矢作萌夏の今、Acoustic Live Tourファイナル渋谷公演にみた成長と可能性
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矢作萌夏
矢作萌夏『Acoustic Live Tour 2024-2025 “愛を求めているのに”』
2025.01.22(wed) SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
矢作萌夏のライブツアー『Acoustic Live Tour 2024-2025 “愛を求めているのに”』の最終公演が1月22日、東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて開催された。本ツアーは昨年9月にリリースされた2nd EP『愛を求めているのに』を携え、11月から関東圏の5会場で展開。バンドマスターの宗本康兵(Key)、渡辺裕太(Gt)、櫛⽥満(Perc)というサポートメンバーを携え、「矢作萌夏の今」が余すところなく届けられた。
定刻で会場が暗転すると矢作がひとりステージに登場し、白いアコギを抱える。そのままボディを叩く音やギターのちょっとしたフレーズを、ルーパーを使って録音し、音を重ねていく。そのシンプルなトラックに乗せて「わたしごっこ」を歌い始めると、客席からはクラップが自然発生。サビではギターストロークで音に厚みを加え、ライブは緩やかでリラックスモードで幕を開けた。
矢作萌夏
1曲歌い終えると盛大な拍手が沸き起こり、矢作は「それぞれの楽しみ方で帰っていただけたら嬉しいです。準備できてますか?」と朗らかに語りかける。すると、自身のカウントでギターを爪弾きながら「恋のスパイス」を歌い始めた。シンプルなギター弾き語りで展開される彼女ならではの歌世界を、観客は着席のままじっくりと堪能し続ける。続く「ピーターパン」では音数の少ないギターフレーズと、感情がこもりながらも切々と語りかけるような歌唱で、10代の揺れ動くピュアな気持ちを表現してみせた。
再びMCで「初めて来た方も、いつもの方も久しぶりの方も、今の矢作萌夏を楽しんでもらえたら」と語りかけると、「ひとりは寂しいので」とサポートメンバーをステージに呼び込む。そして「Shake it」を演奏し始めると、弾き語りとは違った華やかさとグルーヴ感が生まれ、会場の一体感がより強まっていく。その後も「夏のソーダ」「I was born to love you」「満たされない」と軽やかな楽曲が連発されると、矢作は客席に目線を送りつつリズムに合わせて体を揺すりながら、伸びやかな歌声を届けていった。
矢作萌夏
アコギを一旦置くと、矢作はバンドメンバー紹介およびグッズ紹介を始める。その際、彼女からバンドメンバーに即興BGMをお願いするのだが、この日は「渋谷っぽい感じ」と「ファイナルなので名残惜しいしちょっと寂しい。でもちょっとポップで、終わりたくないけどハッピー」という2つのテーマを提示し、極上のインストナンバー2曲をプレゼント。「カッコいい! このまま曲作っちゃおうかな(笑)」と太鼓判を押す場面もあった。
続けて、「私……親友ができました」と近況を報告しつつ、「私、社交的インキャなんですね。友達もそんなに多くないほう。大学で会う友達ぐらいなんです。そんな中、メモリくんっていう友達ができたんです……しかもそれ、ChatGPTくんなんです……寂しい女でしょ?(笑)」と会場の笑いを誘う矢作。その流れから「こんな雰囲気で新曲歌うのか(笑)」と、今ツアーから披露している新曲「夜想曲」を歌い始める。幻想的な世界が浮かんでくるようなバンドアンサンブルに、独白的な歌詞が重なる。序盤こそ淡々とした曲調と歌だったが、途中で感情が溢れ出すような盛り上がりを見せ、ライブはこの日何度目かのクライマックスを迎えた。
矢作萌夏
このツアーでは1月4日に配信リリースされたばかりの「水平線」も披露。ピアノを軸にドラマチックなバンドサウンドと、アニメのストーリーに寄り添った歌詞、弾けるような矢作のボーカルが重なり合い、絶妙なハーモニーを生み出していく。また、公演ごとに異なる楽曲を披露するカバー曲コーナーでは、斉藤由貴の「卒業」を歌唱。シンプルなアレンジに素直な歌を乗せていくことで、彼女らしいカバーが届けられた。
さらに、back numberのカバー「高嶺の花子さん」で空気が一変すると、フロアの熱気が急上昇していく。続く「Be My Self」では、矢作の「皆さん立てますか? もっと声出せますか?」を合図にオーディエンスが立ち上がり、手にしたタオルを回してライブに華を添える。また、「Don't stop the music」では曲中“萌夏コール”も沸き起こり、会場の熱気はピークに到達した。
最後の曲に入る前、「次は真面目だから座ってもらえる?(笑)」と優しく語りかける矢作。彼女はデビューしてからの約1年半を振り返りつつ、「もっと自分がしっかりしないといけないと思うばかりで。もっと自分が大人にならないといけないな、もっといい曲を届けてたくさんの人に知ってほしいなって……そういう意味では、このツアーは本当に私にとって成長の5箇所になりました」と素直な思いを伝える。そして、「最後の曲は高校生のときに書いた大切な楽曲。これからもいろんな人の何かに重なって、誰かの助けになればいいなと思います」と告げてから、彼女にとって大切な1曲「死に花に、生命を」を、感情をたっぷり込めて届けた。そんな彼女の全身全霊の歌唱に対し、客席から温かな拍手が送られ、ライブ本編は幕を下ろした。
矢作萌夏
アンコールでは、ツアーTシャツに着替えた矢作がひとり登場。「アンコールありがとうございます」と一言発してから、「アンコール」をギター弾き語りで披露し始めると、まさにこの状況を堪能しながら観客一人ひとりに届けるように言葉を紡ぐ。そして「今日の、今の矢作萌夏を知って、もっと応援したいなと思ってくださったら嬉しいです。最後にもう1曲歌わせてください。この曲は去年の私が18歳の私に向けて書いた楽曲です」と、18歳の頃の葛藤と「あの頃の選択は間違ってなかった」という肯定を歌詞に込めたフォーキーな「18歳のわたしへ」で、しっとりとライブを締め括った。
2nd EP『愛を求めているのに』と本ツアーを通してアーティストとして、ひとりの表現者として成長した姿を我々に提示した矢作萌夏。そんな彼女の頼もしさに、客席からはさらにアンコールを求めるクラップが鳴り響く。すると再び彼女がステージに姿を現し、「ダブルアンコール、初めてです!」と喜びを口にする。そして「持ち曲は全部披露してしまったので」と伝え、改めて感謝の気持ちを伝えてからステージを去っていった。
『愛を求めているのに』収録曲はもちろんのこと、リリースされたばかりの「水平線」や完成したばかりの新曲「夜想曲」からも、ソングライターとしての急成長が強く伝わった今回のライブ。この経験を通して矢作がここからどんな存在に進化するのか、今から楽しみでならない。
取材・文=西廣智一
矢作萌夏
セットリスト
2025.01.22(wed) SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
01. わたしごっこ