ロロ『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』座談会 ⽥中美希恵×端⽥新菜(ままごと)×松本亮 前代未聞の超短編集で一気に開かれる役者たちの引き出し

インタビュー
舞台
2023.10.6
⽥中美希恵、端⽥新菜(ままごと)、松本亮

⽥中美希恵、端⽥新菜(ままごと)、松本亮

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2023年10月7日(土)から15日(日)まで東京芸術劇場で上演されるロロの新作『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』。本稿では出演者に50人の登場キャラクターから気になる人物をピックアップしてもらい、作品の見どころを紹介してもらっている。今回は⽥中美希恵、端⽥新菜(ままごと)、松本亮に参加してもらった後編をお届けする。

端田がグッとくる佐藤海牛の“正しさ”

──端田さんは事前アンケートで室町梅子さんを挙げてくれました。

室町梅子(40)むろまちうめこ(端田)
女性。無類のパチンコ好き。震災のとき、近所のパチンコ店を通りかかったら、店中にパチンコ玉が散乱していた。梅子は、不謹慎かもしれないが、床一面に広がる銀色を美しいと感じた。それから、パチンコに通うようになった。
しかし、数年前に、夫にパチンコで散財することを咎められてからは行くことを控えるようになった。代わりに始めたのがポケモンGOだった。ポケモンGOをやりながら町をあるいていると同じくポケモンGOをやっている女性たちから声かけられるようになり、きづいたらサークルのようになっていた。最近、サークルにサクラ(端田)という女性が加わり、梅子は彼女のことが好きだった。いつか二人で旅行にいきたいと話すくらいウマがあったが、なかなかその機会は訪れず、いまはポケモンGOの世界を旅行することで満足している。


端田新菜:梅子はプロフィールだと40歳になっているけど、舞台上では70歳前後だと思うんです。このプロフィールは2023年時点だと解釈してるから、つまり梅子さんのシーンは2050年くらいだと思っていて。震災の時は30代くらいなんじゃないかな?そのあとに息子が生まれて、夫に「そろそろ」って言われてパチスロをやめたけど、ずっと子供と打ちたいなと思ってた女性です。

──梅子さんのエピソードは息子をマルハン(パチンコ店)に誘うという内容です。

端田:梅子の息子は私の息子と同い年くらいじゃないかな。40歳近くなってもママって呼んでくれるなんていい関係だと思う。亮さん、佐藤海牛も大学3年生のプロフィールだけど、舞台上では大学3年生じゃないよね?

松本亮:ないですねえ。5、60歳くらいかな。

佐藤海牛(松本)
男性。東京の美術大学グラフィックデザイン科に通う3年生。いつも悲観的だった。たとえば中学の野球部で大会に向けてみんなが盛り上がってるなか、冷めるような一言をいっては場をしらけさせた。しかも、海牛の声はなぜかよく通ってしまい、ぼそっとつぶやいたことでさえ、遠くまで届きがちだった。しかし、なぜか女性にはよくモテた。現在、海牛は就職活動に悩んでいる。大学生活を通して、自分が周りに比べて劣っているとは思わなかったが、昨今の人工知能の発達で、自分がグラフィックデザインの道に進んだとして、近い将来、自分の仕事は人工知能に奪われるという予感があった。二湖(福原)という後輩は、なぜか海牛を慕っていた。近所のアパートに住んでいるとわかり、よく二人で鳥貴族で飲んだ。


端田:海牛は、福原冠さん演じる二湖や、私が演じるパンと関係があるよね。でも二湖やパンにとって居心地のいい人だった海牛にとっては、どちらもそんなに居心地のいい人ではなかったのかもしれない。そう考えると、この人と出会っても私は何もしてあげられないと思えてグッと来る。

松本:僕はプロフィールにある「周りに比べて劣っているとは思わなかった」ってテキストが、演じる中でずっと引っかかって。いろんな希望があったのかもしれないけど、生きてく中でつぶされるときってあるじゃないですか。

端田:うん。きっと海牛さんは“正しい感性”をお持ちだったんじゃないかな。その正しさが人にとっては心地のいい正しさじゃなかった。それは海牛さん悪くないし。ねえ?

松本:ねえ……。

⽥中美希恵:1人しか出ない独白のシーンは、どれもけっこう内容深いですよね。

──海牛は1シーンだけの登場ですか?

端田:3シーン出続けるんだよね。でも2シーンは海牛としてただ黙って舞台上に居る。

松本:みんなしゃべってるのに僕だけしゃべらないみたいなのとが続いて、で、ふとしゃべるみたいな。あえてはけない演出を三浦くんが付けてくれてます。

⽥中美希恵

⽥中美希恵

田中はこじれた14歳、柴四季が本当にかわいい

田中:私は自分の演じてる柴四季が好きなんです。ちゃんとこじれてくれてる中学生でうれしくなるというか。プロフィールは男性なんですけどね。

柴四季(14)しばしき(田中)
男性。「しばしき」と読むのだが、周囲からは「紫式部」と呼ばれている。あまりにみんながそう呼ぶので、図書室に置いてある「源氏物語」を読んでみようと探してみたが、なぜかいつも貸出中だった。しかたがないので、近所の本屋で源氏物語を購入した。しかし、家に帰ってみると、なぜか全く違うタイトルに変わっていて「更級日記」と書かれてあった。しかたなく読み始めると、みるみる引き込まれていった。菅原孝標女が源氏物語を読みたいと願う場面が自分と重なった。更科日記に触発された四季は、インスタグラムに日記を書くようになった。フォロワーはほとんどいなかったが、いつも「maji-karu」というアカウントがいいねをくれていた。


端田:でも私って言うよね。

田中:どっちに見えてもそれはそれでいいかなと。本当にかわいい子だと思いますね。

端田:一言も発さないのがいいよね。

──四季は姉との共用部屋で、なんとかTikTokの撮影をしようとする微笑ましい姿が描かれます。大場、北尾、福原チームからは「柴四季に部屋を作ってあげてほしい」という声が出ていました。

端田:14歳だからね。

田中:一番部屋がほしい時期ですよね。

松本:でもどうしても金銭事情とかあるからね。

──部屋の前に冷蔵庫があるのも不思議な間取りだなって。

田中:でも多分あの奥に、リビングとか親の寝室とかあるんだと思いますよ。

松本:そうねえ。

端田:自営業で店があるかもしれないよね。長い廊下部分のここに玄関があって、こっちに喫茶店とか青果店とか。

田中:確かに。

松本:寅さんちみたいなやつね(笑)。

──あとは、端田さんの和屋雲太の役作りがすごいと話題になりました。

和屋雲太(48)わやくもた(端田)
男性。福島県いわき市出身。漫才師を目指して高校の同級生足立信吾(北尾)と上京。コンビ名は『しあさって』。しゃべくり漫才にあこがれて漫才をはじめるが、雲太も信吾も、互いにツッコミが苦手だった。どちらも穏やかな正確なので無理にツッコむと、過剰に暴力的にみえてしまうのだった。雲太は、自分たちの漫才に合うスタイルを探し続けた。それは、自分たちに合う対話の形を探す作業だった。しかし、25歳のときに、信吾は芸人をやめ、地元の福島へと帰ってしまった。信吾とはいまだに連絡がとれていない。雲太は、そのあとも何人かとコンビを組んでみたが、どれも長続きせず、35歳のときに芸人をやめた。しあさって時代に足繁く劇場に足を運んでくれた知り合いの誘いで、カルチャースクールのコミュニケーション講座を受け持つようになると、それが好評を博す。現在は『中年のための雑談講座』というコースを担当している。


端田:それ言ったの冠さんでしょ(笑)。

松本:でも僕も雲太を挙げてました。

──松本さんは雲太のどこに惹かれましたか?

松本:新菜さんの佇まいが絶妙なんですよね。「中年のための雑談講座」って胡散臭いじゃないですか。でもギリギリのラインでなんかありそう感が出てて。

田中:確かに雲太が私か大場だったら虚構に見える気がする。新菜さんがやるから、「本当にあった話なのかな…」って。

端田:ないよ。

田中:ないんですけどね(笑)。

松本:あったらいいなと思う人もいると思いますよ。

端⽥新菜(ままごと)

端⽥新菜(ままごと)

松本は田町綿餅のチャレンジングな精神に好感

──松本さんからは田町綿餅が挙がりました。

田町綿餅(55)たまちわたもち(松本)
男性。綿餅は55歳で初恋をした。綿餅はそれまで恋をしたことがなかった。若い頃は同僚や上司のナンパや風俗につきあわされたが、全く興味がもてなかった。誰かと一緒にいるよりも一人旅が好きだった。コロナ禍で旅行ができなくなり「geoguessr」という場所あてゲームを始め、そのゲームを通じて知り合った同世代の女性に恋をした。だからといって綿餅は、その女性と関係を深めたいとはおもっていない。近所の雑談講座に通うようになった。恋をして初めて、自分が他人と会話するすべを持たないことをしった。参加者は自分と同世代が多かった。あの頃、と綿餅はおもう。あの頃、自分の同世代の男たちはみんな堂々としてみえた。しかし、いま目の前にいる雑談講座にいる男性たちは、みんななにかを怖がっているような迷子のような目をしていて、綿餅はそれがなんだかおかしかった。


松本:綿餅は「駅伝の話」と「雑談の話」のシーンに出てくるんですけど、共感する部分が多いというか。年齢を重ねれば重ねるほど、どう会話を切り出していいかわからなくなって、しゃべらなくてもいいってなったりするけど、この人はそれじゃいけないと思って講座に通い始める。そういうチャレンジングな精神持ってる人いいなって。好きです。

──綿餅は誰に恋をしたんでしょう?

端田:語られない。この中の誰かなのか違うのか、わからないねえ。

松本:うん。

端田:女性かどうかもわからないね。

田中:何もヒントないですね。

松本:でも直接会ってとかではなく、ネットで知り合った誰かなんじゃないかな。想像が膨らむのもこのキャラを挙げた理由です。あと別のシーンで一瞬だけ私が人間じゃないキャラクターで出てくるんですけど……。

田中:(笑)。

松本:そこはあたたかい目で見てほしいな。

端田:後半に出てくるよね。

松本:やってて楽しいのはカラオケの店員です。

田中:あそこ細かく演技されてるの横目で見ていてすごく気になります(笑)。

松本亮

松本亮

ロロの俳優だったら誰がやるんだろう

──ほかに印象的なシーンはありますか?

端田:私は「秋ネイル」のシーンも好きです。

田中:「秋ネイル」ね。

松本:僕と亘くんがやってるやつ。えーと名前が出てこない(笑)。

端田:徳永芋助さんと笹中木馬さん。

──どんなお話ですか?

松本:部下が上司にネイルしてあげる話ですね。

徳永芋助(42)とくながいもすけ(松本)
水回り住宅設備機器会社で働いている。20代の頃は、いわゆる親父ギャグを言う上司が苦手だったが、気づいたら自分自身が親父ギャグを言う上司になっていた。部下の真地軽菜に指摘されるまで、自分が親父ギャグを言っているという自覚すらなかった。軽菜に「自分だけはダジャレを言っても許されるって、思いたいのかもしれないですね」と言われショックを受ける。


端田:とにかく2人が素敵なのよ。亘さんが亮さんにネイルをしてあげて、2人でそれを眺めて「素敵だね」って。

松本:よかったです。

端田:演者のお二人のよさもあるし、多分三浦さんが大事にしていることでもあると思うんだ。

田中:あの設定が三浦くんが一番描きたいことなのかなって気もしますね。

松本:わかる。カテゴライズはしたくないけど、あのシーンにはロロらしさや三浦くんらしさをすごく感じる。ただ自分がそれをちゃんと体現できてるか不安になりながらやってる。

田中:できてますよ(笑)。

松本:よかった。ロロメンバーが今回出演しないから、彼らがいつもやれてること、外から見て素敵な世界を自分たちがやるにあたってどのように……って。そんなに意識はしないけど気になりますね。

端田:考えてなかったけど、考えるの楽しいですよね。ロロだったら誰がやるんだろうとか。

松本:ね。いつかロロバージョンもやってみてほしいな。

6名の出演者たち

6名の出演者たち

凧揚げしたあとおばあちゃんになって大学生になって小学生になってワニになるから

田中:普段は1人1役しかやらないから、そのキャラクターをどれくらい深められるかになるけど、この作品ではみんな10役以上担当してるから、役者としての引き出しが一気に見れて面白いです。三浦くんの演出も、その人が今までやってないだろうなって方向を目指していたり。いつもと違う作り方をできてる感じがしますね。

端田:ありがたいよね。

松本:ただ1、2分のストーリーが続くから、ちょっとでも見逃すと終わっちゃうみたいなことが起きかねないので「ここはこういうシーンだよ」と丁寧にやるというのはなんとなく意識してます。そこもいつもと違う頭を使うところだな……。

──ほかにないですよねこういう作品。

端田:15分くらいのオムニバス短編はほかにもあるけど、1、2分のシーンがつながっていくって……超楽しいよね(笑)。息子に「お母さん、凧揚げしたあとに、おばあちゃんになって、大学生になって、小学生になってワニになるから」って説明したら「それはどうやるの?」って言われたから、「歩きながら」「はけないの?」「はけないよ!」「へー」ってやり取りがありました。「ショート動画を延々見てる感じだよ」ってそこまで言ったら「見てあげてもいいけど」だって。

──感想が楽しみですね(笑)。ちなみにラストシーンをこのエピソードにするというのは皆さんで決められたんですか?それともラスト用に書き下ろされた?

田中:っていうわけではないけど、やってみたら。

端田:急に「これがラストだから!」って三浦さんが。

田中:突然。頑なに。

松本:僕ほかの仕事で休んでて、次の日稽古に行ったらカーテンコールまでついてました(笑)。

端田:すごいキラキラして言うもんだから、誰も理由を聞けなかったよね。

田中:ですよね。「あ、そうなんだ(笑)」みたいな。

端田:でもどこかで気が変わる日がくるのかなって思ってたら、来なかった。そこに向かって、積み上げてく方向で。

田中:ずっと確信に満ちて「でもこれがラストだから!」って言ってましたね。

松本:まだほかのシーンの順番もなんにも決まってないのに、カーテンコールの練習までしたからね。通し前にカーテンコールの練習する劇団ある?(笑)「並び順はここで、亮さんはここから出てきます(キリッ)」って。

端田:本当にね。うれしそうでしたよね、あのとき。

松本:聞きながら冗談かなって思いましたもん。

端田:私たちの稽古場ツッコミ不在なんだよ(笑)。

取材・文=中川さとし撮影=稲川悟史

(前編はこちら)

公演情報

ロロ『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』
 
期間:2023年10月7日(土)〜10月15日(日)
場所:東京芸術劇場 シアターイースト
テキスト・演出:三浦直之(ロロ)
出演:⼤場みなみ 北尾 亘(Baobab) ⽥中美希恵 端⽥新菜(ままごと) 福原 冠(範宙遊泳) 松本亮

料金:
<自由席(入場整理番号付)・税込>
【一般】 4,000円
【25歳以下】 2,000円(枚数限定)
【高校生以下】 無料(枚数限定)
*高校生以下は劇団サイトでのみ取り扱い
<当日券のご案内>
各公演開演1時間前より東京芸術劇場地下1階【シアターイースト 当日券受付】にて販売いたします。
※定価のみの販売となります。
 
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