若きクリエイターの作り上げた作品を豪華キャストによって上演! 『Songwriters’ SHOWCASE』が見せたミュージカル界の未来

レポート
舞台
2025.1.8

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日本、そして世界の若き才能を披露する公演『Songwriters’ SHOWCASE』が2024年12月18日(水)に日比谷シアタークリエにて開催された。

この公演は、日本ミュージカル界の長きにわたる課題であるミュージカル作家・作曲家の育成と日本のミュージカルの底上げを目的として東宝が企画・制作したもので、日本、韓国、アメリカ、イギリスの各国から選抜された作家・作曲家が手がけた楽曲を日本、韓国の最高峰のミュージカル俳優によって上演するこの日限りの特別な公演だ。韓国、アメリカ、イギリスからもそれぞれ各国にて選抜された3作品が参加する。

出演するのは、日韓の豪華なキャストの面々。MCを井上芳雄が務め、中川晃教、イ・チュンジュ、チェ・ナヘ、霧矢大夢、シルビア・グラブ、田村芽実、ダンドイ舞莉花、遥海、矢崎広、吉高志音が集った。

ステージ上で出演者たちが雑談をしながらくつろいでいるところに、MCの井上が登場し、公演がスタート。軽妙なトークで会場を盛り上げた井上は、今回の公演について「それぞれの新作ミュージカルを代表するナンバーを披露して、それを観ていただき、実際のクリエイションに繋げていく」「欧米ではよくあるものですが、日本ではほとんどないスタイル。クリエイターにとっては、作品製作の最初のステップになる」「“試演会”というコンセプトでクリエイターたちに光を当てて、新しい出会いを作る」ものであると説明し、「リラックスして楽しんで」と観客に呼びかけた。

その井上の説明の通り、今回の公演は通常のミュージカルコンサートとは全くの別物だ。日本、韓国、アメリカ、欧米からそれぞれ3組のクリエイターたちが登場し、3分間(日本のチームは翻訳がないので1分半)ずつ作品や楽曲について説明を行う。その後、出演者によって楽曲が披露される。楽曲披露の合間には、井上がクリエイターや出演者たちに質問を投げかけ、作品についてや今の心境などを引き出していく。ちなみに、この公演はミュージカル『ネクスト・トゥ・ノーマル』の休演日を利用して開催されていたため、ステージ上には『ネクスト・トゥ・ノーマル』の舞台セットがそのまま設置されており、2階建てのこのセットを使ってパフォーマンスが行われた。また、バンドメンバーも『ネクスト・トゥ・ノーマル』のメンバーが担当しているという。

以下、この日、披露された12曲の作品・楽曲を紹介する。(出演者名の後のカッコ内は役名)

「食べさせたい」“Wanna Make Something Delicious”『きょうの料理』より

脚本・作詞:イ・レア
作曲:ソン・ボンギ
出演:矢崎広(セビョク)/吉高志音(イルム)

愛する人のために料理を学ぼうと料理教室にやってきたイルムに、料理教師の講師・セビョクが自身が料理の勉強を始めたきっかけを語るナンバー。セビョクもイルムも“恋”をきっかけに料理を始めたことから、歌いながらお互いの事情に共感していく。

物語は「料理は愛である」をテーマに4人の主人公が登場するストーリーとなるそうで、クリエイターたちは「ロマンチックで洗練なイメージを持って、時に官能的なストーリー」を目指したと話す。「食べさせたい」という楽曲は、耳馴染みがよく、優しい音色が印象的なナンバーで、物語の温かい世界観を感じさせた。

トップバッターとして歌い切った矢崎は「繊細な優しいメロディできっと繊細で優しいキャラクターが歌っているのだろうと感じたのでそれを表現したいと思いました」とコメント。吉高も「温かい気持ちを受け取って、温かい料理を思い浮かべていました」と話した。

“I’m Okay”『504:The Musical』より

脚本・作詞:アビー・ゴールドバーグ
作曲:メイソン・マクドゥエル
出演:メイソン・マクドゥエル(ポール)

アメリカ史の中で重要でありながらも、あまり知られていない1977年の障害者による抗議活動を描いた作品。100人を超える障害者たちがサンフランシスコの政府ビルを平和的に占拠し、自分たちの市民的自由が法制化されるまでそこにとどまるという活動を行なった。このナンバーでは、健常者でありながら、車椅子の弟キースのために抗議活動に参加しているポールという男性の心情を歌っている。

作曲家であるメイソン・マクドゥエルが自らピアノを弾きながら歌ったこのナンバーは、キャッチーでピアノの軽快な音楽に反し、ポールの行き詰まっていくような想いを歌う1曲に仕上がっていた。

“Mystery to Me”『Pop Art』より

脚本・作詞:リオ・マーサー
作曲:スティーブン・ハイド
出演:遙海(モナ・リザ)

世界的に有名な絵画の中の人物が、あるゲーム番組で自分たちの重要性を歌い上げ、審査員に認められようとするさまを描くミュージカル。審査員に認められると永遠に人に見てもらえる場所に飾られるため、それぞれの絵画が競い合うのだ。今回、披露されたナンバーは、毎日何百万人もの人々に賞賛され、名声を得ているモナ・リザが自身の苦悩を歌うもの。遙海が美しい高音を響かせながら「自分自身のことさえも分からない」と悩む姿を体現。楽曲が進むにつれ、力強い歌声に変わり、怒りすら感じさせた。遙海は「絵の中の人の気持ちを考えたことはなかったけれども、今日は“絵画”として歌を届けられたら」とモナ・リザの絵画になり切って歌い上げた。

“Late Summer Love Song”『惑星の旬』より

脚本・作詞:上野窓
作曲:広田流衣
出演:中川晃教(ケン)

サツキの幼馴染のケンは、人気ラジオDJとして活動している現役大学生。お調子者で口達者な彼だが、サツキへの恋心は明かせないでいた。そんな中、サツキから「地球最後の日に何をしていたか」と尋ねられたケンは、「サツキと一緒にいたい」とは言えず、無難な答えをしてしまう。帰り道、サツキの後ろ姿を見送ったケンは、DJとリスナーの1人2役ラジオごっことして、秘めた恋心を歌う。

シティポップに乗せて恋心が歌われたこのナンバーは、劇中で唯一のラブソングだという。ケンのDJ(セリフ)から楽曲がスタートし、可愛らしい恋心が軽やかに響いた。まるで中川の持ち歌のように、楽しそうに歌う姿が印象に残った。

“Fortune”『The Dickens Girls』より

脚本・作詞:レイチェル・ベルマン
作曲:エリザベス・チャールズワース
出演:ダンドイ舞莉花(アンジェラ)

物語の舞台は、犯罪と売春が蔓延する1847年のイギリス。チャールズ・ディケンズと33歳の慈善家アンジェラ・バーデット=クーツが、世間から見放された女性たちのための施設を設立する。その施設は、元囚人女性たちに人生をやり直すチャンスを与えるものであったが、それは上流階級の仲間たちからは理解されない活動だった。

このナンバーは、施設を立ち上げるプロジェクトが始まってわずか1週間目で歌われる楽曲で、施設に疑問を持つ仲間たちの声にアンジェラが悩む姿を描いたものだ。ダンドイは「実在の人物の歌を歌うのはドキドキする」と想いを話したが、苦悩を歌いつつも前向きに進もうとするアンジェラの姿を見事に1曲の楽曲で表現した。

「世界一混んでいる、誰もいない場所」“No one,in the Middle of Crowded”『Dawn Touch』より

脚本・作詞:イ・チャンヒ
作曲:イ・ナレ
出演:イ・チュンジュ(ジョンウォン)/チェ・ナヘ(ジアン)

高校時代、恋人同士だったジョンウォンとジアンが10年越しに再会を果たし、学生時代に一緒に撮ろうとしていた映画を再び完成させようとする様子を描いたナンバー。昔見た夢を取り戻した二人は、湖の真ん中にある遊園地に潜入する。夜明け前の湖を舞台としたナンバーだけに、ロマンチックでムードのある音色が耳に残る。

イ・チュンジュは、韓国版のミュージカル『ムーラン・ルージュ』でクリスチャンを演じた俳優だ。「(『ムーラン・ルージュ』で)どの楽曲が好き?」と井上とクリスチャントークを繰り広げる場面もあった。

「アンナの手紙」“The Letter from Anna”『贋作!フェノメーノ!』より

脚本・作詞:翠嵐るい
作曲:桑原まこ
出演:霧矢大夢(クラウディア)/田村芽実(アンナ)

クラウディアはアンナがフェノメーノの贋作を描いたと確信を持ち、絵を教えたことで不幸にしてしまったのではないかと思い悩んでいた。そこにアンナからの手紙が届く。アンナは贋作を描いたことで命を狙われているという。そして、クラウディアに自分が描いたフェノメーノの絵を全て買い取るように頼むのだった。

「今までにない女性主人公の物語を」という思いで作られたという本作。「ダークヒロインによる美術界の復讐劇」が描かれる。アンナの決意が強いメッセージとして伝わるビッグナンバーで、“物語”の広がりを感じさせる1曲だった。歌唱を披露した田村は「この作品に魂を持っていかれた。この作品やりたいです!」とアピール。霧矢は「こうしてお客さまの前で披露できてよかった。(田村は)アグレッシブなアンナだった」と感想を話した。

“Smoke and Mirrors”『VISARE』より

脚本・作詞:クレア・フユコ・ビアマン
作曲:エリカ・ジイ
出演:チェ・ナヘ(ペトラ)

ペトラという名の若い曲芸師が、目を輝かせながら素晴らしいサーカスを想像する。サーカスで働く人々の一段が影から現れ、目の前でサーカスに命を吹き込み、ペトラの想像の世界のサーカスを美しい現実へと変えていく。

チェ・ナヘの歌声に酔いしれながら、幻想の世界を彷徨っているかのような感覚になった1曲だった。劇場全体が惑わされているような、夢の世界に迷い込んでいるかのような不思議な景色が広がり、この後、物語がどう展開していくのか、興味をそそられる。バンドメンバーたちからは、この日の楽曲の中で最も難易度が高いと言われていた楽曲だったそうだ。

“Caledonian Sleeper”『The Swansong』より

脚本・作詞・作曲:フィン・アンダーソン
出演:シルビア・グラブ(リディア)/フィン・アンダーソン(バンドリーダー)

この作品は、全く予想だにしなかった場所で自分の人生を見つけ出すという物語だ。主人公のリディアが入水自殺をしようと試みていると、一羽の白鳥に出会う。魔法の言葉を話す白鳥は、彼女を最後の冒険に連れて行ってくれると言い、あちこちに連れ出した。やがて、リディアと白鳥は心が通じ合い、ロンドンへと逃亡を目論む。このナンバーは、ロンドン行きの夜行列車、カレドニアン・スリーパーの中で歌われる1曲だ。シルビアは「リディアとリディアの中にいるもう一人の自分との掛け合いの歌」だと説明。作曲家のフィン自身が、“もう一人の自分”を歌い、シルビアとデュエットで聴かせた。

“Echo”『Picasso』より

脚本・作詞:大徳未帆
作曲:竹内秀太郎
出演:井上芳雄(A)

青春時代をピカソと共に過ごしたAは、芸術家として覚醒し成功を手にするピカソに嫉妬心を燃やしていた。命を削るように作品に向き合うAだったが、そんな彼を後の妻のリラが救い、二人は故郷・ゲルニカで生きる道を選ぶ。娘も授かり幸せに暮らしていたAだったが、突如、「ゲルニカ空爆」に襲われ、妻と娘、そしてAの利き腕が奪われた。絶望するAの目にピカソの作品「ゲルニカ」が飛び込んでくる。

二幕のクライマックスで歌われるというこのナンバーは、物語の中でも最も大事となる1曲だという。Aの揺れ動く感情が、美しく、キャッチーな歌に乗せて綴られていく。井上が苦悩から愛憎、そして殺意へと変化していく心情を力強く歌い上げた。

“Never Gonna Be Like Them”『Mommy Issues』より

脚本・作詞:アディー・シモンズ
作曲:アダム・ラポート
出演:中川晃教(ブレット)

イプセンの「人形の家」を題材に、舞台をテキサスに置き換え、シェルビーとブレットという若い夫婦の姿を描いた作品。この物語の舞台となる当時は、妻が夫の元を去ることができなかった時代であり、無理をしてでも結婚生活を継続しなければならないという状況に置かれた女性に焦点を当てて描かれている。この日、披露されたのは、夫であるブレットが、最悪な夜を過ごした後、車で帰宅している最中に同乗する妻に向けて歌うナンバーで、「離婚したくない」と想いを伝えようとする。しかし、その夫の想いはどこかずれていて、最後に妻の逆鱗に触れたのではないかと気づいて歌は終わる。ポップな楽曲ながら、物語の背景を知って聞くと、ただの可愛らしい愛の歌には聞こえなくなる。言葉の奥底に物語の意図がある。それを感じさせる1曲だった。

この楽曲披露の前後には、井上と中川がトークで会場を沸かせるシーンも。中川はこの楽曲について、「普遍的なメッセージがあります。今は、男女はないけれども、誰でも自由に羽ばたきたいという時代が来ています。そういう今だからこそ、そこに焦点を当ててミュージカルを作られているんだとすごく共感と興味が湧いてきました」と語り、「最近のミュージカルはどの楽曲もポップですよね。耳触りがいいし、口ずさみたくなる。ミュージカルの楽曲だからというだけでなく、普通に聴きたくなる楽曲が出てきていて、色々なところに浸透していくのかなと楽しみで仕方ありません」と今後に期待を寄せた。

また、井上が「ミュージカルに携わるものとして、新しい優れたミュージカルが生まれることは何よりも嬉しいことですし、そのためにはクリエイターの人たちがいないと実現できない。日本では、ミュージカルのクリエイターに焦点を当てる機会がまだまだ足りない。今日のこの日が一つのターニングポイントになって、ここからそういう動きが盛んになっていけばいいなと思います」と想いを熱く語る場面もあった。

“I Wish You a Merry Christmas”『The Miracle Boy』より

脚本・作詞:ハン・チアン
作曲:ハ・テソン
出演:イ・チュンジュ(クリス)

この作品は、クリスマスとトラウマをつなぎ、癒しをテーマに描くヒューマンドラマ。このナンバーは、日雇いとして一日一日、意味なく生きていたクリスがノエルとジョイに出会った後、初めて温もりを感じた場面で歌われる。キャッチーで思わず口ずさみたくなるような、クリスマスの楽しい気分を盛り上げる楽曲になっていた。この日は、“街の声”として観客も参加するよう促され、「I Wish You a Merry Christmas」のフレーズを会場全体で歌い、一体感を感じることもできた。

 

どの作品、どの楽曲もそれぞれ魅力のある作品ばかりだったが、クリエイターたちの出身国によって多少のカラーの違いを感じられたのも興味深かった。あくまでも筆者の個人的な印象に過ぎないが、日本のクリエイターは、“ミュージカル”と言われて日本人がイメージしやすい楽曲を作り上げる印象があった。完成度も非常に高く、物語が広く広がっていく感覚がある。韓国のクリエイターはずば抜けてポップな楽曲が多い印象だ。誰でも楽曲に入り込みやすく、体にすんなりと入ってくる。物語も日常に寄り添っていながらもこれまでにない展開を感じさせた。そして、欧米のチームは、まさに多種多様。それぞれ他にはない強い個性があり、1曲では全体像を把握するのが難しい作品もあった。一方で、政治や社会問題を積極的に取り入れている印象も強く、伝えたいメッセージがあることが強く感じられた。

今回、披露された12作品が今後、どのように羽ばたいていくのか。今後のミュージカル界に強い期待を抱かせる公演となった。

取材・文=嶋田真己

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