伊東歌詞太郎、ツアーファイナル・昭和女子大学人見記念講堂公演のオフィシャルレポートが到着

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伊東歌詞太郎

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伊東歌詞太郎が、10月4日(金)に昭和女子大学人見記念講堂で『ワンマンLIVE2024「Mastering」』を開催した。本記事では、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。


10月4日(金)、伊東歌詞太郎が『ワンマンLIVE2024「Mastering」』を、自身初となる東京・昭和女子大学人見記念講堂にて開催した。6、7月の路上フリーライブツアーから始まり、「MIX」と名付けられた8、9月のライブハウスツアーを経て、辿り着いたのがこの「Mastering」東京単発公演。ツアーが始まるまでに、様々な「経験」をして自分の中に音楽のエッセンスを落とし込むインプット期間や、ツアーリハーサルを重ねて楽曲を完成させていく「アレンジメント」期間など、観客の前で実演するプロセス以外も含め、2024年という1年を通じて楽曲制作の流れを表現する、という試みの完結編である。ホール会場ならでは照明や幕演出など見せ方の点も素晴らしかったが、何よりも、伊東歌詞太郎というアーティストの底知れなさ、歌の凄みに息を呑むライブだった。

オープニングSEに乗せてバンドメンバー(高間有一/Ba、田辺貴広/Dr、ハナブサユウキ/Key、yoshi柴田/Gt)が登場、鼓動のような音色が響き渡った後、姿を現した歌詞太郎は観客に一礼。歓声の中、四つ打ちの軽やかなリズムに乗って「SWEETGOLEM」を披露した。大きく両手を広げて響かせたロングトーンは微細に震え、聴き手の心の共振を生んでいくような、特別な力を感じさせた。スタンドから勢いよくマイクを抜き取り、すぐさま「Virtualistic Summer」へ突入。観客も“ウォーウォー”と熱くコーラスして懸命に手を伸ばし、場内は一体感に包まれていく。「絆傷(キズナキズ)」ではステージの右へ左へと移動し、跪いて天に手を伸ばしたりしたが、いわゆるファンサービスや決められた動きなどではなく、内から溢れ出る“何か”がそうさせているに違いない。その一挙手一投足から目が離せなくなる。

「本当に来てくれてありがとうございます、伊東歌詞太郎です!最高のライブにします! 楽しんでいってください、よろしくお願いします」と第一声は快活に挨拶。「KING」の不穏なイントロが鳴った瞬間、ファンは歓喜の悲鳴を上げた。赤や紫のダークな照明の下、ドラマティックに歌い遂げていく。「タイムマシン」のピアノイントロが鳴ると張り詰めた空気がほどけ、歌詞太郎は時折胸に手を当てて切々と歌唱。特筆すべきは、淡いピンクと黄緑の透明なライティングがまさに春の情景を想起させた「春泥棒」である。音程が乱高下する難解なメロディーを歌いこなす超絶技巧と、一音一音にぎっしりと詰まっている細やかな情感にただただ圧倒された。

ツアーは初日からファイナルに向かって徐々に良くなっていくもの、というのは一般的な考え方だが、「その考え方が僕は苦手。それだと初日の公演は公開リハーサルなの?と」と語り、セットリストも「MIX」ツアーとは変わっていることを挙げ、バンドとして緊張感溢れる新鮮な状態でライブに挑んでいることを、ユーモラスに語っていく。「ひなたの国」を柔らかな光の下、心のこもった歌声でしっとりと届けると、ステージ背後にはオーロラのような透明な光の帳が出現。鎮魂のミディアムナンバーにふさわしい、幻想的な光景に見入った。「ヰタ・フィロソフィカ」は星空を思わせるロマンティックな光の演出の中、高らかに腕を挙げたり足を伸ばしたりと、泳ぐような大きな身のこなしで、ラブバラードを表現豊かに歌い届けた。歌詞のある部分を終えた後も、叫ぶような祈りのようなフェイクを歌い続け、厳かなムードの中で曲を締め括り、会場には大きな拍手が鳴り響いた。「真珠色の革命」も天蓋のカーテンを思わせる美しいライティングで始まり、凛として歌い出す歌詞太郎をピンスポットが照らした。ゆったりとしたビートの中で揺蕩うように穏やかに歌い始めながら、終盤には鬼気迫る爆発的なエネルギーで熱唱。歌い終えて左手を大きく回したのを合図に演奏が止まり、ギターリフが鳴り止むと、歌詞太郎は「ありがとう。」と礼をした。

「12月の話をしたい、いいですか?」と切り出すと、クラシック編成でのコンサートを12月15日に開催することを発表。21時に解禁される情報を、会場に足を運んだファンに一早く伝えた。アニメ『夜は猫といっしょ』第3期の主題歌を担当することにも言及し、「本当にお陰様です。ありがとうございます」と感謝。「ひなたの国」は、自身の愛猫のみみが旅立った瞬間にメロディーが下りて来たものであることを回想。「みみがこの曲をくれた」と語り、瞼の裏にみみが現れ眠れなかったその夜、腕に温かく重いものを感じて目を開けると、そこには同じく愛猫のぽんがいて、「“大丈夫だよ”と僕に教えくれた」とも述べ、身振り手振りを交えながら楽曲のバックストーリーを明かした。自身3度目となるアニメの最新楽曲は「12月を楽しみにしてください!」と語った。

赤い光の中で始まった「修羅日記」からのダークなセクションは、禁断の世界の扉を開いたかのように、歌、演奏、照明演出が相まってカオスを生んでいった。「senseitoseito」の強さは今も忘れ難い。目が眩むような赤い閃光の下、狂気や恐怖すら感じる絶唱を響かせていき、憑依と言うべきか、音楽という芸術に身体を貸した伊東歌詞太郎という表現者の深淵を除き込んだ気がした。一転して、「天才になろうぜ~ミアキスの選択~」は清々しく、「からくりピエロ」ではクラップを先導して軽妙に歌唱。様々な表情を曲ごとに見せていくのだった。

伊東歌詞太郎

終盤に突入していく前に、「前半戦、心配を掛けたツアーだったと思います」と振り返った歌詞太郎。万全のコンディションではない時期があったことを機に(※原因として疑われた喘息が治り、今は解決済みだと言う)食材を勉強し始めたそうで、「はしょりますが」と前置きを短縮した上で、「今、蟻を食ってるんですよ」との衝撃発言が飛び出し、「えー!?」の声が場内に響いた。ライブ後のSNS上の発信によると、そのままではなく粉末状で摂取しているそうだが、会場では蟻という言葉の強烈なインパクトにざわつきが収まらないまま、「アストロ」からのアッパーナンバーのセクションへ。「WORLD’S END」ではメンバー各自のプレイアビリティーと迫力が露わになった。終盤で歌詞太郎のハイトーンの鋭いシャウトが、柴田の掻き鳴らすギターから出ているのか?と錯覚するほど、歌とバンド演奏とが混然一体となって迫ってくる。「イエイ!」と勢いよく叫んで「singer.song.writers(alpinist.)」へ繋げると、真っ直ぐに訴え掛けるような絶唱をところどころ交えながら、歌詞太郎は<この気持ちをあなたに>とファンへ想いを切々と届けていた。<大切なのはなんだ?>と問い掛け、一人一人が自分の人生という物語の主人公、“王様”であることを想いおこさせてくれる最新曲「pride rock music」では、歌い終えた歌詞太郎はなんと、ステージから下りて客席をダッシュ。何にも縛られないその自由な姿に、強く胸を打たれた。2023年にリリースしたアルバム『魔法を聴く人』と、それを携えたツアー『主人公を訪ねて』を貫くテーマとも一貫した、人生の主人公たる自分を王様と言い換えた、力強いメッセージソングに鼓舞される。ステージに戻ると、「magic music」のイントロに乗せて「伊東歌詞太郎でした! ありがとうございます!」と叫び、右へ、左へと移動して手をかざし客席を見渡しながら熱唱、本編の幕を閉じた。

伊東歌詞太郎

アンコールでは、オフィシャルグッズの「Masteringジップアップパーカー」をまとって再登場。自身のグッズを着て原宿を歩き「スカウトされるかどうか?」とか、大学の近くを通って「新入生歓迎のチラシを配られるかどうか?」などユニークなチャレンジを行なっている笑い話から、原価率を度外視した良質なグッズをつくることへのこだわりについて「アーティストとライブに来てくれる“あなた”は、対・人間だという想いはずっと変わらない」と根本的な考え方を明かした。ステージ美術として背後に掲げられたカセットデッキの意味、会場先行販売ライブCDの『Finalize』について、それを再生すると共に、バンドセットアクリルスタンドというグッズによるジオラマを楽しむことで、ツアーを振り返ることができることなど、音楽もグッズも、一つ一つの成り立ちの背後にある物語と意味について、言葉を尽くしてファンに伝えていた。

メンバーを呼び込むと、歌詞太郎は「ライブって全部が思い出なんですよ。僕は、思い出せなくなることはあっても、忘れることは絶対にないと思う。一個一個の今までつくってきたライブが、次のライブ、今日のライブをつくっているんです。だからずっと地続きでやってきたという想いがあるので。今日も本当にありがとうございました。最後の一曲、楽しんで帰ってください、ありがとうございました!」と挨拶。最後の1曲「ICan Stop Fall in Love」ではファンと共に自らもタオルを勢いよく回し、多幸感の中で曲を終えた。まるでメタルバンドのライブを観ているかと錯覚するような鋭いシャウトで歌い終えると、ファンと呼吸を合わせて一斉にジャンプ。深いお辞儀をした後、メンバーと一列に並び、オフマイクで歌詞太郎は次のように語り掛けた。

「ツアーは、僕は終わるものではないと思っています。来年も続きます。一旦、今回の『MIX』『Mastering』は今日で区切りになります。それはただの区切りで、本当に、一年間、一緒に音楽をつくり続けてくれてありがとうございます。でも、この先も、変わらず音楽を一緒につくっていってください、よろしくお願いします。ありがとうございました!」と挨拶。最後は一人残ってステージの右へ、左へと走っていき、大きな声で「ありがとう!」と叫んだ。音楽、演出、観客の熱狂、すべてが高次で相乗効果を与え合った、忘れ難い一夜となったファイナル公演。伊東歌詞太郎の歩みは絶え間なく続いていく。

伊東歌詞太郎


文=大前多恵
撮影=大塚秀美

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