロティホール
高知公演:2023年9月20日(水)高知県立県民文化ホール・オレンジホール 
福岡公演:2023年9月23日(土)~9月24日(日)キャナルシティ劇場

企画・製作=株式会社パル
 
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