新たに産声をあげた『スタンプフェスティバル』に潜入! 大盛況の現場をレポート
『スタンプフェスティバル vol.1』より 「津久井智子@象夏堂」さんのブース
全国の紙もの・文房具を愛する人々を駆り立ててやまない『紙博』から、特に人気の高いジャンルの“はんこ"が独立! 2024年11月16日(土)と17日(日)の2日間、町田パリオ(東京・町田市)にて第一回『スタンプフェスティバル』が開催されました。主催者によって厳選された33組の作り手が集まり、はんこ関連グッズなどを販売するほか、はんこの持ち寄り交換や押し放題など、はんこ好きのための企画が盛りだくさんな『スタンプフェスティバル』。この記事では、熱気あふれるその様子をレポートします。
はんこ愛が止まらない
来場者は8割以上が女性のようでしたが、会場はオープン直後から興奮に包まれ、まざまざと“はんこの魅力”を思い知らされるようでした。取材に訪れた16日(土)は想像以上の大盛況をうけて、予定されていた「出展者によるはんこ実演ステージ」が安全のため中止されたほど。ちょっと残念だけど、すごい!
会場エントランス付近の様子
会場は町田パリオの4階・5階。メイン会場となる4階は、時間帯によっては身動きが取れないほどの混み具合でした。来場する際は、できればバッグは前に抱えられるもの、服の裾は長すぎず、横に広がらないものをセレクトするのがいいかも。大げさに思われるかもしれませんが、快適な回遊のため実感を込めておすすめします。
「無料」って素敵な響きですね
どこからどう見て回ろうかと迷っていると、さっそく目に飛び込んでくる素敵な文字。「無料」だ!
「大嶋奈都子」さんのブース
大嶋奈都子さんのブースでは、看板キャラクターの「ゆるいおじさん」スタンプや、ユニークな人間タイポグラフィのスタンプを自由に試し押しすることができます。企業から提供された上質な紙も用意されていて、あとは押すだけでOK。筆者のようなはんこビギナーにとって、この“据え膳"は会場内でもひときわ輝いて見えました。
押し方のスキルはまだまだ研究の必要あり……
実は前回の『紙博』潜入時に、マイノートやスタンプ帖を持ってきたほうが楽しそうだと学習していたので、今回は忘れずノートを持参してきたのです。いそいそと取り出し、一番大きなおじさん&ワニのスタンプに挑戦。丸太を半分に切ったような形状なので、手前から奥へとローリングさせるような感覚が新鮮です。はんこって、そっと紙からはずして絵柄がパッと現れる瞬間のドキドキがたまりませんよね。
ちなみに同ブースで3000円以上買い物すると、特大のおじさんスタンプ(ちょっとしたお歳暮の箱くらいの大きさ!)も押せるとのこと。作家さんに「なぜこんなに大きなスタンプを?」と尋ねると、「インパクトがあるかなと……。インパクトで勝負してるようなものなので(笑)」と朗らかに笑って答えてくださいました。
はんこテクの実演にうなる!
会場を一周しようとしたら、途中でどうしても進めない人だかりポイントにハマってしまいました。なんだろう……?と見るとそこは、神戸の印刷会社「啓文社印刷」さんのブース。
「啓文社印刷」さんのブース
整然と並べられたはんこに吸い寄せられた人たちが、続々と足を止めて釘付けになっています。うーん、これは吟味するのに夢中になる気持ちもわかるような。
使用例のはんこテクニックの高さに痺れる
はんこの使用例も併せて展示されており、なかでも気になるのは豆本のような使い方。「これはどうやるのでしょうか?」とブースにいたスタッフさんに声をかけてみたところ、快く実演をしてみせてくれました。
なるほど、表紙と中身を合体させるんですね!
鮮やかな手つきでスタンプを選び、楽しげに解説しながら豆本を作るスタッフさん。気づけば周囲に人が集まり「手品みたーい」「ねえ」と、和やかなやりとりが始まります。はんこの上手な活用を実際に見せてもらえるのもフェスならではの楽しみですし、こうしてはんこ好き同士の何気ない交流が生まれるのもまた、尊いものです。
漫画のスクリーントーンを貼ったように淡くシアーな色付きが特徴の「トーンはんこ」は、啓文社印刷さんのオリジナル商品だそう。インクの乗るゴム側をじっと見ても、ドットが微細すぎて面にしか見えませんでした。スタッフさん曰くこれは「社の技術の結晶ですね」とのこと。
左はリーフ模様のトーンはんこの使用例。スタンプでこんなニュアンスが出せるなんて感動
というわけで、ひととおり買っちゃいました……。完全降伏、からの完全幸福です。ブック型のトーンはんこはひとつ2000円以上するので決してお安くはありませんが、このときめきと技術へのリスペクトを思えば納得です。文具好きの親友へのプレゼントにしよう、とカバンの奥にそっとしまうのでした。
ホリデーはもうすぐそこ
会場風景
『スタンプフェスティバル』出展の33組は、いずれも本展のためにクリスマスをテーマにした新作を用意して参加しているのだそう。会場内にはクリスマスらしいデコレーションを施したブースもちらほら見受けられ、ほんのりホリデーなムードが漂っています。
ディスプレイが一際かわいい「Kinotorico」さんのブース
グリーティングカードやプレゼントに添えるカードはもちろん、ホームパーティの招待状や、張り切って席札なんかも作ったりして。それに、新年に向けて手帳を新しく切り替えるタイミングという人も多そう。思えばクリスマスやニューイヤーを控えた11月って、1年間で最もはんこに熱い視線の集まるシーズンなのではないでしょうか。
「T図案」さんのブース
また、会場で販売されているのははんこだけではありません。フロアで異彩を放つ「T図案」さんのブースでは、スタンプ(版)を使ったスタイリッシュなアート作品が並んでいました。作家さんは普段はギャラリーで版画展などを開催されているそうですが、今回は作品のほか、フェス用にカードを初制作して参戦されているとのこと。そうか、ざっくり言うならはんこって版画のもとなんだ……とハッとさせられる展示でした。
『紙博』の名物企画がここにも登場
華やかなラッピングがたわわに実った「はんこ交換の木」。ちょっとクリスマスツリーのよう
『紙博』でお馴染みの「紙ものお裾分けっこ」企画は、このスタンプフェスティバルでも「はんこ交換の木」として登場しています。これは自宅に眠っているはんこをラッピングし、受け取る誰かへのメッセージを添えて持ち寄るというもの。会場センターに立つはんこ交換の木へ持参の包みを飾り付けたら、同じ数だけ誰かの包みをもらって帰ります。持ち寄るはんこは新品である必要はないので、まさに手から手へ、誰かの物語ごと受け継ぐようなイメージです。懐かしいものや自分じゃ買わないようなものなど、予測不能の出会いがありそうですよね。
そして5階会場では、およそ700以上のはんこが来場者を待ち受ける「はんこ押し放題スポット」が! ここは取材中に何度も足を運びましたが、いつどの瞬間でもかなりの盛り上がりでした。
譲り合いつつ、盛り上がっていきましょう!
用意されているのは、これまで主催の「手紙社」がイベントで使用したはんこや、今回のフェスで販売されているはんこなどなど。これらがみんな押し放題なのですから、そりゃ混雑するのも道理です。なかにはマイインクを持参している人や、付箋を持参してスタンプを押している人の姿も。付箋へ軽快にはんこを押すお姉さんに「それ、賢いですね!」と声をかけると、お姉さんは振り向いて「紙博の時に覚えました」と、ニヤリ。なるほど。筆者も気が付けば、指先がインクで黒くなるまで夢中になっていました。
96色のインクに溺れて
「インクパッドお試しコーナー」
さらに隣には『スタンプフェスティバル』ならではの特別企画として、スタンプインク会社・ツキネコのインクパッド「artnic」全96色をお試しできるコーナーがありました。やはり百見は一押しにしかず。色見本だとそんなに違いがわからない近似色でも、自分の手で押してみると明らかな印象の違いを実感します。鮮やかな色がたくさんあって、それらの違いを認識できるという喜び……。私たちの視覚ってなんてリッチなんでしょう。自分の今一番ほしい色を探しながら、幸福感でいっぱいになりました。
さまざまな色と形を組み合わせて、作品づくりを楽しむこともできそう
このコーナーでは、楽しそうに色を重ねる親子の姿も多く見かけました。写真は「全色コンプリートするぞ!」と張り切っていた少年にお願いして、ノートを撮影させてもらったもの。分かる……! いろいろな種類があればあるだけ、図鑑を完成させたくなるよね。ここはフルコンプへの衝動、コレクター魂をくすぐるコーナーとも言えるかもしれません。
作家さんによる、世界にひとつのマイはんこ
会場風景
さて、4階・5階をぐるりと巡って、あとはどんな出会いがあるだろうとウロウロしていると、掲げられた紙にハッと目が留まりました。
オリジナルのこけし 作ります……?
スタフェスでは数種類のワークショップが用意されており、「cotori cortori」さんのブースではオーダーを受けた作家さんが自ら“こけし型はんこ”の絵付けをしてくれる、というイベントが開催されていました。えっ、cotori cotoriさんって今回の記念すべき第一回「スタンプフェスティバル」のメインビジュアルも担当されている、人気はんこ作家なのでは。当日オーダーの即日仕上げなんて、本当にいいんですか? えっ、髪型や洋服の模様なんかも指定できちゃうんですか。じゃ、じゃあ、カメラを持たせたりなんか出来ますか。
手を動かしながら快くインタビューに応じてくださったcotori cotoriさん。販売しているはんこはすべて、ゴム版を一つずつデザインナイフで手彫りしているそう
「元々はんこが好きで、とにかく彫るのが好きなんですよ。それで彫りすぎて腱鞘炎になっちゃったので(笑)、そこからスタンプを元にした絵柄の紙ものも制作するようになって……」と語るcotori cotoriさん。ときに腕を痛めるほど夢中になってしまうはんこの魅力って、なんなのでしょう? と尋ねてみました。
「イラストとまた違って、描いているときとはんこにして押してみたときで全然違う印象になるところが面白いなって。コントラストがはっきりするし、線だけじゃなくてパキッと“面”でデザインできる感じが好きですね。面が際立つように、自分で押すときは黒のインクがお気に入りなんです」
「cotori cotori」さんのブース はんこのほか、キュートな絵柄のシール&カードバイキングも
「それにはんこって一度買ったらずっと使えるし、インクや紙によって雰囲気がガラッと変わりますよね。そういう意味では、お得なんじゃないかなって思います!」
確かに、はんこは一度使ったら無くなるものではなく、手元に残って何かを生み出し続けるものです。はんこを購入するということは、自分ではなかなか描けないような素敵な絵柄を、その気になればいつでも繰り出すことができる、ということ。もしかして私たちがはんこに心惹かれてやまないのは、“自分に出来ることが増えるから"……なのかもしれません。
可愛すぎるマイはんこと、96色の中から選んだインクパッド「マウンテンレイク」。はんこの絵柄(下)は、メインビジュアルにも登場しているお団子の女の子をセレクト
予想を遥かに上回る盛況ぶりを見せた、第一回『スタンプフェスティバル』。4時間にわたる滞在で印象的だったのは、お話を聞いた出展者さんも運営スタッフさんもお客さんも、口を揃えて「みんなこんなに、はんこ好きだったんですね(笑)!」と嬉しそうにコメントされていたこと。イベントの誕生と同時に、今後更に熱く盛り上がっていきそうな可能性を見せつけてくれました。あなたも『スタンプフェスティバル』でたくさん出会って、たくさん押して、暮らしをちょっと豊かに彩ってみませんか。
なお、イベントにお出かけの際は、前売券を購入しておくと予約特典のオリジナルはんこがもらえるのでおすすめです。
文・写真=小杉 美香
イベント情報
日程:2024年11月16(土)・17(日)
会場:町田パリオ 4階・5階(東京都町田市森野1-15-13)
時間:
【11月16(土)】10:00〜18:00
【11月17(日)】10:00〜17:00