ロロ『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』座談会 ⼤場みなみ×北尾亘(Baobab)×福原冠(範宙遊泳) 妄想が止まらない?プロフィールの余白からシーンを立ち上げる面白さ
福原冠(範宙遊泳)、北尾亘(Baobab)、⼤場みなみ
三浦直之率いるロロの新作『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』が、2023年10月7日(土)から15日(日)まで東京芸術劇場で上演される。「50人の書き下ろしキャラクターを6人で演じ分け、シーンをシームレスに繋いでいく」……。なんともワクワクする企画だが、具体的なイメージが湧かないのも正直なところ。そこで出演者に登場キャラクターをピックアップしてもらい、見どころを紹介してもらった。
初回は⼤場みなみ、北尾亘(Baobab)、福原冠(範宙遊泳)参加の前編をお届け。作品の雰囲気を少しでも掴んでほしい。
「変わるんじゃないか」北尾が惹かれる足立真留
北尾亘(Baobab)
──皆さんには事前に50人の登場人物から推しキャラを挙げてきていただきました。トップバッターは北尾さんいかがでしょう?
北尾亘:はい。僕が挙げたのは足立真留さんです。
福島県いわき市在住。男性。駅前のローソンの店員。車や電車や飛行機など、乗り物が苦手で県外にでたことがない。グーグルマップを使った場所あてゲーム『geoguessr』に熱中しており、どの国のどんな場所でも植生や標識をみるだけでだいたい特定できる。世界大会ベスト8。
福原冠:このプロフィールからあのエピソードを書く三浦くんの想像力、半端ないよね(笑)。
大場みなみ:プロフィールは3行だもんね。
──真留さんのエピソードについて具体的に言ってしまうと、「とある事情で買った服が着れない」という内容ですね。
北尾:そう。台本を読んでも想像の余白たっぷりの人物です。このとあるエピソードで彼の何かがちょっと変わるんじゃないかという気配を感じていて。その先を見届けてみたいなと選びました。
──配役はどうやって決まったんですか?
北尾:最初に読み合わせをして。
大場:いろんなパターンで読みましたね。でも亘くんはさすがのリズム感でこの役を射止めました。
福原:三浦くんは「このシーンをダンスシーンにしたい」って言ってたよ。EDMを流すって。
北尾:(笑)。あともう一人挙げたいのは斎藤文斗。どちらかというとこっちを挙げたくて。
バイト先の飲食店で、上司に暴力をふるいクビになった。日常的に特定の国籍への差別発言を繰り返す男で、ある日我慢の限界がきた。というと、正義感からの行動のように周りからはおもわれるのだが、文斗自身は、自分のなかの暴力の欲求がそうさせたのだと知っている。上司を殴った瞬間、文斗は気持ちいいとおもってしまった。ペットの世話をしてほしいという求人広告をみつけて、応募すると即採用された。案内された場所は、タワーマンションの最上階だった。広大な部屋にワニがいた。文斗はそれから、タワーマンションの最上階で暮らすワニの世話をするようになった。たまに、部屋の窓から凧揚げの凧がみえることがあった。いつからか、文斗は凧をみつけると、話しかけるようになった。
福原:ワニ。
北尾:ワニのね。最初にプロフィールを見た時点から気になっていました。エピソードの中にもフィクションとリアルの間(あわい)みたいなものを感じるし、会話する相手が人じゃないのもなんかよくて。個人的に歳も一緒だし。
──福原さんが担当されている役ですね。
福原:僕、飲食店でバイトしてたんですけど、スタッフにもお客さんにも徹底的にあだ名を付ける人がいたんですよ。その人の余裕のなさみたいなものを、台本を読んでいるときに思い出しました。ほかの役もそうなんですけど、自分は今まで出会ってきた人のことを想像しながら演じるところがあって。斎藤さんも、自分が出会ってきたあの人のああいうところに似ているなと参考にしています。
──このシーン、福原さん以外の方はお世話されるワニ役で登場します。
大場:ワニ、楽しいです。
北尾:俺たまたま昨日みなみちゃんのワニの表情見れたんだけど……ワニだったね。
大場:ワニでしょ?
北尾:こんなにいってたか……!と思って。自分はまだまだだと反省しました。
大場:ワニは注目ポイントです。端⽥新菜さんも「ワニやると整う」って。床に近いところでじっとしてるのが気持ちよくて、なんだか禅みたい。ワニは残念ながらプロフィールがないけど、プロフィールのないキャラクターが存在感を出してるエピソード多いよね。「最強の武器の話」とか。
──どんなシーンですか?
大場:「クリーニング屋さんを中心に集まった人々が己の思う最強の武器を持って、生乾き臭を倒しに行く」っていう話なんですけど……。
福原:クリーニング屋さんはプロフィールあったっけ?
大場:琴絵さん。確か冠くんが演じてる役と元夫婦だよ。
女性。クリーニング屋で働いている。土曜日になると1週間分のワイシャツを持った男性たちが店の前に列を作る。確かに自宅でワイシャツに綺麗にアイロン掛けするのは大変である。先日、若い女性が薄手のコートを持ってきたが、自宅で手洗いできるもので、クリーニング屋の機械だと痛みが出そうなものだったので、やんわりと断った。30歳のころ、友人の紹介で牟呂網矢(福原)と出会った。網矢は、いつもMY塩を持ち歩いていた。「雪国で育ったから塩が好き」というわけのわからないことを言っていた。琴絵も「私も真っ白なYシャツとかシーツをみると幸せになるんです」とわけのわからない返答をした。二人は1年後に結婚した。網矢は旅行代理店で働いていて、それもあって二人はよく旅行にでかけた。しかし、琴絵は本当は旅は好きじゃなかった。休日はできるかぎり、家で過ごしたかったが網矢には言えなかった。40歳になった頃、二人は離婚した。最近、琴絵は自動車免許を取得した。それまではいつも網矢が運転をしていたので必要性を感じなかった。免許を取得してから、よく一人でドライブにでかけるようになった。
北尾:うんうん。
福原:えっ。本当!?そんなのあったっけ……。
大場:(笑)。でもそういう雰囲気は全然出てこない。
福原が気になる駅前のコンビニ店員、佐藤央司
⼤場みなみ
──プロフィールがないキャラクターも入れると100近く登場するので、出演者でも全部把握するのは大変ですね。では福原さんの推しキャラはどなたですか?
福原:僕は佐藤央司を挙げました。
福島県いわき市在住。駅前のローソン店員。高校在学中から働きはじめ、気づけば30年近くコンビニ店員をしている。かつては警察官にあこがれていたが、あこがれていただけで特になろうとはおもわなかった。コンビニで働き始めた理由も、防犯用のカラーボールを投げてみたいという理由からだった。小銭を数えるのが苦手で昔はよく先輩に怒られていたが、いまは自動精算になったので小銭の計算を間違えることはなくなった。暇になると、強盗がやってきた場合のシミュレーションを脳内で始める。どんな服装で、どんな体格で、どんな武器をもって、どんな言葉遣いをするか。央司はすでに頭のなかで500人以上の強盗を撃退しているが、実際にカラーボールを投げたことはまだない。
大場:私も挙げた!この動機だけでバイトを30年も続けるなんて真面目だし、すごく狂気じみてる。真面目と変態性って表裏一体というか。
福原:ね。それこそ僕、渋谷のセンター街のコンビニで10年くらいバイトしてたんです。日本で一番万引きされるコンビニだったらしく本当だったらカラーボール投げ放題だったはずなんだけど、機会がなくて。
──劇中、とあるシチュエーションで犯人逮捕に貢献します。
大場:でも夢が叶っちゃったらこの人今後どうするんだろう?って心配になる。いわきのローソンはどうなっちゃうの。
福原:辞めちゃうかな。
北尾:味をしめてますます防犯業に邁進するかも。
大場:街の警察署から表彰されたりしそうじゃない?新聞の社会面に掲載されたりして。そのときの笑顔が見たい。
福原:そもそもなりたい職業は警察官だけど、目指さなかったところがいいよね。
大場:慎ましいね。
名もなき登場人物に妄想が止まらない大場
福原冠(範宙遊泳)
──大場さんはご自身が演じてる役で印象的なキャラクターはいますか?
大場:工藤あずさかな。探偵の方ですね。この人はオタクだと思うんです。社会学を学んで、取材をしているうちに、色々首突っ込んでっちゃう。
女性。喫茶店『水中』の2階を借りて、私立探偵をしている。もともとは大学で社会学を学び、過疎地域のオーラルヒストリーを書いたりしていた。いろんな人への取材を続けるうちに、頼まれごとをされる機会が増えていった。「◯◯さんはいまなにしてるんだろうねえ」とか、「◯◯はまだあるのかねえ」など、聞くと探しださずにはいられず、気づいたら私立探偵になっていた。
──工藤さんには登場シーンが2つあります。
大場:どちらも「逃げ出したものを捕まえる」という内容で。逃げちゃった"あるもの"を捕まえます。誰かの依頼で。
──気になるエピソードです。
大場:あ!ごめんなさいもう一人!「川揉み」っていうシーンで、下流で待ってる人に流しそうめんを流したいっていう“川揉み”の人の息子を亘くんが演じてるんですけど、一言「父ちゃん、みっともないって」っていうセリフがあって。なんか……絶対いい子なんですよ。多分、下流でお母さんがそうめんを待ってるんですけど、本当のお母さんじゃないと思うんです。若くして本当のお母さんは亡くなられてて、再婚した相手のお母さんといま一生懸命関係性を深めていこうってところで……(妄想続く)。
北尾:演じてる僕より考えてくれてる(笑)。自分はもう少しソフトに、会社の流しそうめん大会で、いい年してヘコヘコしてる父親がすぐ色んな人に声掛けちゃうから「早くしなよ」って怒ってるって思ってた。
大場:いい子なんだよ。
北尾:いい子には違いないね。各エピソード、プロフィールのあるキャラクターの相手役のほうが個性が際立ってたり、語られるボリュームが勝ってたりして。
福原:面白いよね。
北尾:稽古の初期かな?三浦くんが「対象が人じゃなくても、そのキャラクターが誰かと対話したり、あるいはキャラクターじゃない人同士が対話したりすることでそのキャラクターが見えてきたりするものを作りたいんだよね」って確か言ってた。
福原:アレも好きだな。虹夢さんってプロフィール上は奥さんがもう亡くなってるじゃん?だけど立ち上がるエピソードでは奥さんとの時間が描かれている。
男性。喫茶店『水中』のマスター。40歳の息子と37歳の娘がいる。もともと虹夢武は製薬会社に務めていた。喫茶店は妻の夢だった。虹夢武の定年退職を機に二人で喫茶店を始めた。わざと外装を古くして、訪れた客には昭和から続く喫茶店だと嘘をつき、さらにレモネード発祥の地だという嘘もついた。嘘をつくのはいつも妻だった。その妻が3年前に亡くなった。虹夢武は、高齢者の交通事故に関するニュースを立て続けにみて免許の返納を考えている。しかし、妻の墓は遠く離れていて、車なしでは気軽にいける距離ではない。こどもたちのすすめもあり、墓を近くに移そうと墓地の抽選を申し込んだが毎年外れている。倍率は年々増えている。
大場:生前の話。
福原:プロフィールには「免許の返納をしなきゃいけないけど妻のお墓が遠い」って書かれてるんだけど、立ち上がるエピソードではそこにフォーカスしてないのがすごく素敵だなって。あと大曲鳥子さんの「人形浄瑠璃部の顧問をしてるけど知識が一切ない」ってプロフィールも面白いと思う。三浦くん的には書かなくてはいけない情報だったんだなって。
大場:表に何も出てこないもんね(笑)。でもどの人もしっかり三浦くんワールド全開のプロフィールだよね。
当たり前のようにぶっ飛んだことを言う三浦くん
6名の出演者たち
福原:三浦くんてさ、当たり前のようにぶっ飛んだこと言ったり、ものすごい素敵なアイデアをサラッと言たりしない?
大場:うん。
北尾:うんうん。
大場:それ今思い付いたの!?みたいな。
福原:そうそうそうそう!
大場:家で思い付いて今披露したわけじゃなくて、今思い付いたの!?みたいな。
福原:そうそう(笑)。あと今思い付いたにしてはやけに具体的なプロフィールとか、セリフとか。
北尾:うん。
福原:あれ「…て、天才」って思っちゃう。
大場:ふふ(笑)。
北尾:すごいよね。
大場:松本さんと新菜さんが目を合わせて「はーっ」ってなってた。
北尾:木のとき?
大場:そうそう木のとき。
──木とは?
大場:舞台上に木が1本あるんですけど、三浦くんが「この木は全部の季節を表せる木にしたい」って言い出して。
北尾:三浦くんの手法ってセンスのキラメキがいっぱいあるよね。
福原:これは(音響の池田)野歩にも言えて。それこそ昨日、「猛吹雪の中で風鈴鳴らしたい」って話が出てました。ロロってそういうセンスを共有してる人たちが集まってる場なのかな?今回キャストにメンバーはいないけど、この作品でもそういう化学反応がしっかり起きてる気がする。衣裳とかも。
大場:照明もたのしみだね。
取材・文=中川さとし撮影=稲川悟史
公演情報
場所:東京芸術劇場 シアターイースト
出演:⼤場みなみ 北尾 亘(Baobab) ⽥中美希恵 端⽥新菜(ままごと) 福原 冠(範宙遊泳) 松本亮
料金:
<自由席(入場整理番号付)・税込>
【一般】 4,000円
【25歳以下】 2,000円(枚数限定)
【高校生以下】 無料(枚数限定)
*高校生以下は劇団サイトでのみ取り扱い
各公演開演1時間前より東京芸術劇場地下1階【シアターイースト 当日券受付】にて販売いたします。
※定価のみの販売となります。