実際のゴッホとはどんな人物だったのだろうと想像する 『ゴッホと静物画』声優・福山潤インタビュー

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2023.10.12
『ゴッホと静物画―伝統と革新へ』音声ガイドナビゲーター・福山潤

『ゴッホと静物画―伝統と革新へ』音声ガイドナビゲーター・福山潤

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『ゴッホと静物画―伝統と革新へ』が、2023年10月17日(火)から2024年1月21日(日)まで、SOMPO美術館にて開催される。本展では、名だたる画家たち(クラース、ドラクロワ、マネ、モネ、ピサロ、ルノワール、ゴーギャン、セザンヌ、ヴラマンク、シャガールなど)の静物画とともにゴッホの作品を紹介。17世紀から20世紀初頭までの静物画の流れのなか、ゴッホが先人達から何を学び、それをいかに自らの作品に反映させ、さらに次世代の画家たちにどのような影響を与えたのかを探っていくものだ。本展の音声ガイドナビゲーターを務めるのは声優の福山潤。本展の見どころやゴッホに対する印象をはじめ、アートの楽しみかたなどを聞いた。

『ゴッホと静物画―伝統と革新へ』

『ゴッホと静物画―伝統と革新へ』

あくまで「絵が主役」音声ガイドで寄り添う

ーー今回『ゴッホと静物画』の音声ガイドナビゲーターを務めることになったときのお気持ちからお聞かせください。

とても嬉しかったですね。美術館の音声ガイドは作品を目で楽しみながら、この絵画にどのような背景があるのかいう情報を知ることもできますよね。それに、もともと豊富な知識をお持ちの方でも、音声ガイドを活用することによって「この展覧会を主催した方々がどのようにこの絵を提示して、一つの催しとして何を伝えようとしているのか」といったことまで楽しめる。楽しみかたがすごく多岐にわたると思うんです。鑑賞の邪魔をしないようにしながら、耳で情報を伝える……。それは声優にとってとても魅力的なジャンルだと思うので、このような機会をいただけて大変嬉しいですね。

ーーテレビ番組やCMのナレーションとはやはり違うものでしょうか? どういった点を心がけて収録されたのかを教えてください。

ヘッドホンやイヤホンを使って聴いていただくものですし、静かな場所で、そして何よりも「絵が主役」なので、音量的にうるさくないようにしました。また、ご覧になっている方の心象をあまり邪魔しないようにしながらも、例えばゴッホが当時書いた手紙の言葉をセリフとして読むときは、なるべく自分の中のイメージも合わせて「補足」ができるようにしていきました。

テクニカルなことを言えば、音声ガイドは絵画を鑑賞しながら使うものですし、それだけを集中して聴いているわけではないので、なるべくゆっくりと寄り添うように読み上げました。言葉の運びや文章の繋がり、聞きなれない言葉は特に注意しながら。ただ僕はどうしても、読んでいてちょっと気持ちが入りすぎるきらいもあるので……。そういった差し引きは丁寧にディレクションしていただきましたし、僕もなるべく自分のクセに寄らないように読ませていただきました。

ーーナレーションをしつつも、ゴッホとしてもセリフを読まれた。その演じ分けについてはいかがでしたか?

そうですね……。さも物語の中の1人のように生き生きとやりすぎてしまうと、それはそれで邪魔になってしまうので、あまり感情を入れすぎず、ゴッホの手紙を代読するというような形に落とし込めたらと思って読みました。

残された作品を通じて「本当のゴッホ」を感じ取る

ーーゴッホという画家について伺います。もともとどのようなイメージをお持ちでしたか?

ゴッホは映画や漫画などいろいろな題材で注目される画家。なので、実物の絵画を見る回数よりも、そういった創作された作品に触れる機会が多かったからか、ステレオタイプ的に「不遇な人」という印象が強くありました。

でも、残している絵画の数の多さや、本人が生きている間に多くの人たちから認められず、最終的に自分で決着をつけてしまったことなどを考えると、コミュニケーションが苦手なだけなのかもしれないと思って。耳をカミソリでそぎ落としてしまった事件なども含めて、センシティブなものを感じざるを得ないですが、一方で、残している絵は結構華やかだし、色合いもすごく前向きに捉えられるものが多い。自分の家をひまわりでいっぱいに埋めようと思っていたみたいですし、ちょっと違う人物像だったのかもしれないなって思います。

それに、創作されたゴッホ像の中でも共通するのは、絵が好きだということ。それはブレないですよね。そのことは、ゴッホが描いた作品を通じて、伝わっているんだろうなと思います。

ーー今回の収録をとおして、ご自身で面白いなと思ったことや新しく知ったことを教えて下さい。

ゴーギャンと同居していたことや、激しい口論の末に袂を分かったことなどは情報として知ってはいましたけど、実際にどういう口論だったのだろう? どういった部分では馬が合ったのだろう? と想像してみました。その後に書いた手紙や、残していた絵から考察してみて……。いや、正解は分かりませんけれどね。残された人は出揃ったピースからしか慮れないですし、正直、僕の頭の中ではまだうまく噛み合ってない部分も多い。でもそこがまた想像が膨らんで面白いなと思うんです。

ーー特に気になった作品はありましたか?

僕は絵の好みとして、もともとシュルレアリスムが好き。作家でいえば、ジョルジョ・デ・キリコやルネ・マグリッドが好きなんです。

でも今回の展示では、デ・フェンネの《花瓶と花》が気になりましたね。暗い色がメインなんですけど、その分、花が真ん中から浮き出るような感じがして、目を奪われてしまいました。改めて、自分が若い頃に好きだったものから好みが変わってきたなと思います。

ーー若い頃はやはりシュルレアリスムがお好きだった?

そうですね。シュルレアリスムは、18歳を過ぎた辺りにいいなと思うようになったんです。それより幼い頃は、モネとかルノワールとかゴーギャンとか、いわゆる有名どころを「いいもの」として見てきて……。たいした知識もありませんでしたから。

そして今回いろいろな絵画を見て、実は淡い色合いのものも嫌いではないんだなと思いました。はっきりした色合いのほうが子供には分かりやすいから、正直、子供の目から見ると、淡い色合いのものってぼやけてしまうというか、退屈に映りがちじゃないですか。でも改めて見るといいなと思いましたよ。

ーー静物画についてはどうでしょう。福山さんとしても「待ってました!」という感じですか?

そうですね。静物画も正しいものを正しく写すだけではなくて、解釈もいろいろ加わってくるでしょう? いろいろな知識が増えて、改めて見返すと見方もガラッと変わるから面白いですよね。

現在好きなものと、過去に好きだったもの。その違いから自分のことを省みたりもして……。例えば、昔、ダリが大好きだったんですよ。でも、最近自分にとっては、ダリだと派手すぎるというか、作品によっては「ウケを取りに行っているな」と感じることもあって。絵画の好みを通じて、そのときの自分の状況が分かるのは面白いですよね。

自分の好きなように鑑賞したいから、美術展は一人で行く派

ーー日々お忙しいと思いますが、美術展や展覧会には行かれますか?

はい。行くのは好きですね。自分の母が趣味で油絵をやっていたので、子供の頃はアマチュアの展覧会や、有名な画家の絵の巡回展に連れていってもらう経験がそれなりにありました。その影響で興味を持ったんだと思います。

ちなみに美術展や展覧会にはなるべく1人で行きたい派。一緒に行く人に気を遣って、見る順番や時間をコントロールされたくないんですよね。自分で好き勝手に見たいんです。

ーー今までの展示で印象的だったものや忘れられない絵画は?

《モナ・リザ》を初めて見たときは、思ったより小さいなと感じたし、逆にモネの《睡蓮》はその大きさに圧倒されましたね。こんなに大きい作品を描くのにどれだけ時間がかかるのだろう、絵具はどれぐらい使うのだろうと思いました(笑)。

ーー福山さん流のアートの楽しみかたや寄り添いかたを教えてください。

「アートは教養だ」と思われがちですが、そう思って接するのではなく、単純に「これが好き!」と思えるものがあれば、それだけで楽しめるんじゃないかなと思うんです。お金や価値は抜きにして「これを飾りたい!」という1枚に出会えたら素敵だなと思います。

……とはいえ、それをやり始めたらキリがないので、僕自身は自宅にアート作品は飾っていませんけど(笑)。唯一、高校のときに自分が描いたデザイン画があります。イベントで使って返却されたのですが、それを実家に送り返すのも面倒で、仕方なく置いています(笑)。

ーーちなみにそれはどんなデザイン画なのですか?

《富嶽三十六景》のような波を適当に描いて、後ろに富士山を描かずにオレンジに塗って、その真ん中にイカが絡みついた骸骨がある絵です。ポスターを作るという課題だったので、「全国いかめし料理人選手権大会」と書いてあって……。当時シュルレアリスムが好きだったことがよく分かるので、とにかく恥ずかしいです(笑)。

ーー最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします!

美術展はどういう角度から見ていただいても全然いいと思うんです。本展は《ひまわり》を見に来るという理由だけでも十分ですが、特に今回はゴッホに影響を与えた静物画と、ゴッホから影響を受けた画家たちの作品が並びます。多くの作品をとおして「自分としてはこういう作品が好きなんだな」「こういうものが自分にとっては刺さるんだな」という発見もできて、とても有意義な時間になると思います。絵画に造詣の深い方にはもちろん楽しんでいただけると思いますし、逆に初心者で「何を見たらいいんだろう」と思う方にもおすすめの展覧会。絵の情報を鑑賞の邪魔にならないように努めた音声ガイドも含めて、楽しんでいただけましたら幸いです。


取材・文=五月女菜穂

イベント情報

ゴッホと静物画―伝統から革新へ
◼会場:SOMPO美術館 〒160-8338東京都新宿区西新宿1-26-1 新宿駅西口より徒歩5分
◼会期:2023年10月17日(火)~2024年1月21日(日)
◼開館時間:10時~18時(ただし11/17(金)と12/8(金)は20時まで)
※最終入場は閉館30分前まで
◼休館日:月曜日(1月8日(月・祝)は開館)、年末年始(12月28日~1月3日)
◼観覧料:一般2,000円(1,800円) 大学生1,300円(1,100円) 高校生以下無料
※( )内は事前購入券、いずれも税込
※身体障がい者手帳・療育手帳・精神障がい者保健福祉手帳を提示のご本人とその介助者1名は無料、被爆者健康手帳を提示の方はご本人のみ無料です。
◼主催:SOMPO美術館、NHK、NHKプロモーション、日本経済新聞社
◼協賛:SOMPOホールディングス
◼特別協力:損保ジャパン
◼協力:KLMオランダ航空、日本航空
◼後援:オランダ王国大使館、J-WAVE、新宿区
◼お問合わせ : 050-5541-8600(ハローダイヤル)
◼公式サイト:https://gogh2023.exhn.jp/
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