風間俊介がルイス・フロイスの半生を色濃く描き出す こまつ座『フロイス-その死、書き残さず-』稽古場レポート

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長田育恵・作、栗山民也・演出、風間俊介・主演のこまつ座 第153回公演『フロイス-その死、書き残さず-』が2025年3月8日(土)から上演される。2月下旬、熱の入った稽古が行われている稽古場を訪れ、通し稽古の様子を取材した。今回、通し稽古の一幕の様子をレポートする。

戦国時代の日本で活躍した宣教師ルイス・フロイスと、彼を取り巻く人々との間に交わされた書簡をもとに、フロイスの悩みや生涯、宗教観、彼の生きた時代を著した、井上ひさしの小説『わが友フロイス』。本作は、同じフロイスを題材に、長田が信じること、人間の愚かさと愛おしさを描く完全新作の物語だ。

フロイスは、ポルトガルに生まれ、カトリック・イエズス会の宣教師として生きた。1563年、日本におけるキリスト教布教の命を受け、長崎にやってくる。当時の日本は内乱が続く戦国時代。戦国の世を背景に、フロイスは宣教活動に努めた。

そんなフロイスの姿を描いた本作は、フロイスの独白から始まる。フロイスを演じるのは風間俊介。落ち着いた声音とその佇まいから、フロイスの信心深さと実直さを感じさせる。舞台を動きながら幼き日のある衝撃的な出来事を振り返る風間は、静かにその場を圧倒した。

続く二場で、舞台は横瀬浦へ。1563年、フロイスが日本を訪れた直後の場面だ。日本を訪れる前に滞在していたゴアでマラリア熱に侵され、未だ熱が引かないフロイスを、修道士のジョアン・フェルナンデス(久保酎吉)が介抱している。フェルナンデスは、これまで長い年月、日本で布教活動を行ってきた先駆者だ。この場面では、フロイスとフェルナンデスの対比が鮮やかに描かれていた。まっすぐさと真面目さを強く打ち出すフロイス。一方、軽快で明るさをも漂わせるフェルナンデス。それはもしかしたら、日本での経験の違いなのかもしれない。久保のおおらかで余裕を感じる芝居がよりそうした違いを際立たせた。

物語はそこから一気に加速度を増して進んでいく。謀反により横瀬浦を追われ、平戸へと渡ったフロイスとフェルナンデス。そして、仲間の先導によって都へと向かうフロイス。本格的な布教の道を歩み始めたそのとき、内乱が起き、世が移り変わっていく。そこに描かれるのは、まさに激動の人生を生きる男の姿だった。

描かれているのはフロイスだけではない。フロイスと出会ったことでキリスト教を知り、フロイスによって人生が大きく変わったかや(川床明日香)、フェルナンデスの布教によりキリスト教へと改宗したたつ(増子倭文江)、フロイスたちと出会ったことで大きな仕事を手に入れた惣五郎(戸次重幸)、仕える城主とともに改宗した道之介(采澤靖起)、それぞれの登場人物の迷いや悩みが鋭い言葉で綴られる。特に、シーンの転換時にあるフェルナンデス、道之介の独白は、揺れ動く想いが痛いほど胸に響いた。彼らの逡巡は非常に人間臭い。そして、それこそがこの作品の大きな魅力の一つでもある。

人間臭さという点は、フロイスも同様だ。真摯に布教に邁進するフロイスだが、かやの存在に心が穏やかではいられない。決して明確に描かれているわけではないフロイスの心の動きを、風間が細やかな視線の動きや表情で繊細に表現してみせたことで、人間らしいフロイス像を浮かび上がらせた。

また、フロイスとフェルナンデスによって語られる「日本」の姿も印象深い。「女に意思はない」「年貢を払うために、娘を売り、赤子も殺す」といった痛ましい歴史は文字として知ってはいても、実感を伴って感じにくいものだ。それを宣教師たちが客観的に見て感じた事実として語ることでより強い衝撃として伝わってきた。

この物語で描かれているのは、フロイスをはじめとした「人間」だ。彼らが何を感じ、何を思い、どう生きたのか。ぜひ劇場で体感してもらいたい。

ちなみに、この日の通し稽古前には、かや役の川床と惣五郎役の戸次が二人のシーンを自主稽古する場面も。言葉を交わしながら、やり取りを一つひとつ丁寧に確認していた。さらに、川床の稽古に付き合う戸次。細かな部分までアドバイスをしたり、演じて見せたりしながら芝居を作り上げていく様子が見られた。この物語で描かれている宣教師たちは、キリスト教を“伝える”ことに命を懸けているが、芝居を“伝える”戸次の姿もまた、尊いものに感じられた。

こまつ座 第153回公演『フロイス-その死、書き残さず-』は、3月8日(土)~3月30日(日)まで紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演(その後、全国公演あり)。

取材・文=嶋田真己 撮影=宮川舞子

公演情報

こまつ座 第153回公演『フロイス-その死、書き残さず-』
 
【作】長田育恵 【演出】栗山民也
【出演】
風間俊介 川床明日香 釆澤靖起 久保酎吉 増子倭文江 戸次重幸
 
【東京公演】
2025年3月8日(土)〜30日(日) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
 
【全国公演】
■兵庫公演
2025年4月5日(土)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
 
■岩手公演
2025年4月12日(土)
会場:奥州市文化会館 Zホール  大ホール
 
■群馬公演
2025年4月16日(水)
会場:高崎芸術劇場 スタジオシアター
 
■宮城公演
2025年4月18日(金)
会場:仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
 
■大阪公演
2025年4月25日(金)〜26日(土)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
 
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