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佐渡裕「”友情”という一言に尽きる」 反田恭平と語り尽くす、トーンキュンストラー管弦楽団10年の蜜月

2025.1.16
インタビュー
クラシック

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日本を代表する指揮者 佐渡裕。10年にわたって絆を深めてきたオーストリアの「トーンキュンストラー管弦楽団」の音楽監督を2025年夏、2回の契約更新を経て任期満了で退任する。佐渡の在任中、同管弦楽団との日本客演公演はすでに2回実施されたが、ついに2025年5月の来日をもってラストツアーとなる。記念すべきこのツアーにはピアニスト 反田恭平も帯同。佐渡、反田両氏にラストツアーにかける思いを聞いた。

メンバーたちとの友情と信頼から生まれる唯一無二のサウンド

――トーンキュンストラー管弦楽団(以降「トンク管」)との10年の蜜月を振り返っての佐渡さんの思いをお聞かせください。

佐渡:在任期間中にコロナ禍の数年を挟み、僕があちら(オーストリア)に渡航出来ない時期や、オーケストラ自体が演奏会を実施できない大変な時を共に乗り越えてきました。困難な日々を一緒に過ごしたこのオーケストラの何が最も素晴らしいか表現しようとすると、「友情」という言葉に尽きると思います。友情が音になって表れている彼らとの10年間、本当に僕自身は幸せでしたね。

もちろん、オーケストラは個性的な人間の集まりですから、意見のぶつかり合いや、問題は様々起こります。けれど、一つの美しい音楽を創りあげるという共通意識は全員の中で絶対にブレないです。皆が絆で結ばれて、本当に一つの家族のように感じていますが、お互いきちんと距離感も心得ていて、僕を指揮台に立つ人間として尊重もしてくれたとてもあたたかい大人な付き合いですね。

――音楽監督として一つのオーケストラと共に10年を歩むというのは大変稀なケースだと思いますが、トンク管について最も評価すべき点や特質というのはどのようなところでしょうか。

佐渡:2025年は芸術監督を務めている兵庫芸術文化センター管弦楽団(以下PAC)の20周年にもあたります。PACは僕が初代芸術監督で歴史ゼロからのスタートでした。一方、トンク管はすでに110年の歴史を持つオーケストラです。実に対照的ですよね。PACはプレイヤーも皆若く、アカデミー的な要素を持っているので、メンバー全員、何が何でも一番奏者かソリストになりたいという野望を抱いている。「音楽で飯を食いたい」「オーケストラで一番ソロを吹きたい」という若い情熱をこちらも必死で受け止めなくてはいけなかったんです。

若い彼らと共に歩むことでの気付きも多くありました。例えば、オーケストラにとって、2番クラリネット、2番オーボエ、あるいは2ndバイオリンやビオラ、コントラバスの存在がいかに大事か。言わば、縁の下で音楽を支えているメンバーたちです。彼らの存在があってこそ音程も音色も決まり、オーケストラの厚みも変化する。もちろん指揮者として以前からわかっていたことですが、改めて思い知らされました。

一方、“トーンキュンストラー“(=音の芸術家)の名を持つ音楽家たちの集団は、そういうパートにこそ名人が存在するんです。100年余の伝統の中に受け継がれた誇り高い楽団のDNAを見事に彼らが体現しているんですね。

反田恭平が佐渡裕から学んだことは……

――反田さんは現在、指揮者としても活動しておられますが、佐渡さんの10年にわたるトンク管との実績をどのように感じていますか。

反田:純粋に“凄い”の言葉に尽きます。僕自身、指揮を勉強し始めたことで、“指揮者”という存在をよりリスペクトするようになりました。歴史もスタイルも違う二つのオーケストラを率いて10年、こうやって継続されて監督を務められているのはとても名誉あることだと思います。

デビュー以来270回以上コンチェルトを弾かせて頂いた中で、実は佐渡さんとの共演が最も多いのですが、今、指揮を学ぶ立場になって改めて、メンバーたちやソリストとどのようにコミュニケーションを取り、いかにリハーサルを進めて、本番に挑むのか、そのプロセス一つひとつがとても大事な時間だったんだなというのをすごく感じています。

――具体的に佐渡さんからはどのようなことを学ばれたのでしょうか。

反田:何と言っても本番へのオン・オフの切り替えですね。ゲネプロやそこまでのリハーサルももちろんお互い真剣にやるんですが、佐渡さんの場合、特に本番にいかにしてオーケストラの集中力を持ってこさせるかが素晴らしいんです。例えるなら、山頂までの登り方というか。佐渡さんはスイッチの切り替えのリードが秀逸なんです。そこは僕も一つの技術として盗ませて頂いて、常日頃、実践しています。

佐渡:今の話で思い出した。前回ラフマニノフの4番を共演したオランダはすごかったよね!(笑)。

反田:デンハーグのオーケストラでしたね。

佐渡:本場間近、オーケストラと合わせる前に打ち合わせしようかなと思って反田君に連絡したら「今ホールで練習してます」って言うから行ってみたら必死で練習していて……。本番はビシッと決めて、お客さんも大熱狂だったね。

反田:何はともあれ面白かったです。

佐渡:いや凄いですよ。ああいう風にできてしまうっていうのは。“自分の中で完全に納得いく点”、“ハマる沸点”というのがあるんでしょうね。「そこまでいかないと」というのが反田君のやり方で、もう既に若いのに“反田ブランド”みたいなものがあって、反田印のスタンプを押せる自信があるんでしょうね。

反田:普段なら初めての曲って不安になったりするときもあるんですけど、実はあの時全くなかったんです。最後まで24時間ラフ4を聴いてて、そのまま本番という感じでしたね。